「おばちゃん復権ツイート」の投稿者と相席スタート・山崎ケイ……共通する“ジェンダーへの無理解”

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2020年10月23日 00:02  サイゾーウーマン

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サイゾーウーマン

羨望、嫉妬、嫌悪、共感、慈愛――私たちの心のどこかを刺激する人気芸能人たち。ライター・仁科友里が、そんな有名人の発言にくすぐられる“女心の深層”を暴きます。

<今回の有名人>
「また炎上の火種になりかねないかなと思って」相席スタート・山崎ケイ
(YouTubeチャンネル「相席YouTube」、10月14日)

 Twitterで、妻子ある研究者の男性による「おばちゃん復権ツイート」が燃えていたのをご存じだろうか。問題のツイートは複数にわたっているが、端的にまとめると、

「独身男性に世間が向ける目は厳しい。若い女性に警戒されるかもしれないと気を使ってしまうし、男性と群れていると「男が好きなのか」と言われる。そんな彼らを救うのがおばちゃんの存在。異性として意識することはないけれども、女性的な視線を持ち、独身男性をあれこれ気遣ってくれる。おばちゃんが絶滅したことで、社会の潤滑油がなくなって、日本社会はぎすぎすしてしまった。日本社会におばちゃんを取り戻す努力を!」

というような内容だった。そして投稿者男性は、これらのツイートを「おばちゃんの復権」というタイトルをつけて、ツイートまとめツール「Togetter」に投稿したのだ。

 なぜおばちゃんが、見返りのない独身男性のお世話をしなければならないのか。投稿者男性の脳内には「女性はお世話をする性」という決めつけが潜んでいないかなどの理由で、このツイートは燃えた。

 個人的に付け加えさせてもらうと、私は「おばちゃん復権」という言葉の、“復権”が気になった。国語辞典を引くと、復権とは「一度失った権利などを回復すること」「停止された資格を回復させること」とある。絶滅したおばちゃんの“復活”を望むというニュアンスで使用したのかもしれないが、あえて“復権”を使ったのは、つまり、この投稿者男性は、おばちゃんを「ある権利を失った存在」として見ているのではないか。それでは、おばちゃんがもともと持っていたものの、失った権利とは何か。

 それが私の意訳したツイート内容にある「異性として意識することはない」ことに隠されていると思う。おばちゃんはかつて若い頃、性的な魅力を持ち、男性に求められることで社会に存在する権利を持っていたが、性的な魅力を失ったおばちゃんにはその権利がない。けれども、独身男性のお世話を無償でして社会の潤滑油になるのなら、その権利をもう一度与えてやってもよい……と、心のどこかで考えていたから、“復権”という言葉を使ったのでははないだろうか。

 投稿者男性はTwitterで「友人の女性から『女性は男性に対して感情労働をさせられ続けてつらい目にあってきた、なお求めるのか』というご批判だと解説してもらいました」と謝罪していた。素直に謝っている人に追い打ちをかけてなんだが、なぜ妻ではなく、友人の女性に解説してもらうのだろうか。「独身男性のため」と書いていたが、おばちゃんを必要としているのは、ほかならぬこの男性ではないかという気がしなくもない。

 頭の良い人とされているが、ジェンダー関係になると、不用意な発言をすることは珍しくない。それだけ女性蔑視が社会に浸透してしまっているからだと思うが、もしかしたら、ジェンダーは、理解するのに“センス”がいる事柄なのかもしれないとも思う。頑張って理解しようとしているつもりでも、どうもピンとこない人もいるだろう。そのうちの一人が、高学歴芸人である相席スタートの山崎ケイではないか。

◎「夫の苗字を名乗ったら炎上の火種に」山崎ケイのズレた感覚

 10月14日に落語家の立川談笑と結婚したことを発表した山崎。コンビのYouTubeチャンネル「相席YouTube」に夫を招き、相方の山添寛が聞き手となって二人のなれそめを語っていた。

 立川は、もともと吉本興業に所属する芸人で、山崎の後輩。山崎のタイプではなかったが、「山崎の顔が好き」な立川はあきらめずアプローチを続け、結婚に至った。

 山崎と言えば、「ちょうどいいブス」を持ちネタとしていた時期があった。しかし、考えてみると、最近「ちょうどいいブス」を耳にしない。2020年5月10日に『サンデー・ジャポン』(TBS系)に山崎が出演した際、司会の爆笑問題・太田光に「ちょうどいいブスと言わなくなったら、おとなしくなった」と指摘されると、山崎は「炎上するんだもん」と説明していた。つまり、炎上を避けるために「ちょうどいいブス」を封印したということだろう。

 山崎は今も炎上には気を使っているようだ。「相席YouTube」で、視聴者から「結婚したから芸名を変えるのか?」と聞かれた山崎は「夫婦別姓が叫ばれている中で、堂々と『結婚したので、旦那の苗字に変えます』って言うのは、炎上の火種になりかねないかなと思って」とし、引き続き「山崎ケイ」で行くと話していた。

 山崎は単純に、従来もしくは多数派の慣習を踏襲すると炎上すると思っているのかもしれないが、ジェンダー関連で燃えるときの条件の一つは「役割や評価を、性別を理由に一方的に押しつけること」ではないかと私は思っている。

 上述したおばちゃん復権の例で言うと、独身男性の面倒を見ろと、女に役割を押しつけているうえ、「異性として意識することはない」と一方的に性的評価を下している。さらには、金銭的な見返りもない。だからこそ炎上したのだろう。しかし、山崎が苗字を変えたとしても、誰にも性別を理由に役割や評価を押しつけない。よって、燃える可能性は低いのではないか。

◎「結婚でいい女証明」発言の炎上リスク

 「ちょうどいいブス」を封印した山崎は、「いい女キャラ」を掲げている。あえて「自分を上げる」ことで、おかしさを誘うのかもしれないが、これまた炎上のリスクの高いキャラではないだろうか。

 山崎は10月15日にオンラインの番組『映画もアートもその他もぜ〜んぶ喋らせろ!』に出演し、司会の次長課長・河本準一に結婚について聞かれると、「証明されたってことですよね、やっぱりいい女だって」とコメントした。「いい女」キャラを全うしての発言だろうが、テレビでこの発言をしたら、それこそ燃えるのではないだろうか?

 結婚というのは、転職と同じように人生の選択肢の一つにすぎない。したい人はすればいいし、したくない人はしなくてよい。にもかかわらず、女性誌が多くのページを割いて特集を組んできたのは、そこに「特別な意味」があるからだろう。

 それが何かをはっきりと言語化したのが、2003年に発売された酒井順子の『負け犬の遠吠え』(講談社文庫)だと思う。当時、独身の30代だった酒井は「どんなに美人で仕事ができても、30代以上・未婚・子ナシは『女の負け犬』なのです」と綴った。酒井は自身もそのグループに所属していることから自虐的に書いたつもりだったようだが、「30代以上で結婚していなくて子どものいない女は、負け犬と呼んでいい」というように、言葉が勝手に独り歩きを始めた。結婚していないくらいで“負け”という評価を押しつけられたくないと怒る読者は多数いて、当然、酒井も批判にさらされた。

 結婚したことを「いい女の証明」と言う山崎発言も、同様のリスクをはらんでいるのではないだろうか。結婚という個人の自由に、「いい女だから」という評価をからめると、「じゃ、結婚してない女は、いい女じゃないってことか?」と取る人がいないとも限らない。

 今年7月2日の本連載でも述べた通り、山崎はセクハラに気をつけているようで、結果的にセクハラを悪質化させる態度を取ってしまうところがある。思考回路の軸が「男性によく思われること」で固まっていて、ジェンダーに気が回らないのかもしれない。かといって、炎上も避けたいだろう。

 となると、山崎は媒体とネタを選ぶ必要があるのではないだろうか。山崎のファンしかいない場所、ネットニュースにならない場所でいつも通りのキャラで行き、そうでない場所では無難にやり過ごす。そのあたりを山崎の周囲がうまーくサポートできるかどうかが、今後の活動に重要となるのかもしれない。もちろんジェンダーへの理解を深め、それをネタに反映できることが一番いいことではあるのだが……。

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