アルジェリア女性監督が描く “抑圧された世界”で生きる女性たちへのエール

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2020年10月26日 17:00  AERA dot.

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写真Mounia Meddour/1978年、ロシア・モスクワ生まれ。18歳までをアルジェリアで過ごした後、家族でフランスへ移住。映画「パピチャ 未来へのランウェイ」は2019年のカンヌ国際映画祭「ある視点」部門に選出された。同作品はセザール賞新人監督賞及び有望若手女優賞も受賞 (c)2019 HIGH SEA PRODUCTION − THE INK CONNECTION − TAYDA FILM − SCOPE PICTURES − TRIBUS P FILMS − JOUR2FETE − CREAMINAL − CALESON − CADC
Mounia Meddour/1978年、ロシア・モスクワ生まれ。18歳までをアルジェリアで過ごした後、家族でフランスへ移住。映画「パピチャ 未来へのランウェイ」は2019年のカンヌ国際映画祭「ある視点」部門に選出された。同作品はセザール賞新人監督賞及び有望若手女優賞も受賞 (c)2019 HIGH SEA PRODUCTION − THE INK CONNECTION − TAYDA FILM − SCOPE PICTURES − TRIBUS P FILMS − JOUR2FETE − CREAMINAL − CALESON − CADC
 AERAで連載中の「いま観るシネマ」では、毎週、数多く公開されている映画の中から、いま観ておくべき作品の舞台裏を監督や演者に直接インタビューして紹介。「もう1本 おすすめDVD」では、あわせて観て欲しい1本をセレクトしています。

【映画「パピチャ 未来へのランウェイ」の場面写真はこちら】

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 1960年代まで130年以上にわたりフランスの支配下にあり、90年代には長く内戦が続いた。北アフリカに位置するアルジェリアは、そんな複雑な歴史を持つ。「パピチャ 未来へのランウェイ」が描くのは、“暗黒の10年”と呼ばれる、イスラム原理主義が台頭した90年代のアルジェリアだ。

 だが作品を観ると、何より登場人物たちが持つ明るさ、前向きなパワーに心奪われる。描かれるのは、激動の時代のなかで、夢を持ち、立ちふさがる大きな力にあらがいながら生きた女性たちの姿だ。

 大学生のネジュマ(リナ・クードリ)は、ナイトクラブのトイレで手づくりのドレスを販売している。夢はファッションデザイナーになることだ。だがイスラム原理主義が台頭し、女性にヒジャブの着用を義務づけるポスターが街中に貼られるようになる──。

 ムニア・メドゥール監督自身、アルジェリアで育ち、18歳まで過ごした。ジャーナリズムを専攻する学生として大学寮で暮らしていた頃に、ともに過ごした仲間たちからインスピレーションを得て、登場人物たちをつくり上げたという。

「同じ部屋で過ごした女の子たちのなかにはダンスに興味がある子もいれば、裁縫に夢中の子も、とにかく勉強ができる子も、すぐにでもアルジェリアを離れようとしている子もいた。一言で語られがちな女性たちのさまざまな側面を描きたい、と思いました」

 当時の記憶をたぐり寄せ、フィクションを織り交ぜながら物語をつくり上げたが、「映画を通して放たれるエネルギーは、まさにアルジェリアの女性に接して感じるパワーそのもの」と、メドゥール監督は言う。

「例えば、キッチンに女の子たちが集まっていたとしますよね。すると、突然化粧を始める子もいれば、いきなり食材の高騰について嘆きだす女の子もいる。全方向に向けエネルギーがあふれ出す。それこそがアルジェリアの女性たちの姿なんです」

 監督自身が90年代のアルジェリアで聴いていたという音楽、そして「フランサラブ語」と呼ばれる、フランス語の単語をアラビア語風に発音した独特の表現も作品に躍動感をもたらす。フランス語で書いたせりふを一つ一つフランサラブ語に変換していったのだという。

 メドゥール監督は内戦から逃れるために、家族とともにフランスへ渡った。

「当時はアルジェリアに残りたい気持ちもあったけれど、あのとき祖国を離れたからこそ、この作品が撮れたのだと思う」と振り返る。

 資金集めに5年以上、自身が納得のいく俳優を見つけるまでキャスティングは3年に及んだ。「パピチャ」は、アルジェリアのスラングで「常識にとらわれない、自由な女性」を意味する。その言葉には、監督自身が大切にする生き方、そして抑圧された世界のなかで生きる女性たちへのエールが詰まっている。

◎「パピチャ 未来へのランウェイ」
デザイナーを夢見る少女ネジュマはファッションショーを行うことを決意する。10月30日から公開

■もう1本おすすめDVD 「あなたの名前を呼べたなら」

 映画「パピチャ 未来へのランウェイ」には、「どうしてもこの作品を撮らなければ」という作り手のエネルギーを感じる。長編デビュー作のなかには監督の出自が反映された作品も多く、トルコの封建的な村で暮らす少女たちの抵抗を描いた「裸足の季節」(2015年)や、インドの階級社会を描いた「あなたの名前を呼べたなら」(18年)など、作り手の強い思いが宿るいくつもの作品を思い出す。

「あなたの名前を呼べたなら」は、インドで生まれフランスに移り住んだロヘナ・ゲラ監督が、大都市ムンバイでメイドとして働く女性の視点を通して、いまも根強く残るインドの階級社会を描いた作品だ。ゲラ監督が幼い頃、家で働いていた住み込みのお手伝いさんが「家族の一員のような存在でありながら、同時に家族という集合体の“外”にいた」記憶が忘れられなかったのだという。

 同作品の主人公もまた、ファッションデザイナーになりたいという夢を持ち、一歩を踏み出そうとする。ファッションは自分を表現するツールであると再認識すると同時に、好きな服を好きなように着て自由に生きていくことの尊さを感じずにはいられない。

◎「あなたの名前を呼べたなら」
発売元:ニューセレクト 販売元:アルバトロス
価格3800円+税/DVD発売中

(ライター・古谷ゆう子)

※AERA 2020年10月26日号

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