3メーカーが理想の開発を実現した2基目エンジン。鈴鹿で見えた進化とラスト2戦への展望

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2020年10月26日 17:41  AUTOSPORT web

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「富士だけを考えて、というものでは全然ない。鈴鹿のほうが多分合っている……つもりでいる」(TRD湯浅和基氏)

「鈴鹿はホンダのホームコースなので、ここで速く走れるイメージをしながらずっとクルマを作ってきました」(ホンダ徃西友宏氏)

「50kg(のハンデウエイトを)積んでいるなかであの速さが出る。ということは、鈴鹿のほうが向いてますよね、クルマとしては」(ニッサン松村基宏総監督)

 各陣営の車両開発を統べる面々が、口々にそう語る重要なラウンドとなった鈴鹿決戦。2020年スーパーGT第6戦は、成績に応じたハンデが『半減』、『なし』と減らされていくカレンダーの残り2戦を前に、シーズン中で最大のハンデウエイトを搭載する勝負のラウンドとなった。

 そのタイミングで各陣営とも年間で許された2基目の新エンジンを投入するイベントにもなり、トヨタはWedsSport ADVAN GRスープラを除く5台が、ホンダはRed Bull MOTUL MUGEN NSX-GTを除いた4台が、そしてニッサンはCRAFTSPORTS MOTUL GT-RとMOTUL AUTECH GT-Rを除いた2台にフレッシュエンジンが搭載された(前述の4台には前戦までに2基目が投入されている)。

 2014年から続く2ℓ直列4気筒直噴ターボのNRE(ニッポン・レース・エンジン)開発は、スーパーフォーミュラとも共用する燃料流量リストリクターの採用もあり、限られた燃料から効率よく出力変換するため混合気を極限までリーンにし、規制されていない空気を上手く活用することが求められる。

 つまり『燃費が良い=速い』という、レースエンジンとしては新次元の開発競争がもたらされ、希薄混合気に対するノック抑制とプレチャンバーに代表される急速燃焼、ターボで過給される吸気の冷却、そしてマップ制御やアンチラグを含めたドライバビリティの追求など、ピークパワーの進化と、いわゆる過渡特性の相反する領域をバランスさせる開発が続いている。

 そうした流れもすでに6年が経過し、ここまでスーパーGT史上でも類を見ない出力向上のスピードを維持してきたが、NRE採用7年目となる2020年の2基目のエンジンでは、各陣営ともに“出力向上を実現しつつ、ドライバビリティを損なわない”という、理想的な開発を実現したと証言する。

 しかしその中身は、各陣営でアプローチが分かれる『メーカーの個性』が見え隠れする内容ともなっていた。各メーカーのエンジン開発担当者の言葉を聞いてみる。

「燃焼改善ということで一生懸命取り組んできた内容でその延長上ですが、今回は少し開発の方向性を変えて、解析とシミュレーションで良い結果が得られそうな方向が見つかった。『燃焼』というと、ご想像されている領域(プレチャンバー)だけじゃなくて、趣向を変えたところで、結果的に燃焼向上につながる部分をやってきました」(TRD佐々木孝博氏)

「当然、パワーも上げていこうという仕様でもあるし、ただドライバビリティは犠牲にしたくない、という方向で、どちらかというと正常進化の部分に収まった。マップ類や制御データも全部新しくなって、現場でも少なからず調整に時間を取られましたが、これまでの延長線上の正常進化レベルのエンジン。ピークパワーを上げつつ、ドライバビリティはなんとか守り切っているかなというところです」(ホンダ佐伯昌浩LPL)

「スペック的には(先行と)一部違いますけど、パフォーマンス的には積んでる状態でもそのまま改善することはできている。いくつか手を打ってることで効果は少しずつ出てきていて、確実に……とくに低中速のところは良くなった。そこの効果がどこまで出せるか。ドライバーから聞いている限りは、運転しやすいし低速トルクの改善も『体で分かるぐらい』だと言ってるので、過渡だけじゃなくて実際に全負荷のカーブで見ても下のほうから上のほうも上げてはきています」(ニッサン松村基宏総監督)

■異例の時期に開催される低気温下でのラスト2戦で試される本来のパワー

 今回の週末はすでに第3戦鈴鹿から、トラブル対策で先行して2基目を搭載していたニッサン陣営のエースカー、MOTUL AUTECH GT-Rが予選Q1でクラッシュを喫し、最後尾スタートを強いられた。

 性能調整のハンデウエイト換算で50kg以上の領域で課される燃料流量ランクダウンの措置を受けないMOTUL AUTECH GT-Rだったが、いかに優勝候補と言えどさすがに最後尾からでは好成績は期待できないもの……と考えられた。しかし結果はセーフティカーの好機も活かしたシリーズ史上最大の大逆転劇。

 その背景には、今季コスワースからボッシュ製に変更されたエンジンの新ECUへの適合に苦しんだ序盤戦から、明らかな改善があったことも奏功した。

「基本的にはECU自体のロジックがピッタリと昔と同じような動かし方ができるわけではない。ただ使い方の検討をずっとしてるなかで少しづつ改善されている。とくに前半の富士1戦目、2戦目あたりの全然合わなかったときに比べれば、相当まともに走れるようになったと思います」と決勝前に語っていた松村総監督。

 一方で、KEIHIN NSX-GTが3ランク、RAYBRIG NSX-GTが2ランクと全5台中2台が燃料流量ダウンとなっていたホンダ陣営は、テスト機会がないことで当初想定していた"ビッグ・アップデート"を見送り、「大きくスペックを変えたくてもいきなりレース投入ということになるので、2基目の入れ方というのはあまり大きくは変えられなかった、というのが今回のスペック」(佐伯LPL)と、2021年以降も見据えて性能的に明らかに余力のある"タマ"の存在も匂わせる。

 また、トヨタで2014年度のNRE立ち上げを指揮した佐々木エンジニアも、ブリヂストンタイヤを装着する5台が燃料流量リストリクター適用で本来の性能が表に出にくい状況だったことに触れ、「ピークを上げつつ、ドライバビリティの部分は現状の適合を見てベンチで合わせて持ってきて走行するわけですが、特におかしな部分はなかった。ドライバーからのコンプレインも今回はなかったですね」と語り、今後の展望にも自信をにじませる。

「時期的に気温が下がることに関して、(出力的には)プラスの方向ですが、いまは燃料リストリクターが効いてますので、ドライバーさんには厳しい。なので今回は『お、速いね』というコメントはなかなか難しいんですけど、でも全体を見ると、燃リスのないクルマとも正直しっかり戦えてましたよね。今日見ている限りだと(ハンデが半減される)次のもてぎでは、エンジンのパフォーマンス側でしっかりと『いいね!』がもらえるとは思っていますし、我々がベンチで見た定量的な数値なりのコメントがいただけるかな、という気はしています」と佐々木エンジニア。

 11月という異例の時期に争われるラスト2戦は、気温の低下でターボのブースト圧を一時的に上げるような運用も考えられ、予選ではさらに“パワーベスト”の戦い方も想定される。

 チャンピオンを獲得した2018年のような“Q2モード”も期待されるホンダの佐伯LPLは「気温はプラスにも捉えていますが、エンジン的にはどんどん負荷が上がっていきますので、使い方は気をつけていかないと……とは考えてます」と語るも、前述のように今後もまだまだ出力の向上シロを見込んでいる。

 ダウンフォース至上のニッサンGT-Rや、FR化で理想の運動性能を追求したNSX-GT、そしてドラッグ低減に見合うセットアップを狙ったトヨタGRスープラと、各マシンの車両特性も絡みつつ、ここからハンデウエイトが降ろされ、燃料流量がそろい、各メーカーが横一線で並んだときこそ、エンジン本来の“進化と真価”が試される。

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