東証の謝罪会見はなぜ絶賛されたのか? 謝罪時に行うべき「基本3原則」

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2020年10月26日 21:52  All About

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写真東京証券取引所(slyellow / Shutterstock.com)
東京証券取引所(slyellow / Shutterstock.com)
去る10月1日、システム障害により終日取引がストップした東京証券取引所(以下、東証)ですが、その謝罪会見が神対応であったと、インターネット上で話題になりました。

リスク対応の盲点になりやすい謝罪会見で失敗する企業が多い中、東証のそれがどのような点で優れていたのか、筆者の新聞記者経験と銀行での広報担当経験を踏まえて、マネジメントにおけるリスク管理の観点から検証してみます。

謝罪会見で守るべき基本3原則

謝罪会見対応には、筆者の経験から言って守るべき基本3原則があります。それは、「迅速な開催であること」「問題の重要性にふさわしい人物が会見に臨んでいること」「どの質問に対してもノーコメントとしないこと」の3点です。この3点は十分条件ではありませんが、必要条件であるといえます。

必要条件が満たされれば、会見における最低限の心証は確保できますが、それ以上でもそれ以下でもありません。不祥事対応に十分条件は存在しえないものの、「必要条件+α」があれば、取材サイドの満足度は大きく上がることは確実です。

原則1:迅速な開催であること

まず「迅速な開催であること」の重要性ですが、会見を用意せずにメディアからの問い合わせに対応していると、大きな問題であれば当然電話などの問い合わせが一斉に押し寄せることになります。

その結果、広報担当だけでは手が足りなくなり、折り返し返答という対応をするも次から次へと電話が鳴って未回答が増え続け、取材サイドからすれば「すぐに返答が返ってこない→対応が悪い」という不満足な事態になることは確実なのです。

そうなると、「こんなに対応が悪い企業だから、不祥事が起きるのだ」という悪印象を生んで、先入観の上に立った記事が書かれることになるわけです。報道は人がするものであり、その心証に大きく左右され必ずしも客観的ではありません。不祥事報道によって伝えられる企業イメージは、書き手の心証次第であるということをまず認識しなくてはいけません。

基本は早期に「会見を開くこと」を決め、関係の記者クラブや報道各社にその旨をリリースします。会見の開催を決めた後は、事実関係などの基本的な問い合わせには答えますが、原因調査に関することや、企業としてのコメントや考え、対応策等々については、「会見でお答えしますので、そちらでお願いします」という対応に収れんすることで電話対応は沈静化できます。

逆に会見を開かない、あるいは会見を開くというアナウンスが遅れると、取材サイドからは「不祥事を軽くみている」「反省をしていない」と思われ印象は悪くなるばかりで、最悪の場合は憶測で「飛ばし」と言われる報道をされることもあります。いわゆる「書き得」の状態がこれです。

今回の東証の対応は非常に早かったです。これは会見だけではなく、すべてにおいてです。まず未明に事故発生が明らかになるや不完全形での市場再開が二次災害的な事故を招く恐れがあると考え、市場が開く時間前にまず半日、その後関係各所の意見を聞き速やかに、終日市場取引を休みとすることを決めアナウンスをしました。

同時に当日夕刻に記者会見を開くことを告知。開催までの時間を使ってできる限りの情報を集め、極力取材サイドに満足感を与える会見を作り上げようという努力がうかがわれました。これによりまず入口対応での「必要条件+α」は、間違いなく印象付けられたといえます。

原則2:問題の重要性にふさわしい人物が会見に臨んでいること

次に「問題の重要性にふさわしい人物が会見に臨んでいること」ですが、これを見誤る企業は過去に多数存在しています。明確な基準はありませんが、目安となるのは社会的な注目度です。注目度が高いと思われる不祥事では出し惜しみせずトップが会見に臨むということが重要です。

少なくとも、多数の利用者に迷惑や不利益が生じた事案、あるいはそのリスクがある事案、事故では死者が出た事案は言わずもがなですが、負傷者が出ている事案も基本トップが会見してしかるべきです。「迷ったらトップが会見する」というのが基本姿勢です。

この際に注意すべきは、トップがしっかりと事実関係を把握していることです。トップが登壇してもろくに質問に答えられないとか、基本事項すら把握していないといったことになると、トップの登壇がかえってあだになったケースも多数あります。

トップが謝罪会見に出たがらない場合どうするか。この点は、ワンマン経営企業の広報担当からよく相談される問題です。

リスク管理は、それに対する日常的な意識づけと不祥事対応が基本トップマターであるという認識をトップにしてもらうことが重要であり、社内にリスク管理委員会を立ち上げるなどして事前の意識醸成をはかることが肝要です。不祥事対応は物理的な事前準備はできませんが、リスク管理姿勢が身についているか否かが最大の準備になるのです。

東証の謝罪会見は、宮原幸一郎社長自らが主役を務めつつ関係役員が脇を固めるという姿勢で臨みました。

第一印象として、事実関係説明、質問に対する回答を基本は責任者である社長自らが対応し、社長だけでは説明不十分になりがちなより専門的な内容を担当役員が説明するという会見体制は、非常に好感度が高かったと思われます。

その上で、会見時点で判明している原因、終日稼働停止した理由や復旧の見通しと復旧時点での再発防止策等々について丁寧に説明したことは、一層取材サイドから好感を持たれたと思います。トップの会見登壇の要否の判断、トップ以外の陪席人選は非常に重要性が高いのです。

原則3:どの質問に対してもノーコメントとしないこと

3番目の「どの質問に対してもノーコメントとしないこと」が意味することは、謝罪会見に臨むにあたって「その場をなんとかやり過ごそう」としていないか、という会見姿勢に直結する問題です。

都合の悪いことは聞かれたくない、なるべく話したくない、という考え方で会見に臨むことは、まぎれもなく「ごまかし」や「隠ぺい」をイメージさせることになり、結果著しく心証を損なうことになります。

ではあるべき姿勢とはどういう姿勢なのでしょうか。一言で申し上げれば、発生した不祥事についてより正しい理解をしてもらうために、会見を開くのだという心構えです。正しい理解をしてもらいたいと思えば、必要な情報は極力出していこうということになるはずです。

マスコミ等報道機関は、初めから不祥事を起こした企業を陥れてやろうなどと思っているわけではありません。しかし会見で「ごまかし」や「隠ぺい」をイメージさせることがあると、徹底的に追及して何を隠しているのか暴いてやろうとするのです。

その観点からすれば、「その質問に対してはノーコメントです」という回答は、「ノーコメント=ごまかし・隠ぺい」であり、絶対に避けたい受け答えになるわけです。

「調査中につきコメントは差し控えます」という言い回しもよく耳にしますが、「調査中」は取材サイドからみれば言い訳にすぎず「ノーコメント」であることに何ら変わりはないので、この回答もNGであると認識したいところです。

東証の会見においては、質問に対してハナから「お答えできません」「調査中」という回答は1つもなく、すべての質問について現時点で分かっている事実はすべて明らかにした上で「それ以上は現在調査中です」という回答姿勢が揮っていたと思います。この点からも、同席役員の人選が適格であったといえるでしょう。

謝罪会見に臨む姿勢が、「適当に答えてやり過ごそう」というものなのか、「分かることはすべてを明らかにして、理解を深めてもらおう」というものなのかは、聞いている側には受け答えを聞いただけでハッキリと分かるものです。まずは、「ノーコメント」を排除することが肝要です。

謝罪会見で最もやってはいけないこと

受け答えに関して付け加えると、責任者として登壇したトップの責任回避の無い姿勢も大切です。謝罪会見で最もやってはいけないことは、責任転嫁です。他者への責任転嫁ととれるような発言は責任回避ととられます。

不祥事責任は発生した段階でその原因によらず、原則その当事者企業が負うという自覚が必要であり、その認識は謝罪会見の場においてもしっかり態度で示すべきことなのです。この点でも東証の対応は完璧でした。

今回の不祥事はシステムの不具合が原因であり、ややもするとシステム開発を担当している富士通に責任を転嫁するようなことになりかねないところです。東証と富士通の責任の所在について質問された宮原社長が、「市場運営全体に対する責任は私どもにある」とすべての責任は自社にあるという姿勢を示したことは、何より好感度を高めたと思います。

以上、謝罪会見対応の基本3原則に照らして今回の東証のケースを検証してみたわけですが、このようにみてくると東証の謝罪会見が高評価を得ている理由がよく理解できると思います。同時に、他企業における過去の失敗会見がなぜ批判されたのかも分かるでしょう。

その意味から今回の東証の会見は、リスク管理広報の1つの手本になると思います。テレビ局などが配信しているYouTubeチャンネルで会見は全編見られますので、ぜひ参考にしてほしいところです。
(文:大関 暁夫(組織マネジメントガイド))
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