プロだけが知る 新築マンション「値引き交渉」5つの裏ワザ

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2020年10月27日 08:00  AERA dot.

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写真東京五輪の選手村がある東京・晴海のマンション群(C)朝日新聞社
東京五輪の選手村がある東京・晴海のマンション群(C)朝日新聞社
 不動産経済研究所は、今年4月から9月までの半年間に、首都圏で発売された新築マンションの戸数は去年の同じ時期よりも26.2%減ったと発表した。首都圏のマンション価格は、1戸当たりの平均が5812万円で、昨年9月と比べると約3%下落した。

【写真】プロが認める「ヴィンテージタワーマンション」はこの物件

 こうした状況を挽回しようと、停滞していた新築マンションの販売活動が活発になりつつある。本来、新築マンション販売のひとつのヤマだったGWは、コロナの緊急事態宣言下で売り損じているので、マンションデベロッパーは巻き返しに必死だ。「半年間のロスを取り戻せ」とばかりに、焦っている担当者は私の周りにも何人もいる。

 焦る理由はもう一つある。

 コロナ前とコロナ後ではマンション市場の風景がガラッと変わる可能性があるからだ。2013年の日銀の異次元金融緩和から約6年間続いた不動産の局地バブルは、コロナをもって終了となりそうな気配だ。この「コロナ不況」は、新築、中古を問わず、マンション価格を下落させることは間違いない。

 今、大手に限らずマンションデベロッパーで事業展開のキーマンとなっている人の年齢は、主に50代の後半だ。かくいう私も今年58歳だが、この年代の業界人には特徴がある。

 それは今回を含めて不動産市場には過去3回のバブルが訪れ、そのうち2回の「崩壊」を経験していることだ。過去2回のバブル崩壊で、在庫を処理しきれずに倒産した多くのデベロッパーを横目で眺めてきた。相場が下がり続ける前に、少しでも早く売り抜けないといけないという危機感は相当なものだろう。

 そんな彼らに率いられたマンションデベロッパーが猛然と販売活動を再開した今、これからは間違いなく値引き合戦となる。それを逆手にとれば、彼らの焦りはこれからマンションを買おうとする人々の値引き交渉にとって、最高に恵まれた環境を形成してくれる。

 そこで、コロナ禍の今だからこそ不動産業者の心理を逆手に取った「値引き交渉術」のノウハウをお伝えする。

1 完成在庫を狙う

 これはいつの時代でも通用するセオリーである。ほとんどのマンションデベロッパーは、販売中の物件が完成在庫になることを嫌うので、その前に売り切ろうとする。

 たとえば、ある金融系のデベロッパーは建物が完成する3〜4か月前から値引きを始めることが多いようだ。そして、建物が竣工して数カ月も経過すると、値引き幅が大幅に拡大する。時には販売価格の1割を超える場合もあり、リーマンショック後には2割超というケースもあった。

 他のデベロッパーも、基本は似たようなものだ。

 ただ、住友不動産だけは物件が完成してから1年程度経過しないと値引きをしない傾向があった。しかし、コロナ後はその方針に変化があるかもしれない。

 なぜなら、コロナ前ですでに完成在庫になっている物件は、より売り急ごうと焦るからだ。

 局地バブルで底上げされていた土地の価格はこれから徐々に下がっていく。コロナ後に土地を仕入れた物件は、コロナ前よりも安く販売できる。そうした「コロナ後物件」が市場に出回れば、コロナ前に完成在庫となった物件は取り残される。デベロッパーが「値引きしても完成在庫を処分すべし」と判断した物件なら、1割以上の値引きを引き出せる可能性があるだろう。

2 値引き交渉は具体額を提示

 不動産業者は、契約をしない客の相手をいくらしても成績にならない。だから、買うかどうか分からない客が「値引きをしてくれるのなら考えてもいい」と言い出しても、まず相手にしない。だから「このマンションを買いたい」という明解な意思を示してから交渉するべきだ。

 そこに細かなテクニックはいらない。「○○○○万円だったら買います」と明解に数字を示すべきだ。担当者にしてみれば、ハッキリとゴールを示してくれる客の方がやりやすいし、好感も抱く。ただし、かけ離れた数字を示されると、ウンザリされる場合もあるので、ある程度の相場を頭に入れておく必要がある。

3 売り主の焦り度を測る

 いくら具体的な数字を提示しても、相手側に本当は1000万円の値引き幅があるにもかかわらず、500万円の値引きをこちらから提示して「ではそのお値段で」と話が進むと、かなりもったいない。相手が下げられるであろう額のちょっと下の値段を提示するのがベストだ。

 そのあたりのさじ加減は一般消費者には難しいところだが、わりと見えやすい指標がある。それは、売り主の「焦り度」である。

 どうしても売りたければ、値引き幅は自然に大きくなる。その「焦り度」を測る指標として使えるのは物件のオフィシャルページである。

 たとえば「ご来場プレゼント」などとして、IT製品などが並んでいるのも、焦っている証拠。しかし、まだ本気になっていない。

「△△キャンペーンで1000万円プレゼント」

 など表示がトップページに出ていれば、売り主は相当焦っている。値引きのサインだ。

「モデルルーム使用住戸により、新価格」

 なども焦り度合いは高い。旧価格の上にバツや二重線で、新価格が示されていたりする。これも「値引きをやっています」という明解なしるしだ。

 少し焦りが感じられるような場合の値引き幅は、物件価格の5%前後であることが多い。明解に値引きのサインが出ている場合は1割程度。明解な値引きのサインを出し続けて数カ月以上経過しているような場合は、2割かそれ以上の値引きされるケースもある。

4 値引きの仕組みを知っておく

 値引きの権限は、現場の販売責任者が値引きの予算を持っている場合がある。たとえば、あと10戸売れれば完売、という状況であれば5千万円程度の予算が与えられる場合が多い。1戸当たり500万円相当なのだが、これは一律に適用されるというわけではない。売りにくそうな住戸には800万円、スムーズに売れそうな住戸には200万円、というように振り分けていく。その権限を持っているのが販売責任者なのだ。

 値引き事案をひとつずつ稟議に掛けるパターンもある。新築マンションを値引き販売すると、当初の事業計画通りの利益が得られないわけで、これを「経営にかかわる」と考えれば、役員会議の議題だとなっても不思議ではない。

 前述したように、3度のバブルと2度の崩壊を経験している50代の役員は、値引きにかじを切りやすい。特に「コロナ前」物件の処分は喫緊の課題になっているはずだ。ちょっと無理目の値引き要求も、役員会にかけられれば通るかもしれない。

 値引き案を役員会に上げてもらうには、販売現場の協力が必要だ。まずは担当者との良好なコミュニケーションが重要になるのだ。

5 販売担当者を味方につける

 買い手が直接交渉する相手は販売担当者である。たいていは若手だ。 どういうパターンであれ、「この人に買ってほしい」と考えて、値引きの事案を上司に持ち掛けるのは担当者である。ちょっと無理目の値引き案でも「一応上にあげてみます」と、値引き理由を添えた稟議書を書いてくれるのは、担当者であることを忘れてはならない。あるいは、「この人にはもう少し値引き枠をください」と、販売責任者に掛け合ってくれるのも担当者だ。もし担当者が「こんな奴には買ってほしくない」と思ったら、「いや、値引きはできません」の一言で終わるだろう。

 信じられないかもしれないが、新築マンションの業界にはいまだに「客にマンションを売ってやる」という意識がある。そして、「変な客には売りたくない」という暗黙のコンセンサスもある。それには、彼らなりの事情がある。

 購入契約を結ぶと「内覧」という手続きがある。購入者が実際の住戸をみて不具合がないか確認していくわけだが、さまつな欠点を見つけては細かく補修を要求する程度ならまだマシな方で、なかには「モデルルームとここが違う」などと、写真を見せてクレームを付ける輩もいる。新築マンションといえども細かい施工は完璧ではないことも多い。売り主側にミスがあろうものなら、盛大に抗議して値引きを迫る「モンスタークレーマー」もいる。

 販売現場では、そういうややこしいクレームを付けそうな客には「売りたくない」と考えている。だからこそ、自分が将来クレーマーになるようことを感じさせる言動や行動は厳に慎むべきだ。もちろん客だからと言って担当者に威張るタイプがクレーマーに転じやすいことも、担当者たちは経験則で知っている。

 最後に、大切な点を確認したい。それは値引き幅が大きいからといって「お得な物件」とは限らないということだ。

 完成在庫として残っているのは、物件の価値より価格が高いから売れ残っているわけだ。もともとの値付けが間違っていたのだから、大幅な値引きを引き出せたからといって、本当に「お得な買い物」になるかはわからないのである。

 コロナによる新築マンションの値引きバーゲンは、確かに購入の大きなチャンスではある。しかし、物件の見極めを誤ると、単なる「あわて者」になってしまう可能性もある。

 その物件の見極めの方が、値引き交渉よりも難易度が高いことはよく知っておいた方がいい。

(文=住宅ジャーナリスト・榊淳司)

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