北朝鮮「機密」文書入手 金正恩氏は実はにコロナ発生を認めていた!

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2020年10月27日 08:00  AERA dot.

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写真金正恩氏と金与正氏(C)朝日新聞社
金正恩氏と金与正氏(C)朝日新聞社

 新型コロナウイルスの感染の感染拡大がなかなか収束しない。それどころか、フランスやイタリアなどでは感染者が再び増え、夜間の外出禁止令などがまた発出される事態になってきた。世界の関心は依然として「コロナ」にある。そうしたなか、エアポケットのようにコロナ関連の情報が出てこないのが北朝鮮だ。公式情報によると、北朝鮮にコロナ感染者はいない。では、本当はどうなっているのか。北朝鮮当局の「絶対秘密」と格付けされた内部文書を入手したジャーナリスト・石丸次郎氏(アジアプレス大阪事務所代表)が、その実態をお伝えする。

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【写真】北朝鮮の「絶対秘密指定」の機密文書はこちら 

 肥満体をグレーのスーツで包んだ金正恩氏が深夜の金日成広場で演説に立った。10月10日午前0時に始まった朝鮮労働党創建75周年記念式典でのことである。金正恩氏は新型コロナについて次のように言及した。

 台風被害がなど重なり、人民の暮らしが急悪化したことを、金正恩氏は「申し訳ありません」「面目ありません」と繰り返し謝罪した。演出なのか本当に感極まったのかはわからないが、眼鏡を外して涙を拭う場面もあった。

 そして、こうも言った。

「一人の悪性ウイルス被害者もなく、みなが健康であってくれて本当にありがとうございます。世界を恐怖に陥れている悪性の伝染病からこの国の全ての人をついに守り抜きました」

 これは「コロナ感染ゼロ」という“勝利宣言”である。式典の映像の中では、金正恩氏や側近の幹部たちはもちろん、広場で音楽を奏でる軍楽隊、行進する人民軍の兵士、観覧席の平壌市民の誰もマスクを着けていなかった。まるでコロナに対する勝利を演出しているかのように私には見えた。

 しかし、事実は正反対だった。それが、筆者が入手した内部文書で明らかになったのだ。

「絶対秘密」という指定の付いた「7月25日会議での金正恩同志のお言葉」という文書に真実は記されている。中国・武漢で新型コロナの罹患(りかん)者が拡大していた1月下旬、北朝鮮は国境を完全封鎖し、貿易もストップ。外国メディアの記者も一切入国できなくなった。友好国であるはずの中国やロシアのメディアも同様である。そんな状況下での真実を知る大きな手掛かりが、この「絶対秘密」の文書にはある。

 そこには何が書かれているのか。

 今年7月25日、朝鮮労働党中央委員会の政治局非常拡大会議が緊急招集された。全7ページの文書はその会議での金正恩氏の発言をまとめたもので、限られた幹部だけが閲覧を許される。まさに「絶対秘密」である。その中で金正恩氏の言葉が記されている。主な内容は以下の通りだ。

「過去6カ月間、全国的に各方面で強力な非常防疫対策を講じたにもかかわらず、わが国の域内に新型コロナウイルスが入ってくるのをとうとう防げなかった」

「私たちは、ついに全世界が騒いでいる致命的な悪性ウイルスと直面したものの、落胆と憂慮と恐怖を消し去り、百倍の信心と重い責任感を固く持ち、党中央の指示を貫徹するために無限の忠実性を発揮すべきであり、党中央の周りに一致団結し、今日の防疫戦で必ず勝利者にならなければなりません」

 つまり、“勝利宣言”の3カ月ほど前の時点で北朝鮮にはコロナウイルスの罹患(りかん)者が発生し、それを金正恩氏自らが認めていたのだ。それだけではない。筆者は別の内部文書も入手している。

「絶対秘密 2月27日のお言葉」と題する文書だ。中国国境を封鎖して約1カ月後の2月27日に開かれた党中央委員会政治局拡大会議での金正恩氏の発言を記したものだ。

 金正恩氏はそこでも驚きの発言を繰り返している。立ち遅れた自国の防疫体制をひどく嘆いている。これらはいずれも、筆者が持つ取材ネットワークの中で得られたものだ。

 2月27日付の絶対秘密文書から金正恩氏の「お言葉」をいくつか紹介しよう。

「わが国には非常防疫に関する法と行動秩序、危機状況に合う国家的防疫体系とその実行のための行動準則がなっておらず、物質技術的手段はゼロに等しい」
「人々はタオルや布くずを切って作ったマスクを着用」
「消毒液代わりにヨモギを焚(た)くことで、防疫事業をしている、消毒をしていると宣伝している」
「わが国では体温計すらまともに生産できない」

 新型コロナウイルスに対する感染防止策としては、「まずマスク」が国際的にも認識されている。そのマスクを国内生産できず、布の端切れなどで顔を覆うだけなら効果はほとんどあるまい。ヨモギを焚いた煙で消毒するといった行為は日本ではとうの昔に消えている。いずれのケースも北朝鮮の窮状を如実に示している。

 また、2月下旬のこの頃はPCR検査キットも全く足りず、感染の有無を調べることすら困難だったはずだ。もし首都・平壌や人民軍、建設動員組織などでコロナ蔓延(まんえん)という事態になれば、自力では手の打ちようがない。体制が揺らぐこともあり得る。では、国民には事実を隠しながら感染拡大の懸念をどう乗り切ろうとしたのか。

 北朝鮮の取材協力者によると、当局は「疑わしきは隔離」という荒っぽいやり方を採った。風邪の症状がある人が出ただけで、家族と近隣住民は丸ごと3週間前後も外出禁止にした。24時間見張りを立てて一帯を封鎖する物々しさは今も続いている。

 そんな危機意識を反映したコロナ対策の指針が、4月11日付の6ページからなる「決定書」である。これもやはり「絶対秘密」に指定された文書だ。「決定書」は、党中央委員会と政府の国務委員会、内閣の共同決定である。そこには、何が書かれているのか。この絶対秘密のポイントをいくつか列挙しよう。

「日増しに深刻になる世界的な防疫危機とわが国内部に新型コロナウイルスを伝播(でんぱ)させようとする敵の卑劣な策動に対処して、新型コロナウイルス感染症の流入を徹底的に防ぎ……」
「世界的に新型コロナウイルス感染症を統制できるまで、国境と領空、領海を完全に封鎖し、党創建75周年までに完工を計画していた主要建設対象を大胆に調節する重大措置を取る」
「すべての部門、すべての単位で中央非常防疫指揮部の指揮と統制に絶対服従し、非法的に物資を持ち込む現象に対しては、軍法で厳しく処理する」

 韓国や米国などの“敵”が新型コロナウイルスを北朝鮮国内にばらまき、感染を拡大させようとしているので警戒せよ、というわけだ。荒唐無稽のストーリーだが、「決定書」の内容はそれにとどまらない。外界との完全遮断、国家建設プロジェクトの大幅見直しなども列挙されている。

 さらに、「非常防疫指揮部」に強い権限を与え、外部からコロナウイルスを持ち込みかねない密輸や不正輸入行為は軍法で厳罰に処すとし、戒厳令さながらの統制方針を打ち出したのである。

 それがコロナ禍の北朝鮮の知られざる実態だ。

■ ■  ■

 筆者は2000年代初めから、北朝鮮各地に住む人たちとチームを作って北朝鮮の内情を取材してきた。数年前からは中国のスマートフォンを北朝鮮の協力者たちに送り、連絡を取り合っている。国境近くでは中国の電波が届くため、国外との通話やメールが可能だ。北朝鮮国内で使用されているスマホを入手し、北朝鮮の国民が日常的に使用しているアプリの内容やスペックなどを調べたこともある。

 よく知られているように、北朝鮮国民の生活事情や政権内部の情報を独自取材によって伝えることは極めて難しい。北朝鮮国内に常駐するのは、中国の新華社通信やロシアのタス通信などがメインであり、当局の公式発表をそのまま伝えるだけのケースが大半だ。

 今年初め、中国・武漢で新型コロナウイルスの流行が伝えられると、北朝鮮当局は1月末に電撃的に中国との国境を封鎖した。外国からの入国者はほぼ完全に途絶え、貿易も厳しく制限された。以降、北朝鮮国内の動向はほとんどわからなくなった。新華社通信などの記者も入国できなくなった。

 そうした中、私たちは北朝鮮のコロナ事情を調べるために、労働党や行政機関の内部文書の入手プロジェクトに着手した。具体的な取材方法や連絡ルートといった詳細は明かせないが、この記事で紹介している「絶対秘密」の文書は、そうした取材によって北朝鮮国内で入手し、撮影したものである。

■ ■  ■

 世界中が新型コロナウイルスに神経を使っている最中、韓国と北朝鮮の間で衝撃の事件が発生した。今年9月22日のことである。

 韓国の西側の海上で、韓国の漁業指導船に乗って勤務中だった40代の男性公務員が、北朝鮮の海域に漂流し、北朝鮮軍に射殺されたのである。しかも、射殺後、「遺体は油をかけて燃やされた」(韓国軍当局)とされた。漂流中の人がいたら、まず救助するのが国際的な「海の掟(おきて)」である。

 この蛮行に対し、韓国社会の怒りは沸騰した。

 すると、事件の3日後、北朝鮮当局は通知文を韓国に送り、「侵入者が乗っていた浮遊物は国家非常防疫規定に基づいて海上現地で焼却した」と主張した。つまり、焼却したのは遺体ではなく浮遊物であり、それは「コロナ防疫マニュアル」に沿ったものだと釈明したのだ。先述したように、漂流者は救助するのが当然であり、射殺などもってのほかだ。遺体であれ浮遊物であれ、海上で焼却したことも理解に苦しむ。

 北朝鮮側にすれば、自らの理屈にのっとって射殺と焼却は当然の行為だったのかもしれない。実際、「5月23日の金正恩同志のお言葉」と題する絶対秘密の文書には、金正恩氏が焼却を指示する内容が書かれていた。文言は次のとおりだ。

「敵側地域から入ってきた物資やビラ、汚物には勝手に手をつけず、徹底的に該当作業員の立ち会いのもとで回収・消毒し焼却処理するようにしなければならない」

 金正恩氏の指示・命令は絶対だ。射殺された韓国人の遺体は、敵側地域から入って来た「汚物」として焼却されたのだろう。マニュアル通り無慈悲に。

 10月10日の演説で金正恩氏は高らかに「コロナ勝利」を宣言した。しかし中国をはじめとする周辺国でコロナ事態が収束しない限り、北朝鮮は遮断の手を緩めることはできない。「勝利」の見通しは全く立っていない。

(協力:フロントラインプレス)

*週刊朝日10月30日号に加筆














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  • そもそも生きてるの?
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  • アベノマスクって散々貶してたけど、マスクすら配れない国がこうやってすぐ隣にあってそんな国が核兵器だけは持ってる恐ろしさを言わないアエラって何でしょうね?w
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