日産GT-R、最後尾から奇跡の大逆転。優勝できた3つの要因とは

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2020年10月28日 06:21  webスポルティーバ

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 新型コロナウイルスの感染拡大によって7月中旬に開幕しながら、わずか3カ月でシーズンの4分の3を終えようとしている2020年のスーパーGT。シリーズ第6戦は10月24日・25日に三重県の鈴鹿サーキットで開催された。

 コロナ禍の影響で、鈴鹿サーキットではF1日本GPをはじめ、国際格式のレースが軒並み中止となっている。そんな状況で行なわれた、今シーズン初めてとなる有観客での大規模レースの開催。秋晴れとなった鈴鹿サーキットには、1万9000人のモーターレースファンが集まった。




 鈴鹿に詰めかけた大勢のファンの視線を一身に集めたのは、15番手がスタートからMOTUL AUTECH GT-R(ナンバー23)だった。

 土曜に行なわれた公式予選。松田次生がドライブを担当した23号車は、Q1でのタイムアタック中にクラッシュを喫してしまう。結果、決勝はまさかの最後尾からのスタートとなってしまった。

 しかしいざレースが始まると、誰も予想しなかった展開が待ち構えていた。まずは前半を担当したロニー・クインタレッリがスタートから積極的にポジションを上げて、7周目には12番手まで浮上。その後、前を行く11台がピットストップを行なっている間に、23号車はトップを走ることになった。

 すると21周目、GT300クラスの埼玉トヨペットGB GR Supra GT(ナンバー52)がクラッシュ。安全確保のためにセーフティカー(SC)が出た。SCが出ている間、コース上は全区間で追い越し禁止となり、全車スローダウンを余儀なくされる。また、SC導入中はドライバー交代を伴うピット作業もできなくなる。

 ちょうどこの時、23号車はピットストップを行なっている最中だった。各車がスローダウンとなっている間、23号車はSCが導入される直前にドライバー交代を行ない、すでにピット作業を終えているなかで先頭を走っていたカルソニックIMPUL GT-R(ナンバー12)の前でピットアウトに成功する。

 過去のスーパーGTを振り返っても、滅多にない大逆転劇。まさかの出来事に、観客席のみならずメディアセンターにいた記者たちも状況をすぐに把握できず、混乱していた。

 レース後半は12号車との「日産GT-R対決」となったが、23号車の松田が最後までトップを死守。23号車は今季2勝目を飾り、松田とクインタレッリはパルクフェルメで喜び合った。

 なぜ今回、この"奇跡の大逆転"が起きたのか。最後尾スタートの23号車が勝てたのは、3つの要因が考えられる。

 ひとつ目は、万が一の事態にも対応できた「ピットでの準備」が挙げられる。

 公式映像だと、52号車がクラッシュしたタイミングで、たまたま23号車はピット作業を行なっていたように見えた。しかし、23号車を率いる鈴木豊監督はこう語る。

「当初はタイヤのコンディションもよかったので、もうしばらくは(ピットに入らずに)行こうかなと思っていました。ただ、突然SCが入る可能性もあるので、いつでもピット作業ができる準備はしておきました。そうしたら、モニターに(52号車のアクシデントが)映ったので、すぐにピットに入れました」

 ただ、SC導入中はドライバー交代を伴うピット作業が許されない。そのため、ピットインについては一瞬の判断が結果に大きく影響する。

 52号車のクラッシュが映し出された時、トップながらまだドライバー交代を行なっていない23号車は、コース後半のスプーンコーナーを立ち上がってバックストレートに入ったところ。ここからピット入り口までは、わずか20秒弱しかない。そのSCが導入される前にピットインするべきか、入らないでこのまま行くか......。このわずかな時間で、チームは的確な判断を下さなければいけなかったのだ。

「(52号車のクラッシュが)モニターに映ってから2、3秒の間に『ピットに入って!』と無線を入れました」(鈴木監督)

 しかしながら、絶妙なタイミングでピットに入った23号車も、決して余裕がある状態ではなかった。このチャンスで大幅に順位を上げられる可能性があるとはいえ、トップでコースに復帰するには絶対にミスは許されない。鈴木監督はその状況をこう振り返った。

「(作業が)もう1、2秒遅れていたら、12号車に先行されていました。12号車とは実力が拮抗しているので、先行されるとコース上で追い抜くのは困難だったと思います」

 ふたつ目の要因は、まさにこの「迅速なピット作業」にほかならない。

 23号車は以前からピット作業の精度向上に力を注いでおり、チームのファクトリーにタイヤ交換や給油作業の練習ができる専用設備を整えていた。またレース前の金曜日には松田とクインタレッリも参加して、実車を使った本番さながらのピットストップ練習を何度も繰り返したという。

 この地道な努力が、この鈴鹿サーキットで活きた。作業時間があと2秒ほど長かったら、おそらく4、5番手でのコース復帰となっていたと鈴木監督は語る。

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 そして3つ目の要因は、予選クラッシュからの「見事な立ち直り」だろう。

 チャンピオンシップを争っている23号車は、この鈴鹿ラウンドに勝負をかけていた。それだけに、Q1のクラッシュはあまりにも代償が大きく、ピットは重苦しい雰囲気に包まれた。

 クラッシュしたダンロップコーナーの出口は、時速200kmに達するアクセル全開区間。縁石やグラベルゾーンでマシンがジャンプしてほぼ減速しないままクラッシュしたこともあり、マシンのダメージも決して軽くはなかった。

 予選で大きなクラッシュをしてしまった車両は、メカニックが徹夜も辞さない覚悟で修復作業にあたる。そしてマシンが直ってレースに出られたとしても、徹夜で疲労の溜まったメカニックのピット作業等の精度が落ちることも少なくない。

「エンジンより前の部分はすべて交換しました。かなりのダメージを負っていました。しかし、徹夜をすることもなく、日付が変わる前に作業を終えてホテルに戻ることができました」(鈴木監督)

 これが前述の迅速なピット作業につながったのだろう。さらに鈴木監督は、こう続ける。

「何よりよかったのは、(松田)次生の身体に問題がなかったことです。医師団の方々が、その後の検査の手配まで整えてくれました。そこで問題ないことが確認できたので、我々も安心して次生に対して『レースに集中しろ!』と言うことができました」

 クラッシュから見事に立ち直った松田は、決勝レースで見事な走りを披露した。

「予選からクルマの調子がよかったので、この鈴鹿では久々に行けると実感していました。しかし、予選では自信があり過ぎたせいもあって......。だから決勝は、なんとか結果でみんなに感謝を伝えたかったです」(松田)

 予選での悪い流れをチーム全体で払拭し、決勝にリフレッシュした形で臨めたのが、奇跡の逆転劇を呼び起こす最初の一歩だったのだろう。

 この優勝により、松田/クインタレッリ組は45ポイントでランキング3位に浮上。トップに対してわずか2ポイント差に迫り、チャンピオン獲得の可能性も大きくなった。

 6戦を終えて、トヨタ、ホンダ、日産が2勝ずつ。トップ5台が2ポイント以内にひしめく接戦となっている。2020シーズンも、残るは2戦。いったい誰が、どのメーカーが今季の栄冠を勝ち取るのか、ますます目が離せない。

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