それぞれの思惑とSC導入時の状況。GT300ランキング上位勢レース詳報/スーパーGT第6戦鈴鹿

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2020年10月28日 15:21  AUTOSPORT web

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2020年スーパーGT第6戦鈴鹿 ARTA NSX GT3(高木真一/大湯都史樹)
10月25日に行なわれたスーパーGT第6戦『FUJIMAKI GROUP SUZUKA GT 300km RACE』は、セーフティカー(SC)が命運を分けたレースだった。GT500クラスではSC導入直前にピットインしたマシンがポジションアップを果たして優勝を飾ったが、GT300クラスではSC導入時点で“ピットインを済ませていたかどうか”が、レースの行方を大きく左右した。

 そもそも『マキシマム・ウエイト』で戦う第6戦は、ランキング上位勢にとってタイトル争いの天王山でもあった。ここでは鈴鹿に入る時点でのランキング上位6台、ハンデウエイトが100kgと99kgのチームに絞って、レース中に起きていたことを検証してみたい。  

 まずは前提として6台のスターティンググリッドと、SCが入った時の各車の状況を整理しておく。なおSC導入はクラストップが21周目走行中。このときピットを済ませていなかった車両は、クラス全体では12台にのぼる。

・61号車 SUBARU BRZ R&D SPORT:グリッド2番手・SC導入時は未ピット
・11号車 GAINER TANAX GT-R:グリッド5番手・SC導入時は未ピット
・55号車 ARTA NSX GT3:グリッド7番手・SC導入時はピット済
・52号車 埼玉トヨペットGB GR Supra GT:グリッド10番手・SC出動時はピット済
・56号車 リアライズ 日産自動車大学校 GT-R:グリッド11番手・SC導入時はピット済
・65号車 LEON PYRAMID AMG:グリッド25番手・SC導入時はピット済

■コースオフは「自分のミス」と川合孝汰
 このうち、埼玉トヨペットGB GR Supra GTについては、ピット作業後のアウトラップにおいてS字でコースオフを喫し、SC導入の引き金となってしまった。

 その後、サーキットのタイミングモニターの文字情報では「#3と#52の接触はレーシングアクシデント」という判定結果が表示されたことから、GT500クラスのCRAFTSPORTS MOTUL GT-Rと接触した結果のコースオフであると思われた。

 埼玉トヨペットGB GR Supra GTをドライブしていた川合孝汰はレース後、オートスポーツ本誌の取材に対し、接触とコースオフが「自分のミス」であったと認めている。

「コースインしたところが結構な集団でした。アウトラップは無理もできないので、後ろに見えているクルマは先に行かせるつもりで1コーナーに入りましたが、S字の1個目に入るタイミングで右側から3号車が来ているのが全然分かっていませんでした」

「タイヤがまだ温まっていなくて、アンダー(ステア)を出した状態で曲がっていたところに3号車が抜きにきてしまい、それを避けきれず……。(当たったときは横並びではなく)3号車の方が加速していたので前に出ていたんですが、それを完全には避けきれなかったんです」

 スポンジバリアからは脱出することができたが、車にはダメージがあった。走り続けることも可能な状態ではあったが「このまま走らせても車を壊すだけなので、チームの判断で終了(リタイア)しようという感じでした」という。

 各車のピットが始まる前までに8番手にまでポジションアップを果たしていた埼玉トヨペットGB GR Supra GTにとっては、ノーポイントは痛い結果となった。

■SC導入でポイント圏外に転落したGT-R勢2台の状況
 ウエイト100kgながら予選でフロントロウを獲得、決勝ではポールシッターK-tunes RC F GT3の後退により難なくトップに立ちレースを進めていたSUBARU BRZ R&D SPORT。燃料のウインドウが開いておらず早期のピット作業ができなかったことは既報のとおり。そしてSC導入時、その背後の2番手につけていたのはGAINER TANAX GT-Rだ。

 GT-R勢は燃費(と燃料タンク容量)の面では、ミニマム周回時(今回のGT300では結果的に15周)にすでにピットイン可能な状態になっていた。この点はSUBARU BRZ R&D SPORTとは状況が異なるが、ちょうどピットタイミングを図っていたところではあったという。

「52号車がコースアウトする直前、ホームストレートで『ここからフルプッシュして、タイヤがなくなったらピットイン』という指示を出しました」と福田洋介エンジニア。1周まわってきたときには、すでにピット入口はクローズされていた。

 今回GAINER TANAX GT-Rは、持ち込んだなかでソフト側のタイヤを選んで予選・決勝に臨んでいた。決勝前のウォームアップ走行では1スティント分の距離を走行したタイヤで、他車に引っかかりながらも2分01秒台で周回でき、決勝セットにも自信を持っていたという。

 ただ、後半のタイヤ(四輪交換)のことを考えれば、もう少し周回数は引っ張っておきたいところだった。

「決勝スタート時点はすこし暑かったので、序盤はセーブしようと。なので、無理に前を抜きに行きませんでした。あそこでスティントの最後にプッシュしてピットに飛び込めば、後半はトップ争いができていたと思います」というほど、マシンとダンロップタイヤの状態は良かったという。

 結果的にSCの妙によってポイント圏外へとドロップ。「(残り2戦でランキング首位とのポイント差が)1ケタか2ケタかというのは、大きい。ほとんど“マジック点灯”状態じゃないですかね。最低こちらが1勝して、向こう(LEON PYRAMID AMG)がとりこぼしてくれないと、タイトルはないかな」と福田エンジニアは落胆を隠さない。

 同じGT-Rでヨコハマを履くリアライズ 日産自動車大学校 GT-Rも「燃料のウインドウは開いていましたが、タイヤのウインドウが開いていなかった」(米林慎一エンジニア)と、ピットインができていなかったグループに属する。

 そのコメントからも分かるように、こちらも四輪交換を予定していた。セカンドスティントを短くするため、前半スティントはもう少し引っ張りたかったのもGAINER TANAX GT-Rと同様だ。米林エンジニアは続ける。

「できる限りスタートからタイヤをセーブしてもらって、メインのターゲットとしては11号車を見ながら、レースをしていました。ダンロップは予選も速かったけど、決勝でも良さそうでしたね。61号車が速いのは冬のテストから分かってましたが、11号車も同じGT-Rで同じ重量なのにペースが良くて……」

 52号車のコースアウトを見てピットインを指示した際には、すでにマシンはホームストレートを走行しており、万事休す。SCがなければ「ちゃんとは検証していませんが、後半も6番手以内だったと思います」と悔しいノーポイントとなった。

■「『100kg』とうまく友達になれなかった」ARTA NSX GT3
 ウエイト100kgながら予選7番手と好位置につけていたARTA NSX GT3。しかもハード側のタイヤでマークしたタイムであり、決勝ではアベレージラップに期待がかけられた。

 だが、高木真一はフォーメーションラップ開始直後に「ヤバい」と感じたという。タイヤがまったく温まらないのだ。

「それを見越して、20分のウォームアップ走行で大湯(都史樹)がスタートタイヤを温めてくれていました。でも、フォーメーション始まってアクセル踏んだら『ウァン!』って(タイヤが滑って)。そこからもう、必死でブレーキ踏みながらハンドル切って温めたんですけど、ちょっと足りなかった。スタートしてS字までの間で右から左から抜かれてしまいました」

 高木はオープニングラップを終えた時点で14番手にまで後退してしまう。チームと高木の判断は「タイヤがレンジを外しているかもしれない」。本来はハードタイヤで高木が2/3近くまで引っ張り、最後は大湯がソフトで飛ばす作戦だったが、早めにピットインしてソフトタイヤへ交換し、状況が好転することに賭けた。結果的にはこれによりSC前にピット作業を済ませることができ、ポイント圏内へと返り咲くことに。

 ただ、ソフトタイヤで走った大湯も、残り10周時点からリヤタイヤのグリップダウンに苦しめられた。「結局はタイヤというより、ウエイト100kgに対するセットアップの問題だと思う」と高木は今回のレースを総括する。

「いろいろあって重たいときのセットアップの確認がしっかりできていなくて、決勝前にいままでのデータを見て決めたんですが、そんなに甘くなくて。すべての重さがリヤタイヤにかかってくるような状態になってしまい、重さってここまで響くのかと実感させられました。今回に関しては『100kg』とうまく友達になれなかった、という感じです」

 それでも粘りの走りで4ポイントをもぎとったARTA NSX GT3は、ランキング3位に浮上している。

■ヘビー級ながらフロント2輪交換を敢行したLEON PYRAMID AMG
 第4戦もてぎで優勝、続く第5戦富士でも表彰台に登ったランキングトップのLEON PYRAMID AMGは、苦手とされる鈴鹿で予想どおりウエイトハンデも響き、予選では25番手に沈んだ。

 決勝ではSCリスクを避け、ミニマム周回数でピットイン。しかも「ブリヂストンのタイヤの耐摩耗性が良かった。うちはフロントの方が厳しかったので、フロント2輪交換にしました」と黒澤治樹監督が語るように、下位ながらしっかりと“勝負”に出ていた。

 そしてLEON PYRAMID AMGにとっては良いタイミングでのSC導入。SC明け、すべてのマシンがピットを終えると8番手に浮上していた。

 ただ、ここからフィニッシュに向けてはウエイト100kgが重くのしかかった。「軽いマシンには太刀打ちできないので、ドライバーにも『無理はするな』と言いました」という黒澤監督の言葉どおり、蒲生尚弥は無理なポジションキープはせず。ふたつポジションを落としたものの10位でフィニッシュし、貴重な1ポイントを持ち帰った。

 LEON PYRAMID AMGは、ドライバーズランキングでのリードを11ポイントへと広げて終盤2戦を迎える。唯一全戦ポイント獲得を続けるLEON PYRAMID AMGは、このまま得意のもてぎと富士で勢いを維持してタイトルに猛進したい構えだろう。ややポイント差を付けられたライバル勢は、今後どこまで巻き返していけるだろうか。

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