超先鋭的。アーセナルのアルテタ監督の難解な戦術を読み解いてみた

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2020年10月29日 17:11  webスポルティーバ

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サッカー名将列伝
第20回 ミケル・アルテタ

革新的な戦術や魅力的なサッカー、無類の勝負強さで、見る者を熱くさせてきた、サッカー界の名将の仕事を紹介する。今回は昨シーズンからアーセナルを率いているミケル・アルテタ監督。トータルフットボールの末裔とも言える、先鋭的なサッカーを展開し、戦術マニアたちの探求心を掻き立てている。

◆ ◆ ◆

<複雑系サッカー>

 ミケル・アルテタ監督の率いるアーセナルは、おそらくいま最も「難解な」サッカーをするチームだと思う。なぜ難解かというと、従来のシステムやポジションでゲームを見ていると、非常にわかりにくいからだ。




 基本システムは3−4−3だが、局面によってかなりポジショニングが変化する。さらに選手の入れ替わりも多く、システムに選手を当てはめようとすると、まずわけがわからなくなるのだ。難解度がマックスだった第4節のシェフィールド・ユナイテッド戦で見てみよう。

 GKレノ、DFは右からダビド・ルイス、ガブリエウ・マガリャンイス、キーラン・ティアニー。MFは右からエクトル・ベジェリン、モハメド・エルネニー、ダニ・セバージョス、ブカヨ・サカ。FWはウィリアン、エディ・エンケティア、ピエール=エメリク・オーバメヤンだった。




 通常、3−4−3で攻め込んだ時のイメージは、サイドハーフが幅をとって、ウイングがハーフスペースへ入る。ボールの後方に2ボランチと3バックだろう。

 しかし、アーセナルは攻め込んだ際に残すDFは、3人ではなくふたりなのだ。左サイドはティアニーが高いポジションをとり、それに伴ってサカがハーフスペースに入る。

 さらにややこしいことに、ビルドアップの時にボランチのエルネニーがCBの隣に下りてきて3枚回しになっていた。もうこの時点で、すっかり最初の3−4−3ではなくなっている。

 そして、右サイドにボールが展開された場合はエルネニーが攻め上がり、ベジェリンとウィリアンのポジショショニングも入れ替わっていたりする。




 ここまで来ると、3−4−3ではなくて4−3−3なんじゃないか? というふうに見えてくるが、エルネニーは本来のボランチのポジションに戻る時もあり、何がどうなっているのかわからなくなるわけだ。

<プレーの原則とやり方の流動性>

 一見、選手が自由自在に動き回っているようだが、アルテタ監督のプレースタイルには明確な原則があると考えられる。この手の自由度の高いサッカーほど、実は原則はしっかりとあるものだ。カオスに見えるが、ただのカオスに流れない、なにがしかの秩序は存在する。

 原則あるいは決まっていることは、攻撃に関しては2つだけだろう。
(1)ボールがハーフウェイラインを越えたら残すDFはふたり
(2)サイドにトライアングルをつくる

 この原則に合っていれば、誰がどこにいてもいい。むしろ、大胆にポジションを変えたほうがトライアングルの形も変わって、相手に捕まりにくくなる。やろうとしていることは明確、しかしどう実現するかは自由度が大きい。

 第5節のマンチェスター・シティ戦では、シティのビルドアップにハイプレスを仕掛けていった。シティの4枚回しに対して、4人がプレスするのでシステムで見れば4−2−4である。

 ちなみにアルテタのかつての上司だった、シティのジョゼップ・グアルディオラ監督は、アーセナルのハイプレスを読み切っていたのか、この試合では3−4−3だった。MFがビルドアップでひとり下りてきても、中盤中央は3対2の数的優位があり、アーセナルのハイプレスを巧みにかわしていた。

 ハイプレスがダメな時の撤退は、DFふたりの状態からティアニーが下りて3バックになり、さらにベジェリンが引いて4バック、サカが左サイドに引いて5バックという手順だった。ただ、攻め込んだ時のポジションが流動化しているので、誰から順番に引いてくるのかはその時次第。ひとりずつDFが増えていく原則はある。

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 ハイ、ミドル、ローの3つの守備局面でそれぞれシステムが変化する。守備でもチームとしてやろうとしていることは明確なので、逆に用途に合わせてシステムが変化している。

<トータルフットボールの末裔>

 シティとアーセナルは、兄弟と言っていいぐらい戦術的な思想が似ていた。

 まずパスコースをつくる。そして攻撃で「幅」をとり、「中間ポジション」に立ち、可能なら「裏」を狙う。なので、崩し方はリプレーのように繰り返されるが、関わっている選手は同じではない。狙いが決まっている分、それを実現するには選手が流動化したほうがむしろ都合がいいのだ。

 シティとアーセナルは、いわばトータルフットボールの末裔である。ポゼッションとポジションのサッカーが最も進化した形を示している。先進性という意味では、ペップよりアルテタのほうが上かもしれない。シティは幅をとる選手は決まっていたが、アーセナルはそれさえも変化させていた。

 ただ、試合は1−0でシティが勝利している。先鋭的だからと言って、それだけで強いわけではない。アーセナルのビルドアップはまだ粗いところもあり、けっこう対戦相手から狙われたりもしている。

 しかし、アルテタ監督は誰よりも斬新なチームづくりに挑戦している。アイデアだけならすでにチャンピオンかもしれない。真のチャンピオンになれるかどうかは、まだ何とも言えないが、読み解きの面白さは抜群だ。ただの推理小説なのか偉大な発明かは、時間が教えてくれるだろう。

ミケル・アルテタ
Mikel Arteta Amatriain/1982年3月26日生まれ。スペイン、サン・セバスティアン出身。ユースではバルセロナで過ごし、現役時代はエバートンやアーセナルなどでMFとして長くプレー。2016年に引退後、マンチェスター・シティのアシスタントコーチ。2019−20シーズンからアーセナルの監督を務めている。

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