安東弘樹のクルマ向上委員会! 第41回 デザインを重視できた理由は? 安東弘樹、ホンダe開発陣に聞く!

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2020年10月30日 07:02  マイナビニュース

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ホンダの電気自動車(EV)「ホンダe」に試乗した安東さん。開発陣との感想戦では、航続可能距離とデザインのバランスなど、EV開発に関する興味深い話を聞くことができた。対応してくれたのはホンダ 四輪事業本部の倉知郁雄エキスパートエンジニアと林宗平アシスタントチーフエンジニア、そしてホンダ広報部の皆さんだ。

※文と写真はマイナビニュース編集部・藤田が担当しました

○シングルペダルで感じたホンダの意地

安東弘樹さん(以下、安):まずは、感謝を申し上げたいんです。やっと、こういうクルマが日本メーカーから出てきたかというのが、正直なところなので。価格についてはネットで批判が出たりもしていますが、品質を含め、この方向性で間違っていないと私は思っています。乗っていても楽しいですし。

ただ、気になったのが航続可能距離です。走り始めた時はバッテリー残量が97%で168キロという表示だったんですけど、これだと明らかに短いので、そのうち伸びるのかなと思っていたんですけど、そうはならず、試乗を終える頃には140キロくらいになっていました。最初の168キロというのは、それまでの走行パターンを踏まえた数字が表示されていたんでしょうか?

倉知郁雄さん(以下、倉):走り方を学習して表示するようになっているので、その前の使い方が、例えば撮影などで長い間、止まっていたのかもしれません。乗っていると、だんだん伸びていくと思うんですが。

安:実際に走った距離よりも減った数字は一応、少なかったんですけど、大体、同じくらいといえなくもない数字でした。これだと本当に168キロしか走らない可能性もありますね。

安:私の場合は、九州まで1,200〜1,400キロをほぼノンストップで運転してしまうというタイプなんですけど、日本の場合、一般の方は一回当たりの平均走行距離が10〜20キロくらいだといいますから、ホンダeのようなクルマは、日本に最も合っている乗り物なのではないかという気がしました。

ただ、価格はもちろん、ぽんと買えるような金額ではありませんよね。

安:乗ってみると、回生の具合が完璧でした。私は普段からマニュアル(MT)のクルマに乗っていたり、オートマックでもマニュアルモードにしてパドルで変速したい人間だったりするので、回生量(減速度)をパドルで選べるのは、非常にありがたいんです。これのおかげでストレスも減りますから。

ワンペダル(シングルペダルコントロールモード起動時)でも回生量が選べて、パドルで強弱を選択して、最後までブレーキを踏まず、アクセルペダルを戻すだけで自然に止まれるというのは、これはもう、おそらく、既存のEVの中では一番、運転しやすいクルマなのではないかと思いました。自分でコントロールしたいタイプのドライバーにとっても、満足できるクルマなのではないでしょうか。

クルマに全て任せたいという人はそういうモードを選んで走ればいいし、私みたいにパドルで減速度を調節し、エンジンブレーキ代わりにして運転したいという人も楽しめます。そこに、ホンダの意地のようなものを感じることができました。

倉:シングルペダルコントロールをホンダが作るということで、どういう味付けにするかについては悩みました。減速度をパドルでコントロールできるようにした背景には、いろんな人に乗ってもらいたいという考えと、同じ人でも、いつも同じ乗り方で満足するとは限らないという考えがあります。今日はアグレッシブに乗りたいとか、今日は流したいとか、そうした気分に応じて減速度を選んでもらえるのが一番、優しいクルマかなと思いまして。

安:制御も自然だったので、ありがたいなと思いました。

あとは動力性能、加速が丁度いいですね。先日までポルシェ「911」に乗っていて、今はロータス「エリーゼ」というクルマに乗っているんですけど、そういう私でも、何か物足りないとか、なかなか前に進まないといった感じはしませんでした。踏んだ分だけリニアに加速してくれるので、普段からスポーツカーに乗っている私でも、不満を感じないどころか、気持ちがいい。もちろん、テスラみたいに、ワープするような加速ではないんですけどね。

倉:爆発的なトルクはないんですが300Nmは超えていますし、瞬発的に出るので、レスポンスはすごく素直だと思います。CVT(無段変速機というトランスミッション)みたいにラグがないので、気持ちいいと感じてもらえたのではないでしょうか。

安:そうでありながら、過激にはなり過ぎずといった感じでした。

それと、ウィンカーを出した時に、モニターにガイドラインが表示されたんですが(自車と斜め後ろのクルマの距離がつかみやすくなる工夫)、それもありがたかったです。

ただ、デジタルルームミラーは、モニターと光学(鏡)で映像が混ざってしまうシーンがありました。天気が良かった影響もあると思うのですが、後方の画像が二重に見えてしまって、焦点をどちらかに合わせなければならないというのが、少し怖かったですね。

それに、高速道路を走っている時に、解像度が落ちた気がしました。普段、自分のクルマの一般的な鏡で後ろを見ている時は、後続車のナンバーも読み取れますしエンブレムもはっきりと見えるんですけど、ホンダeのデジタルミラーで高速を走っている時に後ろのクルマのナンバーを見たら、数字は全く読み取れませんでした。

林宗平さん(以下、林):夜間であるとか、雨が降っている時などでも視認性がいいので、そこがデジタルのメリットではあるのですが……。

安:あと、フロントガラスに細かい縦線が入ってましたけど、あれは何ですか?

林:あれは熱線(窓の曇りや霜を除去するための装置)です。

安:視力がいいもので、あれも結構、気になってしまいました。

倉:気になり始めると、気になりますよね。

林:太い線ではないですし、均一に入っていますので、慣れれば気にならないとは思います。

倉:ちなみに、(アドバンスではなく)ノーマルのフロントガラスには熱線が入っていませんし、デジタルルームミラーも付いていません。

安:なるほど! では、もし買うとしたら、私はそっちを選びますね!

それと、少し苦労したのは「オッケー、ホンダ」(車載AIを用いたHondaパーソナルアシスタントのこと)ですかね。御社のAIの音声認識能力はおそらく、今までに乗ったクルマの中で最も優秀だったと思うんですが、「ハンマーヘッド(神奈川県横浜市、試乗の発着拠点)に行きたい」といったら、目的地が北海道の小樽になってしまったんです。

ホンダ広報の岩城さん(以下、岩):ハンマーヘッドは新しい建物なので、登録されていないんですよね(編集部注:2019年10月31日に開業したらしい)。

安:なるほど。ただ、「横浜市の」といったと思うので、もし横浜で登録がされていないのであれば、北海道の場所を指定せずに「分からない」といってくれた方がいいような気がしますけどね……。この音声認識は自動車メーカーにとっての永遠のテーマですね! 話しかけた時、その内容がモニターに表示されるのは、ありがたいなと思いました。

○日本車の良心? 「ホンダe」のデザイン

安:全体としては、非常にいいクルマだと思ったんですけど、もう初期ロットは完売したそうですね。おめでとうございます!

岩:初期ロットの数百台は完売しました。

安:注文は予想よりも多かったんですか?

岩:想定よりも、かなり早いスピードでした。初期ロットの販売には2カ月くらいかかる想定だったのですが、実際は1週間くらいだったので……。

安:ただ、御社にとって、悪い話ではないですよね?

ホンダの皆さん:それはもう、ありがたいことです。

安:増産は可能なんですか?

倉:バッテリーの供給などもあり、弊社の中だけでの生産ではないので……。

安:もったいないといえば、もったいないですね。

倉:欧州向けに先行して製造販売しているという事情もあります。向こうにはCAFE(企業別平均燃費基準)という規制があるので。

安:なるほど。ただ、今回の販売状況を見て、日本市場における可能性をつかめたという感じがあるのでは?

倉:それはありますね。

安:あと、このデザインは本当に好きです。塊感がありますね。おべんちゃらでいうわけではなく、日本メーカーの中で一番、好きなデザインなんですよ。これ以上のクルマは日本車の中にはないと思うくらいの完成度で、奇をてらっていないのに、まとまっていて、かわいい。日本ではなかなか、見たことのないクルマです。

倉:なるべくシンプルに作ろうと心掛けました。EVだと、どうしても航続距離が主眼になりますが、航続距離を伸ばそうとすると、空力を重視しなければなりません。そうすると、形がどうしても崩れてくるんです。空気のための形になってしまう。それは、EVの仕組みなので致し方ないかなとも思っていたんですけど、このホンダeは都市で使うクルマとして、航続距離はある意味で割り切りました。だから、デザインはデザインの価値として出そうと決められたんです。つまり、微々たる空力を取るために、デザインを崩すのはやめようという思いなのですが、そういった思想が込められています。

安:確かに、空力を突き詰めていくと「シビック タイプR」みたいになりますもんね。

ホンダeのデザインが気に入っている人は多いようで、「フィット」がこのデザインだったら良かったのに、という意見もあるみたいですね(笑)。

倉:ただ、このプロポーションは「モーターカー」だからできたので、エンジンを中に入れようとすると、ちょっと難しいんですよね。

安:そもそも、パワーユニットを前に置くとすれば、どうしても制約が生まれますもんね。とにかく、「ありがたい」というのが率直な気持ちです。日本車のデザインの良心とすら思っています。

倉:もちろん、お客様にとって航続距離は大事な要素だと承知していますが、そこに特化して期待に応えようとすると、どうしてもデザインは後回しになってしまいます。

安:航続距離についても聞いてみたいんですが、日本で長距離を乗る人って少数派で、100キロを「遠距離」という人も多いので、私なんかは腰が抜けるくらい驚いてしまいます(笑)。「100キロじゃ、まだ始まってもいないでしょう」という感じなんです。100キロを遠距離と感じている人にとって見れば、ホンダeの航続距離が実質的に200キロを切ったとしても、問題ないんじゃないかという気がしますね。

倉:確かに、平均値で見れば、航続距離が50キロもあれば90%くらいまでは網羅できてしまいます。そうすると、例えば年に1回は実家に帰るとかで、その1〜2日のために、普段は使わないバッテリーを載せて走っていることになってしまうんです。

ガソリンエンジンの場合は、エネルギー密度の高い化石燃料で走っていますから「大は小を兼ねる」で作れましたが、EVの場合、そうはいかない。その考え方でEVを作ると、大きなクルマができてしまいます。なので、大は小を兼ねないという目線で作っています。音は静かでエミッションはゼロ。それでいて優しいデザインで、航続距離は必要十分というクルマです。

安:狙いとしては、非常によく分かります。私は普段、ディーゼルエンジンのクルマに乗っていまして、以前、大分まで行った時も、トイレと食事以外はほぼノンストップでした。東京で軽油を満タンにして大分までの1,200キロ、給油なしで到達できたんです。なので、バッテリー残量が90%で100キロ台となると一瞬とまどうんですが、ただ、私みたいな乗り方をする人がほとんどいないというのは重々承知していますので、こういう変わった人以外は、困ることはないと思います(笑)。

あとは、充電インフラが自宅に設置できるかどうかは重要ですね。マンションだと、初めから付いているところは、まだそんなにはないでしょうし。充電設備を設置するのには、いくらくらいかかるものなんですか?

岩:どこから電源を持ってくるかにもよるんですが、大体20万円くらいですかね。

安:そうすると、充電設備を自宅に設置したとしても、補助金を差し引くと、ホンダe アドバンスの乗り出し価格は500万円以内に収まるかもしれませんね。

バッテリー容量も35.5kwとそこまで大きくないので、充電時間もそんなにはかからない?

倉:200Vの充電だと、6時間くらいで満タンになるかなという感じです。実際、大容量のバッテリーを搭載している航続距離500キロのEVだと、一晩ではフル充電にならないんですよ。急速充電は電気の出し入れが厳しいので、バッテリーへの影響を考えると、そんなにしょっちゅうは使えませんし。その点、ホンダeのバッテリーは、もともとPHEV用に作った電気の出し入れに強いものなので、30分で80%くらいまで充電できます。

安:ホンダeを購入されているのはどんな方なんでしょう?

ホンダ広報:まだ、そこまでデータが取れていないんですけど、想定しているのは増車です。ホンダeは都市型の使われ方を想定したEVなので、長距離移動で乗るクルマをお持ちの方の2台目需要といった感じのイメージです。

倉:よほどEVに慣れていらっしゃる方なら別ですが、ファーストカーとしてホンダe1台というのは、なかなか考えられないですね。

安:日産の「リーフ」はファーストカーとして使っている方が多いようですが、これは結構、驚きでした。初代のリーフは、それこそ200キロも走りませんでしたから。

倉:EVは、役割を決めないと成り立たないと思うんです。ホンダeをファーストカーとして作ろうと思ったら、駆動方式はFF(モーターを前に置く前輪駆動、ホンダeはモーターを後ろに置く後輪駆動)にして、バッテリーの容量を大きくしようという話になったかもしれませんが、それでは、ほかのEVとほとんど同じになってしまいます。

安:なるほど。よく分かりました。

いやー、しかし、電気自動車としてというよりも、新しいコンパクトカーとしての価値を作ってくれた感じがして、ホンダeには感服しました。2019年の東京モーターショーでコンセプトカーを見たときは、「このまま市販ということにはならないだろうなー」と少し疑っていたんですけど、本当にそのまま出てきたのが嬉しかったです。本日はありがとうございました!

安東弘樹 あんどうひろき 1967年10月8日生まれ。神奈川県出身。2018年3月末にTBSを退社し、フリーアナウンサーとして活躍。これまでに40台以上を乗り継いだ“クルママニア”で、アナウンサーとして初めて日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員を務める。 この著者の記事一覧はこちら(安東弘樹)

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