「仕事も育児も30点…」 朝日新聞40歳男性記者が感じた葛藤

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2020年10月31日 08:00  AERA dot.

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写真「仕事も育児も、どちらも30点くらいの感覚」と振り返る高橋健次郎記者(撮影/写真部・高野楓菜)
「仕事も育児も、どちらも30点くらいの感覚」と振り返る高橋健次郎記者(撮影/写真部・高野楓菜)
 子育てに関わる男性を指す言葉「イクメン」が「新語・流行語大賞」にノミネートされたのは2010年のことだ。あれから10年、女性の労働環境の改善と並行して、社会ではさらなる男性の育児への関わりを求める声が高まっている。

【図:男女の家事・育児時間の国際比較はこちら】

 しかし、実態はどうか。厚生労働省の調査によると、19年度の男性の育休取得率は7.48%(7月31日発表の雇用均等基本調査の速報値)。これでも過去最高の取得率だというから驚きだ。対して女性の取得率は83%だった。

 仕事と育児の両立に悩む男性は多い。かくいう記者(26)もその一人だ。昨年に長男が誕生したが、仕事を言い訳に育休中の妻に育児負担を押し付ける毎日。このままではいけないと、できるだけ早く帰宅したりもするのだが、すると今度は仕事の質が下がるというジレンマに、モヤモヤとした思いを感じていた。

「仕事も育児も、どちらも30点くらいの感覚ですよね」

 そう記者に共感してくれるのは、新書「妻に言えない夫の本音 仕事と子育てをめぐる葛藤の正体」の編集に携わり、自身も4歳の娘の子育て中である朝日新聞の高橋健次郎記者(40)だ。仕事と育児の両立にどう向き合えばよいのか。そもそも記者が仕事と育児を両立することはできるのか。高橋さんに悩みを打ち明けると、記者が抱えるモヤモヤは、女性がこれまで直面してきた困難の「後追い体験」だという実態が浮かび上がった。

*  *  *
――仕事も家庭もうまくいっていない。そんな「モヤモヤ」とした思いを抱えています。

高橋健次郎(以下、高橋):私も育児をしながら同じような感覚を覚えますので、気持ちはわかります。家事・育児を妻と均等に分担するようになり、仕事にかけられる時間は減りました。すると、仕事の成果物、記者で言うなら記事の量が落ちてしまうわけです。これまでは知見を広げるために本を読んだり、土日にシンポジウムに出たりと自己投資の時間もありました。それができなくなり、「干上がっていく」ような感覚がありました。上司からは「もっと仕事に貪欲になっていい」と言われたりもしました。私自身この仕事が好きですから、「もっと仕事をやりたいのに」というもどかしさはすごくありました。

 かといって家事や育児が完璧かと言われれば、そんなことはありません。仕事に戻りたい焦りから、なかなか寝ない娘にいら立つこともしばしば。ブランコに乗る娘の背中を押しながら、携帯で仕事のメールチェックをすることもあります。

「仕事も育児も30点だ」

 そんな、「なにもかもが停滞している」感覚が、私の「モヤモヤ」とした思いでした。

――新聞記者というと、激務だというイメージです。出産時は政治報道に携わっていたとか。育児との両立はかなり大変だったのではないですか?

高橋:当時は政治家や官僚に対していわゆる「夜討ち」を毎日のようにしていました。日付が変わったころに帰宅というのは珍しくなかった。政治家の家を夜回りする前に時間があれば娘を風呂に入れたりもしていましたが、そんなのは今思えばただの自己満足だったなと思います。妻は育休中で当時の私は、「仕事に支障のない範囲で育児に関わる」というスタンス。実質的に妻のワンオペ育児でした。

――現在では夫婦で均等に家事・育児を分担しているそうですが、なにかきっかけがあったのですか?

高橋:娘が冬に感染症にかかり、リビングで嘔吐してしまったことがありました。泊まりの出張から帰ると、絨毯(じゅうたん)が吐しゃ物で汚れていて、バスタオルをかぶせたままでした。妻がぐったりした様子で「もう限界」と言った時、ようやく「このままじゃいけない」ということに気づきました。

――正直なところ、新聞記者は仕事と育児を両立できると思いますか?

高橋:難しいなあ。うーん、どうでしょう。例えば、政局が流動化したり、大きな事件・事故が起きたり、企業の統廃合があったりする。そういう局面で、ニュースを追いかけなければならない時、夫婦だけで乗りきろうとすれば、その時点に限れば「育児負担をパートナーと均等に分担する」のは難しいかもしれません。そこは相手に少し負担してもらう場面が出てくるかもしれません。

ただ、それでも育児に挑戦できる余地はあると思います。記者の働き方は裁量が大きいので、すき間の時間に自宅に戻ったりもできます。状況が落ち着けば、また関わりも増やせます。現にそうしている記者もいます。

――そうなると、会社としては社員の家庭状況に応じて、担当を配慮するということも重要になると思います。

高橋:そうですね。ただ、さきほど例示した政局の流動化などは、日々のニュースを追う持ち場の繁忙期のイメージです。私はいま文化くらし報道部で生活報道に関わっていますが、私の持ち場だと、「今日○○の会見があるからすぐに行ってくれ」みたいなことはあまりない。予定は以前に比べて立てやすくなりました。子どもを保育園に送り届ける支度は私が担当できていますし、帰りのお迎えも週2回担当しています。なるべく家族と夕飯を食べます。娘が寝てから帰る日は月に1,2日くらいでおさえるように努めています。

 そもそも、長時間労働を是とする人はほとんどいません。「男性だって子育てするべき」という考えは浸透していますし、例えば社内でアンケートをとれば多くの人がそう答えるでしょう。

 男性を育児から遠ざける背景には、労働環境による「外部の力」による影響もありますが、実は男性が周りの目を気にしすぎている面も大きいと思います。

――確かに定時で帰ることに罪悪感を覚える自分がいます。そんなとき、妻から「私がやろうか?」なんて言われると、ついつい甘えてしまうんですよね。

高橋:その気持ちはすごくわかります。ただ忘れてはならないのは、こうした仕事と育児の狭間に揺れる男性の葛藤は、これまでの女性たちの育児負担の偏重を「後追い」で体感している側面が大きいということです。「早く帰るのは申し訳ない」「上司が理解してくれない」「出世できないのではないか」といった悩みは、多くの女性たちがこれまでに経験してきたことです。

「イクメン」という言葉がありますが、私はこのように呼ばれることに違和感があります。同じように考える人は多く、理由は人それぞれですが、取材でよく聞かれたのが、「当たり前のこととして育児に関わっているのに、なぜ『イクメン』と特別扱いされるの?」という違和感です。記者さんはいかがですか?

――私も「イクメン」と言われることがありますが、嫌ですね。私は家事・育児の1割も負担できていないと感じているのですが、私が少し育児に関わった場面を見ただけで、「イクメンだね!」なんて言われてしまう。実際はまったくそんなことはないので、「イクメン」という肩書を与えられても、プレッシャーを感じるのです。

高橋:それだけ、男性が育児に関わることが社会的にはまだまだ珍しい現象だということですよね。記者さんとしては、どのくらい育児に関われれば満足できますか?

――やはり妻と均等に負担するのが筋かとは思います。妻はいまでこそ育休中ですが、保活が完了すれば仕事に復帰する予定です。いまのうちから5:5の分担に慣れておかなければいけないと考えてはいるのですが…。

高橋:「妻と平等に育児を分担するべきだ」と考える人が出始めているだけでも、大きな変化だと思います。いま管理職にいる世代は、がむしゃらに長時間働くことが是とされ、評価されてきた人たちも多いと思います。マインドチェンジは大変です。私にも、そうしたマインドが染みついています。ただ、後悔している人もいるはずです。いまは男性の育児が当たり前になっていく変化の狭間の時代なのでしょう。だからこそ、現役の子育て世代として私たちが踏ん張らなければいけないところだと思います。

――実は先日、家族と公園に行くとき、つい「今日は家族サービスするよ」なんてぽろっと言ってしまったんです。妻に激怒されてしまいました…。いまでは反省していますが、「家庭のことは女性の仕事」だという価値観が、まだまだ私の中にあるようです。

高橋:ありがちですね(笑)。性別役割分担の意識はまだまだ根深い。長時間労働のような働き方もなかなか変わりません。それでも、ひとりでも多くの父親が少しずつ行動を起こすことで、「イクメン」という言葉はいつか死語になる。父親が父親として多くの時間を当たり前に過ごすような社会は、夢物語ではないはずです。

 お恥ずかしい限りですが、これだけ言っておいて私はまだ育休をとったことがありません。ダメダメ夫ですね。2人目が産まれたら、次は絶対に取ろうと思っています。男性も育児に関わろうと記事を書いているのに、「高橋は言っていることとやっていることが違うじゃないか」と読者から叱られてしまいますから(笑)。

(聞き手・AERA dot.編集部/井上啓太)

このニュースに関するつぶやき

  • 新聞本体も点数付けりゃそのくらいだよな。
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  • 男は100%の体力でやれるんだからいいじゃない。出産を“終わったらすっきりする排便”程度にしか思ってないでしょ。時に自分の生死を賭けて、体の痛み、多量の出血、ホルモンの乱れと戦うこともなくいざとなったら『お前が生んだんだろ』という逃げ口上もあるんだから気楽じゃないか。
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