アニメ映画「ウルフウォーカー」が大傑作である「5つ」の理由 「もののけ姫」に通ずる、オオカミの象徴

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2020年11月01日 11:02  ねとらぼ

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写真(C)WolfWalkers 2020
(C)WolfWalkers 2020

 アイルランド・ルクセンブルク合作のアニメ映画「ウルフウォーカー」が10月30日より全国で公開されている。



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 本作を手掛けたスタジオは“カートゥーン・サルーン”。これまで製作した長編作品「ブレンダンとケルズの秘密」「ソング・オブ・ザ・シー 海のうた」「ブレッドウィナー」の3本全てがアカデミー賞長編アニメーション賞にノミネートされるなど、世界的な評価を得ている。



 結論を申し上げれば、本作も抜群のエンターテインメント性と、人間社会への鋭い批評性を同時に備え、何よりもアニメとしてのクオリティーと豊かさに圧倒される、年間ベスト級の大傑作だった。



 しかも、本作は子どもから大人まで見る者を選ばない、海外アニメ映画になじみがない方にも大プッシュでおすすめできる、万人向けの内容でもあった。その理由と、作品の魅力を以下にたっぷりと記していこう。



●1:女の子2人の友情の物語



 物語の舞台は中世アイルランドの街。オオカミ退治のためイギリスからやってきたハンターを父に持つ少女のロビンは、森の中で“ウルフウォーカー”であるメーヴと出会う。ウルフウォーカーは人間とオオカミが1つの体に共存しており、傷を癒す魔法の力を持っていた。



 この主人公の女の子2人のキャラクターが、とにかく魅力的だ。ロビンは父の森でのハンターの仕事を手伝いたいと願っているが、街では子どもが城壁の外に出ることが禁じられているため、家にこもっての家事、または調理場で働くことを強要されてしまうという、全く自由ではない境遇にいる。



 一方、森で自由に暮らしているメーヴはワイルドな性格で、武器を身につけていたロビンにもフランクに接し、やがて森で遊ぶ楽しさを教えてあげる。だが、メーヴはとある理由により眠り続けている母を恋しがっており、物語が進むに連れて年相応の幼さも見えるようになっていく。



 彼女たちは性格も住む場所も全く異なる。だが、共に片親が不在であり、孤独を抱えているという共通点もある。彼女たちは子どもらしいふるまいで次第に仲良くなっていき、やがて残酷な大人の世界にも立ち向かうことになる。その過程はかわいらしい以上にけなげでいじらしく、誰もが彼女たちが大好きになり、その幸せを願いたくなるだろう。



●2:抑圧されてきた女性の解放を描く



 この「ウルフウォーカー」には、抑圧されてきた女性の解放を描くという、明確なフェミニズムのメッセージがある。



 前述した通り、街で暮らしている少女ロビンは、自分の望む生き方ができないでいる。家にいれば街の権力者である護国卿が一方的に「調理場に行かせろ」と言い放ち、ロビンのお父さんも「お前を守るため」という名目で森へ行くことを禁じている。



 護国卿は男性社会の権威主義的な価値観を象徴するような悪役キャラクターであり、娘を愛しているはずのお父さんも(その身の安全を心から願うからこそ)ロビンを街の中に閉じ込めてしまう。それは、当時ではなんら不思議ではない考え方であり、現代でも普遍的にある女性への抑圧の構図だ。その護国卿が敬虔なキリスト教徒であり、自らの言動を“神のご意思”のもとで正しいと信じていることも、痛烈な宗教への批評になっている。



 そんなロビンに自由を教えてくれるのが、ウルフウォーカーという魔法の力を持ち、オオカミたちと森で暮らしている少女のメーヴだった。彼女たちが楽しく遊ぶシーンは、この上なく楽しそうで、そして解放的だ。いわば、この「ウルフウォーカー」は、オオカミという動物の自由な生き方と、幼い女の子2人の友情をもって、男性社会からの脱却を爽快感たっぷりに描いているというわけだ。



 そうした楽しく解放的なシーンがある一方で、この幼い女の子2人が大人の主義主張に従うしかなかったり、はたまた市井の人々からの憎悪の目を向けられるなど、精神的に追い詰められるつらいシーンも多い。それも、現実で同じように苦しんできた女性たちの心情に寄り添うために必要不可欠と思えるものだった。



 ちなみに、トム・ムーア監督によると、当初の企画案ではロビンは男の子の設定だった。しかし、過去に手掛けた作品では男の子が主人公であったこと、そして「社会の常識に異を唱えることは、男の子より女の子の方がより難しい」といった考えから女の子へと変更をしたのだそうだ。このフェミニズムのメッセージは、女の子2人が主人公であったほうが、より痛切かつストレートに響くのは間違いない。



●3:「ゼルダの伝説 トワイライトプリンセス」や「かぐや姫の物語」も思い起こす、シーンによって異なる映像表現



 シーンによって異なる映像表現がされていることも、この「ウルフウォーカー」の大きな特徴だ。なかでも、メインの舞台である“街”と“森”それぞれに、対照的な美術設定がなされている点に注目してほしい。



 ロビンが不自由なままに暮らしている街は版画を参考にして、正方形や長方形など直線や角ばったもので描かれており、美しくある反面、窮屈な印象を受ける。



 一方で、メーヴが暮らしている森では、水彩画や鉛筆のようなラフなタッチで描かれている。直線やシンメトリーなものは避けられており、手描きの線が主体であるため、それだけで解放的で自由な印象があるのだ。



 さらに、四つ足で歩くオオカミの視点は、3Dのダイナミックなカメラワークで魅せており、“オオカミの嗅覚”という人間の感覚ではつかみづらいものも、視覚として表現されている。ここで、同じくオオカミに変身するシーンがあるゲーム「ゼルダの伝説 トワイライトプリンセス」を思い出す方もいるだろう。



 また、「怒っていたら線を粗く怒っているように描く」「冷静で落ち着いていれば線もシンプルになる」という、キャラクターの感情によって線の描き方も変えている。これは故・高畑勲監督の「かぐや姫の物語」に刺激を受けた表現なのだそうだ。



 言葉による説明ではなく、“線”や“形”により舞台の意味や複雑な心境を語るというのは、“絵”で描いたアニメでしかなし得ない表現だ。そのインパクトは絶大なものであるし、何度でも繰り返し見たくなる豊かさがあり、何よりも見ていて気持ちが良い。終盤の大迫力のアクションや、あまりにも美しい画は、それだけで感涙ものだ。



●4:「もののけ姫」に通ずる、オオカミの象徴



 この「ウルフウォーカー」は、オオカミたちと人間たちの対峙という構図、動物および自然への畏怖を示す作劇など、宮崎駿監督の「もののけ姫」を想起させるところが多い。



 トム・ムーア監督も「『もののけ姫』のような美しいアドベンチャーアクションを目指した」と明言しており、オオカミのスピーディーな疾走や、奥行きを意識した躍動感のあるアクションシーンなど、アニメとしての表現にも共通点を見いだせるだろう。



 それでいて、「もののけ姫」との明確な違いもある。前述した通り、「ウルフウォーカー」では対立するコミュニティーにいる主人公は女の子2人であり、さらに“抑圧的な男性社会にいた女性の解放”という物語性も備えている。「もののけ姫」での強い女性像および、タタラ場というコミュニティーに住む彼女たちがあくまで“人間としての立場”で生き続けていたこととは好対照だ。



 また、一般的にオオカミは、本能や野生、はたまた暴力や性悪さの象徴として捉えられることもあるが、この「ウルフウォーカー」においてはそれだけではない。劇中のオオカミおよびウルフウォーカーは、“バランス”を表現しているのだという。



 トム・ムーア監督によると、古代のアイルランドではオオカミは人間の脅威というよりも“共に生きる者”であり、自分たちより強い上位種の尊敬の念を持つべき存在であったのだそうだ。そのオオカミと人間の両方の性質を持つウルフウォーカーは、文明や社会と自然や野生のバランスを示しているという。



 劇中では人間のロビンと、ウルフウォーカーのメーヴという2人が互いの良さを認め合い、助け合うことになる。これも、オオカミを単純な悪役にせず、両者の共存の道を模索していた、「もののけ姫」と通じている価値観であるだろう。



 そして、物語の決着は(もちろんネタバレになるので明言は避けるが)「もののけ姫」とは正反対ともいえる、フレッシュかつ納得度も高い、実に感動的なものになっている。ある意味でこの「ウルフウォーカー」は、「もののけ姫」で提示された問題および価値観に、新しく誠実な“アンサー”を投げかけた作品といえるだろう。



●5:素晴らしい吹き替え版を親子で見てほしい



 本作の吹き替えで主人公のロビンとメーヴを演じるのは、米津玄師の作詞・作曲・プロデュースによる小中学生の音楽ユニット“Foorin”のメンバーでもある、新津ちせと池下リリコだ。劇中の役とほぼ同年齢の彼女たちの幼さがそのままキャラクターにハマっており、新津ちせは過酷な心境を見事に表現していて、池下リリコのワイルドな印象もバッチリ。彼女たちはプライベートでもとても仲が良いそうで、その“良いコンビ”っぷりを声で聴くだけでも顔がほころんでしまう。



 さらに、吹き替えでお父さんを演じているのは俳優の井浦新。朴訥な印象と、娘のことを思いやる優しさ、時には怒りに任せて怒ってしまう時の怖さを両立させた、さすがといえる名演をみせていた。井浦新は現在公開中の日本映画「朝が来る」では養子を迎える父親役を熱演しているので、併せて見ることで“父性”を体現できる俳優としての実力をより実感してみるのも良いだろう。



 とにかく、「ウルフウォーカー」は、誰が見ても面白いと思えるエンターテインメント性、女性の解放というフェミニズムのメッセージ、何より“子ども視点”で物語が進むため、「子どもにこそ見てほしい」と強く思える内容だ。ぜひ、吹き替え版という選択肢も生かして、親子で鑑賞していただきたい。本作で得られるメッセージは、子どもはもちろん、全ての人にとっての素晴らしいエールになるのだから。



●まとめ:カートゥーン・サルーンの過去作もぜひチェックを!



 もちろん本作の予習、あるいは鑑賞後に、カートゥーン・サルーンの過去作に触れてみるのも良いだろう。



 「ブレンダンとケルズの秘密」と「ソング・オブ・ザ・シー 海のうた」はAmazonプライムビデオなどで、「ブレッドウィナー」は「生きのびるために」というタイトルにてNetflixで配信中だ。見れば誰でもアニメとしてのクオリティーの高さに圧倒され、そしてアイルランドの文化や伝承、はたまた人間の残酷さや自然への畏怖を描く作風、ジブリ作品からの影響などの共通項を見つけられ、さらに「ウルフウォーカー」を興味深く見られるだろう。



 なお、「ウルフウォーカー」はロックダウン中に完成した作品だ。国外のスタッフとの共同作業が多く、仕事のリモート化が進んでいたため、その状況下でも大きな問題はなく製作は進められたという。



 そして完成した「ウルフウォーカー」は日本ではミニシアターでの上映がされており、公開館数そのものがごく少ない。だが、だからこそ、コロナ禍で苦境に立たされるミニシアターを支援するという意味でもぜひ見ていただきたいし、スクリーンでの映画体験がとても貴重なものとなるのは間違いない。日本はもちろん世界中で親しまれているアニメ映画、その最高峰が間違いなく「ウルフウォーカー」なのだから。



(ヒナタカ)



【参考記事:カートゥーン・サルーン監督が日本のファンと交流、新作は「かぐや姫の物語」の影響も(イベントレポート) - 映画ナタリー 】


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