『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』主題歌で歌われる、煉獄から受け継いだ意志 映画を観た後に楽しみたいLiSA「炎」歌詞の世界

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2020年11月03日 06:01  リアルサウンド

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LiSA『炎』期間生産限定盤

 『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』が、前代未聞の記録を樹立し続けている。劇場公開からわずか10日間で興行収入107億円を突破という数字は、もはや塗り替えることができないのではと言われているほどだ。ヒットの裏には、原作の人気、アニメーションのクオリティの高さなど様々な要因があるだろうが、もう一つ外せないのが、TVシリーズからオープニングとエンディングを務めたLiSAによる主題歌「炎(ほむら)」だろう。すでに劇場版を観た人は、壮大でドラマチックなバラードであるこの曲を聴いただけで、映画の情景が浮かんでくるかもしれない。『鬼滅の刃』、そして『無限列車編』のエッセンスが織り込まれた「炎」の歌詞を、物語をなぞりながら紐解いてみたい。


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(以下、ネタバレあり)


 『鬼滅の刃』は過酷な物語だ。炭を売りながら平和に暮らしていた少年・竈門炭治郎は、ある日鬼に家族を皆殺しにされ、唯一生き残った妹・禰豆子も鬼にされてしまう。


〈このまま続くと思っていた/僕らの明日を描いていた〉


 当たり前だったはずの日常は唐突に奪われ、炭治郎は鬼殺隊の一員として、鬼との戦いに身を投じることになる。


 劇場版『無限列車編』では、40人以上乗客が行方不明になっているという「無限列車」が舞台。任務を命じられた竈門炭治郎、我妻善逸、嘴平伊之助が、炎柱・煉獄杏寿郎とともに、下弦の壱・魘夢という強力な鬼に立ち向かっていくストーリーだ。


 魘夢は、相手に強制的に夢を見せ、精神を崩壊させるという血鬼術を操る。魘夢が炭治郎に見せたのは、家族が生きていて、何事もなかったかのように一緒に暮らしている夢だった。それはこの上なく幸福な世界だったが、夢だと気づいた炭治郎は、目を覚ますために自ら家族に背を向ける。禰豆子や、現実世界で生きている人たちを守るためだ。


 〈懐かしい思いに囚われたり/残酷な世界に泣き叫んで/大人になるほど増えて行く/もう何一つだって失いたくない〉という詞は、炭治郎の叫びそのもののようだ。そしてそれは、無限列車の乗客200名あまりを守りきる、という強い意思にも繋がっていく。


 そして、『無限列車編』と言えば、煉獄杏寿郎の物語でもある。


 煉獄は鬼殺隊の中でも最高位である“柱”の1人、炎柱。圧倒的な強さを誇るだけでなく、正義感の強さと面倒見の良さを兼ね備えた人物だ。煉獄家は代々鬼殺隊として炎柱を務めている家系で、彼の父もかつての炎柱である。ただ、その父は剣士を辞めて腑抜けてしまい、母はすでに亡く、幼い弟を守りながら暮らしている。だが、煉獄はそんな背景など感じさせないほど前向きで、まっすぐな人物でもある。


 その強さで鬼の攻撃を薙ぎ払い、炭治郎たちを鼓舞し、的確に指示を出す煉獄は、炭治郎たちの過酷な鬼殺の旅の中で出会った、ゆるぎない灯台のように頼もしい存在だった。煉獄に背中を押してもらうことで、炭治郎たちは苦戦しつつも魘夢を追い詰めていく。ところが、魘夢よりも更に格上の鬼である上弦の参・猗窩座の登場により状況は一変。〈手を取りそして離〉す時がきてしまう。


 鬼の肉体は切ってもすぐに再生し、日輪刀という特別な刀で首を落とさない限り殺すことができない。鬼に対して人間の肉体はあまりにも弱い。猗窩座との戦いで、煉獄は深手を負ってしまう。「人間は脆い」と嘆く猗窩座に対し、煉獄は、それこそが人間の美しさだ、と跳ねのける。煉獄を支えているのは、亡き母の「弱き人を助けることは強く生まれた者の責務です」という言葉だ。そして、重傷とは思えない力で、再び刃を握ってみせる。


〈君の言葉 君の願い/僕は守りぬくと誓ったんだ〉


 この詞は、母から受け取った煉獄の意志でもあり、そしてさらに煉獄から受け取った炭治郎の意志にもなっていく。


 最期の時、煉獄は炭治郎たちを前に、胸を張って生きろ、と伝える。「己の弱さや不甲斐なさにどれだけ打ちのめされようと 心を燃やせ 歯を喰いしばって前を向け」、と。


 確かに人は脆い。鬼と比べればなおさらそうだろう。だが、次の世代を守り、思いを伝えていくことで、遥かな未来にまで至ることができる。煉獄が父の背中を見、母の言葉から受け取った意志は、途切れずに炭治郎たちに受け継がれていく。


〈託された幸せと 約束を超えて行く/振り返らずに進むから/前だけ向いて叫ぶから〉


 〈さよなら ありがとう〉という言葉から始まる「炎」という曲は、人生が別れの繰り返しであることを暗示するかのようだ。炭治郎たちはこれからも〈燃え盛る旅の途中〉であり、この先にも、取り合った手を離さなければならない時がくるだろう。そのたびに、自分の力の至らなさに涙を流し、強くなりたいと願うのだろう。


 「炎」で歌われているのは、これまで炭治郎が歩んできた過酷な道のりであり、これからも続く残酷な未来の暗示だ。だがそれと同時に、煉獄から受け継いだ、決して消えない炎のような意志でもある。


 〈心に炎を灯して/遠い未来まで……〉という結びの詞が歌われるのを聴くと、これまで連綿と紡がれてきた意志と想いに胸を揺さぶられるとともに、炭治郎たちの行く末を確かに照らす光があることを感じることができるのではないだろうか。(満島エリオ)


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