東京からの遠距離介護、「2週間サービス利用停止」の壁と負担が激増する家族の叫び

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2020年11月12日 07:00  週刊女性PRIME

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※写真はイメージです

 国内で新型コロナウイルスの感染者の発生が確認されて10か月が経つ。Go Toキャンペーンの実施もあり、外を歩くと行き交う人も増えて街が活気を取り戻しつつあるが、冬に向けて再拡大が危惧される。そんな中、国内の介護現場では相変わらずコロナ対策の決め手がないまま、介護に携わるスタッフや家族の模索状態が続いている。

 地方に住む母親の遠距離介護をスタートせざるをえなくなった筆者が、8月に公開した第1弾記事(【コロナ禍の遠距離介護】東京から通うとサービスが使えない! 「介護崩壊」の危機)に続き、現状をレポートする。

東京在住の家族が介護するとサービスを使いにくい

 コロナが感染拡大していた3月、突然の父の死によりひとり暮らしとなってしまった高齢な母の世話をするため、遠距離介護を開始した。

 東京から静岡県にある実家に通っているのだが、感染者が多い東京から家族が訪問すると、利用者は2週間、使えるはずのさまざまな介護保険サービスが使えず、その間は家族のみで介護せざるをえなくなる。デイサービスもショートステイもヘルパーの利用も、この2週間という期間に阻まれ、なかなか利用できない。それでも6月には、2週間という期間にとらわれずに、独自の判断でデイサービスの受け入れをする施設が見つかり、週2回利用できることになった。

 9月のある日、担当ケアマネジャーより、実家のある函南(かんなみ)町ではなく、隣の三島市内の事業所でショートステイの受け入れをしてくれるところが見つかったと連絡があった。このころ、筆者は仕事の都合でたびたび東京に戻る必要が出てきており、その間は母をショートステイに預けたいと考えていたため、ありがたかった。

 ところが、「送迎時にスタッフは玄関には一切入らず、門扉までです」と説明があり、あ然とした。実家の門扉と玄関の間は距離が短いながらも庭石や植木があるため、1人では歩くことがおぼつかない母には安全とは言いきれない。考えた末、断った。結局、日中だけでも母が1人でいる時間を減らすために、デイサービスを週1日増やすことで対応することにした。

 しかし筆者が東京に戻った後、安否確認はデイサービスでは補えない。特に夜間、母の様子を確認できるサービスはないのか、担当のケアマネジャーに尋ねてみた。

「玄関先で母の安否を確認してもらうだけでいいのですが、そのようなサービスはありませんか」

 返ってきた答えは、

「夜、ヘルパーさんに安否確認だけ依頼できる仕組みはありません。買い物や掃除等のサービスを依頼してあれば、そのときに確認ができますが。東京ではあるでしょうけれど、このあたりの地域ではありません」

 介護保険サービスで使える内容にも、都会と地方では差がある現実を突きつけられた。

 それでも、たとえ数日間でも東京に戻るためには留守中の母の安否確認がどうしても必要だ。いろいろ探した結果、終日、家に母が1人でいる日の夕食は安否確認付きの高齢者向けの宅配弁当を注文することにした。これは、宅配弁当業者が利用者に直接弁当を手渡し、その後、事前に登録しておいた家族の元にショートメールで連絡をするというものだ。とてもありがたかったが、いざ利用してみると夕食の配達時間は午後3時半ごろで、夕方以降の安否は確認できないという事実に気がついた。

母の安否確認はスマートスピーカーを利用

 なんとか別の手段を検討した結果、母の安否確認は人間ではなく、カメラやビデオ電話代わりに使えるスクリーン付きスマートスピーカー(アマゾン エコー)に任せることにした。これを筆者のスマホとインターネットでつないで使う。

 エコーには、AIアシスタントのアレクサが搭載されているため、通話ができる音声交流以外に音楽再生、タイマーの設定、天気予報やニュースなどのリアルタイム情報を聞くことができる。費用は、エコーの購入費が約5000円と月々のWi-Fi利用料金のみで、それほどかからない。ただしWi-Fiは通信容量の制限がないものにした。

 エコーを実家の台所に置いて、筆者が東京に戻っているときはスマホを介して毎晩、ビデオ通話をした。母は一切エコーに手を触れる必要がない。夕食を食べながらその日の出来事や気になることを話してくれる。エコーでは、設置してある台所以外の音声、例えば居間のテレビの音や洗面所で水道を使う音なども鮮明に聞くことができるため、母が画面に映らなくても気配がそれとなくわかるので安心した。母は時折「アレクサ、明日の天気を教えて」「アレクサ、NHKニュースをかけて」と話しかけている。

全国的に起こる遠距離介護の危機

 コロナ禍で遠距離介護の家族がサービスの利用もできずに困っている状況は、静岡県に限らず、全国で起きている。

 遠距離介護支援協会(鳥取県)によると、鳥取県では、90歳の親元に北海道に住む子どもが定期的に通ってきていたが、コロナのため、北海道に帰らず親元にいることを選んだ。しかし2週間、介護保険サービスも介護保険外サービスも利用できず、ケアマネジャーにもヘルパーにも訪問してもらえず、子ども1人で介護を担うしかなかったという。

 岩手県では東京に住む子どもが、毎月、高齢の母親の元に帰省し大学病院に付き添っていたが、病院側から付き添いを断られてしまった。介護保険を利用した通院介助では、基本的に診療室内での介助(ヘルパーが利用者の病状について医師とやりとりするなど)はできない。そのため、介護保険外サービスを利用して付き添いをお願いしたという。

 コロナの収束が見えず、介護施設は利用者の安全を最優先し、県外者との接触に慎重になっている。入居施設では面会謝絶や窓越しの面会、通所施設や在宅介護では接触しない期間などを設けることは十分理解できる。最近では、その期間も2週間より短くなっているところもある。しかし、遠方から通う利用者の家族は適当な代替サービスも見つからず、本当にどうしていいかわからず悩み続けている。

行政負担のPCR検査が解決策の1つ

 解決策の 1つとしては、利用者と県外から通う家族に、行政が負担しPCR検査を実施できれば、介護保険サービスを利用できない期間を最短におさえることができるのではなかろうか。すでに介護施設の職員や特養施設への入所予定者などに行政負担でPCR検査をする体制は少しずつ広がりを見せている。しかし、特養などだけでなく、通所介護サービスや居宅介護サービスの利用者、そこに通う県外からの家族に対してのPCR検査を実施する自治体はまだ少なく、地域差がある。

 静岡県では富士宮市が上限2万円の行政補助で無症状者に対するPCR検査をスタートした。市が指定する感染拡大地域から市内に住む高齢な親のもとに帰省したい家族は、市の窓口に申請し利用できる。ただし、検査日は帰省した日から1週間以内となっているため事前の検査はできず、早くても帰省当日の検査となる。それでも陰性と出れば、家族が帰省してきたから介護サービスが受けられないという期間は数日ですむようになるはずだ。検査は検体方法が唾液の摂取であれば翌々日、鼻からの検体であれば即日結果がわかるという。施設のスタッフも利用できる制度のため、介護現場の負担も軽減できる。残念ながら函南町や三島市ではこの制度はない。

介護施設に陽性者の公表義務はない

 コロナ禍で遠距離に限らず、介護施設や利用者とその家族の安全を守り負担を減らすためには、施設事業者間の横の繋がりも重要だ。今秋、静岡県内のある介護施設のスタッフに陽性者が発生した。しかし、そのことが周辺地域の介護施設には充分知らされなかった。

 ある通所介護施設の所長は、

「陽性が出た施設と私どもの施設の両方を利用している方から聞いて驚きました。急きょ、そちらの施設にも通っている3人の利用者に2週間のデイサービスの利用停止をお願いしました。

 実は厚生労働省のガイドラインでは、施設でコロナの陽性患者が発生した場合、その施設に公表義務があるとは書かれていないのです。義務ではないので施設によっては風評被害をおそれ公表しないことも考えられるのです。どこの施設で発生したか人づてに聞くだけでは、対応が遅れてしまいます。東京でしたら施設が公表しなくてもメディアが嗅ぎつけてどこの施設かわかるでしょう。でも地方では小さい施設も多くあり、メディアがチェックしきれないと思います」

 と訴えた。

 複数施設を併用している利用者が多い状況の中、感染を広げないためにも、一般公表はせずとも、横の繋がりとして同業者間の詳細な連絡を徹底する必要があるのではないか。

 コロナ感染の収束が見えないまま、介護現場のスタッフへの重圧や利用者とその家族の試行錯誤は続いている。行政も動きだしたが、もっとスピードを上げて対応策をとらなければ、介護現場とその利用者家族が持ちこたえられない。

宇山公子(うやま・きみこ)
フリーライター。OL、主婦、全国紙記者を経て、現在はフリーランスで活動。主に、健康、医療、食分野での執筆を行っている

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