『破壊神マグちゃん』ジャンプ本誌のオアシス的存在に クトゥルー神話×ギャグ漫画の楽しさ

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2020年11月16日 16:01  リアルサウンド

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 『週刊少年ジャンプ』で連載されている上木敬のギャグ漫画『破壊神マグちゃん』(集英社)の第1巻が発売された。


 海辺の田舎町に住んでいる中学2年生の少女・宮薙流々(みやなぎるる)は、潮干狩りの最中に、きれいな宝珠を発見する。表面に小さなキズを見つけた流々は傷を目立たなくしようと思い「グッ!!!」と寄せようとするが、力を込めたことで宝珠は割れてしまう。



「我が眠りを妨げたのは貴様か…」
「愚かな下等生物共(ニンゲンドモ)よ…」



『マグちゃん』は『ジャンプ』2020年7月6日号より連載が開始された

 宝珠に封印されていたのは、混沌の神と呼び畏れられた破壊神マグ=メヌエクことマグちゃんだった。しかし、封印されていたマグちゃんは力を失い、身体も小さくなっていた。


 干からびかけたマグちゃんを流々は家につれて返り、納豆を食べさせる。そのことをきっかけで、流々とマグちゃんは一緒に暮らすこととなり、破壊神と少女の奇妙な共同生活がスタートする。


 1つ目のメンダコのようなキモかわいい姿をしたマグちゃんは、封印される前は、クトゥルー神話に登場する邪神を彷彿とさせる姿をしていた。


 スターチャンネルで、黒人青年の視点からラヴクラフトとクトゥルー神話を再解釈したHBO制作の海外ドラマ『ラヴクラフトカントリー 恐怖の旅路』が放送され話題となっているが、クトゥルー神話とは小説家のラヴクラフトが提唱する「宇宙的恐怖(コズミック・ホラー)」を題材にしたホラー小説群が体系化されたものだ。物語の基本構造は、人間とは意思疎通ができない圧倒的な力を持った邪神に人間がひたすら蹂躙されるというもので、その世界観は後の作家たちに大きな影響を与えている。


 クトゥルー神話の世界観を、藤子不二雄の『オバケのQ太郎』(小学館)を彷彿とさせる日常に根ざしたギャグ漫画で展開する『破壊神マグちゃん』は、はじめは意外な組み合わせに思えた。しかし、想像以上に馴染んで見えるのは、そもそも日本における妖怪やモンスターは、人智を超えた恐怖の対象というよりは、子どもたちの友達という側面が大きいからだろう。それは、幼い頃から妖怪やモンスターの登場する物語に親しむことで生まれた一種の国民性で、藤子不二雄を筆頭に、異界の怪物と子どもが楽しく戯れる物語を描いてきた蓄積が日本の漫画にはある。その意味で『破壊神マグちゃん』は、伝統を踏まえたクラシカルな作品だと言えるだろう。


 本作の楽しさは、流々とマグちゃんのやりとりにあるのだが、1人と1匹?の間にある絶妙なズレが読んでいて面白い。人間を下等生物と見下し、破壊神として尊大に振る舞うマグちゃんのことを、流々はあっさりと受け入れてしまうのだが、どれだけマグちゃんが恐ろしいことを話しても、マイペースに話を進めていく。一見、粗雑に見えるコミュニケーションの中に相手を心配する優しさが見え隠れするのが流々の魅力なのだが、流々とマグちゃんの噛み合っているようで噛み合ってないやりとりは何故だか妙に居心地が良い。ドタバタコメディの中にほっこりとする優しいやりとりが入るのも、本作の魅力である。


 ギャグ漫画としては、マグちゃんが現代の食べ物や道具を禍々しい言葉に言い換える姿がおかしい。納豆を食べた時は「まとわりつく粘液と腐臭が混沌を想起させる…高タンパクで肉体の再生にも有効である…」、ハンバーグを食べた時は『塩と油に塗れたなんとも逸楽的な供物よ……悪くない』、そして、プロフィール帳は『破滅使徒血盟の書』。そこに「食レポがマズそう」といった、さらっとしたツッコミを流々が入れるのだが、その距離感が絶妙で、漫才のようなボケとツッコミの激しい応酬でなく「何か変だけど、まぁいいか」という緩いトーンに収まっている。それがとても心地良いのだ。


 話が進むにつれ、流々のことを好きな幼馴染の藤沢錬や、マグちゃんと敵対する邪神『狂乱』のナプターク、かつてマグちゃんを封印した聖騎士団の末裔のイズマ・キサラギといった脇役の見せ場も増えていく。中でもマグちゃんの宿敵であるナプタークが魅力的で、登場する度に落ちぶれていく姿には妙な哀愁があり、彼が登場すると、ついつい気になってしまう。


 そして、隠れた見所が、流々の暮らす町の情景だ。流々の家は海沿いの田舎町にあり、学校もコンビニもスーパーも家から遠い。そんな流々にとってショッピングモールのマルノヤに行くことが、大きなイベントとなっている。全体に漂う穏やかな空気は、家と商業施設の距離が大きく隔てたロケーションによって生み出されているのだろう。こういう田舎町は物語の舞台になりにくいので、とても新鮮だ。


 ジャンプ本誌は今、『呪術廻戦』や『チェンソーマン』といったバトル漫画がハードな展開となっており、毎週、心が締め付けられる思いをしている。そんな本誌の中で『破壊神マグちゃん』は、疲れた読者を癒す心のオアシスとなっている。できれば末永く、少女と破壊神の平穏な日々が続いて欲しいものである。


■成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。


■書籍情報
『破壊神マグちゃん』既刊1巻
著者:上木敬
出版社:集英社
https://www.shonenjump.com/j/rensai/maguchan.html


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  • 今週の太ったマグちゃんは可愛くなかった。有名忍者の名前を冠した修練所には笑った。
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