栗山日本ハムの苦悩と試練【白球つれづれ】

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2020年11月23日 23:02  ベースボールキング

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ベースボールキング

日本ハム・栗山英樹監督
◆ 白球つれづれ2020〜第47回・栗山英樹

 巨人とソフトバンクの日本シリーズを前にした今月17日、日本ハムが栗山英樹監督の続投を発表した。

 球団では最長、10年目の指揮となる。監督就任1年目にはリーグ優勝。さらに16年には大谷翔平選手らを擁して日本一に輝くなど好成績を残してきたが、それ以降は5位、3位、5位と下降カーブをたどり、今季も見せ場のないまま5位に沈んだ。

 昨年オフには、不成績を理由に球団に対して進退伺を提出したが、慰留された。そんな経緯から今オフも去就が注目されたが、意外にも続投ですんなり決着した。

 吉村浩GMは、その背景に「不測の事態が十分にあった」と語る。コロナ禍に置かれた今季、各球団ともに調整に苦労したが、一軍は北海道、二軍は千葉・鎌ヶ谷と分かれている特殊な事情もあり、開幕前の全体練習はライバルチームより遅れた。開幕直後もコロナによる移動リスクが考慮されてビジターの連戦から始まり波に乗ることは難しかった。加えて投手陣の崩壊も転落につながる。

 中でもエースの有原航平投手が誤算だった。シーズン序盤は不安定な投球が続き、7月末の時点で1勝5敗と波に乗れない。ようやくその有原が調子を上げてきたら、今度は抑え投手陣が崩壊。特に昨年25セーブを上げて守護神定着が期待された秋吉亮投手が故障で戦列を離れると勝ちパターンが作れない。終盤には中継ぎエースの宮西尚生投手を緊急のストッパーに起用するほど追い込まれた。

 打点王の中田翔に、近藤健介と西川遥輝選手が3割をマークするなどチーム打率(.249)はソフトバンクと肩を並べても、投手陣が支えきれずに借金生活を余儀なくされた。


◆ 不測の事態が要因に!?

 もう一つの不測の事態も一部ではささやかれている。栗山監督続投の背景には東京五輪の延期が関係したとする見方だ。本来、今年に五輪が開催されていれば今オフには五輪監督を務める稲葉篤紀氏が後任の監督に就任が確実視されていた。それが1年延期となったため監督人事にも不測の事態が起こったというわけである。

 「育成の日本ハム」として定評のあったチーム。しかし、近年は肝心の育成がうまくいかず、低迷の大きな要因となってきた。清宮幸太郎、吉田輝星選手ら鳴り物入りで入団したドラフト1位組を筆頭に多くの若手が伸び悩んでいる。

 ダルビッシュ有投手が25歳の若さでメジャーに挑戦しても、直後に大谷翔平選手が入団して穴を埋めたが、その大谷も海を渡ると一挙に戦力ダウン。元来、吉村GMと栗山監督のタッグで3年後、5年後を見据えたチーム作りを推進してきたが、その将来像すら見通せないところに現状の苦しさがある。

 「監督を引き受けた1年目に戻って、すべてを懸けて丸裸になってやるしかない」「情を捨てて、自分のすべてをさらけ出す」10年目の監督生活を前に指揮官は原点回帰を誓う。だが、チームを取り巻く環境は就任時よりさらに厳しいかもしれない。

 栗山監督とは、細やかな心遣いの出来る「情の人」であり、常に新しい野球を取り入れる「改革の人」である。開幕前や重大な局面では選手に充てて手紙をしたためる。今では多くの球団が採用するメジャー流の大胆な守備シフトや先発投手のスターター方式もいち早く採用した。

 しかし、長く指揮を執ると選手との距離感や采配のマンネリ化という問題も出て来る。“笛吹けど踊らず”の悪循環だ。それを感じているからこそ、情を捨て、丸裸になって勝負の発言になったのだろう。


◆ 様々な問題を抱えた中での新たな船出

 球団は2023年に北広島市に建設中の新球場移転が決まっている。先を見据えれば先述の清宮や吉田、さらに大砲候補の野村佑希選手らのニュースターを作りたい。だが、先行投資を兼ねて彼らを積極起用しても、結果がついてこないとチーム内外から「えこひいき」の声まで聞こえてくる。好循環をしていれば問題のない用兵でも下位に沈んでいる現状では不協和音の因にもなりかねない。

 こうした現状に主力選手も危機感をにじませる。投手陣のリーダーである宮西は「ここ数年、大事な試合で同じようなミスやお粗末なプレーが目につく。自分も含めて意識改革をしないと、このままズルズルいってしまう」と語れば、主軸打者の大田泰示選手も「若いし、まだレギュラーじゃないし、打てなくてもまあいいやじゃない。試合に出たら打たなくちゃいけないし、足りないものを補って、来年は立ち向かえるようにしないと」と、それぞれが意識改革の重要性を訴えた。

 投打の質量ともにソフトバンクと比較すれば弱い。しかもこのオフにはエースの有原、チームリーダーの西川が揃ってメジャー挑戦を公言している。本来であれば慰留に全力と言いたいところだが、チームはFAやポスティングによる海外流失を認めて来た歴史がある。仮に両選手が残っても、来季の上位進出から優勝までを考えるとまだまだ課題は山積していると言えるだろう。

 どう見ても“内憂外患”としか見えない中で栗山ハムは10年目のスタートを切った。裸一貫の大勝負でアイデアマン監督はどんな次なる手を用意するのだろうか?


文=荒川和夫(あらかわ・かずお)

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