写真 オークス優勝のデアリングタクト(JRA提供) |
先の天皇賞秋で優勝し、史上最多の芝GI8勝目を挙げたアーモンドアイか。それとも2頭の無敗の三冠馬、牡馬のコントレイルか、牝馬のデアリングタクトか。
【写真】過密レースでお疲れ気味の女王はこちら 11月29日に行われるジャパンカップ(東京競馬場・芝2400m)は、3強の争いで近年まれにみる盛り上がりをみせることは間違いない。
「アーモンドアイもコントレイルも大手牧場の生産馬で、いわばエリート中のエリート。それに対してデアリングタクトは叩き上げ。菅首相の“集団就職”に負けず劣らずの物語もあります。判官贔屓で人気を集めるかもしれないですね」(競馬記者)
デアリングタクトは、家族経営の小さな牧場・長谷川牧場(北海道日高町)の生産。同牧場で2017年に生まれた同期生は、わずか5頭。アーモンドアイが生まれたノーザンファームの17年の生産馬は509頭だから、規模の違いは歴然。
デアリングタクトは17年夏に競りに出されたが、なんと買い手がつかなかった。
同牧場の長谷川文雄社長(69)はこう語る。
「ちゃっこかった(小さかった)からね。母親(デアリングバード。未勝利)も細くて、『モデルさんだねえ』と言いたくなるような馬だったし、あの子も生まれたときからほんとちゃっこかった。でも頭は良かったよ。言うことをちゃんと聞いた。声をかけると『ヒヒーン』と返事をしたし。今になって思えば、買い手がつかずに母親と一緒に過ごさせられたのが良かったんじゃないかなあ」
翌年の競りで、1200万円で売れた。同じ競りでの1歳馬の平均落札価格は4600万円。億単位で取り引きされる競走馬が多いことを考えれば、実にリーズナブルな価格だ。
「こんなに勝つんだからもったいなかったと言う人もいるけど、うちみたいなちゃっこい牧場にとっては、競りで買ってもらうだけでありがたい。1200万で買っていただいた。感謝の気持ちですよ。そういえばその日の競りには、福永ジョッキー(祐一。コントレイルの騎手)も見に来ていたね。うちのに種付けした種牡馬はエピファネイアだからか、福永ジョッキーは『僕はエピファネイアに乗ってたんですよ』と声をかけてくれたんです。向こうは覚えてるかどうかわかんないけど。縁があって乗ってもらう機会があればなあと思ったけど、まあそれっきり。今やライバルになっちまったなあ」(長谷川社長)
馬が牧場を離れるとき、牡馬なら『走って出世せえよ』と、牝馬なら『無事に帰って来いよ』と言って送り出すという。
「デアリングタクトもそう。こんなに走れだなんて、俺は言わなかったぞ(笑)」(同前)
その馬が三冠レース第1弾の桜花賞で優勝。4コーナーでは12番手だったが、直線で一気に伸びた。
「飛んできたよね、羽がついたみたいに。勝つなんて思ってなかったから、ひっくり返りそうになった。その日の夜は、牧場に花は届くし、酒は届くし。他の牧場の人たちも駆けつけて来てくれたし、町長さんまでやって来た。こっちはなんも準備してなかったから、謝ったよ。役場には垂れ幕までかけられてねえ。GIを勝つのって、こういうことなんだと。嬉しかったのは嬉しかったけど、それよりも驚きの方が大きかったなあ。ほんと夢みたいだった」(同前)
オークスも秋華賞も勝って三冠馬になった。役場の垂れ幕は3本に。ジャパンカップ後には4本目の垂れ幕も?
前出の競馬記者によれば、デアリングタクトの優勝は十分にあるという。他の2強はそれぞれ不安要素を抱えているからだ。
「アーモンドアイは、走るローテーションと距離に不安が。いつも全力で走るので、十分に間隔をあける必要があるといわれています。初めて中2週で臨んだ安田記念では、グランアレグリアに2馬身半の完敗でした。今回も中3週しかありません。また、父のロードカナロアは短距離馬。アーモンドアイは年々、父の血統が濃く出てきているような気がします。2000mの天皇賞は勝ちこそしましたが、最後はフィエールマンにかわされそうでした」(競馬記者)
一方のコントレイルは、疲労が懸念されるという。
「前走の菊花賞は適距離ではない3000m。最後の直線でアリストテレスと激しい叩き合いをしました。その疲れが残っているかもしれません。実際、18日の追い切りの内容は、コントレイルらしくないものでした」(同前)
では長谷川社長の予想は?
「俺、馬券は買わないんだよね。だから予想なんて無理(笑)。うちで生まれた馬がジャパンカップに出るなんて夢みたいな話。それもアーモンドアイとコントレイルと一緒でしょう。もし破ったら大変なこと。番狂わせなんてもんじゃないよ。母ちゃんと2人でテレビ観戦するつもりだけど、掲示板に乗れば(5着以内)十分ですよ」
エリート対叩き上げ。3強激突の結末は?
(本誌 菊地武顕)
※週刊朝日オンライン限定記事