世界の真理である“究極の餃子”を世に広めよ! 奇想天外な大河ロマン『焼餃子』

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2020年11月25日 17:41  ダ・ヴィンチニュース

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ダ・ヴィンチニュース

写真『焼餃子』(蜂須賀敬明/双葉社)
『焼餃子』(蜂須賀敬明/双葉社)

 墓から掘り出されて徐々に若返っていく女と、普通に年老いていく男との奇怪で切ない愛を描いた松本清張賞受賞作『待ってよ』でデビューして以来、“横浜の神々”のバトルロイヤル小説『横浜大戦争』など、奇想天外な物語を書いてきた蜂須賀敬明。その最新長編作品が本作『焼餃子』(双葉社)だ。まず、このタイトルからして「いったいどんな小説なんだ?」と興味を惹かれる人も多いだろう。そして読む前の「こんな小説かな?」という推測は絶対に当たらないと思う。この作品はそのぐらい予測不可能な展開を見せる非常にユニークなエンターテインメント小説なのだ。

 物語が始まるのは、太平洋戦争末期の日本。軍人の検見軍蔵(けみ・ぐんぞう)が、胸を撃たれて瀕死の重傷を負う。軍蔵はある重大な密命を帯びて行動していたのだが、その作戦が失敗してしまったのだ。駒として使い捨てられた軍蔵は半ば昏睡したまま舟に乗せられ、ひとり海へと流される。やがて波にのまれて、海深く沈んでいく軍蔵。そこで彼は奇妙な体験をする。誰とも知れぬ女に呼びかけられたと思いきや、とても複雑で香ばしい匂いと“じゅわあ”という音がして、その女が口移しでなにかを食べさせてくれたのだ。彼女は餃子の女神で、その食べ物は焼餃子だった。そして、軍蔵は悟る。餃子こそが世界の真理であり、人生をかけて追求し、世のため人のために広く伝えるべきものだ、と。

 釜山近くの寒村に流れ着いた軍蔵は女神に食べさせてもらった“究極の餃子”を求めて、半島や大陸を渡り歩く。朝鮮人の集落でマンドゥ、八路軍のアジトで水餃子、満州国軍の館で蒸餃子、モンゴル遊牧民のゲルでボーズ、ソビエトの間者が教えてくれたペリメニ――軍蔵は各地の軍閥の抗争に巻き込まれながら、その土地の餃子や餃子に似た料理を食べ、その作り方を学んでいく。こうして軍蔵は“究極の餃子”を探求する伝道師となり、仲間を増やしながら旅を続けるのであった。

 この時点で本作が比類ないほど独特の世界観を持った小説であることはおわかりいただけたかと思う。この後に物語の舞台は再び日本に戻り、終戦直後の混乱期から高度経済成長期まで、さらに波瀾万丈な展開を見せて大河小説的にスケールが大きく広がっていく。

 本作には次々と個性豊かなキャラクターが登場し、餃子をめぐって奇跡の出会いと数奇な運命の変転を繰り返す。そこには、戦時下における命をかけた戦闘や陰謀、他民族と心を通わせる文化的な交流、放浪の旅の苦難、仲間との友情と別離、戦災孤児の立身出世、企業の成長とビジネスの熾烈な争い、時代を超えた家族の愛がある。それらはすべて餃子のお導きなのだ。いったいどうやったらこんな話を思いつくのか。ページをめくりながら、その発想力と想像力に思わず感嘆してしまう。そして、もちろんお腹がすく。この小説を読んでいる間、きっと誰もが「餃子が食べたい!」と何度も心から思うはずだ。そんなピンポイントで強烈な身体的反応を呼び起こす小説はきっと他にない。それもまた、この餃子神話が持つ強い力だ。

文=橋富政彦

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