甲子園優勝3回。木内幸男監督の「マジック」はいかにして生まれたのか

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2020年11月27日 06:52  webスポルティーバ

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 取手二や常総学院(ともに茨城)で指揮を執り、3度の全国制覇を成し遂げた木内幸男氏が11月24日、この世を去った。

 木内監督は気づきの人だった。今でも忘れられないのが、大会で不振に陥った選手にどんなアドバイスをするのかを尋ねた時のことだ。木内監督はこう語った。




「『チームリーダーになれ』って、"励まし係"に任命すんの。人を励ませば、自分も励まされんだよね。これが黙っちゃうから、たとえば(打球が野手の間に飛んで)どっちが捕るかって時に相手に任せちゃう。当たんないこと(不振)によって、守備が下手になったり、バントが下手になったり、けん制でアウトになったり......どんどん深みにはまることがある。それを戒めるためだね」

 結果が出ていない選手は自信をなくしてしまう。それによってプレー中も声を出しにくくなる。その消極的な姿勢が負の連鎖を呼び、打撃以外でもミスをしやすくなる。

 それを未然に防止するために、人を励ます役割をやらせるのだ。常に大きな声を出していれば、気持ちが前向きになり、プレーにも積極性が出てくるというわけだ。

 この話を聞いて何年も経ったあとのこと。個人的に興味があってメンタルについての勉強をしていた時期があった。すると、ある先生からこんなことを聞いた。

「緊張したり、気持ちが動転している時は、自分より緊張している人、気持ちが動転している人を探して、励ましなさい。励ます側になった時、人間は落ち着きます」

 まさに、木内監督が言っていたことと同じだった。

 木内監督からその話を聞いたのは20年近く前のこと。当時、メンタルトレーニングに力を入れているチームはまだ少なく、今や巷にあふれているメンタル関連の本もほとんどなかった。

 ちなみに、木内監督がメンタルの勉強をしていたという話は聞いたことがない。ということは、あの返答は木内監督自身が長年の指導で気づいたものなのだろう。

 選手がどんな精神状態の時にミスをしやすくなるのか。逆に、どんな精神状態なら力を発揮しやすくなるのか。それを観察しているうちに見つけた"木内流不振脱出法"なのだ。

 気づきといえば、2003年夏の甲子園でこんなことがあった。準決勝の桐生第一(群馬)戦。それまでの試合で15回も試みていた送りバント(内野安打になったものを含む)を一度もしなかった。スクイズも3回戦で1回、準々決勝で2回していたが、この試合はランナー三塁の場面ではすべて強打。その結果、2本の犠牲フライで得点を挙げた。その理由を聞くと、木内監督はこう語った。

「大阪はいつも湿度が高いけど、それでも今日は少ないほうだと。ホームランが前の試合で2本出てますから。(風が)フォローかなと思っていたら、それほどじゃない。それでホームランが出るってことは空気が乾いている。その時はボールが飛ぶんですよ。ですから『今日は外野フライでいいわ』という感じがあったんで、スクイズはやりませんでした」

 ボールが飛ぶ、飛ばないという話になった時、風を話題にする監督は多いが、湿度の話をする人はほとんどいない。木内監督があらゆる角度から見ていた証拠だ。

 ちなみに、スクイズを封印した理由はもうひとつあり、翌日の試合の準備をするためでもあった。準決勝の第1試合で勝利し、すでに決勝進出を決めていたのはダルビッシュ有(現・カブス)擁する東北高校(宮城)。ダルビッシュを攻略するにはバント攻撃では難しいと考えていた。

「私がね、バントをうんと使うもんですから、野球が小さくなってしまった。小さくしちゃうと子どもたちがのびのびしなくなっちゃうの。明日(決勝)は打撃に磨きをかけないと勝てない。だから今日はスクイズをやめて、力の野球をさせたんですよ」

 当時のダルビッシュは、走者が得点圏にいるとギアを上げるが、ランナー一塁の時はほとんど全力投球をしていなかった。木内監督はそこを突くのが狙いだった。

 0−2とリードされた3回表、4回表はともに無死からランナーが出たら、いずれもバントはさせずヒッティングを命じた。策はすばり的中。4回に一挙3点を挙げて逆転に成功した。

「みなさんはバントで送ればと言うけど、得点圏にランナーがいると、とてもヒットを打たせるような投手じゃない。でも、一塁ではちょっと気を抜く時があるので、それを長打に......と考えていました。1イニングに1点じゃなくて、2、3点を狙っていました。それとね、どこかに故障がある人っていうのは、勝っている時はいいけど、負けパターンに入ると気力が萎えてしまうことが多いの」

 ダルビッシュはこの大会、持病の腰痛にくわえ、準々決勝で右足を痛めていた。そんな故障者の心理までも見越した采配で、自身3度目となる全国制覇を成し遂げた。

 木内監督の采配は"木内マジック"と言われる。普通ならバントの場面で打たせる、打順を変更する、中軸に代打を送る、ワンポイントリリーフを送る......。一見、セオリー無視の采配に見えても、それが見事に当たる。なぜ、そんなことができるのか。木内監督はこのように言っていた。

「木内マジック? そんなものはまったくねぇんだよ。オレにしてみれば、当然のことをやっているだけなの。第三者から見れば『あれ、なんで?』って思うかもしれないけど、オレにはちゃんとした根拠があんのよ」

 それを可能にするのが、選手を観察すること。木内監督は引退する数年前まで「どんなに遠くからでも、ひと目見れば誰だかわかる」と言っていた。うしろ姿や立ち姿を見るだけで、その選手が誰なのかわかるという。

 見ていたのは、それだけではない。練習や試合での行動、ミスをして交代させられた直後のベンチでの様子、その後の練習態度......。あえて厳しい言葉をかけてメンバーから外したり、練習試合で審判をしている選手を突然起用したりするなど、あらゆる手段で性格や闘争心の有無を把握していた。

「指揮官にとって最も必要なことは部下を知ること。全国で一番長くグラウンドにいるのはオレだと思ってやってきた」

 選手を見続けることをポリシーとし、「オレぐらい選手のことを知っている人間はいない」という自信と監督歴50年以上という経験がすべての根拠となっていた。「観察眼」と「洞察力」。"マジック"という表現だけでは表せない気づきこそ、木内監督の最大の武器だった。

 道具の進化や技術の進歩などにより、昨今の高校野球はパワー全盛の時代になり、細かい駆け引きよりも個の力勝負になっている。木内監督のように"マジック"と呼ばれる采配ができる監督はしばらく出てこないだろう。木内野球をもっと見たかった。合掌。

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