『ストップ!! ひばりくん!』なぜ時代を超えて愛される? 江口寿史が投げかけたメッセージ

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2020年11月27日 08:02  リアルサウンド

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 現在、タワーレコードにて開催されている「♡80’sキャンペーン」。同キャンペーンは、タイトル通り、80年代の名盤&名作を「タワレコ」が独自にセレクトしたものだが(タワーレコード限定企画盤やグッズなども販売)、メインヴィジュアルには江口寿史の代表作『ストップ!! ひばりくん!』のヒロイン、大空ひばり(ひばりくん)のイラストを起用。これがなんというか、“あの時代”の空気感を見事に切り取っている、ともいえるし、いま見てもまったく古びていない(それどころか現代的でさえある)、ともいえる、時代を超越したクールな絵だ。


 そう、「80年代の音楽」を感じさせてくれる描き手なら、江口のほかにも、わたせせいぞうや鈴木英人といった名前も思い浮かぶが、あえて今回、タワーレコードが「ひばりくん」の絵を起用したのにはそれなりのわけがあるのだろう。無論、部外者である私にはその企画意図(起用理由)を知るすべはないが、おそらく、ひばりくんというキャラクターが象徴する“80年代らしさ”だけでなく、「ようやく時代が“彼女/彼”に追いついた」という企画者の想いが込められているのではあるまいか。


関連:手犲C遒琉杰Ш遏悗个襪椶蕁戮帽められた“芸術家の意志” 破滅の物語に差す一筋の光とは?


■「あなたの好きなように生きればいい」


 江口寿史の『ストップ!! ひばりくん!』は、1981年から1983年にかけて『週刊少年ジャンプ』にて連載されたギャグ漫画である。主人公の名は、坂本耕作(高校1年生)。あるとき、母を亡くした彼は、その遺言にしたがい、上京して「大空家」の世話になることに。だが、なんとそこはヤクザの組長の家であり、耕作は一瞬逃げ出そうとするものの、4人の美人姉妹と同居することがわかり、「そんなにいごこち悪くなさそーな気がする」と思いなおす。


 ただし、この「美人姉妹」というのが曲者で、そのうちのひとり――耕作が最も気になっていた美少女は、実は大空家の「長男」、つまり、男の子なのだった。「男の娘」なる言葉まである現在ならいざ知らず、80年代前半のどちらかといえば男臭い漫画が主流だった『少年ジャンプ』において、このタイプのヒロインを立てたというのはいま考えてもなかなかすごいことだと思う。


 それにしても、このひばりくんのなんと魅力的なことか。学園のどの女の子よりも可愛くて、どの男の子よりもかっこいい“彼女/彼”は、まさに華やかな80年代にふさわしいキャラクターだった。


 ちなみに、物語は、何かとイチャついてくるひばりくんに、耕作が困惑しつつも心のどこかでは喜んでいる、という姿が繰り返し描かれていき、その滑稽さは本来、当時隆盛していたラブコメ漫画のパロディになるはずだった。ところが、ヒロインであるひばりくんがあまりにも可愛いがゆえに(つまり、他に類を見ない新しいヒロイン像を生み出してしまったがゆえに)、結果的にはひと回りもふた回りもして、「ラブコメ漫画の王道」になってしまった感さえある。


 また、「永遠に結ばれることのないふたり」という“縛り”が、本作をある種の恋愛ドラマとしても成立させているのだが、この縛りなどは、現在ではさほど有効なものとはいえないだろう。なぜならば、「男同士で結ばれても別にいいんじゃない?」と考える読者も少なくないはずだからだ。


 そういう意味では、この漫画に散りばめられた数々のギャグの前提である、「町で一番の美少女が実は男の子」という設定も、いまでは特に笑いを誘う要素にはなるまい。


 いや、何も私は、江口の漫画が古くなったといいたいわけではない。むしろ逆の印象を持っているということは、冒頭の文章でも書いた通りだ。では、何がいいたいのかというと、江口寿史、あるいは、大空ひばりの存在は、80年代の人々の「偏見」を変える原動力のひとつになったのではないだろうか、ということだ。


 無論、いまでも異性装者やゲイは偏見の目にさらされてはいるだろう。だが、80年代当時は現在とは比べ物にならないくらい「差別」の対象になっていた。その様子を、江口は、「ギャグ」として笑い飛ばしているように見せかけて、実際は、「あなたの好きなように生きればいい」と、マイノリティの人たちに向けてメッセージを送り続けていたのではないだろうか。


 そしてその江口のメッセージは、異性装者やゲイに限ったことではなく、すべての、「自分は変わり者なのかもしれない」という疑問を抱きながら、前を向いて生きることができずにいた読者に“何か”(あえて“勇気”などという言葉は使うまい)を与えたといっていい。また、それ以外の「普通の」読者たちにも、「マイノリティであることは悪いことではなく“個性”」という感覚を秘かに植えつけたものと思われる。それくらい、ひばりくんというキャラは、「差別」や「偏見」を吹き飛ばす魅力と強さ(明るさ)を持っており、その輝きはいまなおまったく衰えることはない。


 物語の中盤、「回転禁止の青春さ!の巻」で、軽音部(?)のバンドに誘われたひばりくんは、それを断ったあとでこう答える。「しばられるの やーだもん」。これなどは、ひばりくんというキャラクターをよく表した良いセリフだと思うが、その言葉を陰で聞いていた鳳ジュンというキャラがつぶやくように、「大空を自由に舞うひばりを そうかんたんにつかまえられる」はずはないのである。こんなにも自由な、そして時代を越えたヒロインの活躍が、最もメジャーな少年漫画誌に載っていたこと自体、いま考えてもなかなか痛快なことだったといっていいだろう。


 そう、ひばりくんは、いまも昔も「ストップ」する必要などまったくないのである。


■島田一志
1969年生まれ。ライター、編集者。『九龍』元編集長。近年では小学館の『漫画家本』シリーズを企画。著書・共著に『ワルの漫画術』『漫画家、映画を語る。』『マンガの現在地!』などがある。


このニュースに関するつぶやき

  • …しかしこういう記事いつの間に載ってるんだ?毎日ニュース欄見てるのに気付かねえな〜(-"-;)���顼�áʴ���あと江口自体が一番しばられて無いだろ
    • イイネ!3
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  • 伝説の『白いワニの恐怖』���� 悠久の時を経て完結したけど、ジャンプコミックで発売して欲しかったですね�ܣ�
    • イイネ!7
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