紅葉シーズン到来! 横浜を代表する実業家が造成した三溪園

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2020年11月28日 07:00  AERA dot.

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写真銀杏絨毯に囲まれる天瑞寺寿塔覆堂
銀杏絨毯に囲まれる天瑞寺寿塔覆堂
 今年の11月は暖かい日が続いてなかなか紅葉を楽しむような環境が整わなかったが、いよいよ来週あたりから冷え込むらしく本格的に山の木々も色づきそうだ。関東、とくに首都圏では紅葉を楽しむ場所がなかなか見つからない。神宮外苑のイチョウ並木や高尾山などは観光客からの人気も高いが、すぐに混雑して満員電車の様相となる。東京にはいくつも見事な庭園が残っていて、皇居外苑や北の丸公園、小石川後楽園や六義園などの庭園も見頃を迎える頃だろう。元は大大名たちの庭だったものが、今では人々の観光スポットとなっているのだから歴史の継続というものはありがたいものである。

【写真】美しい三溪園の園内

●17棟中10棟が国の重要文化財に

 東京からは若干離れるが、少し珍しい庭園が横浜にあるので今回はこの地にある三溪園という名勝をご紹介したい。最寄り駅はJR根岸か山手駅になるのだろうが、歩けばいずれも徒歩30分くらいはかかる。もちろん横浜駅をはじめ近隣駅からは入り口付近までのバス便があるのでアクセスは便利だ。三溪園の歴史は明治時代に始まる。それほど深い歴史があるわけではないが、園内に残る建造物は10件もの国の重要文化財の指定を受けている。これら文化財すべてが、全国各地から移築された古い建築物なのである。

●横浜の三ノ谷に誕生した庭園

 三溪園は製糸・生糸貿易で財を成した原富太郎によって造り上げられた、広さ53万坪(175,000m2)にもなる庭園である。海に面して開いた3つの並んだ谷のひとつ三ノ谷の山上に、富太郎の義祖父が別荘を建てたことに始まる。義祖父の死後、富太郎は本格的に造園を始め、この地に本宅(鶴翔閣)を建設し居住した。富太郎はこの頃にはすでに無料で庭の一部を一般開放している。

●京都の三重塔は園のシンボルとして

 大正時代になり、各地からの移築が始まる。京都の木津川にあった奈良時代に行基が創建したと伝わる燈明寺の三重塔を保存のため移築する。すでに財政危機に陥っていた燈明寺にとってどのような思いだっただろう。燈明寺はこの後昭和22(1947)年に、台風で大破したままとなっていた本堂も三溪園へと移築することとなった。現在、木津川の燈明寺跡ではお堂にあった仏像が毎年公開されているが、跡地には御霊神社が残るのみである。三重塔も本堂も重要文化財の指定を受けている。

●京都、鎌倉、紀州から次々と移築

 このほか、鎌倉の駆け込み寺として知られる東慶寺の仏殿、豊臣秀吉が母のため建てさせたと伝わる天瑞寺寿塔覆堂、鎌倉・心平寺跡地にあった地蔵堂などお寺の伽藍をいくつも移築・保存した。紀州徳川家の別荘であった臨春閣、伏見城から月華殿、二条城から家光・春日局ゆかりの聴秋閣など鎌倉・江戸時代の武家様式の建築物、また白川郷から合掌造りの建屋も移築(昭和35年)している。そのままを解体・再建しているので、上記の建築物はすべて重要文化財として、現在も保護されている。

●日本の文化の守り神として

 関東大震災と戦火によってかなりの被害を受け、またこの間に富太郎の死去もあり、三溪園の管理は原家から財団法人へと移ることになる。そして戦火からの復旧まで13年の月日を経てようやく再び一般公開できるようになったのだ。こうして三溪園内の建物はほとんどが文化財の指定を受け現在に至っている。移築・保存という方法に対して厳しい意見を投げる向きもあるが、ここになければすでに崩壊していた可能性があるものもある。富太郎は、三溪園にある建築物のみならず、多くの文化財も保護・収集するコレクターでもあった。彼に生活を支えてもらった画家も多い。このようなパトロンはもう日本からは生まれそうもない。

●三溪の名にふさわしい土地柄

 三溪園の名は、三ノ谷にあることからつけられたのだという。富太郎は三溪という名を号にもしている。すでに一ノ谷、ニノ谷という地名は消えてしまったが、三之谷の住所は今も残されている。三溪園の南門側から入園するとここが三ノ谷と呼ばれる景色であったことがよくわかる。まるで海岸線のような切り立つ岩肌が全面に広がっているからだ。三溪園ができたころは、この付近が海岸線だったらしい。今は高速道路に遮られすぐ先も見えないし、三溪園の展望台(松風閣)からでも海は工場地帯ごしに見える程度となった。

 とはいえ、三溪園の園内は美しい。加えて四季折々の花々が園内を彩り季節ごとの顔をみせてくれる。現在はまさに紅葉シーズンを迎え、山の上に建つ三重塔と正門正面に配置された大池とのコントラストが見事になる。私が訪れた先週末はまだまだ紅葉不足だったが、今週末からはきっと見事になるに違いない。12月6日までは聴秋閣や春草廬などの公開も行われている。ひそかに配置されている石仏や神社などにも手を合わせながら、日本の文化を楽しめる珍しい場所である。実は、海外からの観光客にはよく知られたスポットではあるのだが。(文・写真:『東京のパワースポットを歩く』・鈴子)

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