ラフプレーをした選手をキャプテンに。永井秀樹監督は何を思ったのか

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2020年11月29日 11:31  webスポルティーバ

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永井秀樹 ヴェルディ再建への道
トップチーム監督編(17)

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 2020年11月7日第32節、ホームの味スタで首位の徳島ヴォルティスを迎えた東京ヴェルディは、丁寧にボールをつなぐスタイルを貫いて善戦するも一歩及ばず、最後は不運な形でPKを献上してしまい1-2で敗れた。




 通算成績はこの時点で、10勝10敗12引き分けとなり、残り試合数(10試合)を考えると、今季2位以内に入りJ1昇格を果たすことは現実的に厳しくなった。

 一方、永井秀樹が目指すスタイルの浸透は進み、パスの連動性は磨かれ、課題だった守備面も大崩れしなくなった。完全にやられた敗戦は、開幕の徳島戦(0-3)と29節の山形戦(0-4)くらいだろう。

 個々に目を移せば、ユース時代の教え子、新人の藤田譲瑠チマがレギュラーの座を獲得し、将来の日本代表候補と呼ばれるまでに急成長した。また、昨シーズンは低迷していた井上潮音も輝きを取り戻しながら、逞(たくま)しさも身につけた。

 そうした中、永井が考えるトップチームに必要な最大のピースは、「ピッチ内で選手をまとめられるような存在。真のリーダーとなるようなキャプテン」と話す。しかし現在、固定のキャプテンは置いていない。そこには永井のどんな狙いがあるのか。

「昨シーズン途中で監督に就任した時、ヴェルディの進んでいる方向性や育成力というものを前面に出しつつ再建していく、これまでのスタイルから大きく舵を切るという意味で、ジュニアからヴェルディ育ちで、当時J2所属ながら、日本代表にも選出された渡辺皓太をキャプテンに指名した。それがいきなり、F・マリノスに移籍することになった。

 今シーズンは、ユース時代からの教え子でもあり、皓太と同じようにヴェルディ育ちでトップに昇格して、将来的にはA代表でも活躍できるだけの実力を備えた、藤本寛也を指名した。
でも寛也も、シーズン途中で海外チャレンジを選んでいなくなってしまった。『じゃあ次のキャプテンはどうしようか』と考えた時、自然発生的に、本当のリーダーが出てくるような雰囲気作りをするやり方のほうが、チーム全体の底上げにも繋がるような気がした。

 今はリーダーというわかりやすいポジションを敢えて置かず、それぞれが仲間を信じて、助け合い、ひとりひとりが『俺がキャプテンだ』という思いでいてほしい。全員でカバーすることで、より強固な組織になる気がしている」

 現在、キャプテンは試合ごとに、大久保嘉人、佐藤優平、小池純輝、平智広など、経験値の高い選手を中心に交代で任せている。そんなキャプテンのひとりには、周囲が意外に思う選手もいた。今シーズン、ジュビロ磐田から移籍してきた高橋祥平だ。

 ジュニアからヴェルディ育ちの高橋は2009シーズンにトップ昇格。実力が認められて2012年の年末にJ1の大宮アルディージャに移籍。その後はヴィッセル神戸、磐田と活躍の場を変えて実績を積んできた。そして今シーズン、8シーズンぶりに、期限付き移籍でヴェルディに戻ってきた。

 J1では通算185試合出場と実績十分の高橋は、読みの鋭さ、相手との駆け引きに長けた能力の高さは誰もが認めるところだ。ただ、過去には必要以上に熱くなりすぎてしまい、ラフプレーで退場することもあった。今シーズンも、高橋のそうした一面が出てしまった試合があった。

 8月8日に行なわれた第10節、藤本寛也のヴェルディでのラストゲームでもあったFC琉球戦――。

 高橋は試合終盤、相手選手と競り合い、乗り掛かられた形で倒れ込んだ。その際、報復気味の行為をしてイエローカードを提示されPKを与えてしまった。結局、このPKが決勝点となり、ヴェルディは藤本寛也のラストゲームを勝利で飾ることができなかった。そればかりか、イエローカードやPKの判定を巡りヴェルディ側がベンチも含めて強く抗議するなど後味の悪い幕切れとなった。

 高橋はその後、およそ1カ月間、6試合にわたってベンチ入りはおろかメンバー自体から外れた。永井は、そんな高橋にキャプテンマークを巻く機会を与えたのだった。

「祥平は、あの試合で自分のしたことに対してものすごく責任を感じて『寛也には本当に申し訳ないことをした』と猛省していると伝え聞いた。祥平は人におべっかを使うタイプではないし、どちらかと言えば言葉も少ない。本人の性格をよく知らない人たちからは誤解されやすい。でも、そういう言動を伝え聞いて『本当にいいやつだな』と改めて思った。

 実際、遠征中に部屋に呼んで、あらためて腰を据えて向き合ってみると、ヴェルディが大好きだし、チームのことを心の奥底から考えていた。育成年代から育って再び戻ってくることができたヴェルディを何とかしたい、という思いが伝わってきた。それだけじゃなくて、『ヴェルディに戻って、今になってサッカーを勉強しているんですよ』という言葉も聞けた。

 監督という立場である自分としてもそれは本当、うれしかった。ある意味、感覚に頼ってプレーしてきてJ1でも実績を残してきた選手が、あらためてサッカーを学んでいます、と謙虚になれることは本当にすばらしい。その時に『祥平にもキャプテンを任せても大丈夫だ。いや、ぜひ任せてみたい』と思ったんだよね」

 復帰5戦目となる9月27日、首位争いをするギラヴァンツ北九州戦でキャプテンマークを巻いた高橋は、最終ラインから声を掛け続け、身体を張った献身的なプレーで北九州の攻撃を封じ込め、勝利に大きく貢献した。以後は連戦を考慮した休養日を除けば先発フル出場し続け、キャプテンのひとりとしてチームをまとめ、支えている。

「祥平の姿を見ていると、指導者は、あらためて選手の本質を見る努力をしなければ駄目だなと思った。ぶっきらぼうだったり、指導者に対しても反対意見をしたり、熱くなりやすい性格の選手がいると、『あいつは扱いにくい』という言葉で片づけようとする指導者もいる。でも、俺はそうは思わない。自分も現役時代、『永井は扱いにくい』って言われ続けてきたから(笑)。

 そういう選手に対してこそ、より踏み込んで向き合うことが必要じゃないかな。まずは信じることが、監督、指導者をする上で一番求められることだと思う。どれだけすばらしい戦術論を説いても、プレーするのはロボットではなくて、心ある人間だからね。心に響かない限りいいプレーはできないし、結果、いいチーム作りはできないと、自分は考えている」

◆「中村憲剛から後継者・大島僚太への言葉」>>

 第32節で首位、徳島に敗れたヴェルディだが、その後は3連勝を飾り、順位も一時7位(第35節終了時点)まで上げた。終始ボールを支配してゴール前に迫っても、最後の崩しの部分、『得点を奪う』ということに課題を抱えていたヴェルディだが、3連勝中は2点(対京都サンガ)、3点(対ザスパクサツ群馬)、2点(対レノファ山口)と複数得点をあげるなど、ようやく理想とするスタイルの最終形まで表現できるようになってきた。

「山口戦の前のミーティングで、選手には『人生において、なにひとつ無駄なことはない』と伝えた。春先のキャンプから、練習量も多いし、ミーティングも長い。傍(はた)から見れば、我々は無駄に思われるようなこともたくさん重ねてきたかもしれない。でも、自分の中では、無駄だったことは何一つなかったと思っている。それを選手が理解して、それぞれが志を持って取り組んでくれていることには心から感謝している。これが、結果にも結びついてくるようになった」

 勝利を掴むことで評価されるプロの世界において、永井は「美しさ」や「エンターテインメント性」など別の魅力や価値も見出そうと取り組んできた。道のりは険しく、結果が出なければすぐ批判を浴びることになるが、それでも永井、そしてヴェルディの選手たちは理想を追求し続ける。コロナ禍の影響で異例続きとなった2020シーズンもいよいよ終盤戦。永井ヴェルディはどんな変化を見せ、シーズンを締めくくるのか注目したい。

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