松重豊「タガが外れて」俳優専業から新表現へ? 小説とエッセーが同居した異色の一冊刊行

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2020年11月29日 11:35  AERA dot.

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写真『空洞のなかみ』(1500円+税/毎日新聞出版)/前半が小説、後半は仕事で経験したあれこれのエピソードや思いを綴ったエッセーという異色の体裁。コロナ禍の「空白」の中で思いがけず俳優・松重豊の創作意欲が爆発し、記念すべき初の著作となった(撮影/写真部・掛 祥葉子)
『空洞のなかみ』(1500円+税/毎日新聞出版)/前半が小説、後半は仕事で経験したあれこれのエピソードや思いを綴ったエッセーという異色の体裁。コロナ禍の「空白」の中で思いがけず俳優・松重豊の創作意欲が爆発し、記念すべき初の著作となった(撮影/写真部・掛 祥葉子)
 AERAで連載中の「この人この本」では、いま読んでおくべき一冊を取り上げ、そこに込めた思いや舞台裏を著者にインタビュー。「書店員さんオススメの一冊」では、売り場を預かる各書店の担当者がイチオシの作品を挙げています。

松重豊さんによる『空洞のなかみ』は、前半が小説、後半は仕事で経験したあれこれのエピソードや思いを綴ったエッセーという異色の体裁をとった一冊。コロナ禍の「空白」の中で思いがけず「俳優・松重豊」の創作意欲が爆発し、記念すべき初の著作となった。著者の松重さんに、同著に込めた思いを聞いた。

*  *  *
 初めての著作と聞き、思わず「えっ!」と声が出た。映画にテレビにと活躍する松重豊さん(57)だから著作も何冊か……と思い込んでいたのだ。

「俳優部の人間として、役者であることを究めればいい、他のことはするべきじゃないと思ってきました。そのタガがここへ来て外れたんです」

 外したのは、コロナ禍である。週刊誌のエッセー連載をまとめる話が出て、1冊にするには分量が足りないと編集者と思案したのが今春3月。

「やがて仕事の機会が減ってステイホームの日々です。何もすることがない。そこでつらつらと短編らしきものを書き始めると、一つのテーマにまとまりそうな気配があり、同時に書くことがたまらなくおもしろくなってきました」

 なぜ小説だったのだろうか。

「エッセーはノンフィクションだから、誇張しすぎると嘘になってしまいます。でも、自分の中に誇張で遊びたい気持ちがあったんですね。フィクションなら、リアルで言ってはいけないことを表現したり、妄想を膨らませたりすることも可能です」

 前半が短編12編。後半にエッセー25本。いずれも自身が俳優であることを俎上(そじょう)に載せた内容で、小説とエッセーは響き合っている。そして注目したいのが不思議なタイトルに凝縮された世界観だ。

「40代半ば、仕事で京都に滞在していて、広隆寺に行きました。しばらく弥勒菩薩(ぼさつ)の前にいて、それから歩いて本屋に入り、般若心経の本を読みました。その時、これはロックンロールだと思ったんです。その後やたら仏教の本を読み、座禅をしました。自分を空洞に、真ん中を宇宙にするんです。そして自分が何を表現するかとかどうでもよく、ただ何かが出たり入ったりする容れものになればいいと思ったら、役者をやることに対してすごく自由になれました」

 この思いは装幀(そうてい)にも表れる。

「菊地信義さんはご著書で、装幀家は作者でなく、器を作るだけとおっしゃっていて、通底するものを感じました。圧倒的にシンプルでありながら中をのぞかざるを得ない絶妙の引き算装幀に引かれていましたから、自分の本でお願いできるなんて嘘のようです」

 自作の朗読+ミュージシャンとのコラボをYouTube配信する試みも始めた。

「書きたい意欲、ネタはまだまだあります。でもこの本をおもしろいと思ってくださる方がいないと先に進めません。役者ってどんなこと考えてるんだ?という軽い気持ちで読んでやってください」

(ライター・北條一浩)

■ブックファースト新宿店の渋谷孝さんオススメの一冊

『これからは、イケメンのことだけ考えて生きていく。』は、大変な世の中の「キモくて」「最高」な生き様を、潔く描いた一冊。ブックファースト新宿店の渋谷孝さんは、同著の魅力を次のように寄せる。

*  *  *
 基本は漫画家サチコと担当編集M田が街をブラブラしながらその街の魅力を発見し伝えるエッセーマンガなのですが、気づけば2人でイケメンを求めさまざまな場所を彷徨う物語になっております。

 生きていく上での糧。それがイケメン。イケメンに会うために体力をつけようと考えて水着を買いに行ったり、イケメン人形を作ったり、イケメンにメイクをしてもらったり、有名なイケメン俳優に会いに写真集のお渡し会に行ったり、時にはそんな煩悩を減らすために滝行に行こうと思ったりと2人の面白イケメンエピソードがてんこ盛りです。

 色々と大変な世の中、不安しかない将来、少しでも楽しく生きたいと思う2人の「キモくて」「最高」な生き様をご覧ください。生きていく上で何かしらの「推し」がある方には是非読んで頂きたい作品です。

※AERA 2020年11月30日号

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