米津玄師×是枝裕和監督が明かす、「カナリヤ」MV秘話 トップランナー同士のスペシャル対談が実現

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2020年11月29日 12:01  リアルサウンド

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米津玄師×是枝裕和監督(写真=堀越照雄)

 米津玄師と映画監督・是枝裕和の対談が実現した。


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 先日MVが公開された米津玄師の最新アルバム『STRAY SHEEP』の最後を飾る楽曲「カナリヤ」。そのミュージックビデオを手がけた是枝監督が、MVを手がけるのは約4年ぶりで、米津玄師とは初タッグとなる。


 米津が是枝監督にMVを依頼したきっかけは、楽曲の制作過程で映画『誰も知らない』を観て影響を受けたことだったという。


「是枝監督の作品で最初に観たのが『誰も知らない』でした。その時に自分は小学生で、家のリビングの光景とともに記憶に残っていて。で、大人になってから見返すタイミングがあったんです。アルバムの制作期間中はずっと外出ができない期間で、今のこういう状態を、ダイレクトな形で音楽に凝縮できたらなと考えて作り始めたのですが、直接的に被害にあっている人間の気持ちはどういうことだろうと、それをまず自分なりに想像しなければならない時間がありました。そんな中で、『誰も知らない』をなんとなく観始めたら、そこには市井の人間の息づかいみたいなものがすごく生々しく描かれていて。映画の題材の一つでもある家庭の機能不全を目の当たりにしたときに、何かしっくりくるものがありました。自分はよく散歩をするのですが、街を歩きながら、誰が住んでいるのかもわからないような家の様子を傍目で眺めるのが好きで。たとえば窓越しにクマのぬいぐるみがあったり、何日間も同じ洗濯物が干してあったりする。そういう何でもない日常を垣間見ることによって、自分の人生が逆に浮き彫りになっていく。そういうことが自分の生活の一部になっていて。そこで感じるものと是枝さんの映画を観て感じるものが、個人的には非常に近しいものだったんです。そういう意味で、今ウイルスによっていろんなものが隔てられている、当たり前にあったものが機能しなくなっていくさまを、自分は音楽にしなければならない。それが『誰も知らない』とすごく親和性があった。この曲で映像を作るんだったら、是枝さんにお願いしたらいいものになるだろうなと考えていて。それで、ダメ元でオファーをしてみたら受けていただけるということになって、すごく嬉しかったです」(米津)


「僕に依頼をしたきっかけが『誰も知らない』という映画をその時期に観ていただいたことだった、そこにある“子供たちが久しぶりに表に飛び出していく”という映画の中のイメージが曲作りのひとつのきっかけになったという話を伺ったので。まずは、受けざるを得ないだろうというのが一つありました。自分が作った映画がちょっとでも創作のきっかけになった、作品を介して人とつながることができたというのは何より嬉しいです」(是枝)


 MVは、コロナ禍の日常を生きる三世代の男女を描いた短編映画のような仕上がりの作品になっている。是枝監督が楽曲から受けたインスピレーションが物語の着想となった。


「曲を聴いて、最初の印象としては、とても前向きな歌だと思いました。それは単純な前向さではなくて。曲に〈あなた〉という言葉が繰り返し出てくる。けっして一人を歌っているわけではなく、誰かと誰かのことを歌っている。そこに希望があるということを感じたんです。だから、お会いして、コロナの状況下で作ったと聞いて、すごく腑に落ちたんです。そういう状況でも人は人のことを求めるし、その先に一人ではない未来が待っているだろうと想像させてくれる歌だった。それで、今は隔てられている人たちの話にしようと思った。ピンポイントでそこだけピックアップしました。自分の中で、コロナ禍で印象に残っているのは、亡くなった奥さんと触れることすらできずに、ビニール越しに別れて、戻ってきたら灰になっていたという話をニュースで知ったことで。そういう別れを迎えなければいけなかった人がいるということを聞いたときに、非常にショックが大きかった。そうやって、今まで一緒だった二人が、生と死に分かたれて、その間に一枚膜がある。そのイメージからまず始まりました」(是枝)


 米津は撮影の現場をこう振り返る。


「撮影で行った大学の中庭がすごく好きでした。歌いながら曲を作っていた頃のことを思い出していって。映像を撮ってもらうことでこの『カナリヤ』という曲が新たに進化していくということに、高まっていくものがあって。そんなことを考えながら、日が暮れた大学の中庭のベンチに一人で座っていた瞬間が印象深く残っています」(米津)


 こうして完成した映像には、米津自身も大きな感銘を受けたという。


「本当にお願いしてよかったと思いました。自分はこの『カナリヤ』という曲を作るときに、すごく大変だったし、悩んだんです。世に出した後も『果たしてこれでよかったんだろうか』という気分がずっと残っていて。それが是枝さんの映像によって『これでよかったんだ』と思えた。いい距離感で補完してもらえたような、あの曲自体を肯定してもらえたような気持ちになりました」(米津)


 リリースから数カ月が経ち、米津の中でアルバム『STRAY SHEEP』はどう変化していったのか。今の自分自身について、米津はこう語った。


「本来ならアルバムが出た後は毎回ライブツアーをやるはずだったんですけれど、それが今は叶っていない。いまだにそこが宙に浮いたような感覚はあります。まだあのアルバムが終わっていないような感じがするし、いろんな機会を損失したということに、自分自身、あとになってじわじわと気付いていくような段階にあります。曲を作るにしても宙に浮いたような感じがしていて。そういう中で、この曲の映像が世に出たときに、自分がどういう気分になるのかは非常に楽しみです」(米津)(柴 那典)


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