意味がわかると怖い話:「ツイートトラップ」

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2020年11月29日 21:08  ねとらぼ

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ねとらぼ

写真家の前に置かれた変なモノ。それに込められた悪意とは……? 意味がわかると怖いショートショートを紹介します
家の前に置かれた変なモノ。それに込められた悪意とは……? 意味がわかると怖いショートショートを紹介します

 ひとたび気づくと、なにやら違う光景が見えてくる……「意味がわかると怖い」ショートストーリーを紹介する連載です。



【その他の画像】



●「ツイートトラップ」



『そうだ、今朝変なことがあってさ』



 オンラインでの打ち合わせが一段落したところで、平田がそう切り出した。



『家を出るときに、玄関先に狸の置物が置いてあったんだよ』



「狸の置物?」



『ほら、信楽焼のさ。蕎麦屋の前とかにあるイメージなんだけど……それの、10センチくらいの小さい奴がぽつん、と置いてあるんだよ』



「写真はないの?」



『あー、そうだ。話のタネになるかと思って撮ったんだった』



 チャットを通じて画像が送られてくる。玄関ポーチの敷石の上にちょこんと置いてあるのは、なるほど笠をかぶって徳利(とっくり)を下げた、よく見る信楽の狸だった。



『夜、帰ってきたらなくなっててさ。誰かの忘れ物だったのかな』



「うーん。イタズラだったら、なんかちょっと気味悪いよな」



『悪意はないと思うけどな。狸って縁起物だろ?』



 そういう問題ではないだろうが、平田は無頓着だ。



 私と平田は、大学からの15年にもなる付き合いで、ともにさる巨匠の映画シリーズの熱心なファンだったことから仲良くなった。平田は筋金入りのコレクターで、撮影台本や小道具といった、膨大なグッズを自宅に所蔵していた。私も、知識やコレクションには自負があったが、彼にはとてもかなわなかった。



 父親の会社を形ばかり継いだ平田は、しがない地方銀行員の私の数倍は収入があるはずなのに、未だに学生時代と同じ安普請のマンションに暮らしている。彼が映画コレクション以外に金を使っているのを見たことがなかった。



 ふたりで何冊か映画ムックの類も出してきた。今日の打ち合わせも、新しい書籍のためのものだった。互いに独り身で結婚に興味がないので、「自分の身に何かあった時は相手にコレクションを寄贈する」という遺言を取り交わしているほどだ。まあ、無二の親友というやつだ。



***



くわがた @movie-daisuki0808



昨日の朝、俺んちの前にタヌキ置いてったの誰?w



(画像)



午前11:15 2020年10月24日 Twitter for iPhone



***



 その2週間後、仕事で平田の家のそばまで来たので、久しぶりに会って飲んだ。



「そうそう、前にお前が言ってた狸の置物のことだけどさ」



 私が言うと、平田は身を乗り出してきた。「なんだよ深山。正体がわかったのか?」



「ニュースでやってたんだよ。空き巣狙いが、ターゲットの家の玄関先に何か変わったものを置いておくんだってさ。SNS時代だろ? その家の住人が、『こんなのあった』って発信するのを待って、それを探してアカウントを特定するんだよ。それを見張ってれば、ターゲットの生活リズムとかがわかるだろ」



「なるほどな。そのアカウントが『今日から家族旅行』ってツイートしてるのを見つけたら、その日に泥棒に入れば確実に家は留守だってわけだ。へええ、いろいろ考えるやつがいるんだな」



「お前も気をつけろよ。……つっても、お前はSNSもやってないし、ほとんど家にいるから泥棒の被害にゃ縁はなさそうだけど」



 私が言うと、まあな、と言って平田は手酌した熱燗を口に運ぶ。私は尋ねた。



「旅行といえば、今月の連休はどこか行ったりしないのか?」



 平田は眉をひそめてみせる。「お前に頼まれた追加の原稿を書かなきゃならないからな。片づけなきゃいけない本業の方の書類もたまってるし、3連休は家にこもりきりだろうな」



「肩書きだけでも社長さんとなったら大変なんだな」



 「お前は?」と聞かれたので、久しぶりに一人旅でもしようと思っていると伝えた。



『深山、ニュース見たか!? 昨日の晩、平田が殺されたらしい』



 昼近くまで旅先のホテルでゆっくりまどろんでいた私は、共通の友人からの電話で起こされた。



「殺された?」



『ああ、名前も年も一緒だったし、現場だって言って映ったのは間違いなくあいつのマンションだった。部屋にいて、忍び込んだ泥棒と鉢合わせしたらしい。テレビでは、取り押さえようとして刺されたって言ってる』



 平田は虚弱な文科系のくせに向こう見ずなところがあって、学生時代にも駅で痴漢を捕まえようとして揉み合いになり、大怪我したことがあった。



 私は部屋のテレビを点ける。



「こっちじゃやってないみたいだな……悪い、俺今、金沢にいるんだ」



 帰ったら会おう、とだけ言って電話を切った。



 手の中のスマートフォンに視線を落とし、ツイッターのアプリを開く。2日前に私がつぶやいた、最後のツイートが表示される。



***



くわがた @movie-daisuki0808



明日から2泊3日で金沢へ!北陸グルメ楽しみ(^^♪



午後13:04 2020年11月20日 Twitter for iPhone



***









●「ツイートトラップ」解説



 「ターゲットとなる家の前に『変なモノ』を置いておき、その家の住人がSNSに投稿するのを待ってアカウントを特定する」――新しい空き巣の手口として最近、たびたびニュースなどで取り上げられています。



 「くわがた」というツイッターアカウントは、語り手の「深山」のものでした。彼は「平田」から送られた画像を使い、あたかも「くわがた」の自宅に狸が置いてあった=「くわがた」を平田のアカウントと誤認させるようなツイートをしたうえで、「3連休には『くわがた』は2泊3日の旅行に出かけている」と書き込んでいました。



 無論、深山は狸の置物が空き巣の下調べである可能性も承知していましたし、平田がSNSをやらないことも、3連休に自宅にいることも確認していました。そして、向こう見ずな平田の性格からして、仮に空き巣と家で鉢合わせした際には、捕まえようとして身体的被害をこうむるかもしれないことも十分に予測できたはずです。



 彼らは「自分の身に何かあった時は相手にコレクションを寄贈する」という遺言を取り交わしているわけで、その「何か」があった今、語り手がうらやましがっていた平田のコレクションは彼のものになるのでしょう。



 深山はあくまで自分の旅行の予定を書き込んだだけで、狸の置物についても、友人の体験談を自分の話と脚色して話しただけだと強弁するでしょう。平田のコレクションを奪うために彼を殺そうとしたのだとは、認めるはずがありません。ヒラタもミヤマも、「くわがた」というニックネームを名乗っておかしくない名前ですから。



(ねとらぼGirlSide/白樺香澄)



●白樺香澄



ライター・編集者。在学中は推理小説研究会「ワセダミステリ・クラブ」に所属。怖がりだけど怖い話は好き。


このニュースに関するつぶやき

  • 深山が実は金沢には行ってなくて、自分の家にいて、犯人は深山、って落ちじゃないの???
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  • 最初の3行でオチが見えたがまさかそんな単純な話じゃないだろうと思ったらそのまんまだった。
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