パワーよりもドラビリを選んだ方針が奏功した新生NSX-GT。苦戦のなかで手にした王者の称号/GT500分析(ホンダ編)

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2020年11月30日 17:11  AUTOSPORT web

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写真2020年スーパーGT第8戦富士 RAYBRIG NSX-GT(山本尚貴/牧野任祐)
2020年スーパーGT第8戦富士 RAYBRIG NSX-GT(山本尚貴/牧野任祐)
「こういう形ではあるんですけど、Class1規定の初年度にチャンピオンが獲れたことはホンダとして非常にうれしいし、コロナの影響もありスタートも遅れながら、ここまでよくクルマを作れたもんだと、私としても感心しているところです」(ホンダ佐伯昌浩LPL)

 まさに劇的な幕切れとなった2020年スーパーGT第8戦富士スピードウェイでのGT500クラス決勝。土曜日の予選からコースレコード更新という圧巻の走りでポールポジションを奪い、日曜は65周のほぼすべてでリードラップを記録。

 レースを含め、最終戦の週末を完全に支配下に置いた37号車KeePer TOM'S GRスープラが、決勝ファイナルラップの最終コーナーで力尽きるという、文字どおり「筋書きのないドラマ」を地で行く結末となった。

 そのKeePerを最後まで追い詰めシリーズ史上最大の逆転劇で勝利し、同時にGT500チャンピオンの称号を得た100号車RAYBRIG NSX-GTだが、実際このレースウイークは走り出しから苦労の連続だった。

 最終戦の舞台となった富士スピードウェイでの基本的な勢力構図は、ピークのダウンフォースではなく車両姿勢を含め徹底したドラッグ低減を狙ったトヨタ勢が優位に立っていた。

 FR化でも本来あるべき理想の運動性能を追求したNSX-GTは、予選1発こそダウンフォースを活かしてタイムを刻むものの、長いホームストレートのエンドでは最高速の伸びを見せるGRスープラ勢になんらかの手段で対抗する方法が求められる、という状況。

 しかし、そのストレートに強い向かい風が吹き付けた11月28日(土)午前の公式練習では、本来なら専有走行の予選シミュレーションでタイムアップを実現したいブリヂストンタイヤ装着チームでも、5台のGRスープラ勢に後塵を拝してしまう。

 100号車RAYBRIGが6番手、背後に17号車KEIHIN NSX-GTと8号車ARTA NSX-GTが並び、3台ともにクラス混走のセッション序盤で記録したタイムを上回ることが出来なかった。

 本来この10分間の専有走行では予選で使用しない側のコンパウンドでシミュレーションを行うとはいえ、セオリーどおりにタイムを上げて来たGRスープラ勢に対して劣勢の感は否めず、わずかに向かい風の収まった午後の予選では、64号車Modulo NSX-GTの5番手3列目が最上位に。

 最終戦に至るまで都合3回争われた富士のイベントでは、そのすべてでフロントロウにマシンを送り込み(第2戦では最前列独占)、2度のポールポジションを奪って来たホンダ陣営としては、路面温度が10℃台前半という今季初の冷間コンディションに対し、持ち込みタイヤ選択の難しさを感じさせるリザルトと言えた。

「我々は、この(FRの)パッケージングになってから全部のサーキットがほぼ初めてのチャレンジになる部分があって、この路気温に対して富士ではどう進めていくのか、という部分を机上ではいろいろと計算して来た」

「テストも行えていないので、レース現場がテストになっているという部分もあり、そこで『合ってる、合わない』が毎レース続いている。今回もやることは全部やってきたけれど、持ち込んだタイヤとのセットアップという面も含めて、上手く噛み合わなかった部分があるのかな」と振り返った佐伯LPL。

 そんな条件で迎えた29日(日)、今季最後の決勝。路面温度13℃という寒さのなかでスタートした午後13時からのレースで、前日とは一転し牧野任祐が息を吹き返したような躍動を見せる。

 オープニングラップこそ17号車に先を譲ってひとつポジションを落とすも、序盤で12号車カルソニック IMPUL GT-Rや38号車ZENT GRスープラをパスして順位を上げると、13周目にKEIHIN、14周目に23号車MOTUL AUTECH GT-Rをかわして3番手へと上がる。

 そして一度はストレートで差し返された36号車au TOM'S GRスープラを、ダンロップコーナー進入できっちり仕留めて、GRスープラ勢をかき分ける力強さを披露した。

 シーズン序盤は混走状態でのわずかなペースダウンから、タイムを回復するのに「時間がかかる傾向があった(ホンダ徃西友宏氏)」NSX-GTは、この最終戦で自らポジションを上げて集団バトルを制し、首位の37号車に匹敵するレースペースを刻んでいった。

■燃費面でのパフォーマンスの良さが勝利の一因に
 100号車、17号車、そして8号車で異なるコンパウンドを選択していたなか、今回の決勝コンディションに100号車のタイヤがマッチしてくれた面もあるが、それ以外にも「セットアップ面での進化がある」と、車体開発を率いて来た徃西エンジニアは言う。

「決勝でどのタイヤがコンディションにうまくマッチするか、逆に我々のほうはそこがバラけているだけに『どれかが当たってくれるといいな』とは思ってました。100号車が履いたタイヤがまず非常に良くコンディションにマッチしていた、というのはありますね」と説明した徃西氏。

「あとは、特に開幕戦の際など問題になったレース中のピックアップや、混走状態でのペースダウンからの復帰、そういう部分をBS(ブリヂストン)の3チームがそれぞれ違うアプローチで対処してきてくれて、今回100号車の採った"対ピックアップのアプローチ"が非常にうまくいって、レース中にそれほど大きな問題を抱えずに良いペースで行けた」

「少しストレートスピードで劣勢なのは計時などを見ていただいていると思うんですけど、ストレートで抜けなくてもコーナーでしっかり前に出て、ストレートで抜き返されずにブレーキングでも負けない。そういうところが今日の100号車は組み合わせとして非常にうまくいった。それが37号車を最後まで追い詰めるところまで行けた要因かな、と思います」

 そしてエース山本尚貴がドライブした後半スティント。ここで威力を発揮したのはエンジン性能、とくにその燃費面でのパフォーマンスだった。

 第6戦から2基目を投入した各陣営は、それぞれ異なるアプローチと手法で個性を盛り込みながら"出力向上を実現しつつ、ドライバビリティを損なわない"理想的な開発を実現したと証言していた。

 現行規定の2ℓ直列4気筒直噴ターボのNRE(ニッポン・レース・エンジン)開発は、燃料リストリクターによって制限される燃料を効率よくパワーに変換すべく、混合気を極限までリーンにして空気をうまく活用することが求められる。

 この『燃費が良い=速い』という図式は再三にわたってお伝えして来たが、その開発を率いる佐伯LPLは、シーズン序盤から「我々のエンジンがもっとも燃費は良いはず」と公言して来た。つまり『もっとも効率が良く、もっともパワーが出ている』と宣言するのと同義になる。

 レースにおいて1番燃費の良いエンジンであり、第3戦鈴鹿後には「実際アンチラグに頼り切りという状態じゃなくても走れるエンジンスペックになっている」と太鼓判を押されたホンダ製NRE。

 この2基目でも大型アップデートによるピークパワー追求の選択肢を回避し、正常進化の範囲内で出力向上を実現しつつ、美点の「ドライバビリティを維持する」方針を選んだ。

 フィニッシュ後のウイニングランでマシンを止めた状況を見ても、終盤は首位を追いながらも積極的なコースティングでチェッカーまでマシンを運んだ山本のドライビングによるところも大だが、劣勢の週末でも大逆転での戴冠に値する素地は、すでにNSX-GTに備わっていたのだ。

「ここ(富士)はあんまりアンチラグのオンオフ差が大きくないので、やっぱり厳しかったは厳しかったですね。本当に37号車と比べても半周分、というぐらいなので何とも言えませんけど(笑)」

「富士ではどうしても最高速で負けてるので、ピーク(パワー)だけ狙ってドライバビリティはアンチラグを多用するようなエンジン……という方向に行きたくなりますが、前半を振り返ってみると、やっぱり燃費悪化というのはNSXのメリットを消すことになる」

「正常進化レベルのピークパワーのアップデート版で、ドライバビリティのほうは前半戦の状態を維持するような、そういう2基目にしました。その効果が出たのは(前戦の)もてぎだと思ってます」

「この富士では『やっぱり厳しいんだろうな』と思ってはいましたが、今回はタイヤの選択と、そのタイヤを活かせるセットアップ、というところで、なんとかスープラのなかに割り込んでいくレースができた。そういう風に思いますね」と、タイトル獲得の決勝後に胸を撫で下ろした佐伯LPL。

「苦しいときにも決勝であそこまでスープラに迫れる速さで戦えたというのは、クルマとしての満足はないものの……年に4回も富士があるという厳しい状況の割には、結構やれたと思います」と語った徃西エンジニアとの共闘で、最後にあらゆる要素が噛み合った新生FRのNSX-GTは、Class1デビューイヤーで見事“チャンピオンカー”の称号を手にした。

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