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計画的に未婚の出産を選ぶ「選択的シングルマザー」
「選択的シングルマザー」という言葉は、アメリカの心理療法士ジェーン・マテスが1981年に提唱したもので、「Single Mother by Choice」という組織も発足されています。日本でも、経済的・精神的に自立しており、妊娠前から計画的にシングルマザーになることを選択して未婚で出産した人を「選択的シングルマザー」と呼んでいるようです。著名人が未婚のまま出産の発表をすることで、選択的シングルマザーという存在の認知が広がってきたのではないかと思われます。
離別によるシングルマザーが大部分だが、未婚のシングルマザーも急増
総務省統計局が5年毎に実施している国勢調査の最新の統計によると、我が国のシングルマザーの総数は106万3千人となっています(2015年)。その中でも、未婚のシングルマザーは17万7千人であり、15年前の調査より約3倍に増加していることが示されています。シングルマザーには、予定外の妊娠後に未婚のまま出産に至ったケース、死別によるケースなどもありますが、8割弱という大部分が「離別」により「非選択的」にシングルマザーになっています。
「非選択的」シングルマザーの場合は、妊娠後にシングルマザーになることが決定しますが、選択的シングルマザーの場合は、「妊娠前」に女性本人がシングルマザーになることを決定しているという点が大きく異なります。一般的には、シングルマザーの場合、経済的にサポートが必要になるケースが多いのですが、「選択的シングルマザー」は「経済的に自立している」ことが大前提となります。
選択的シングルマザーになる方法
日本では、未婚の女性が精子提供を受けるための法的整備がなされていないため、選択的シングルマザーになるための方法は以下の3つになります。1. 交際相手と結婚しない条件のもとで妊活をする
2. 海外の精子バンクを利用する
3. 国内の有志による精子提供を受ける
このうち、3番目のいわゆる「民間の精子バンク」を利用することは、あまりお勧めはできません。精子を提供する側の病歴や性感染症の有無などをきちんと確認できなかったり、直接の性行為による精子提供を提案されたりしてトラブルになることもありうるからです。
海外の精子バンクでアジア系の提供者を選ぶという方法もありますが、現実的なのは交際相手や、「シングルマザーになるための交際相手」としっかり話し合って妊娠を目指すという方法でしょう。
選択的シングルマザーになることのメリット・デメリット
選択的シングルマザーという選択肢のメリットは、アセクシャルなどのセクシュアリティの特性のために、「結婚」という形態をとりたくなかったり、性的接触をしたくない人にも「母になる」という機会が得られるという点です。また、「結婚相手はゆっくり選びたいけれど、妊娠のタイムリミットを考えると相手が見つかるのを待ってはいられない」という場合にも、このような選択があることで「産みたい時に産む」ことが可能となります。
逆に、デメリットは、一般的なシングルマザーと同じといえます。万が一自分の収入がなくなったり、健康状態に何らかの不具合が生じたりした時に、すぐに頼れる場所がないという状態になりえます。ただ、これは、収入面も人員面もあらかじめ起こりうる事態をシミュレーションして、バックアップ体制を整えておけば、ある程度回避できることでしょう。
税制上の控除も、法改正によって離別や死別の人と同じように、未婚の場合も受けられるようになりました。「ひとり親」に対する経済的補助や、保育園入所の優先順位が高くなるなどのメリットを考えると、「夫は一応いるけれど実質ワンオペ」よりも、子育てをしやすい環境を整えられるかもしれません。
子どもの「出自を知る権利」への配慮が必要
最も注意しておくべきことは、生まれた子どもの「出自を知る権利」を侵害しないように配慮する必要があるという点です。「出自を知る」とは、自分の親が誰なのか、つまり自分のルーツを知ることです。子どもがある程度成長した時に、「自分の父親は誰なのか?どこにいるのか?」と聞かれたらどう答えるのか? 「父親に会いたい」と言われたらどうするのか? 特に交際相手の同意が得られていない場合に、本人の「出自を知る権利」をどのように守るのかといった問題が発生してきます。
日本では、まだ、この「出自を知る権利」についての法整備も進んでいません。「15歳以上の者は、精子・卵子・胚の提供者に関する情報のうち、開示を受けたい情報について、氏名、住所等、提供者を特定できる内容を含め、その開示を請求をすることができる」という内容を盛り込んだ法案が、まだはっきりと定められていない状態なのです。
父親の「認知」の問題も
また、交際相手との子どもを妊娠する場合、その子を「認知」してもらうのかどうかも検討しなければいけません。日本の法律では、「産んだ人」が母親であると定義されていますので、「誰が母親なのか」という問題は発生しません。しかし、未婚の場合は「父親」は空欄になるため、法的に子どもと交際相手が「子と父」であると認められるには「認知」が必要になります。選択的シングルマザーになるということは、おそらく「認知を求めないという条件の下で妊娠する」ケースの方が多いと思われますが、交際相手の方から「認知をしたい」を言われた場合にどうするのかをあらかじめ考えておく必要があります。
「選択的シングルマザー」になるということは、経済的な面をクリアすれば、それほど難しくないと感じる人もいるかもしれません。でも、生まれてくる子どもの権利を考えた時に、倫理的問題に直面したり、日本の法整備が追いついていないがために起こりうるトラブルが出てくるかもしれません。
その点をしっかり理解したうえで、自分にとっての「最適な家族のあり方」を考えてみてはいかがでしょうか。
【参考情報】
・シングル・マザーの最近の状況(2015年)
・シングル・マザーの最近の状況(2000年)
・Single Mothers by Choice
清水 なほみプロフィール
女性医療ネットワーク発起人・NPO法人ティーンズサポート理事長。日本産婦人科学会専門医で、現在はポートサイド女性総合クリニック・ビバリータ院長。女性医療の先駆者の下、最先端の性差医療を学び、「全ての女性に美と健康を!」をコンセプトに現場診療にあたる。ネット・雑誌・書籍等の媒体を通し幅広く健康啓発を行っている。(文:清水 なほみ(産婦人科医))