NCT Uの「90’s Love」を徹底解剖! 90年代の元ネタから楽曲・歌詞・ビジュアルをフル解説

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2020年12月03日 22:12  サイゾーウーマン

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サイゾーウーマン

――毎月リリースされるK-POPの楽曲。それらを楽しみ尽くす“視点”を、さまざまなジャンルのDJを経て現在はK-POPのクラブイベントを主宰するe_e_li_c_a氏がレクチャー。11月にリリースされた曲から[いま聞くべき曲]を紹介します!

今月の1曲‖NCT U 엔시티 유 - 90's Love

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 NCT2020で始まった「RESONANCE」活動のリパッケージアルバム「NCT RESONANCE Pt. 2 - The 2nd Album」の先発曲、「90's Love」です。
メンバーはテン、ウィンウィン、マーク、ジェノ、ヘチャン、ヤンヤン、ソンチャンの7人で、公式の説明はこのようになっています。

 "エキサイティングなアップビートとグルーヴィーなドラム、ベースラインが印象的なオールドスクールR&Bヒップホップ曲で、90年代ヒップホップとR&Bに現代的なサウンドが合わさってニュートロ感性を刺激する。歌詞には、過去の大切なものすべてが、時空を超越しても価値があるので、記憶して再解釈しNCTだけの新しい価値を作ろうというメッセージを含んでいる"

 歌詞にはところどころに90年代を象徴するキーワードが散りばめられ、MVでのスタイリングも90年代を意識したものになっています。私が中学生の頃90年代のUS HiphopのMVや歌詞カードを見ながら「これは何を表しているのだろう」と一生懸命調べたことを思い出します。

 そこで、いつもはK- Popの楽曲を切り口に音楽ジャンルの説明をすることが多いですが、今回は「90's Love」をいろいろな角度から徹底的に解説していきます。

 作詞はSM Entertainmentお抱えの作詞・作曲家Kenzie。少女時代の「Into the New World」やEXOの「Overdose」、最近ではRed Velvetの「Psycho」やベッキョンの「Candy」を作詞し、今年に入ってからはITZYやTHE BOYZ、TWICEなどSM外のアーティストにも詞を提供しています。SHINeeの「SHIFT」やNCT Dreamの「We Young」「We Go Up」、ベッキョンの「R U Ridin'?」などは、作詞作曲どちらも手掛けており、作曲は複数人でやることが多いですが、一番最初に名前が並んでおり、かなりの比率でSMの楽曲に携わっていることがわかります。Kenzieは1976年生まれで、まさに本人が10代〜20代の多感な時期を過ごしてきた90年代を思い返して歌詞を書いたのではないでしょうか。

 それでは今回は、【1】楽曲【2】歌詞【3】ビジュアル、の3パートに分けて一つずつ繙いていきたいと思いますが、あくまで「私が感じた」引用元を挙げるだけなので本当にそうかはわかりません。

 是非このリファレンスを元に深堀りをして、自分の納得できるものを探し出せたら、さらに面白い楽しみ方ができると思います。

 まずはイントロからですが、これは何の知識がなくても私の記事を今まで見ていた方にはわかるでしょう、New Jack Swingです。もはや説明は不要だと思いますが詳しくはNJS特集を参照して下さい。

 「90's Love」のイントロに関しては、この曲を引用してそうな気がします。ちなみにBell Biv DeVoeは先月23日、アメリカで40年以上続くAmerican Music Awardsで初めてパフォーマンスを行い、NJSメドレーを披露しました。

■Bell Biv DeVoe - Poison (Remix) (1990)

 ただし音の処理など“はっきり”さに関しては、現代のNJS、Bruno Marsの「Finesse (Remix)」などの方が近いと思います。

 ビートが一度なくなりベースと一緒にサイレンのような浮遊感のある音が流れ始めますが、これはこの曲の9小節目(00:18)から始まる上ネタでしょうか。

■Miles Davis - Fantasy (92)

 この少し落ち着かない音の上ネタにもサンプリング元があり、81年にリリースされたESGというバンドの楽曲です。
■ESG - UFO (81)

 ちなみにFantasyの収録されているアルバム「Doo-Bop」はJazzy Hiphopを紹介した時に挙げたDoo Bop Songも収録されているアルバムです。

 全体的なビートの印象としてはHiphopですが、スネアなどは少し80年代のNJSっぽさも感じられます。90年代に入るとNJSのドラムはこもった感じの音になるため、80年代の方が近いように思います。

■Guy - Spend The Night (88)

 また「90's Love」のBPMは108ですが、90年代の黄金期と呼ばれるHiphop楽曲のBPMは80〜どんなに速くても100前半ぐらいで、80年代後半〜90年代前半に流行した以下のような楽曲のほうがBPM的には近いと言えるでしょう。

■Public Enemy - Fight The Power (89)

■Ultramagnetic MC's - Poppa Large (92)

■TLC - Hat 2 Da Back (92)

 今まで挙げた曲を「90's Love」と聴き比べると、サウンド的に少し音が薄かったり音数が少ないと感じるかもしれません。ここは、今聞いてほかの曲との聴き劣りがないように音圧を高く、音を厚く処理しているのでしょう。なので、サウンド的な面だけでいうと90年代コンセプトとはいえ、かなり現代風に解釈されているのを感じます。

 なかなか言葉で説明するのは難しいですが、ドラム全体の雰囲気としては00年中盤のこの辺りが近いでしょうか。

■Smitty feat. Swizz Beatz - Diamonds On My Neck (05)

■Platinum Pied Pipers - Stay With Me (DJ Mitsu The Beats Remix) (05)

 ビートのアタック感としてはLAビートシーン周辺のこの辺りが連想されます。

■Hudson Mohawke - Free Mo (06)

■Flying lotus - Clown Hair (06)

 さて、次に歌詞の引用元を冒頭から一つずつ繙いていきましょう。イントロから全部で14つ解説します。

1:「Hey hey hey hey hey hey (hoo hoo)」 (0:17〜)

聞けばわかるのであまり説明は必要ないと思いますが、イントロの「hey, ho, hey, ho, hey, ho」を引用していると思われます。

■Naughty by Nature - Hip Hop Hooray (92)

2:1990's (how we do it)の「how we do it」 (0:28)

少しあとのほうに「This is how we do it」と出てくることからも、こちらを引用していると思われます。

■Montell Jordan - This Is How We Do It (95)

3:「자 누가누가 핫 하대?」(さぁ誰がホットだって?)の「ホット」 (0:34)

96年にSM Entertainmentからデビューした5人組男性アイドルグループ、H.O.T(エイチオーティー)です。衣装も引用が見られるため、追ってまとめて説明します。

4:Old school vive (that vibe)の「that vive」 (0:39)

ここは少しこじつけかもしれないですが、95年リリースのR.Kelly「She's Got That Vibe」の「That Vibe」を引用してそうな気がします。

■R. Kelly, Public Announcement - She's Got That Vibe (95)

5:「따라 부르는 kids on the block」(真似て歌う kids on the block)の「kids on the block」 (0:41)

 84年デビュー、94年に解散したアメリカの5人組男性グループ、New Kids On The Blockです。「Step by Step」はビルボードの全米シングルチャート第1位を獲得しました。

■New Kids On The Block - Step By Step (90)

6:「골목을 흔든 boombox」(路地を揺らす boombox)の「boombox」 (0:43)

 ラジオ付きのテープレコーダーは60年代頃生まれますが、70年代後半に高機能・多機能化しウーファーなどが付き大型化していきます。80年代に入りブレイクダンスやHiphopがはやり始めると大流行し、大型のポータブルラジカセのことをBoomboxやGhetto Blasterと言うようになります。

 これを肩に担いで大きな音を鳴らしながら歩いたり、ラップバトルやストリートダンスをする際のBGMを流すために使いましたが、騒音などの観点から公共の場所でBoomboxの利用が違法とされる地域もあったほどでした。90年代に入るとSonyのWalkmanが流行しBoomboxはあまり見ないようになりますが、Hiphop文化の一つの象徴ともされており、その後もMVやライブなどでHiphop感を表すアイテムとして使われ続けます。

 ちなみに私が所属していた大学のサークル、ソウルミュージック研究会・Galaxyにもいつからあるのかわからない、古くて大きいブーンボックスがあり、新入生歓迎会の時や、外でラップを練習する際に使っていました。

■Schoolly D - Livin' In the Jungle (89)

 ソウル・江南地区は元々は郊外の農地でしたが、63年のソウル市編入後、70年代以降にたくさんの高層マンションが建ち並びます。そこに新興裕福層がたくさん越して来ますが、80年代に入ると88年にオリンピックの開催もあり、どんどんと土地の価格が上昇し、持っていたマンションの価格が3倍近く上がるケースもあったそうです。

 歌詞の「オレンジ」は오렌지족(オレンジ族)のことを指しており、高級繁華街となった狎鴎亭(アックジョン)で、海外ブランドの服を着て外車に乗り高級カフェに出入りし、親の金で遊び回る20代の若者のことを言います。狎鴎亭は、江南の中でも特に高級デパートやブティックが多く並んでおり、現在も芸能人がよく出没する場所として知られています。

 オレンジ族の由来は諸説ありますが、当時輸入フルーツが珍しかった韓国で、外車に乗りながら道でナンパをする時にオレンジを持っていた、カフェでオレンジを丸ごと絞ったジュースを飲んでいた、カフェで好みの異性が現れるとオレンジジュースを渡していた、などが語源とされています。日本の80年代後半のバブル期のような状況ですが、日本では世間が全体的にそういうムードだったのに比べ、韓国では特に一部地域の人たちだけが成金になったため、疎まれるような存在だったとか。「オレンジ族」は、そのような過度な消費行動を皮肉る名称だったとも言われています。

8:「Here we go here we go here we go」 (1:11)

 冒頭0:18〜の「Here we go, yo, here we go, yo」がほぼ同じなので、ここから引用しているのではないでしょうか。

 A Tribe Called Questは90年代を代表する伝説のグループといわれるほどで、この「Scenario」はなんと100曲以上にサンプリングされています。
Jazzy Hiphop特集の際、Jazz Rapというくくりで紹介しました。

■A Tribe Called Quest - Scenario (91)

9:「Don't this hit 진짜 느낌 오는 jump jump」(Don't this hit マジで良い感じの jump jump) (1:20)

 Busta Rhymesの「Pass The Courvoisier Part II」から「Don't this shit make a nigga wanna (JUMP JUMP!!!!)」のフレーズをそのまま引用しています。今まで90年代で固めてきたはずなのに、ここだけ2001年リリースの楽曲なのは何か意味があるのでしょうか……。どうせなら90年代楽曲のフレーズで押し切ってほしかったです。

■Busta Rhymes - Pass The Courvoisier Part II (01)

 「jump jump」のタイミングでMVに映る、メンバーを囲った下からのアングル (1:25)はN.W.Aのアルバム『Straight Outta Compton』のCDジャケットのオマージュでしょう。

10:주머니는 헐렁했지 (ポケットはダボダボだった) (1:32)

 今まで挙げたMVを見てきた方にはわかると思いますが、90年代のHiphopファッションを指しているように思います。ちなみに、このオーバーサイズのファッションには諸説あり、体を大きく見せるためや、Hiphopをメインでやっているアフリカンアメリカンに貧困層が多く、何度も買い換えなくていいからという理由で大きな服を子どもに買い与え、お下がりを着させていたという説などがあるようです。

11:자 찍어 cheese (さぁ 撮って チーズ) (1:34)

 ここは元ネタというよりは補足になりますが、「cheese」にはHiphopスラングとして「お金」という意味があります。「Blue cheese」になるとマリファナの意味になり、90年代で挙げるならこの曲でしょうか。

■The UMC's - Blue Cheese (91)

12:Friends (1:43)

 もはや説明不要なぐらい知名度の高い、94年から04年にかけて放送された米ドラマ『フレンズ』です。

13:So let me see you do your thang (come on) (1:55)

 チーズと同じく補足ですが、「thang」は「thing」のスラングで、「Do your thang」はアメリカのHiphopに限らず、R&Bなどの楽曲でタイトルや歌詞に良く使われるフレーズです。意味は「やることやれ」や「(何かを好きに)やってろ」のようなものになります。

 一般的に「thang」は少し距離を置くようなものや概念を指し、例としては、ヒートアップした議論や面倒くさいトラブルなどが定義されるそうです。Hiphopなどの楽曲で用いられる時は、「thang」が仕事なこともあれば性行為などの卑猥な意味のこともあり、いろいろな解釈ができるようなフレーズです。

 「90's Love」の文脈では「들어 봐 DJ drops it」(聞いてDJ drops it)や「feel a way」、「이 밤은 짧기에」(この夜は短いから)とあるようにクラブで踊っているようなイメージでしょうか。ほかにもいろいろ考えられるとは思いますが……。90年代に絞るとこの「7Mile」の曲が思い浮かびます。「恋人が離れていってしまいそうで悲しいけど、放っておかないと(あなたが好きなようにさせないと)  でもやっぱり無理だ もう一度チャンスをくれ」という恋の歌です。

■7 Mile - Do Your Thing (98)

14:코스모를 느낀 거야 난 (KOSMOを感じたんだ僕は)の「코스모」(KOSMO) (2:47)

 86年から90年にかけて週刊少年ジャンプで連載された聖闘士星矢に出てくる小宇宙(コスモ)でしょうか…?一般的な宇宙を表す場合「cosmo」ですが、公式MVの日本語字幕が「KOSMO」になっており、途中出てくる「광야」(広野)も日本語字幕では「KWANGYA」となっているため、固有名詞な気もします。「KWANGYA」に関しては少し前にリリースされたaespaの「Black Mamba」の歌詞にも同じ表記で出てくるため、SM Entertainmentの考えている何かの繋がりがあるのではと言われています。

 それではビジュアルの解説に入りたいと思います。全部で8つのモチーフを取り上げます。ただファッションの事に関してはあまり詳しくないので参考程度にどうぞ。

1:アイスホッケー

 全編を通してアイスホッケー場が舞台になっていますが、アイスホッケーはアメリカでは野球やバスケ、アメフトに並ぶ4大スポーツの一つです。カナダ発祥のスポーツとされており、80年代までホッケージャージをファッションとして着ていたのは白人(主にカナダ人)でしたが、80年代後半からHiphopファッションに取り入れ始められます。

■Audio Two - Top Billin' (87)

 14秒ぐらいに映る、Audio Twoのメンバー、Kirk "Milk Dee" Robinsonが着ている、白地に肩のところに赤いラインの入ったジャージがモントリオール・カナディアンズのユニフォームです。ちなみに、現在のモントリオール・カナディアンズのユニフォームは赤地に青のアクセントの入っているもので、「90's Love」の衣装に少し似ています。ニューヨーク・レンジャーズのユニフォームが青地に赤のアクセントが入ってるものなので、この辺りにもインスパイアされていそうです。

 94年頃からSnoop DoggやA Tribe Called Questなどの人気ラッパーたちがアイスホッケーのユニフォームを着始めます。直接的な理由はわかりませんが、ユニフォームの原色デザインが90年代の原色で色とりどりなファッショントレンドに合っていたことや、バスケなどでもそうですが、地域毎にチームが存在するためHiphopのレペゼン文化()に合っていたのではないでしょうか。Snoopは大のアイスホッケーファンといわれており、さまざまなチームのユニフォームを着ていますが……。

レペゼン文化:地元のことを歌詞に入れたりして地元愛、地元を代表していることを表す。N.W.Aの「Straight Outta Compton」から始まったと言われている。

■Snoop Dogg - Gin And Juice (94) :ピッツバーグ・ペンギンズのユニフォーム着用

■A Tribe Called Quest - Oh My God (94) :ニュージャージー・デビルスのユニフォーム着用

 98年にはニューヨーク・クイーンズ出身のグループOnyxが客演を迎えホッケー選手に変身し、白人チームと戦うというコンセプトのMVの「React」をリリースします。

■Onyx - React (98)

 「90's Love」のアイスホッケーコンセプトは上記から引用しているのもあると思いますが、同じように韓国でも当時のアメリカのファッションを取り入れた、前述のH.O.Tがアイスホッケーユニフォームで披露した「Candy」という曲があります。

■H.O.T - Candy (96)

 90年代後半の韓国ではソテジワアイドゥルが大流行したこともあり、いわゆるアイドルと呼ばれるような人たちがHiphop感のあるコンセプトをやることが珍しくありませんでした。一方で、引用元のアメリカでもHiphop関係なく最前線のアイドルがこのような雰囲気だったので、正直どちらの文脈なのか判断がつかないところではあります。

■서태지와 아이들 (Seo Taiji&Boys) - 컴백홈 (Come Back Home) (95)

■Backstreet Boys - Get Down (You're The One For Me) (96)

 またマークが整氷車の上に乗っているカット(0:31〜など)は、ごく最近のものですがこのMVが思い出されます。

■Cashmere Cat, Major Lazer, Tory Lanez - Miss You (18)

2:赤い衣装 (0:17〜)

 90年代で真っ赤な服装と言えば、ストリートギャングの「Bloods」(ブラッズ)が思い出されます。

 69年にカリフォルニア州ロサンゼルスで結成されたストリートギャング「Crips」(クリップス)は数々の暴力事件を起こし、それに対抗するため、アメリカ各地のギャングが結集し、同じくロサンゼルスで72年に結成されたのが「Bloods」(ブラッズ)です。前述のSnoop DoggやNate Dogg、Eazy E、WCなどはクリップスに所属しており、The GameやCardi B、DJ Quikなどがブラッズに所属していました。

 当時、ギャングを含む貧困層は安いからという理由で、白いTシャツにデニムジーンズというスタイルをしていましたが、クリップスの人たちがたむろしていると、デニムの青色のせいで「いつも青い服を着ている集団」として見られるようになります。中には、ジーンズに合わせて顔を隠すために青いバンダナをマスクとして身に付けている人もおり、クリップスには「青」のイメージが付きます。

 対抗してできたブラッズは、名前の血を意味する「Blood」から赤色のものを身につけるようになります。ほかにもクリップスが腰の左側にバンダナを垂らすのに対して、ブラッズは右側に垂らしたり、お互いの頭文字のBとCの存在を認めていなかったり、たくさんのルールがあります。DJ Quikは「Quick」が本来のつづりですが、ブラッズなのでCを抜いた「Quik」になっています。

 当時、ブラッズ内でMexican hat danceを取り入れた踊りが「Skip Walk」と呼ばれており、ライブなどで披露されていましたが、それを見たクリップスのメンバーがSkip Walkを取り入れステップを少し変え「Crip Walk」(C-Walk)というダンスを作ります。対してブラッズはSkip Walkを改め「Blood Walk」(B-Walk)とし、お互い自分たちだけのステップを定義します。

 WCのMV内1:30〜C-Walkのステップが出てきます。段々とステップに儀式的な意味がついてきて、抗争などで勝利を知らしめる際に行うものなっていきます。相手の血をつま先に付け、「C」の文字を地面に書いたのが始まりとされていますが、アメリカの場所によってはC-Walkをすると傷害事件などに発達することもあり、地域や規則によって禁止されているところもあります。

■WC - The Streets ft. Snoop Dogg, Nate Dogg (02)

 細かいですが、本当に90年代のこのようなカルチャーに則るのであれば、赤を基調とした衣装に青のジャケットを合わせるのは正直どうなんだろう……と思ったりはします。

3:カラフルな衣装 (0:26〜)

 このカラフルな衣装を着用しているパートは、ここまでのようにストレートに90年代を引用するというよりも、カラーリング、シルエット、アクセサリーなどで"90年代のイメージ"を再解釈した、現代的なスタイルに感じます。

 というのも、それ以外のシーンは皆Air MaxやAir Jordan、Air Forceなどを履いて、CarharrtやRaf Simonsなど昔からのブランドのものを身につけていますが、このシーンではヘチャンがCOMME des GARÇONSとASICSのGEL-Lyte IIIという今年発売されたスニーカーを履いていたり、マークが03年にできたBillionaire Boys Clubの今年発売されたシャツを着て、ソンチャンがRhudeという13年に誕生したブランドのポロシャツを着ています。

 90年代で、あえてこのようなカラフルでごちゃごちゃしたファッションを挙げるとすれば、80年代後半〜90年代前半にかけてのこの辺りでしょうか。

■Salt-N-Pepa - Push It (86)

■DJ Jazzy Jeff & The Fresh Prince - Parents Just Don't Understand (88)

■TLC - Ain't 2 Proud 2 Beg (91)

 「90's Love」のリレーダンス動画でジェノやヘチャンがTommy Hilfigerの服を着ていますが、Tommy Hilfigerも90年代に人気を博したブランドで、当時R&Bシンガーとして大人気だったAaliyahが97年に広告塔としてCMに出演しています。

 ちなみに、またもや細かいことを言い出すと、赤い衣装でヘチャンが履いている青いソールのスニーカーはSankuanzという、08年に中国・アモイで設立されたブランドのものだったり、ジェノのシャツはバレンシアガだったり、ウィンウィンのTシャツはAPEだったりするので、今までの話なんだったんだ感が少しあります……。

 カラフルな衣装でテンが履いているスニーカーです。エアマックスの初代は87年に発売されますが、名前通り95年に発売されたエアマックス95の人気は凄まじく、日本でもプレミアが付きエアマックス95を履いている人を襲撃してスニーカーを奪い取る「エアマックス狩り」が頻発します。

5:3Dゲーム画面、キャラクターの登場 (1:01〜)

 90年代のテレビゲーム引用はもちろんのこと、最近SM Entertainmentが動かそうとしているアバタープロジェクトに関係がありそうな内容です。

6:コラージュエフェクト (1:23〜)

 冒頭のジェノが出てくる部分にも一瞬ありましたが、ここは90年代ドラマのオープニングでありそうな映像エフェクトが使われています。直接的なものを見つけられませんでしたが、イメージ的にはこれとかが近いのではないでしょうか。

■Saved by the Bell: The New Class Season 1 Opening (93)

7:NINTENDO64 (1:51〜)

 私は完全にNINTENDO64世代で、弟にスマブラやゼルダ、マリカーなどを一緒にやらされていた人間なので懐かしいな……という印象です。NINTENDO64はスーパーファミコンの後継機として96年に発売されました。

8:黒い衣装 (2:13〜)

 前身黒ずくめのファッションは90年代Hiphopではよくあるものですが、インナーに白Tシャツを合わせているものだと、何度も名前を出しているN.W.Aのイメージが一番近いような気がします。

■N.W.A. - Express Yourself (88)

 またそのファッションに身を包んで複数人で踊るとなると112が思い出されます。

■112 - It's Over Now (01)

 解説としては以上です。

 冒頭の引用した公式からの曲解説文に「ニュートロ」という言葉がありましたが、NewとRetroを組み合わせた造語で、韓国では2018年半ば頃から使われるようになったそうです。私が初めて聞いたのは、DIAのアルバム『Newtro』がリリースされることになった19年前半でしょうか。

 ニュートロとレトロの音の違いについては言葉でうまく説明できずにいましたが、12月2日に出演した『アフター6ジャンクション』(TBSラジオ)でRHYMESTER・宇多丸さんに、ニュートロについて「シンセの鳴らし方にてらいがない」「Trapなどまで行き着いた後の3周して戻ってきたビート」「タメがなくビートが始まっただけで半笑いしてしまう感じ」という説明をしていただき、なるほどなと納得しました。

 「90's Love」は「ニュートロ」ということを加味すると、90年代のさまざまな要素を取り込んで、現代風に昇華できているのではないでしょうか。

 実は「90's Love」の楽曲がリリースされる前に、メンバーたちが赤い衣装を着たティーザー画像だけがアップされ、それを見た私は、少し雰囲気がキレイすぎるしシルエットが細いなと思い、「ツメが甘くない?」というツイートをしました。その時は単純に、90年代コンセプトをやるんだ! と思っていたのでそのような印象を持ったのですが、ニュートロコンセプトをやる場合、どれぐらい引用元の時代を盛り込むのか、どれぐらい現代っぽくするのかのバランスがとても難しいと思っています。

 さらに、引用するコンセプトの文化や国・地域などの背景まで考えると、文化の盗用の話も出てきそうで、同じくNCT Uの「Make a Wish」などは相当問題になりました。一方で「90's Love」は、アフリカンアメリカンカルチャーをここまで引用しているのに、今回はいいんだ……と変な気持ちです。変に騒ぐのも良くないと思いますが。

 また、K-Popは突然、前触れもなくガラッと違うコンセプトをやることが一般的ですが、NCTに関しては人数が変化することも考えると、メンバーの組み合わせがほぼ無限にある状態なので、今までやってきたことや文脈、それをこなすメンバーのことを考えると、余計にコンセプトの選択が難しいとも思います。

 今まで紹介した80年代後半〜90年代にかけてのNJSやHiphopは「カッコいいダサさ」があると個人的には思っているのですが、「90's Love」は漠然とそれとは違ったダサさが出ていると感じていて、個人的にはもう少しだけ、90年代の要素がしっかり盛り込まれていたほうが、より好みだったとは思いました。

 例を挙げるなら、EXOの「Ya Ya Ya」などは公式でSWVの「You're The One」をサンプリングしていると明かしているので、Busta Rhymesのラインなどは、そのまま引用したほうがインパクトがあったのではないでしょうか(そもそも90年代リリースではないですが……)。

 今までの連載を見てきている方にはわかると思いますが、Hiphopはサンプリング文化なので、そのような部分も含めて90年代を存分に引用したらより面白かったかもしれないです。

 今回の特集は、絶妙にさまざまな要素が混ざり合っていたため、音楽的な部分の解説にかなり手こずったこともあり、友人の渡邉千尋さんtheoria.さんに少し繙きを手伝ってもらいました。渡邉千尋さんは、私とは全く違った視点から広くK-Popについてブログを書いていて、theoria.さんは韓国でトラックメイカーとして活動しつつ、케이팝애티튜드(KPOP ATTITUDE)というクルーを運営し、K-Popパーティの開催や、楽曲レビュー投稿をしています。

落選したけど……紹介したい1曲

■BAE173(비에이이173) - 반하겠어(Crush on U)

 POCKETDOL STUDIO所属、9人組ボーイズグループ「BAE173」(ビーエーイー イルチルサム)のデビュー曲「반하겠어」(パンハゲッソ、惚れそうだ)です。

 11月19日がデビュー日で、現在音楽番組などに出演しながら絶賛活動中です。POCKETDOL STUDIOという事務所は、KBSで放送されたアイドル再起プロジェクト番組『THE UNIT』の製作のために、MBK EntertainmentとInterpark(書店やチケット販売などを行うエンタメ企業)が共同出資で設立した会社です。

 Mnetのサバイバル番組『PRODUCE X 101』から誕生したX1というグループに選ばれたメンバーが2人いましたが、PRODUCEシリーズの投票操作などの影響でX1が解散してしまったため、思ったより早くグループとしてデビューすることになりました(その2人はH&Dというユニットで先にデビューし半年程度活動していたので、このタイミングで9人組でデビューするのは少し驚きました)。

 この曲について言いたいことは、2015年頃にSEVENTEENにハマった人間は絶対に聞いてくれ! です。そんな人が今この記事を見てるのかどうかわかりませんが、曲やコンセプト、ステージなどが完全に「아낀다 (Adore U)」と「만세(MANSAE)」など初期のSEVENTEENから影響を受けています。曲を聞いただけではそこまで思いませんでしたが、たまたま音楽番組のステージを見て、これは!!!!! となりました。

 ということでここまでで気になった方は是非11月22日の音楽番組、人気歌謡のステージをご覧ください。

 実はMBKという事務所にあまり良い印象がなかったので頑張って欲しい! という気持ちでいっぱいです。

<近況>
2年ぶりぐらいにTBSラジオに出演しました。20分でDJセットを組むのは本当に大変です……。そして12月中と1月上旬に、もしかしたら何かあるかもしれません…。

e_e_li_c_a
1987年生まれ。18歳からDJを始めヒップホップ、ソウル、 ファンク、ジャズ、中東音楽、 タイポップスなどさまざまなジャンルを経て現在K-POPをかけるクラブイベント「Todak Todak」を主催。楽曲的な面白さとアイドルとしての魅力の双方からK-POPを紹介して人気を集める。

Twitter @e_e_li_c_a TodakTodak 
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