ペット禁止物件に響く「ワン」の声 賃貸物件の元気な「コーギー」に住人は困惑

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2020年12月04日 10:11  弁護士ドットコム

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「ペット禁止」を掲げる賃貸マンションに引っ越した会社員のアオイさん(30代女性・神奈川県在住)。引越しの挨拶に隣人の家の呼び鈴をならすと、玄関からコーギーがあらわれ、「ワン」と出迎えられました。


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アオイさんが驚いた表情で犬を見ていると、隣人は「この子うちの犬よ、かわいいでしょ。いまの時代、ペット禁止にしているマンションの方が悪いからね」と悪びれることなく話したそうです。



さらに、「みなさん金魚やウサギを飼っていらっしゃるわよ。ようは迷惑かけなきゃいいのよ。あなたも何か飼ったら」とすすめてきました。



ペット禁止の物件では、どのようなペットも飼ってはならないのでしょうか。また、ペットをこっそり飼っていることがバレた場合、退去することになるのでしょうか。五十部紀英弁護士の解説をお届けします。



●「ペット禁止」の賃貸物件では、どんなペットもダメなの?

ーー「ペット禁止」という条件を受け入れて入居した場合でも、小動物などであれば飼うことは許されるのでしょうか。



借りているマンションやアパートで動物を飼うことができるかは、「賃貸借契約」によって決まります。多くのマンション、アパートは、契約書においてペットの飼育を禁止していますので、ペットを飼育することはできません。



中には、「ペット飼育可」、「ペットOK」等の記載があるマンションやアパートもありますが、このような物件であれば、動物を飼っても良いという内容の賃貸借契約を交わすことになりますので、マンション、アパート内で動物を飼育することは可能となります。



問題となるのは、「ペット」がどこまでの動物をいうのか、魚・虫が含まれているかということですが、賃貸借契約書あるいは規約に「犬」や「猫」といった種類が特定しておらず、ただ一律に「ペットの飼育を禁止」と種類が特定していない場合は、あらゆる生物の飼育が禁止と解釈するのが原則です。





なぜならば、ペット飼育禁止の規定は、ペットを飼育することによる騒音や臭い、害虫の発生、万が一ペットが逃げ出したときのトラブル、退去時の原状回復が困難であることなどをあらゆる点を考慮し、作られているからです。



その他、動物アレルギーをお持ちの方は、ペット禁止である物件を選択して住んでいることもありますし、「この位のサイズなら大丈夫だろう」と自己判断で小動物や昆虫といった生物を飼育すると、様々なトラブルが発生する可能性もあります。



もっとも、オーナーや管理組合・管理会社の許可を得れば、飼育することが可能なこともありえますので、決して「この位は大丈夫であろう」と自己判断をせずに、きちんと確認を取るようにしてください。



ーー盲導犬や介助犬はペットにあたるのでしょうか。



盲導犬に関しては、身体の一部でありペットには該当しないという見解が強いです。



2002年に施行された身体障害者補助法の流れを受けて、国土交通省が公開しているマンション管理規約のサンプル集の改正版にも、ペット飼育禁止の箇所にも「身体障害者補助犬法に規定する身体障害者補助犬(盲導犬、介助犬及び聴導犬)を使用する場合は、この限りではない」と明記しております。



●ペットの飼育がバレたら退去になる?

ーーペットの飼育を禁止するマンション、アパートでペットを飼ったことが発覚した場合、出ていかなければならないのでしょうか。



結論は必ずしも出ていく必要はないということになります。



賃貸借契約を解除するためには、貸主と借主の「信頼関係が破綻(はたん)」したといえる状況が必要です。



たとえば、借主が賃料を何カ月も払わなかった場合は「信頼関係が破綻」したとして、賃貸借契約を解除することが認められます。



ペット禁止のマンション、アパートにおいてペットを飼ったとしても、契約内容には反するものの、信頼関係が破綻したとまではいえないとして、賃貸借契約の解除を認めなかった裁判例があります。そのため、必ずしも出ていく必要はないということになります。



小動物や観賞用の魚等であれば、賃貸人や他の住民に損害を与える可能性が低いといえるでしょう。そのため、飼育したとしても信頼関係が破綻したとまではいえず、出ていく必要はないと判断される可能性が高いと思われます。



●ペットOKのマンション、アパートならば何を飼ってもOK?

ーーでは、ペットOKのマンション、アパートであれば、どのような種類のペットでも飼うことはできるのでしょうか。



いくらペットOKの住宅だからといって、たとえばゾウを飼われた場合は臭いや騒音など、隣の人にとってはたまったものではありません。また、原状回復が困難になってしまう可能性もあり、大家さんにとっても大打撃を受けることになります。





そこで、このようなトラブルを防ぐために、契約書においてどのような動物まで飼ってもいいか決めたり、契約書とは別に「ペット飼育に関する覚書」を作成したり、「ペット飼育規則」を定めたりすることが多くあります。



この中では、飼育して良いペットの種類、数、大きさを定めたり、糞の処理方法や予防接種の方法、クレームが出たときの手続等が定められます。



●「ペット可」物件でもルールは守って

ーー最後に、ペットを飼うときの注意点について教えてください。



ペットを飼ってもいいとするマンション、アパートでも、前述の「ペット飼育に関する覚書」や「ペット飼育規則」等のルールを守る必要があります。



ルールを守らずにマンション、アパートの住人に損害を加えた場合、その住民に損害を賠償する義務が発生する場合があります。



また、飼っているペットが、マンション、アパートの他の住民に噛みつく等の危害を加え、その住民が引っ越してしまった場合、賃借人は賃貸人に対して、その住民が引っ越さなければ得られたはずの賃料相当額を賠償する責任があるとした裁判例もあります。



ある有名人夫婦が高級マンションにおいて飼育していたペットに関する裁判例なので、目にしたことがある方も多いかと思います。



ペットOKのマンション、アパートにおいても、ペットの飼育は、他の住民の迷惑にならないよう十分注意しておこなう必要があるということになります。




【取材協力弁護士】
五十部 紀英(いそべ・としひで)弁護士
弁護士法人アドバンス代表弁護士。第一東京弁護士会、日本マンション学会、スポーツ法政策研究会などに所属。日本プロ野球選手会公認代理人。法人・個人を問わず、あらゆる方が抱えるリスク・トラブルに対し、常にクライアントの側に立って向き合うことをモットーにしている。
事務所名:弁護士法人アドバンス
事務所URL:http://advance-lpc.jp/


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