「切り替えたくても切り替えられない」スーパーGT最終戦チェッカー手前で敗れた平川亮が迎える、SF鈴鹿2連戦

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2020年12月04日 16:01  AUTOSPORT web

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鈴鹿2連戦を迎えるスーパーフォーミュラ。平川亮がGTの悔しさを晴らせるか
スーパーフォーミュラのチャンピオン争いの佳境を迎える鈴鹿での第5戦、第6戦のワンデー開催2連戦。ランキングトップで迎える平川亮(ITOCHU ENEX TEAM IMPUL)はどのような心境で週末を迎えるのか。あまりに劇的な幕切れでタイトルを逃した前週のスーパーGTから話を聞いた。

 ファイナルラップの最終コーナー立ち上がりまでトップを守り、スーパーGTチャンピオンを目の前にしながらガス欠で2位となった平川亮。あの歴史的なレースをどのように振り返るのか。

「まあ……残念でしたよね。それ以外の言葉はないです……残念」

 絞り出すように最初の言葉を残したあと、後半スティントについて聞くと、平川はせきを切ったように話し始めた。

「燃費走行はしていなかったです。走っているときもチームからそういった話はなかったですし、むしろ燃費は全然大丈夫で余裕があるという感じでもあったので、燃費がしんどいというのはなかったですね。最後の2周くらいで『ロー・フューエル』という燃料アラームが点いたんですけど、チーム側も、そのアラートは間違っているという認識でした。だけど、実際にはクルマ側が正しかった。そこがどうしてそうなってしまったのか、ちょっと分からないですね」

 後半スティントの平川は、走り初めで2番手に15秒近いギャップを作り、RAYBRIG NSX-GTの山本尚貴が2番手に上がった段階でも13秒の余裕があった……ように見えたが、実は平川にはあまり余裕はなく、ラップタイムは不安定な状況だった。

「ピックアップでしたね。ものすごかったです。なんでこんなにすごいことになっているんだと。そこは余裕がなかったです。今までで一番きつくて、フロントが特にひどかったですね」

「今回、ブリヂストンのGRスープラ全体でピックアップが多かったみたいですけど、後半はものすごく気をつけていても全然ダメでした。そんなにピックアップが付いたのは初めてだったので驚きました。寒い気温のなかでのレースだったので、タイヤかすがすごく出ていて、少しでもラインを外したら付いてしまいますし、自分のも取れませんでした」

「走りながら終盤は原因がなんとなく分かったので、なんとかフロントのピックアップを阻止しながら走っていました。そこで最後の3周のときにはうまくGT300にも引っかからずにきれいなラインで走れて、1分30秒台(それまでは1分32秒台〜)のタイムを出せた」

「そこまではすごく苦しくて、100Rで詰まったり、コーナーの入口でGT300と抜ける/抜けないとかあったんですけど、残り3周のところで後ろの100号車と少し差を広げることができた。そこで『キタな』という手応えはありました。1周まるまる引っかからずに単独走行みたいに走れた。それなので、余計に……」

 実際にガス欠の症状が出たのは、最終ラップ第3セクター登りのGRスープラコーナーだった。

「GRスープラの立ち上がりで1度、駆動がなくなって、最終コーナーを立ち上がったときにはなくなっていました。それでもエンジンが切れるほどではなくて、ボ、ボ、ボという感じでちょっとだけ進んでくれたので、まだリタイアにならなくてよかった。もっと手前で出ていれば完走できなかった可能性が高いですから。まだツイていたのかな」

「でも、タラレバを言ってもしかたないですけど、燃料のアラームが点いてからでも燃料をセーブしていれば、チェッカーまで保ったと思います。最後の3周前くらいにアラームが一瞬点いたり消えたりしたんですけど、そのときはセンサーのトラブルかなと思っていた」

「そのあと残り2周くらいからずっと点いたので、そこからでもセーブしていれば……それこそ200ml、この(手に持った)レッドブル缶くらいの燃料があれば……レースは道具を使っているのでしかたがないですけど。なんで最後の最後でああいうトラブルなのか、ミスなのかが出てしまったのか。そこは残念ですよね」

 あと数百メートルで手にできたはずのチャンピオンの称号。レースを終えた後、平川はSNSでタイトルを獲得したRAYBRIG NSX-GTの山本尚貴、牧野任祐を讃えてはいたものの、本心としては当然、悔やみに悔やんでいた。

「普通に生活はしていますけど、トレーニングとかはする気にならなかったですね。あのあとは(レースに関する報道は)何も見ていないです。SNSとかでも記事が挙がるので、あまり見たくなかったです」

「切り替えようとしても切り替えられない部分があって、寝ようとしたら、そこでもやっぱり(燃料を)セーブしておけば良かったとか、いろいろ考えちゃう。セーブしていれば(最後まで)もったのに……最後の最後にスープラが弱いところを出してしまった。セーブなんて簡単にできたのに……余裕でセーブできたのに。そこがなんでなのか……」

「2年前は(ジェンソン)バトンを抜けずに終わって、去年はほぼ決まったと思ったところで6号車が来て、今年は99パーセント以上決まったというところにきてダメだった。今年のは運ではないので残念です」

 今年デビューしたスーパーGT500クラス、クラス1仕様のGRスープラには、平川も開発ドライバーのひとりとして関わってきた。それだけに、トヨタ陣営全体の期待と失望を十分過ぎるほど感じていた。

「スープラの開発にも最初から携わらせてもらいましたし、開発スタッフの苦労も見てきて知っていました。もちろんトヨタも新しいスープラで初年度にタイトルを獲りたいという思いもあったし、37号車もこれまでの歴史というか、この2年(ランキング)2位、2位で来ていた。いろいろな想いがあって、最後の最後でこういう形になるとは思ってもいませんでした」

 それでも、翌週にスーパーフォーミュラのレースがあることは、平川にとっては幸運だったようだ。

「気持ちを切り替えるのは無理ですけど、逆にレースがあるので、切り替えざるを得ない。変に引きずらなくてすむ。レースがなかった方が辛かったと思います。そこは助かった部分があります」

 スーパーフォーミュラでも、2位に11ポイント差のランキングトップに立つ平川。スーパーフォーミュラのシーズンは今週末を入れて残り3戦。この鈴鹿2連戦が最初の天王山となる。

「今週でシリーズの大勢が決まりそうな感じがありますが、スーパーフォーミュラの鈴鹿で結果がよかったことはないです(苦笑)。山本(尚貴)選手とかホンダ勢が鈴鹿は速いと思いますが、ニック(キャシディ)も去年、鈴鹿で速かったですし、厳しい状況ではあるけど逆にチャレンジャーとしてやれるので、どこまで行けるのか、思い切ってやろうと思います」

 1週前のスーパーGT最終戦で、まさに奈落の底に落ちることになってしまった平川亮。しかし、スーパーGT、そしてスーパーフォーミュラの両カテゴリーでランキングトップに立ち、チャンピオン争いができる環境にいることはドライバーとしてはこれ以上ない恵まれた状況でもある。

 どん底にいる平川が劣勢のスーパーフォーミュラ鈴鹿でどのような走りと結果を残すのか。平川が新しい試練に挑む。

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