超人気スープ作家が誕生するまでーー有賀薫インタビュー「“スープで料理が楽になる”を発信した」

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2020年12月12日 00:31  リアルサウンド

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 「日本をスープの国にする」という大いなる野望を掲げて、著作やSNSでスープの魅力を発信し続けてきたスープ作家・有賀薫が今、大ブレイク中だ。10月24日に発売され、すぐに増刷した『朝10分でできる スープ弁当』では、職場や学校に通う合間に保温調理が進むスープジャーを用いたレシピを中心に、60ものスープ料理を新提案する。今回のインタビューでは、身も心も温まるスープ弁当のレシピづくりから、現代社会におけるスープの役割、自身のバックグラウンドまで大いに語ってもらった。(大信トモコ)


参考:時短レシピ本、本当におすすめなのは? 現役主婦ライターがレシピを実践


■「しっかり食べるスープ」っていう感覚です


――スープジャーを使った弁当づくりを提案しようと思ったきっかけは?


有賀:まず、「朝の短い時間に作りたい」というのがあって。「スープジャー」はスープや料理を保温したまま携帯ができる、小さなステンレスジャーです。材料をさっと蒸し煮するか煮立てて、スープジャーに入れておく。そうすると、ジャーの中で自然に煮えていくという。根菜などの煮えにくい野菜はもちろん、お米やパスタを硬いまま入れても、スープジャーを持ち歩いている間に時間が調理してくれるから、忙しい方には本当にぴったりだと思うんです。保温調理は鍋調理と違って対流が起こらないので、煮崩れもしません。


お弁当に限らず、お家にいるときでも、朝スープジャーに仕込んでおけば、「昼ご飯どうしよう?」と考えなくていいし、子どもの塾弁とかいろんな用途があるのかなと。スープジャーに入れた時点で食べられるレシピも入っています。


――レシピはどのように考えたのですか?


有賀:みなさんが普段食べているおなじみの野菜を、何パターンかで食べられるようにと考えました。ねぎ、小松菜、かぶなど、どのスーパーでも絶対に売っている野菜しか使っていないです。レシピは、ゆるーく「基本」と「バリエーション」という構成にしてあります。玉ねぎなら「基本」のオニオンスープがあって、そこにパンをのせる。にんじんなら「基本」はにんじんとサラダチキンのシンプルなスープで、「バリエーション」ではちょっとカレールーとパセリを足してカレースープにしたり、お揚げやごま油を入れて和風にしたり。にんじんで何か作ったら、次の日もにんじんって冷蔵庫にあるから使いたいじゃないですか?


――たしかに、にんじんを1本だけ買うことってあまりないですね。具材となる野菜を季節ごとに分けて掲載したのは、やっぱり旬を味わってほしいからですか?


有賀:旬の野菜を食べることがいちばん簡単で、経済的で美味しく食べられます。年中出ている野菜でも、旬が一番おいしいです。例えば、ほうれん草って冬の野菜ですけど、季節外れの夏のほうれん草は別物だと思ってほしい。そのぐらい味も違います。旬の野菜の旨味を使うことで、スープの中に力を溜めていくというか、美味しくなる。


――この本と共に四季を歩めば、身体にもいいわけですね。


有賀:そうです(笑)。使い慣れていない野菜もぜひ食べてほしいです。スープだったら取り入れやすいですよ。野菜の話をしましたけど、若い方たちに「会社でどんな風にごはん食べてる?」って聞くと、「デスクで食べてる」って人が多い。パソコンの画面を見ながらとか。パンやおにぎりのような簡単なものというイメージを持ちました。お昼がそれで、朝を抜いたりする人が多い。夜は飲みにいくとなると、ちゃんと食べられる食事が一日のなかのどこにもなくなってしまう。そこで、スープジャー弁当を1個持っていくことで野菜や肉や魚がある程度しっかりとれる、ということを前提にしました。スープといっても、もう煮物に近いぐらい具がギシギシに入ってます(笑)。


――なるほど。確かに本書のレシピはどれも、汁が見えないぐらい具だくさんですね。


有賀:「食べるスープ」という感覚です。汁物として味噌汁などを入れて持っていく方がいるけれど、私のスープはどちらかというとメインのおかず。中食、外食でいちばんとれないのが野菜。そこを担うようなものというのが最初にあったんですね。具はぎっしり、リーズナブルで使いやすい野菜がたっぷり、栄養がとれるような中身にしようと決めていきました。小食の女性だったらスープだけでお腹いっぱいになる、それぐらいのイメージで作っています。


――汁物としてのスープから、しっかり食べるスープへ。スープ観がガラリと変わりそうです。缶詰を使った「豆とミートソース缶のクイックスープ」など、お手軽レシピも載っていますね。


有賀:私はこうしたクイックレシピも好きなんですよ。ミートソース缶とミックスビーンズ缶をじゃーって鍋に空けて、煮立てるだけ。牛乳をちょっと入れると缶の臭いを取ってくれます。これにキャベツを入れたら、ミネストローネになったりもします。忙しい朝なので、缶詰やレトルトなどを利用したらいいと思うし、野菜を加えることで出来合い感が薄まります。


■スープを作ることで、家庭料理がうまく回る


――そもそも有賀さんが、スープづくりを始めたきっかけは何ですか?


有賀:息子の受験期に「朝にあったかいものがあればいいな」と思い、スープを作り始めたんです。作り始めてみたら、生活がすごく楽になった感じがしました。スープは出汁をしっかり取らなきゃいけないとか、コトコト何時間も煮るという手間暇かけるイメージが強いですけれど、もともと私の母が、クイックスープをよく作っていたんです。ちょっとキャベツとベーコンを炒めて、ブイヨンキューブを入れるとか、卵スープとか簡単なスープですね。


――なるほど。有賀さんのスープ料理の原点は、家庭で出されていた日常的でシンプルな料理にあるわけですね。


有賀:私の実家は来客がとても多い家でした。親戚も近くに住んでいて年がら年中、人とごはんを食べているような環境だったんです。常に食べ物がありました。食事を出して、食卓を囲んで、みんなで食べて。そういうことがすごく楽しくて、いい思い出がいっぱいあります。その「一緒に料理食べるの、楽しいよね」という感覚を、うまく伝えていけたらいいと思っています。


――伝わっていると思います。


有賀:そもそも家庭料理にレストランのような美味しさを求めていないんです。うちでは母親が来客に「普通のご飯」を出していたんですよ。湯豆腐や野菜炒め、ご飯と味噌汁(笑)。でも、それでちゃんとお客様料理になっていました。お正月のときみたいなハレの日は、それこそ腕まくりしてごちそう作ったりしてるんだけど、それはそれ。


 今はSNSを見ていても、ハレの日の外のごはんと家のごはんが混ざってしまっている印象があります。例えば、Instagramでアップする綺麗な料理写真を見て「ここまでやんなきゃいけないの?」って焦っちゃう人がいます。みんなが家庭料理を誤解しやすい時代なんだと思います。でも、本当はそこまでやらなくてもいい。だから私は「これでいいよ」というメッセージを発信したいなと。「野菜煮て、塩入れると美味しいんだよ」と。


まずはいったん、おうちごはんのホームベースみたいなものをしっかり作ったほうが幸せに暮らせるだろうなと思います。そぎ落としたシンプルなものでも美味しいということがわかれば、あとは好きなものを入れて自分のやりたい方向に広げていけばいいのですから。スープ弁当も人に食べさせるものじゃないし、自分でお昼に食べるものだったら見た目はさておき、あったかいものを野菜たっぷりで食べられることが幸せって思ってもらえると嬉しいです。


――もっと肩の力を抜いてもいいよ、と。


有賀:スープも味噌汁感覚で作ればいいんです。味噌じゃなくて、塩を入れればスープです。そこに季節の野菜を取りこんだり、ちょっと調味料を切り替えてみたりスパイスを変えてみたりすると、無限にできる。そういう簡単なスープは、無理もないし、なおかつ、そうやってスープ生活をしていると、ごはんの調理が楽になる。残り物があったら入れちゃえみたいな感覚もありますし、例えばお肉がちょっとしかない場合、みんなで分けて焼き肉だったら惨めな感じになっちゃうけど、豚汁とかにすれば経済的。それから、今の時代、みんなの帰宅時間が違っていて、遅く帰ってくる人がいたりする。そういうときにスープを作っておけば、パっとあっためて、温かくて美味しいものが出せる。あるいは朝とか夜とかにたっぷり作っておいて、あとあと自分が楽できる。味が濃ければお湯で薄めればいいし(笑)。これが例えば焼き魚とか炒め物だと、なかなかそうはいかないものですよね。こんなふうに、スープは作る側にも懐の広さを見せてくれるんです。


お家の料理って、朝昼晩、朝昼晩、って延々と続くじゃないですか。回していく持続性みたいなものが家庭料理には非常に重要で、そこに合理性があるのがスープだなと考えています。スープを作ることで、料理がうまく回る。それをSNSで発信していってたら「面白いね」みたいになっていったんです。


■あったかいものを野菜たっぷりで食べられる。それで、じゅうぶん幸せ


――SNSを経て、いよいよスープ作家・有賀薫が誕生するわけですね?


有賀:SNSに出していて、一年経ったときに写真をまとめて『スープカレンダー展』という展覧会をやったんです。365日ぶんをカレンダーみたいにして、デザイナーさんにちょっとデザインしてもらって、ギャラリーの壁に貼って展示したんです。


――そこが大きなターニングポイントになったのですね?


有賀:やっぱりスープの持つ力が大きかったかもしれない。スープって、みんながホッとしたりなごんだり、「自分はこういうのを食べたよ」とか何か言いたくなる。来てくださった方たちの会話がすごく弾むのを見ていて、「スープって、なんかいいなあ」と思いました。その展覧会をきっかけに、雑誌で取材していただいたり、レシピのお仕事ももらったりするようになって、これはちょっと真剣にやろうかな?と思うようになりました。それで、2014年ぐらいから、本を出したいと思って、いろんな出版社に掛け合ってみたんです。これがまあなかなかうまくいかない(笑)。基本的にまったくの素人ですから。主婦で、飲食店で働いたことすらなかったんで。それでもずっと働きかけていて。


――ずっとご自分で売り込まれていたとは、素晴らしい行動力ですね。


有賀:それで1年半後ぐらいかな? 2016年に出たのが、『365日のスープ』。朝のスープという切り口で、私ができることを全部入れて作った最初の本です。その1冊目が出てからは、割とトントンと。本が出ると人にちゃんと見てもらえるので、そこから、ちょっとずつ広がっていきました。


――諦めずに続けたのがすごいです。「キツイなあ」って思ったことはありましたか?


有賀:ありました。たぶん若かったら別のとこに行っちゃってたかもしれないんですけど、その頃はもうスープを作り始めたときに受験期だった息子も、大学生になっていたし。子育てもだいぶ終盤。その後はオマケじゃないけど、できるところまでやればいいや、みたいな割り切りがありました。それに、面白かった。自分はずっと料理が好きで、何か料理関係のことがやりたいと思っていた。料理を専門的にやるということが、自分の夢というか、性格にも合っていたし、そっちに進みたいという気持ちが強かったんです。あとは、信用してくださった方がいたことですね。イベントに場所を貸してくれたり、相談に乗ってくれたり、「スープ作家」という肩書きをつけてくださったり。みなさん表には出てないんですけど。私一人でやってる風に見えて、そういう方々が支えてくれたのが、続けてこられた理由かもしれないです。


――子どもが大学に入ると、一回燃え尽きちゃうお母さんもいると思うんですけど、有賀さんは抜け殻にならず、我が道を進まれたのがかっこいいいです。


有賀:息子の受験のためにスープづくりを始めて、受験は終わったのに、私のスープは終わらなかった、みたいな(笑)。


――スープが止まらない(笑)。


有賀:最初は家族のために作っていたものが、だんだん自分のものになっていきました。とにかく、毎日スープを作るのが楽しかった。


――楽しくないと続けられないですよね、何事も。


有賀:はい。私自身が飽きっぽいんで、これほど続いたものってないんじゃないかなって。いろいろなものが相乗効果でよくなっているというのがあるかもしれないです。あとSNSで反応が返ってくるから、それもやりがいになりました。フォロワーもずいぶん増えましたね。


――Twitterのプロフィールに「日本をスープの国にする野望」と書かれていて、すごく惹きつけられました。


有賀:あはは(笑)。ちょっとキャッチーなことを書こうかと。私は元々ライターで、コピーとかも書いていたのでそういうのを考えるのは得意です!


――ありがとうございました。最後に、読者へのメッセージをお願いします。


有賀: 外で食べるようなごはんとか、シェフが作るような料理とかじゃなくて、あったかくて、栄養がとれて、簡単にできる。そういうものをすごく大事にしてほしいなって思っています。それで、じゅうぶん幸せ。


このニュースに関するつぶやき

  • 冷蔵庫の余り物でできるし、簡単に作れるし、栄養バランス整えるのも楽だし、汁物は家事する人の強い味方だわ…
    • イイネ!12
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