“いぶし銀”西武・栗山巧へのご褒美【白球つれづれ】

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2020年12月21日 21:14  ベースボールキング

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栗山が右中間に逆転の2点二塁打を放つ
◆ 白球つれづれ2020〜第51回・栗山巧

 今月16日にNPBのベストナインが発表された。ほぼ常連が名を連ねる中で、パ・リーグの指名打者部門で選出されたのが西武の栗山巧選手だった。

 自身9年ぶり4度目の受賞となるが、過去3度は外野手としてのもので指名打者としては初。例年ならこの部門はソフトバンクのA・デスパイネ選手をはじめ強打の外国人が名を連ねることが多いが、コロナ禍の今季はそのデスパイネも来日が遅れたり、日本ハムの中田翔、近藤健介選手らは本来のポジションとDHの併用となるケースが多く、最も安定した成績を残した栗山に記者投票が集まった。

 プロ19年目の37歳。とっくに全盛期は過ぎている。だが、この男の凄いところは選手生活の晩年を迎えても、奢らず、手を抜かず黙々と数字を残し続けていることだ。

 チームは2年連続リーグ制覇から転落。特に今季は打線の不振に泣かされた。前年には山川穂高選手が「本塁打王」、中村剛也選手が「打点王」、秋山翔吾が「最多安打」、森友哉選手が「首位打者」に「MVP」。さらには金子侑司選手が「盗塁王」と、打撃主要部門のタイトルを総なめにしたが、今季は故障も手伝ってレギュラーの座すら外される惨状。そんなレオ打線でたった一人、気を吐いたのが栗山だ。打率.272はチームトップ、12本塁打も自己最多タイでシーズン終盤にはついに4番まで任された。

 「彼の働きには頭が下がる」と、辻発彦監督も賛辞を惜しまない。

 ストイックなほどの練習への姿勢は若いころから変わらない。黙々とティーを打ち続け、若手と同じようにバント練習も手抜きがない。試合になればどっしりと構える。打撃の際の体重移動も重心が後方に残っているから際どいボールも見極められる。広角に打つので打率も残せる。打席によって、バットを長く持ったり、短くしたりと創意工夫を欠かさない。日本ハム・近藤と並ぶ打撃の職人である。そんな栗山の下には、今季も新外国人のC・スタンジェンバーグ選手が教えを乞うなど、今や“生きた教科書”にもなっている。


◆ 球団からの粋な贈り物

 積み上げた安打は1926本。名球会入りの条件となる2000本安打まであと74本に迫る。そこで、球団が粋なプレゼントを用意した。

 13日に行われた契約更改の席で、今季から2000万円アップの1億7000万円で契約更改すると同時に、来季からの3年契約を結んだのだ。1年ごとが勝負となる晩年を考えると40歳までの契約は異例、将来の幹部候補生として処遇したとも言える。

 「自分に厳しくやれる選手だし、手を抜くことがない。西武だけの名球会選手はいないので、一番手になって欲しい」。契約の席で渡辺久信GMはこう語っている。

 歴代、強打線を誇ってきた西武だが、秋山幸二、清原和博、松井稼頭央、秋山翔吾と言った強者は他球団に移籍したり、メジャー挑戦を選び、ライオンズで2000安打を達成することはなかった。おまけに彼らだけでなく、工藤公康、涌井秀章、岸孝之らの歴代エースもFA流失を繰り返したことで王国作りは頓挫する、実力者集団故の悩みがあった。それだけに栗山にはレオの生え抜きとしてトップランナーになって欲しいという球団の親心が垣間見える。

 今季の安打数(101)を考えれば名球会入りの残り74本は来季中に達成可能だが、金字塔を打ち立てた時点で歩みを止めてしまう男ではない。同期の“おかわり君”中村のような一発があるわけでもなく、全盛期のような俊足強肩の外野手でもない。しかし、チームが苦境に立たされたとき、これほど頼りになる選手もいない。

 いぶし銀の職人にベストナインと異例の長期契約でスポットライトが当てられた。本来なら脇役におさまるのがチームにとってはベストな形だろう。晴れがましさとちょっぴり照れくささを感じているのは本人かも知れない。短いオフを経て、栗山巧、38歳の挑戦がまもなく始まる。


文=荒川和夫(あらかわ・かずお)

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