般若「同業者には反面教師にしてほしい」ドキュメンタリー映画に描かれた一途なラッパーの肖像【インタビュー】

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2020年12月25日 15:22  日刊サイゾー

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日刊サイゾー

写真写真/二瓶 彩
写真/二瓶 彩

 般若。その名に恥じぬ気迫とキャリアを積み上げてきたラッパーは、人のマイクを勝手に奪う”カチコミ”で知られた悪名高きラップグループである「妄走族」の切り込み隊長として恐れられ、近年では『フリースタイルダンジョン』(テレビ朝日ほか)のラスボスとして君臨し、ラップ・バトルのブームの象徴になった。鍛え上げられたその肉体と鬼気迫るパフォーマンスは誰もがラッパー般若の名前から連想する姿だが、そのクレイジーなキャラクターの裏にある愚直なまでの真面目さと、日々薄紙を一枚ずつ重ねるような努力はあまり知られていない。

 12月25日より上映されるドキュメンタリー映画『その男、東京につき』は、単に般若が初の武道館ワンマン・ライブを成功させる過程だけを映していない。ラッパーになる以前の彼が、どのような苦い経験をしていたのか。般若として活躍する姿を、周りの人間がどのように見ていたのか。多角的な証言と共に、般若自身を映すものであった。ストイックさの奥にある反骨精神。まずはそれを感じさせるシーンについてから切り込んでみたい。

――映画前半で印象的だったのは、般若さんがとある床屋を指差して過去を振り返るシーンでした。過去にあった経験をまるで最近のことのように「悔しい」と繰り返す様子は、久しぶりに見る怖い般若さんでしたし、「悔しい」という感情が根源にある方なんだと思いました。

般若 歪んでるし、クソみたいなやつなんで、やられたことは絶対に忘れないっすよ。

――ラッパーとして挑戦される側になり、背中を見せる立場になった今でも、「悔しさ」という感情が向かう先はあるのでしょうか。

般若 ありますよ。表に出さなくなっただけでめちゃくちゃむかつくし、イライラもするし、こんだけ感情の起伏が激しいのもおかしいんじゃないですかね。でも、俺が本音を言う時は、あくまでも曲の中に落とし込むんで。俺は堅い人間ではないけど、かと言ってSNSでぐちぐちいうタイプでもないんで、曲を聴いてもらって考えを理解してもらえればいい。そうじゃないと、この言い方が正しいかわからないけど、アーティストとして卑怯じゃないですか? アーティストとしてラッパーとして、曲以外のことで目立ってしまうのはよろしくないなって思っていますね。適当に楽しめれば良いんですけど、自分の中には基準がある、かな。

――SNS等の言動が注目されることで、認知される人が増えたのは間違いないと思います。

般若 人の興味を引くような行動は、良くも悪くも目立つじゃないですか。まあでも、それはそれ。中身のない人たちは消えていく。いろいろなやり方があっていいと思うんですけど俺は、曲でちゃんとやっていきたいかなと思ってます。

――般若さんが昔行っていた、他人のライブを乗っ取る”カチコミ”はあまりに有名です。そんな般若さんが今10代の無名MCだとしたら、カチコミしていますか。それとも別の方法を取ってますか。

般若 どうしてたんだろうなぁ……それはよく考えるんですよ。俺は手段や情報がなかった10代だったけど、今は逆ですよね。こんなに情報がある中で、果たして何をやっていたのかな。バトルに出てたのか、とか。何かしらやってたでしょうけど、やっぱり強硬手段を取ったかもしれないですね。

――個人的な感想ですが、今のシーンは強硬手段で乗り込んでいく人が現れる雰囲気ではないのかな、と感じますがいかがですか? 勿論、ラップが刺激的でなくなったという意味ではなく。

般若 うーん、確かにそのテンションではないかなって感じますね。

――それは先程もおっしゃった通り、ヒップホップのシーンが豊かになったからなのでしょうか。般若さんは若いラッパーと接する機会も多いと思うんですけど、どのように見えますか?

般若 やる人口が凄く増えたし、誰とでも繋がれるようになったじゃないですか。だからそれ以上に、切り込む手段がなくなったんじゃないですかね。ビーフとかディスり合いがあっても、ガチじゃなくて炎上みたいな感じで、そういうのが沢山あるのかなって思いますけどね。結果、良い曲が生まれて皆が聞く環境になるならいいんじゃないですかね。

――映画では悔しさを語る鬼のような一面もあれば、ひたすらに真面目でストイックに仕事と向き合う様子も多く映したシーンもありました。例えばライブに入る前、控室でストレッチ専門の方をつけて準備をし、チームで入念に段取りのチェックを行うも、ステージに上がる時はマイクを握った自身のみ。その様子はまるで格闘家やアスリートのようにも見えます。バンドやサイドMCで華やかにもせず、自分一人で観客と向き合うんだという気概を感じました。

般若 それはしょうがないですよ。俺の代わりがいないんですもん。

――そのしょうがないと割り切った考え方や、ストイックさは昔からなのでしょうか。

般若 ストイックでもないですよ。トレーニング自体も仕事と思って割り切ってやっているので。そりゃやりたくない時だってありますよ、俺だって。

――他のインタビューで般若さんはストイックだと言われると、同じように謙遜されたお答えを拝読しました。しかし、今回の映画を通しても、楽曲を通しても、間違いなく己に厳しい視点を持っていると思います。それは、職人のように淡々と音楽に向き合い続ける毎日がそうさせるのか、それとも湧き出る何かがあるのか。

般若 確かに曲はよく出すからストイックみたいなことを言われますけど、裏を返すと俺ってあと何歳まで出せるのかなっていうのを考えるんですよね。25歳の時に(ファースト・ソロ・アルバムの)『おはよう日本』を出して、そこに至るまで7〜8年あったので、「じゃあセカンドアルバムは32歳……って、嘘でしょ!?」みたいに怖くなって。だから失われた時間を取り戻す感じでやりましたね。焦るといいものはできないと知っているんですけど、年を重ねてきてそんなに時間ってないだろうから、やれるうちにやれることをやっておこう、みたいな感じなんですよね。

――もしかしたら、次の構想をお持ちなんですか?

般若 例えば、よくありがちな若い子集めてプロデューサーになるみたいなのは全くないです。もしも自分が凄い曲を作ったり、これ以上できないかもっていう時がきたらやめるかもしれないですね。そこがどこなのかわからないけど。ただ42歳で健康診断を初めて受けたら視力2.0あるし、悪い所一個もなかったっす。酒も飲むけど肝臓も別に大丈夫だったし、じゃあ続けられるな、ってなって(笑)。

――逆に、こういうのが面白いからラップやめられないなっていう瞬間はありますか。

般若 9カ月近くライブやってなくて、最近地元のライブハウスHeaven’s Doorで80人くらいしか入れないところでやった時は久々に楽しかったから、やっぱ面白いなって思いましたね。

――劇中で印象的だったのが、T-Pablowさんの「般若というジャンルにトレンドを入れるのが上手」という言葉でした。

般若 あいつマジで良いこと言うよなぁ〜、本当。

――(笑)。実は般若さんをその観点で語る人って少ないような気がするんです。普段は何を聴いているんですか。

般若 日によって違いますね。トレーニング中に聴くのはFrench Montanaと…最近はTAKABOかな。あのくらい振り切れているのは楽しいし、Jin DoggやMachin Gun Kelly、今日は泉谷しげるさん聞いてたな。竹原ピストルさんも聞きますし、夜の高速では小室ファミリーを大熱唱するし、Charaもいいなぁ。椎名林檎、う〜ん…超大好き。ほんと聴いてる。あいみょんも好きだよ。

――ただ、影響を受けたアーティストとなると、また違うと思うんですけど。

般若 そこは(長渕)剛さん、THE BLUE HEARTS。

――例えば最近のアーティストから新たな刺激をもらうことはないんでしょうか。般若さんはリリースを追うごとに、音楽的な表現が幅広くなっていると感じるので、どういったものから影響を受けているのか気になります。

般若 あぁ〜マンガとかじゃないですか?

――マンガからですか! 例えばどんなものが?

般若 俺は『ジョジョの奇妙な冒険』とか大好きなんですけど、改めて読むと何て幅広いんだろうと。こんなにキャラがいるのに、荒木飛呂彦大先生はまだやるのかっていうのを見ると、俺もこういう観点で描こうとか、ちょいちょい思いつきますね。あと友達と話してて「お、なるほど」みたいなのがありますね。月に1度は落語を聞いたり、お笑いだったり。

――触れるものが他のラッパーさんと違いますね。

般若 今年は釣りにハマったりして、それくらいかな。そんなに趣味ないんで、飲みにも行ってないので。

――制作物であれば誰でも常に観てほしい相手を考えると思いますが、「その男、東京につき」はどんな人に観てほしいでしょうか。

般若 燻っているやつに見てもらいたい。そういう奴に見てもらった方が伝わるんじゃないかなって思うし。

――今や武道館ライブっていろんなラッパーが成し遂げているので、般若さんであれば当然のようにライブを行ったものだろうと、きっと多くの人が思うのではないでしょうか。

般若 でも俺自信、正直「キャリア」ってものには価値がなくなっていくような気がしていて。全然俺のことを知らない人は沢山いるし、使い捨てされることも全然あると思うんだよね。だから、俺よりも周りのスタッフの方が武道館にこだわっているのかなって思いますね。俺としては(公演が)終わったら次のこと考えちゃうんだよな。でも、今は何やっても文句言ってくる奴がいるから。俳優業やっても文句言ってくる奴がいて、映画についても「過去を語るようになったら終わりですね」みたいに言ってくる奴もいる。俺はそんなつもりはないし、面白いなって思うんだけど(笑)。どういう形で伝わるかわからないけど「こいつがやれてるから俺もできるみたい」に思ってくれると嬉しい。

――ひとつひとつを打ち込んでいった結果、ここに行き着くっていうのを見せられている気がしています。次、武道館を成し遂げてほしい後輩やラッパーはいないですか?

般若 名指しで!? 俺はそれはわからないけど、俺よりも年下の同業者がこれを観ることがあったら、反面教師として観てほしいって思っています。

――武道館を達成したのに、反面教師とは?

般若 いやいや、そりゃそうでしょ。例えば俺の良かったところは、確かに真面目にやってるところだと思う。でも真面目が故に衝突してしまうことも多くて、ここまで時間がかかってしまった。だから、なるべく味方は増やしなさいって。

――そういうふうご自身を振り返ってらっしゃるんですね。

般若 俺は結構ドライだぜ。できることとできないこともわかってるつもりだし、やりたいことのために、やりたくねぇこともやらないといけないっていうのは正直ある。けど、自分一人だけじゃなく仲間もいるんなら、お金のこととかで揉める前にはっきりしておいたほうがいいぜっていうことだったりとか。途中でつらくなってやめるっていう選択肢が見えたなら、自分が後悔しないならやめてもいい。まったく後悔しないっていうことはないと思うけどさ。俺はたまたまこうなったけど、人生において「諦めないことが全て」ということでもないと思うし。

――自分も含めて、多くの人は小利口に立ち回って、衝突する前にその場を去ってしまうことが多いと思うんです。だから自分にとっては般若さんのように愚直にも貫ける自分があることに憧れます。どちらが良いかっていうことを話したいわけじゃないんですけど。

般若 わかります。今の子たちは俺たちよりも、はるかに賢いと思いますね。損をするやり方をしない。もっとドライなんだと思いますね。「この人怒った、もう無理付き合えない」って。でもまぁ、何かをやりたいなら、壁にぶつかってもやり続けるしかないとは思うので。

――最後に次の目標をお願いします。

般若 真面目な話、死なないこと。今みんな死んでなければ勝ちだから。イコール俺も勝ってるんだぜっていうレベルで俺は物事を考えているんで。ずっと通して言ってるのは「死ぬのはやめなさい」って言ってます。どのインタビューにも書いてもらってますけど、いじめとか誹謗中傷とかを真に受けて死ぬのはやめろ。その時間は永遠じゃねぇって。SNSの世界が全てって思っている人間がいるらしいけど、その携帯投げ捨てたらなくなるぜって。全然生きていけるから大丈夫だぜって。

――特に今年はネットでしか他人と接することがない人がいても珍しくないですし、そうに感じてしまう人も多かったと思います。

般若 俺にだって今日も安定に顔が見えない奴がなんか言ってきたから、安定にブロックしてやった。そんなレベルでいいと思う。面と向かって言ってくる奴なんていないし、面と向かって言ってこられたら俺だって普通に殴りますよ。そんなレベルだと思いますね。表に出てるからやりづらい部分もあるけど、俺芸能人じゃないし。

 顔が見えない相手に腹たつことを言われても「そいつらよりも俺の世界観がでかい」とか、「俺のほうが凄いことやってる」みたいに信念を持ったほうがいいと思う。結果こんな奴がこんな映画になるんだから、バカでもやれてるっていうのを思って欲しい。それを俺はずっと思ってます。
(写真/二瓶 彩)

般若
1978年10月18日、東京都生まれ。日本を代表するヒップホップMC。04年のファーストアルバム『おはよう日本』リリース以降、コンスタントに作品を発表。08年には自身が主宰するレーベル〈昭和レコード〉を設立し、精力的に活動を展開。近年は俳優業も活発に行っている。

 

映画『その男、東京につき』
般若初の長編ドキュメンタリー。東京の三軒茶屋で生まれた彼の、いじめの経験や音楽との出会いとジレンマなど、これまであまり語られることのなかった過去を振り返る。さらにZeebra、AI、R-指定ら豪華なアーティストたちが般若という存在について語るシーンも見どころ。
12月25日(金)より、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国公開

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