ナイツ・塙が語る、大阪芸人が賞レースで強いワケ 「ライブとM-1のお客さんでは笑うポイントが違う」

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2020年12月26日 21:41  リアルサウンド

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『言い訳 関東芸人はなぜM-1で勝てないのか』を出版した塙氏

 ナイツ・塙宣之の著書『言い訳 関東芸人はなぜM-1で勝てないのか』についてのインタビュー後編。前編では、M-1論やお笑い論、そして芸人の辞めどきについても言及した。後編では塙から見たM-1の系譜や、大阪の芸人の強さの要因、そして今年のM-1で注目している芸人まで。さらに深掘りした内容となっている。(編集部)


参考:ナイツ 塙が語る、M-1論と芸人の辞めどき 「40歳くらいの芸人はみんな悩んでる」


結成15年以内だと若手は出にくい
――塙さんも本の中に書かれていたように、2015年からの『M-1』は出場資格の区切り(結成10年以内→15年以内)が変更になったことで、大会の本質そのものが大きく変わったんですよね。


塙:2001年、『M-1グランプリ』(テレビ朝日)が始まったときは、中川家、ますだおかだ、アメリカザリガニ、ハリガネロックと、『爆笑オンエアバトル』(NHK)や大阪の劇場で結果を残しているけど、全国区になってない芸人が溜まっていたわけで、そこが一気に世に出たのが第一回大会だったんですよ。で、その辺りが2004年くらいからいなくなってきて、大会に求められるものも「巧さ」から「新しさ」に変わってきて、笑い飯やスリムクラブ、僕らやオードリーみたいな変化球のスタイルがどんどん出てきましたよね。2010年から5年間やらなかったなかで、また実力者が溜まってきたうえ、出場年数も伸びたことで、2015年大会ではトレンディエンジェル、スーパーマラドーナ、とろサーモン、と“売れる寸前”の実力派芸人が続々出てきたんです。だから、2015年以降の大会についても、あと何年かしたら変わると思いますよ。


――やり続けないと出てこないものがあると。そういう意味では2018年の大会は転換期だったのかもしれないですね。


塙:霜降り明星が優勝しましたからね。でも、霜降り明星以外は、ギャロップや見取り図のように、10年以上やってるコンビでしたから。『キングオブコント』でハナコが優勝して、次の時代にいくんだと思ったら2019年にどぶろっくが優勝するわけなので、まだまだ世代交代とは言えないですよ(笑)。実際、宮下草薙と四千頭身と和牛やかまいたちでは、巧さの差が一目瞭然だったりするじないですか。


――なるほど。参加条件が結成10年と15年ではまったく大会の質が変わりますよね。


塙:僕らが『THE MANZAI』で準優勝したのが10年目なんですけど、あのぐらいが色々経て上手くなる時期だし、賞レースの勝ち方がわかってくるんです。そう考えると、やっぱり15年って若手が出にくい基準じゃないかと思っちゃいますね。


――2018年の『M-1』では審査員側に立ったわけですが、裏側を見たことで初めて気づいたことはありますか?


塙:やっぱり審査員のギャラの方が格段にいいですね(笑)。出る側は頑張って一年ネタを磨いて、エントリー料を払ってるのに、座ってるだけでこんなに貰っていいんだと思いました。


――あそこに座ることで、視聴者からの批判も含め、人の人生を背負う点数付けをするわけですから。


塙:まあ、そうですけどね。でも、審査員としてはそこまで気負いはありませんでした。


ーーやはり「出場する側」は格段に緊張の度合いが違いますか。


塙:そうですね。スタッフも関係者も多いし、現場入りも早いし、決勝まで行くと毎日のように取材されてプレッシャーがかかるし、当日セットと客席を見て「本当にあのネタで大丈夫かな? くだらないボケじゃないか?」という不安が一気に襲ってくるんです。だから僕はよく言うんですけど、『SASUKE』の山田勝己みたいに、自宅や郊外に本番と全く同じ器具を作れば良いんですよ。せり上がりのセットを作って、ファットボーイ・スリムを流して、審査員席に上沼恵美子さんのモノマネをする天才ピアニスト・ますみを座らせて(笑)。


――確かに、本番に強くなるかもしれません(笑)。


塙:真面目なことを言うと、大阪の芸人が強いのって、『ABCお笑いグランプリ』(朝日放送)や『YTVお笑いグランプリ』(朝日放送)のように、豪華なセットで仕上げたテレビの賞レースがあって、それを経験しているコンビがいるということなんですよ。実際、霜降り明星も『YTV』で優勝したその年に『M-1』を獲ったわけで。東京の芸人はそこを経ずに、新宿Fu-とかのライブで調整しようとするけど、ライブのお客さんとM-1のお客さんでは笑うポイントが違うから、まったく調整にならないんですよ。


――ライブに重きを置きすぎて、客いじりを含めたライブハウス規模の漫才になっちゃったり。


塙:そう。だからこそ劇場へ初見の団体さんが来る吉本が有利なんです。劇場で本番ネタをかけるとしても、ちゃんとしたネタじゃないと受けないから、本格的な調整をすることができる。


本を出したことでハードルは上がっている
――審査員の話に戻すと、サンドウィッチマン・伊達(みきお)さんとの対談で、2018年の『M-1』では、審査前に決勝進出者のネタを入念に見てから臨んだ、という話があったのを覚えています。


塙:3月に『YTV』で審査をしたときに、すべて初見で臨んだら、全員の点数が高くなっちゃったんですよ。それもあって、各芸人で基準を作った方がいいのかな、と思ってネタを見ることにしたんですよね。自分の中での好き嫌いもしっかり決めて、この人は面白いっていう人に点数あげたほうがいいじゃないですか。ただ、俺が適当に選んだネタを見ただけなので、事前に評価を決めすぎるのは良くないと思いますけど。


――今年の『M-1』に関して、審査員のお話というのは……?


塙:まだ来ていないんですよね(取材は10月中旬)。もしオファーをいただいたら、やるかもしれないです。ただ、本を出したことでハードルは上がっているので、ちょっと気恥ずかしい部分もあって。そういう意味では「オファーを断る」っていうパターンもありますよね。「あんだけ書いて、やんねえのかよ!」っていう(笑)。


――(笑)。逆に、審査員としてはかなり箔が付いたと思いますけど。


塙:それが恥ずかしいんですよ。全国ツアーでも、ちょっとウケないところがあると「この本のせいじゃねえか」って思っちゃう(笑)。疑うように見る人が増えてるような気もするし。一回この本のイメージを消したほうがいいのかな、と考えたりもします。


――なるほど。ちなみに、2019年に向けて注目しているコンビは?


塙:和牛やかまいたちは引き続き本命でしょうけど、個人的にはからし蓮根に注目ですね。ボケの伊織くんが巨人師匠のお店で働いていて、ある意味師弟関係みたいなものなんですよ。そういう繋がりがあることは、精神的にも支えになってくれるような気がしています。2人の人間性も漫才のスタイルもいいし、漫才師としてはすごく応援される存在になるんじゃないかと。こういう取材のときに他のコンビの名前も挙げたくて、自分から『M-1』のホームページを介して予選ネタを見たりしてるんですけど……今のところほかに面白いというコンビにはまだ出会えていないので、引き続き探してみます(笑)。


(取材・文=中村拓海/撮影=富田一也)


■ナイツ・塙 宣之(はなわ のぶゆき)
芸人。1978年、千葉県生まれ。漫才協会副会長。2001年、お笑いコンビ「ナイツ」を土屋伸之と結成。08年以降、3年連続でM-1グランプリ決勝進出、18年、同審査員。THE MANZAI 2011準優勝。漫才新人大賞、第六八回文化庁芸術祭大衆芸能部門優秀賞、第67回芸術選奨大衆芸能部門文部科学大臣新人賞など、受賞多数。


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  • 大阪は読売、朝日、NHKなど各局のコンテストが多い。しかも劇場でいろんな客に接する。今はいないがかつては舞台上の芸人を笑わせる伝説の客もいた。
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