8年ぶりに1シーズンでふたりの勝者が誕生。F1初優勝、初表彰台の特別な瞬間/2020年振り返り(3)

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2020年12月29日 13:41  AUTOSPORT web

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2020年F1第16戦サクヒールGP セルジオ・ペレス(レーシングポイント)が初優勝
2020年シーズンのF1は、7月から12月までの6カ月で17戦を戦う超過密スケジュールを強いられた。だがそんななかでもF1初優勝、初の表彰台獲得など、嬉しい話題が相次いだ。

 さらに2021年に向けては多くのドライバーが移籍、あるいはシートを失うなど、ドライバーラインアップにも変更がある。そこで今回はautosport webでもおなじみのF1ジャーナリスト、尾張正博氏が2020年の初優勝や初表彰台、そしてドライバーの移籍に関する“違い”を振り返る。

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 初優勝や初表彰台というのは、特別な雰囲気がある。表彰台の下で喜ぶスタッフの姿や、涙する者。国際映像には捉えきれない瞬間がいくつもあり、メディアセンターを出て、できるだけ彼らを近くで取材してきた。

 最近では2019年第13戦ベルギーGPでのシャルル・ルクレール(フェラーリ)の初優勝と同年第9戦オーストリアGPでのホンダの復帰後、初優勝がそうだった。またその年の第20戦ブラジルGPでのピエール・ガスリー(トロロッソ・ホンダ)の初表彰台もなかなか良かった。日本人としては、2005年のマレーシアGPでのトヨタの初表彰台(ヤルノ・トゥルーリ)、2004年のマレーシアGPでのホンダ第3期の初表彰台(ジェンソン・バトン)も忘れられない。

 そんな特別な瞬間が2020年は、何度も披露された。まず再開された開幕戦のオーストリアGPでランド・ノリス(マクラーレン)が初めて3位表彰台を獲得。第8戦イタリアGPではガスリーが歓喜の初優勝。これはホンダにとってもトロロッソ時代からパートナーを組んで50戦目となる節目のレースでのうれしい勝利となった。

 第9戦トスカーナGPではアレクサンダー・アルボン(レッドブル・ホンダ)がうれしい初表彰台を獲得。第11戦アイフェルGPではダニエル・リカルドが移籍後、初となる表彰台をルノーにプレゼントした。そして、第16戦サクヒールGPではセルジオ・ペレス(レーシングポイント)が涙の初優勝。無線から聞こえてくるペレスの涙声に思わず、目頭が熱くなった。

 ちなみに1シーズンでふたりが初優勝を遂げたのは、2012年のニコ・ロズベルグ(第3戦中国GP)、パストール・マルドナド(第5戦スペインGP)以来、8年ぶりだった。

■アロンソとベッテル、フェラーリを離れるドライバーに大きな違い

 2020年のF1が特別なシーズンとなった、もうひとつの理由は、多くのドライバーがチームを離れることとなったことだ。

 セルジオ・ペレス(レーシングポイント)、ダニエル・リカルド(ルノー)、カルロス・サインツJr.(マクラーレン)、アレクサンダー・アルボン(レッドブル・ホンダ)、セバスチャン・ベッテル(フェラーリ)、ダニール・クビアト(アルファタウリ)、ロマン・グロージャン(ハース)、ケビン・マグヌッセン(ハース)と、12月25日現在でわかっているだけでも8人のドライバーがレギュラードライバーとしてのシートを失ったか、別のチームへ移籍することが決定している。このほどの大移動は、2014年から2015年かけて以来ではないだろうか。

 ただし、2014年のときよりも、2020年の最終戦のほうが感傷的だったように思う。パワーユニットトラブルでリタイアしたペレスをレーシングポイントのメカニックが涙で出迎えていたし、リカルドやサインツJr.もレース後にチームメンバーとお互い感謝し合っていた無線は感動的だった。

 2014年と最も大きく違うのは、フェラーリを去るドライバーの別れ方だった。

 2014年限りでフェラーリを去ったのはフェルナンド・アロンソだ。レース後のアロンソはスタッフたちとの個人的な記念撮影には応じたり、パスにサインしたりしていたが、メディアを通して公式にフェラーリへの感謝などはあまり積極的に発していなかったように思う。

 ところが、ベッテルはレース後に感動的な別れの挨拶を世界中のファンの前で行った。それはチェッカーフラッグを受けてパルクフェルメに戻ってくるまでのインラップでの無線だった。

 ベッテルのレースエンジニアのリカルド・アダミから6年間の感謝の言葉をもらったベッテルは、「ありがとう、ちょっと待って、サプライズがあるんだ。最後にみんなのために何か歌いたいと思って考えたんだ。これは君たちへの歌だ」と言って、歌い始めたのだ。

 その歌については、12月21日付けの『【F1第17戦無線レビュー(4)】フェラーリを離れるベッテルが歌を披露「みんなとお別れするのは寂しいよ」』を見てほしいのだが、この歌詞を訳していて、なんか変だと思っていたら、これは「アッズーロ」というイタリア人のアドリアーノ・チェレンターノの1968年のヒット曲で、いまでも懐メロとして多くのイタリア人に愛されているという。

 その歌詞は、誰もが仕事を終えて夏のバカンスに出かけているというのに、それに取り残された男の哀愁を歌っているのだが、バカンスだけでなく、女性にも取り残されたことも含まれ、振られた男の曲ともなっているのだという。

 つまり、ベッテルはフェラーリに残りたかったけど、フェラーリは別のドライバーを選択したのだから、僕はもうあなたたちとお別れしなきゃならないという意味を込めて歌っていたわけだ。

 さらに歌っているときのオンボード映像を見ると、ベッテルは時々、視線を下げている。よく見ると、ベッテルの左手はグローブをしておらず、右手に何か白い紙切れが見えるではないか。そう、ベッテルは歌詞を書いた紙を左手のグローブにしまっていたようで、カンペを見ながら歌っていたというわけだ。

 歌い終わったベッテルは、最後にこうメッセージを贈った。

「みんな、本当にありがとう。メカニックのみんな、ガレージのみんな、ファビオ、ミッモ、マノ、ジョバンニ、マルキ、マルゼッリ、フィリッポ。君たちこそフェラーリだ。グラッツェ!!」

 最高の別れ際だったと思う。

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