まさかの「野手登板」も…話題を集めた巨人・原監督の“4つの采配”

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2020年12月31日 11:24  ベースボールキング

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力投する巨人の内野手・増田大輝 (C) Kyodo News
◆ “異例のシーズン”に起こった珍事【巨人 編】

 新型コロナウイルスの感染拡大により、ペナントレースの開催も危ぶまれた2020年のプロ野球…。

 開幕は予定よりも3カ月遅れ、当初は「無観客」の状態からのスタート。「交流戦」や「オールスター戦」も中止となり、セントラル・リーグでは「クライマックスシリーズ」も中止に。シーズン途中にコロナの感染者が出たチームもあったが、どうにか120試合の日程を全チームが消化することができた。


 まさに“異例のシーズン”となった今年の戦いだが、いまになって振り返ってみると、本当にさまざまな出来事があった。そこで今回は、「プロ野球B級ニュース」でお馴染みの久保田龍雄氏に、2020年の野球界で起こった“珍事件”を掘り起こしてもらった。

 第4回目からはチームに絞った特集へ。まずは「巨人・原辰徳監督の意表をついた采配編」だ。


◆ 野手の増田大輝をリリーフ起用

 今年もあっと驚く仰天采配を見せてくれた原監督。なかでも最も話題を集めたものと言えば、8月6日の阪神戦だろう。

 8回、堀岡隼人が中谷将大に満塁弾を浴びるなど、まさかの7失点。0−11と大きく傷口を広げた場面で、原監督はまだ4人の投手が控えていたにもかかわらず、なんと内野手の増田大輝をリリーフに起用した。

 公式戦での野手の登板は、2000年6月3日のオリックス・五十嵐章人以来で20年ぶりの珍事。「ひとつの作戦。チーム最善策。連戦の中で、あそこをフォローアップする投手というのはいない。堀岡を投げさせることのほうが、はるかに失礼」というのが理由だった。


 高校時代にも、本職は二塁手ながら完投経験もあるという増田大は、一死無走者から近本光司を二ゴロ。江越大賀には四球を許したものの、4番・大山悠輔をこの日の最速138キロ直球で右飛に仕留め、見事無失点で切り抜けた。

 この采配は、巨人OBの堀内恒夫氏が「これはやっちゃいけない。巨人軍はそんなチームじゃない」と批判する一方、日刊スポーツがTwitter上で実施したアンケートでは96%のファンが賛成するなど、大論争を巻き起こしたが、決して場当たり的な起用ではなかった。


 実は、原監督は2013年8月10日の広島戦でも、ベンチ入り8投手を総動員した際に、8人目の西村健太朗に万一のアクシデントがあった場合は、「周りを見る余裕がある」坂本勇人を登板させる腹積もりだった。増田大の投手起用は、足掛け8年にわたって温めていたアイデアだったのだ。

 増田大は、9月17日の阪神戦でも0−11と大差をつけられた9回にブルペンで投球練習を始めたが、二死満塁で田中豊樹が荒木郁也を三邪飛に打ち取ったことから、再登板は幻と消えた。

 前出の五十嵐の登板時にも、「打ち取られたらムカつくし、打数が増えるのも嫌」と14点リードで送りバントをした選手がいた。相手打者の気持ちを考えると、さすがに2度も3度もというわけにはいかなかったか。


◆ 「石橋采配」が見事的中!

 本塁打性の大ファウルを打たれた直後、カウント途中にもかかわらず、“石橋采配”とも言うべき継投が見られたのが、9月7日の阪神戦だ。

 3−0の7回、巨人は二死一・三塁のピンチで、大竹寛がカウント1ボール・1ストライクからジャスティン・ボーアに右翼ポール際に大ファウルを打たれた。

 すると、原監督は迷うことなく、“左対左”で大江竜聖を投入。あわや同点3ランという当たりを見て、急きょ交代したように思われたが、真相は違っていた…。

 この継投は、事前に宮本和知コーチと相談済みで、「勝負イニングだと思っていた。カウント2ストライク、あるいは2ストライク・1ボールならば大江と言っていた。勇気は要りましたが、有言実行した」というもの。

 大江は、8月28日の中日戦でも、7回二死一・三塁で、井領雅貴のカウント2ボール・2ストライクから鍵谷陽平をリリーフ。1球で空振り三振に打ち取っていた。この日はボーアにフルカウントから三塁強襲安打を許し、1点こそ許したものの、梅野隆太郎を空振り三振に打ち取り、最少失点で切り抜けた。

 「別に不思議じゃないでしょ。その風景に当てはまったというところですよ」と原監督が説明したとおり、この継投が功を奏し、巨人は3−2で逃げ切り勝ち。65試合目で両リーグ40勝一番乗りをはたした。


◆ 「エンドラン攻め」で広島を攻略

 1イニングに3度のエンドランを駆使して逆転に成功したのが、9月29日の広島戦だ。

 0−1の3回、先頭の若林晃弘が四球で出塁すると、菅野智之のバントエンドランと吉川尚輝の死球で一死一・二塁としたあと、松原聖弥の3球目に2人の走者がスタート。松原も一二塁間を破り、同点とした。

 さらに“足攻”は続く。なおも一死一・三塁で坂本勇人の打席でも、この回3度目のエンドランを仕掛け、遊ゴロが併殺崩れになる間に、吉川尚が勝ち越しのホームを踏んだ。

 わずか1安打での逆転劇に、原監督は「思い切りいったということです。なかなか打ちあぐねているのでね」と、してやったりの表情。

 勢いに乗った巨人は6−1と快勝し、菅野もプロ野球タイの開幕12連勝。優勝マジックを「23」に減らした。


◆ 東京ドームで起きた「反射物事件」

 想定外のアクシデントに際して、咄嗟の機転が吉と出たのが、10月8日のDeNA戦だ。

 4−1の3回、岡本和真の中前安打で無死一塁とし、打席に丸佳浩が入ろうとした直後、左翼のDeNA応援席で正体不明の反射物が光っているのが見えた。原監督はすぐさまベンチを飛び出し、「レフトスタンドで何かが光っている」と橋本信治球審に訴えた。

 審判団が集まり、協議したあと、現場に向かい、警備員を通じて、当該すると思われるファンに声をかけて確認したが、反射物をつけたファンは特定できずじまい。この間、試合は5分中断した。


 原監督が試合の流れを止めてまで反射物をアピールしたのは、左打者の丸が「気になると思う」という理由からだった。

 再開直後、打席に集中できるようになった丸は、3試合連続となる21号2ランを右翼席上段に放ち、これで6−1。終盤にDeNAの猛反撃で9−7まで追い上げられたが、結果的にこの2点が勝利をもたらした。


 しかし、ソフトバンクとの日本シリーズでは、相手の意表をつくどころか、これといった見せ場もつくれないまま、2年連続の4連敗…。

 「私も含め、コーチ、選手はひと回りもふた回りも大きくならないといけない」と雪辱を誓った原監督だが、来季“3度目の正直”を実現させる妙手は生まれるだろうか。


文=久保田龍雄(くぼた・たつお)

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