「つま楊枝の頭」はどうしてあの形? つま楊枝メーカーに聞いてみた

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2021年01月03日 09:01  おたくま経済新聞

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「つま楊枝の頭」はどうしてあの形? つま楊枝メーカーに聞いてみた

 つま楊枝の「頭」の部分に施されたデザイン、あれはどんな意味があるんでしょう?中には「先端を折って『箸置き』のように使う」や「柳家金語楼の発明」と解説するウンチク系の記事もありますが、実際のところはどうなのか、国産つま楊枝メーカーに問い合わせてみました。


【その他の画像・さらに詳しい元の記事はこちら】


 つま楊枝の「頭」について、お話をうかがったのは、大阪府河内長野市にある菊水産業株式会社。輸入物が多くを占めるようになった現在も、材料を含めた国産つま楊枝製造を続けているメーカーで、新型コロナウイルス禍に対応した「つまようじ屋の非接触棒」でも話題になりました。


 河内長野市は、古くから農家の副業として黒文字楊枝(クロモジという木で作るお茶席などで使われる楊枝)の生産が盛んな土地で、国産つま楊枝の製造シェアは、過去は国内でのシェア95%を占めていたという、つま楊枝の一大生産地で地場産業として発展しました。しかし、現在一般的に流通している、頭の部分がこけしのようになっている「こけし楊枝」は輸入物が主体となっており、地場産業として地元で国産つま楊枝を作っているのは菊水産業のみ。全国的に見ても菊水産業を含めて2社しかないそうです。


 さて、その「こけし楊枝」のデザインは何のため?単刀直入にうかがうと「飾りです」と、拍子抜けするくらい単純な答えが返ってきました。しかしこのデザイン、製造上の必要に迫られて考案されたものだったのです。


 菊水産業さんによると、このデザインが誕生したのは1961(昭和36)年頃のこと。当時の爪楊枝組合によって考案されたんだそうです。


 それまで、つま楊枝の作り方は、倍の長さを持つ木材の両端を細く削り、真ん中を丸ノコで切断していたそうです。しかし、この製法だと頭の部分になる切断面が毛羽立ってしまい、そこから「ささくれ」ができて商品が痛むことが多かったといいます。


 そこで丸ノコに代わり、グラインダー(砥石)を高速回転させ、ささくれを削り取ることで断面は綺麗になりました。しかし、今度はグラインダーとの摩擦熱で切断面が焦げて黒くなり、汚れているように見える、という新たな問題が発生。汚れに見えて売れなくなるかもしれない、と当時のつま楊枝事業者たちは頭を悩ませました。


 この黒い部分をどうにか処理できないか……と思っているところで偶然目に入ったのは、民芸品の「こけし人形」。切断面をこけし人形の「黒い頭」に見立てることはできないだろうか、という逆転の発想が生まれました。


 民芸品のこけし状に側面を溝をつけるように削ってみたところ、黒い切断面が黒髪の頭のように見え、かわいいデザインとして成立しそうです。これならいける!と、切断後の側面に溝付きの砥石で溝を彫り、現在の「こけし楊枝」が誕生したんだとか。


 当時はなかなか受け入れられず大変苦労したそうですが、河内長野産のつま楊枝は国内製造シェアの9割を占めていたこともあり、全国的に「こけし楊枝」のデザインが徐々に定着していった、ということのようです。


 ちなみに、落語家・コメディアンの柳家金語楼が発明した、という説を検証するため、独立行政法人工業所有権情報・研修館が提供するオンラインデータベース「J-PlatPat(特許情報プラットフォーム)」で検索してみたのですが、柳家金語楼(ヤナギヤ キンゴロウ)および本名の山下敬太郎(ヤマシタ ケイタロウ)では、つま楊枝(ツマヨウジ)に関する実用新案・意匠・特許は確認できませんでした。


 検索結果で最も古い出願日が1971年だったので、検索の範囲外になっている可能性もありますが、柳家金語楼発明説は、今回調べた限りでは検証不可能なもののようです。


 つま楊枝の「頭」に施されたデザインは、折って「箸置き」のように使うためのものではなく、製造工程で避けられない「切断面の焦げ」をこけしの頭に見立てた、デザイン上の工夫であることが分かりました。品質向上に努めるメーカーの姿勢が生んだ、逆転の発想だったのですね。



<記事化協力>
菊水産業株式会社(@kikusui_sangyo)
<参考>
独立行政法人工業所有権情報・研修館「J-PlatPat(特許情報プラットフォーム)」


(咲村珠樹)


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