ハラスメントから契約のモヤモヤまで 「フリーランス・トラブル110番」は弁護士が無料で回答

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2021年01月04日 10:21  弁護士ドットコム

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仕事上の契約のちょっとした疑問点からハラスメント被害まで、さまざまな相談に応える「フリーランス・トラブル110番」が2020年11月25日にスタートした。厚生労働省による事業で、第二東京弁護士会が委託されて運営している。


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事業内容は、弁護士による電話、メール、面談相談(ウェブ含む)や、和解のあっせんなどで全て無料で行う。対象はフリーランス、個人事業主、クラウドワーカーなど、労働基準法で保護されない労働者が主だ。この働き方をしている人であれば、どんな職種の人も相談ができる。



事業の事務責任者である山田康成弁護士は、「皆さんの関心の高い委託事業なので、無料であっても、クオリティーの高い回答をお返ししたいと思います」と意気込みを語る。



山田弁護士に具体的な相談内容や、「フリーランス・トラブル110番」がしてくれることを詳しく聞いたので、フリーランスの人はぜひ一読してほしい。(ライター・梶塚美帆)



●フリーランスの働き方に詳しい弁護士が、直接回答してくれる

ーー「フリーランス・トラブル110番」の事業内容を教えてください。



全国どなたからでも、電話とメールで相談を受け付けています。より込み入った話をしたい場合は、対面やWEB面談も可能です。匿名での相談もできます。



電話でのご相談は、まずは事務員が対応します。事案の内容を簡単にお聞きした後は、待機している弁護士につないで、直接相談にお答えします。回答するのは第二東京弁護士会の労働問題検討委員会に所属しているメンバーが中心なので、フリーランスの法律問題に興味関心のある人が揃っています。ですから、回答のクオリティーは高いと自負しています。



電話は、待機している弁護士が別のご相談に対応中の場合は、別の相談が終わったら折り返しお電話してご対応します。メールは、2〜3営業日以内にはご回答しています。





それから、和解あっせん制度も設けています。例えば、発注者から「これもついでにお願いします」と別の業務をタダで依頼されたり、いつまでたっても業務が終わらなかったりする場合があると思います。



しかし、訴額にすると数十万円くらいの金額だとすると、弁護士にお願いして、訴訟をするのは躊躇される方もおられると思います。そんな時は、裁判外紛争解決機関(ADR)による話し合いで解決する方向に我々が導きます。フリーランス・トラブル110番では、和解あっせんの手続きも無料で実施します。第二東京弁護士会では、これまでも和解あっせん手続きを実施してきたノウハウがあるので、この事業で活用できたらと思っています。



もしどこに相談したらいいか分からない場合も、まずは「フリーランス・トラブル110番」にご連絡ください。契約上は業務委託でも、実は労働者と判断され、労働基準監督署に相談できる場合もあります。下請法の案件だったら、下請かけこみ寺を案内します。この事業は、厚生労働省の他、内閣官房、中小企業庁、公正取引委員会とも連携してやっているので、他機関へ適切に振り分けます。



ーーサービスを開始して1カ月ですが、現状はどんな相談が来ていますか。



まず、報酬の未払い相談がありました。ずっと続けていた取引を終わらせることになり、最後の仕事の分だけ支払われない、などです。



それから、ある会社と仕事をしている時に、他社の仕事を受けようとしたら、「だったらうちとの取引はやめてくれ」と言われたという相談もありました。迷惑をかけないし、ノウハウを利用するつもりもないのに、他の会社の仕事を受けるというだけで、取引をやめさせられそうになりました。



ーーこれらの相談に対して、何と回答するんですか。



かなりケースバイケースですが……未払いについては、基本的には和解あっせんをします。場合によっては、個人でできる「少額訴訟」という選択肢があることもお教えします。



他社の仕事については、もし契約を結んでいるなら、どの条項に当たるのか確認します。秘密漏洩の懸念があるなら、対応する契約を新たに結び直すとか。



競業するものでなく、両立できるのなら、他社の仕事を受けることは解除事由に当たらない可能性が高いです。他社の仕事を受けることが「心配だから」「気に入らないから」という理由で、発注側が一方的に取引を終わらせるのは適切ではありません。アドバイスをする他に、和解あっせんをご案内する場合もあります。



ーー報酬未払いは明らかなトラブルで、どう考えても払わない方が悪いですよね。それ以外の、曖昧で、微妙で、細かくて、モヤモヤする程度の相談にも乗ってもらえるんですか。



モヤモヤした感じの相談もよく来ます。例えば、アシスタント業務をする方の相談で、発注者から「今月手伝ってほしい」とだけ言われて、具体的な日時は指定されないというのがありました。それで突然「○日にお願い」と言われたり、「○日に来て欲しいから他の仕事を入れないでおいて」と言われて待っていたのに、当日キャンセルされたり。



この場合は、事前に仕事の発注期限を明確にした契約を結んでおくのがいいと思います。いつまでに発注するとか、キャンセルの連絡がなく待機が続いたら1日あたりいくら払うとか、突然お願いされても受けられないことがあるとか。漫画家のアシスタントさんや、俳優の方でも、こうしたトラブルはあるようです。



このような相談のほか、まだ起こっていないけれど将来起こりそうなトラブルを防ぎたい、参考までに知りたい、といった相談も可能です。



ーー契約書をチェックしてもらうことはできますか。



この相談窓口で契約書を作ることはできませんが、問題となる契約書の内容についてのご質問は受けることはできます。紛争になりそうな条項について「ここはどういう意味なのか」と聞いていただけたら答えられますし、具体的に取引上で心配な事があればその条項が入っているか確認します。トラブルを防ぎたい、こういった条件を入れたい、という相談でも構いません。込み入った内容でしたら、WEB面談などで対応します。



●これまでの相談窓口では対応しきれなかった、ハラスメントの相談も受ける

ーーハラスメントの相談も受けているとのことですが、どう解決していくのでしょうか。



できれば和解あっせんで解決していきたいと考えています。発注者とフリーランスの関係は、ハラスメントが起きやすい構造になっていると思います。しかし、裁判をするのは気が重いでしょうし、かと言って黙っているのも悔しいはずです。



例えばパワハラが起きた場合。企業側が引き続きフリーランスに依頼したいと思っていて、フリーランス側はパワハラがなければ仕事を受けてもいいと思っているなら、落とし所を見つけられると思います。



セクハラの場合は、フリーランスの方がもうその人と取引をしたくないと思っているかもしれません。それなら、謝ってもらって慰謝料を請求することもできます。「言わなきゃ気持ちが収まらない」という声はできるだけ我々で受けてあげたいと思っています。



ーー裁判だと原則公開ですが、ADR(裁判外紛争解決機関)で和解あっせんを行うということは、争っていることをあまり知られたくないという人もいるかと思うのですが?



手続きは全部非公開です。もしハラスメントがあって、企業が和解を受けなければ、こちらから訴訟を起こす可能性があるとします。それなら、企業は「今のうちに非公開で和解しておこう」という考えになるかもしれません。発注者である企業の側に非があるなら、火傷しないで済むところで解決しておきたいはずです。



実際に、労基署の総合労働相談コーナーがご案内する、あっせん手続では、このパターンで和解することが結構あるようです。本事業の和解あっせんの場合も、申立書の記載方法についてもアドバイスを送りますので、弁護士を代理人としなくても申立てることが可能です。



ーーハラスメントは証拠を残すのが難しく、ハラスメントを受けた後に気づくこともあると思います。証拠がなくても相談していいのでしょうか。



できればメールやLINEのやり取り、日記、メモがあるといいです。ただ、訴訟の場合はきちんとした証拠でまとめる必要がありますが、和解は話し合いなので、訴訟ほどきちんとした証拠がなくてもいい場合があると思います。



ご相談を受けながら、「このLINEのやり取りのときにどんなことがありましたか」などと、こちらからヒアリングしていきます。先方とも話をしながら、お詫び代を支払ってもらうか、今後はハラスメントをしないという約束を取り付けるなどで、和解する方向に持っていくことができる場合もあるかもしれません。



ーー2020年の5月に、幻冬舎の箕輪氏が発注者にセクハラをしたと文春オンラインで報道がありました。報道の中でLINEのスクリーンショットが載っていましたが、立場が上の相手に対して強くノーと言えず、受け入れているような返事をしてしまっています。こういった内容でも、「セクハラを受けた、嫌だった」という証拠になるのでしょうか。



発注者・受注者の関係で、強く断れないことはありえます。今後の仕事の受注のことを考えたり、「人脈を繋げなきゃ」と思うこともあるでしょう。労働者の上司・部下の関係と同じです。嫌だなと思っても、「お誘いありがとうございます」ぐらいは誰でも返しますよね。だから、やり取りの前後の行動も含めて、トータルで判断していきます。



受け入れているような返事をしていても、それを打ち消すこと・ものがないかどうか、こちらからヒアリングしていきます。例えば、誰かに相談していたなら、それも大きな事実です。



ハラスメント問題は、取引そのものの問題ではないので、下請かけこみ寺や公正取引委員会では解決に結びつけるのは難しい問題でした。だからこそ、今回の事業ではしっかり解決に結びつけていきたいです。



●「無料」でも、弁護士としてクオリティーの高い回答を出し続ける

ーー今どのぐらい相談が来ていますか。



1日10〜15件ほどです。しかも1件1件、ご相談内容をお聞きするのに、時間がかかるしっかりした内容のご相談です。まだあまり認知されていないのに、最初からこれだけ相談がくるということは、やはりニーズがあったんだと思いました。



ーー第二東京弁護士会が今回の事業に参加した理由は何でしょうか。 



第二東京弁護士会の労働問題検討委員会では、フリーランスなどの新しい働き方に注目していました。フリーランスは労働法で保護される労働者とされていませんが、実は限りなく労働者に近い働き方をしている人がいる。発注者と受注者、企業と個人となると、フリーランスは弱い立場になりがちです。ですが、労働法での保護は適用されません。



今政府は、フリーランスという働き方を増やそうとしています。そうなると、弁護士会として相談窓口を持っておくなど、世の中の需要に応えていくべきだという問題意識を持っていました。フリーランスの活用と保護はセットで考えないといけませんからね。



そんな中で、厚生労働省が、雇用類似の働き方に係る相談支援事業を立ち上げるということで、これは、我々が受けるべきだろうと考えて、この事業に参加しました。





ーー下請け事業者向けに、下請かけこみ寺などの相談窓口がありますが、違いは何でしょうか。



下請かけこみ寺は、あくまでも下請法の適用がある場合に相談する窓口です。適用対象にならない、資本金1000万円以下の会社とのやり取りや、ハラスメントなどの取引以外のトラブルは、基本的には対象外です。



これからも「下請かけこみ寺」ももちろん必要で、我々の立ち位置としては、個人事業主やフリーランスに特化した相談窓口です。この相談窓口が、皆さまの相談内容に応じて、トラブル解決のために適切な手続きに、ご案内する役割を担っている、と認識していただければと思います。



ーーフリーランスという働き方を自らが選んだのだから、弱い立場になるのは仕方がないとか、一部では自己責任論を唱える人もいます。それでもフリーランスを守ろうとするのはなぜですか。



ビジネスに関することなら、自分で選択したことへのリスクは、自分で負うべきだと思います。ただし、契約における力関係をそのまま放置して、何でも許容することも自己責任かというと、それは違うと思います。



フリーランスは労働者ではないので、労基署の総合労働相談コーナーに行っても、相談対象者ではありません。自己責任で選んだフリーランスだから相談する窓口が無くてもいいかというと、そうではないと思います。相談窓口は設ける必要がありますし、片方の力関係だけが強いまま契約が進んでいくと、政府が後押しするフリーランスの働き方は健全に発展していかないと思います。



政府がフリーランスを活用すると言うなら、相談窓口や法整備はセットにしないと、発展は無いと思います。そうなると、結局は、企業としてもフリーランスは使い勝手が悪い存在になってしまいます。お互いが良い関係になるためには、健全な取引・健全な受注発注・健全な仕事のスタイルを作っていくべきです。



ーー最後に、今回の事業に対する意気込みを教えてください。



「フリーランス・トラブル110番」は、これまでに述べた考え方に基づいて委託された、フリーランスの皆さんの関心の高い事業ですから、我々は覚悟を持ってやらないといけないと思っています。相談や和解あっせん手続きは無料ですが、クオリティーの高い回答を出していきます。この事業は、まだ始まったばかりですけれど、一人でも多くにこの事業を知っていただき、ご利用いただくことができるよう、着実に運営していきたいと考えています。




【取材協力弁護士】
山田 康成(やまだ・やすなり)弁護士
第二東京弁護士会労働問題検討委員会副委員長。労働問題検討委員会では、労使双方の考え方を踏まえ労働問題の紛争解決に役立つ研究活動を行うほか、昨今、労働法上の労働者とされない働き方が増えてきたことも踏まえ、独占禁止法、下請法を適用する場面の研究活動にも力を入れている。
事務所名:ひかり総合法律事務所
事務所URL:http://www.hikari-law.com/


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