2020年、K-Popに氾濫した「ドゥンバキ」楽曲はなぜ生まれた? 音楽的側面から解説! 21年はaespaとStray Kidsに注目!?

0

2021年01月04日 22:22  サイゾーウーマン

  • チェックする
  • つぶやく
  • 日記を書く

サイゾーウーマン

 BTSが米国進出で大成功を収め、日本ではNiziUが話題を集めた2020年。「K-Pop」というコンテンツが世界的に評価される動きがあった20年は、どんな1年だったのだろうか。K-Popに関するメディア出演や、イベントを主催するキーパーソン3名に、20年のK-Pop動向を音楽面から振り返ってもらった。

<座談会出席者プロフィール>

■e_e_li_c_a 2006年からDJを始めヒップホップ、ソウル、 ファンク、ジャズ、中東音楽、 タイポップスなどさまざまなジャンルを経て現在K-POPをかけるクラブイベント「Todak Todak」を主催。楽曲的な面白さとアイドルとしての魅力の双方からK-POPを紹介して人気を集める。

■DJ DJ機器 K-POPオタク。現在K-POPをかけるクラブイベント「Todak Todak」「Liar Liar」をe_e_li_c_a と主催。block. fmのK-POP番組『HB STUDIO』にレギュラー出演中。

■ラブ子 K-POPオタク。昨年K-POPファンの間で広まった「ドゥンバキ」というワードを最初に言い出した人。主なオタ活拠点は現場とTwitter。

“安直な”K-Popが目についた20年

ーーe_e_li_c_aさんとDJ機器さんが、昨年12月に出演されたTBSラジオ『アフター6ジャンクション』で、2020年のK-POPにおける音楽的な傾向に触れていましたが、あらためて全体的な潮流はどうでしたか?

e_e_li_c_a BTSの「Dynamite」によってディスコに火がつきましたが、K-POPアイドルはディスコサウンドの楽曲は今までもたくさんリリースしていましたよね。ディスコ以外だと「ニュートロ」の傾向もありました。EVERGLOW 「LA DI DA」とかTWICE 「 I CAN'T STOP ME」あたりでしょうか。

ラブ子 ディスコもニュートロもそうですが、全体的に2010年代頃のいわゆる「K-POP」の原点に戻ったように感じました。BTSが売れすぎて、各事務所も何が正解なのかわからない状態なのかもしれません。

DJ機器 そうですね。楽曲として何が売れるかわからなくなっている。世界的に見てもどんなジャンルがはやっているのか本当にわからない時代だと思います。だって、ビルボードでBTSの「Dynamite」の下に「WAP」(Cardi B feat. Megan Thee Stallion)があるわけで(笑)。

ラブ子 BTSが売れた理由を明確に説明できる人はほとんどいないですよね。私はBTSが成功した要因として、メンバーの個性とバックグラウンドがストーリーとして作品とリンクし、共感を得たことが大きいと思っているんですけど、2020年はストーリーではなく「K-POP」という「音楽ジャンル」の正解を見つけようとして各自奮闘していた1年だったのではないかと思うんですよね。ストーリーを効果的に生み出せるサバイバル番組が不祥事などもあり、大々的にやりづらくなったというのもあるかもしれません。

 その流れの中で、ガールズグループはK-POPとして満遍なく面白いものを全部やってくれたのかなと思っています。コロナの渦中でも、ちゃんとエンパワメントしてくれた。次のブームを予感させるような斬新な楽曲もリリースされたし、今までと路線を変えて頑張っているグループも自分らしさを失わなかったように感じます。Weeeklyの新人アイドルらしい王道のK-POPも良かったですね。

ーーボーイズグループの難しさというのは、楽曲としてヒットがなかったということでしょうか?

ラブ子 やっぱりBTSが“上がっちゃった”感じはありますよね。BTSとアワードを争い続けてきたEXOも兵役でグループとしては活動が制限されしまった。

DJ機器 BTS、 EXOの下の椅子に座る明確な2番手グループがいないように感じますね。3、4番手あたりに固まっているように見えます。

e_e_li_c_a 世代的な話ではなく、売り上げやコンサートをやる規模みたいなものを考えると、2番手にはGOT7とSEVENTEEN、MONSTA X、NCTあたりが入ってくるとは思いますし、世代的な話でいうとVIXXやBlock Bなどのメンバーは兵役に行っていて、残っているメンバーでソロ活動をできる人がしているという印象です。

ラブ子 K-POPアイドルって昔から「3年目ぐらいで殻を破らなきゃいけない」という意識が、どのグループにもあると思うんですけど、まさにその3、4番手の世代を中心に、多くのアイドルが同じ方向性ーー「ドゥンバキ」に走ったイメージがあるんですよ。

ーー20年、SNS上で「赤黒ドゥンバキ」「ドゥンバキ」という、いわゆる「K-POPぽい」ドゥーン、バキバキーッとした印象の楽曲を表現するワードが多用されていました。ラブ子さんがネーミングされたそうですね?

ラブ子 まずビジュアルのコンセプトとして、19年の年末から20年の年明けにかけて、複数のグループが割と似通ったダークなイメージ――「赤」と「黒」の2色でカムバックして、今までのイメージを打ち破ろうとしていたんです。THE BOYZの「REVEAL」や、PENTAGONの「Dr.BEBE」、イ・デフィ(AB6IX)のソロ楽曲「ROSE, SCENT, KISS」等がそうですね。

 4月に始まったMnetの『Road to Kingdom』という番組では、その世代周辺のアイドルが集められて、お互いに競いながら色々なステージを披露していたのですが、そこでもやはりダークなコンセプトがほとんどでした。もちろん印象に残る良いステージもたくさんありましたが、どちらかといえば楽曲そのものよりも、ステージでの見せ方を追求するパフォーマンスの多さに違和感がありました。

 元々自分は歌謡祭やアワードで見せるような「見せ場」として唐突に挟まれるダンスブレイクに食傷気味だったのですが、言ってしまえば『Road to Kingdom』はそれが延々と続く番組だったんです。そこで出てきた言葉が、原曲をTrap風にアレンジしてバキバキに踊ればカッコいいんだ、という安直さを揶揄した「ドゥーンバキバキ」だったんです。

 番組が終わった後も「赤と黒」や「ドゥンバキ」のイメージを打ち出してカムバックするアイドルが続々出てきて、2つを組み合わせた「赤黒ドゥンバキ」という言葉もいつのまにか生まれていました(笑)。

ーー3番手の世代が、そうした方向性にいったんですね。印象的なグループはいますか?

ラブ子 やっぱり自分の中ではTHE BOYZですね。彼らは楽曲を自作したり、制作面で苦悩するグループというよりは、与えられた楽曲で元気に活動するタイプのグループで、個々のキャリアやスキルの成長をストーリーとして見せていくグループではなかったんです。そこに「赤と黒」や「ドゥンバキ」というダークでシリアスなコンセプトを打ち出されても、“借りてきた感”が否めなかったんです。方向性の転換が唐突すぎたように感じたんですね。

e_e_li_c_a たしかに。でもTHE BOYZに関しては、その方向性でアルバム売上枚数や音源チャート、音楽番組での1位獲得など成功と言っても良い成績でしたからね……。

DJ機器 VERIVERYも、今年は<Face>シリーズでダークな路線を打ち出してきてはいたけど、「G.B.T.B」でトドメを刺した感じでしたね。

ラブ子 「ドゥンバキ」で検索するとVERIVERYファンが一番動揺していたように感じました。シリーズとして見ても、ここまで培ってきたコンセプトを変えてまでやる曲なのか、という疑問があるんですよね。VERIVERYに限らず、ドゥンバキに走ったグループの中には音楽的素養に恵まれたアイドルもたくさんいるのに、安直な戦略に巻き込まれて、こぞって赤と黒に乗ってしまったんではないかと。イメージ脱却のツールとして、ダークなコンセプトを安易に使わないでほしかったなと私は思いますね。特に今年はコロナで大変な年だったから、シリアスな路線より元気をもらいたかったです。

ーーいわゆる「K-POPっぽさ」という定型が完成した、ともいえるんでしょうか?

DJ機器 「K-POP」をやりたい人たちからすると、ああいう感じがいいのかもしれませんね。

ラブ子 手堅いというのもあると思うんですが、アイドル本人にもそれが大衆にウケるという認識があるのかもしれないですね。先日見た、『YG宝石箱』というサバイバル番組では、評価の過程でいろいろなステージを用意するのですが、どの練習生もちゃんと自分の持ち味を生かした素敵な楽曲を選ぶんですよね。その中でラッパーとしてもクリエイターとしても才能に溢れたヒョンソクという、一見アイドル的な楽曲とは無縁そうな練習生が、最終評価の直前で真っ先に何の迷いもなくWanna Oneの「Boomerang」を選んだことが本当に印象に残っているんです。洋楽が好きで、本格的なソウルやヒップホップの素養を持った練習生でも「勝つためのK-POP」というイメージを持っていたり、みんなの頭の中になんとなくひな形となる「K-POP」のイメージがあるんだなと思って。

DJ機器 なんらかのぼんやりした「K-POP像」みたいなものができてしまっているのかもしれません。先日、出演したラジオ番組でドゥンバキ系の曲が流れたときにパーソナリティの方から「なんかK-POPって感じですね!」っていうコメントが出た際に、いつもK-POPをそこまで聞いていない人からしても「最近よくあるK-POP」という認識があるんだなと思ったんです。ということは、韓国の事務所や業界内の人たちにも「外から見たかっこいいK-POP」のイメージになりつつあるのではないでしょうか。

ーー逆にドゥンバキが様になる人たちはいますか?

DJ機器 声質など楽曲との相性はもちろんあると思いますが、説得力をもたせる何かが重要だと思います。東方神起は元々テーマカラーがパールレッドというのもあるのですが、もうオーラと言うか迫力がすごいですし、MONSTA Xはジュホンの声質の他にも、ヒップホップの濃い部分をやってきているので、良い意味で治安の悪さと相性がいいように感じます。一見線が細く見えるグループは、どうせなら爽やかなほうが似合うのではないかと思ってしまうんです。

ラブ子 K-POPにはいわゆる「トンチキ」と呼ばれるようなユーモアやユニークな部分も大事ですよね。ドゥンバキにもそういった部分がもっとあっても良いんじゃないかと考えていて、私自身はSHINeeの「Everybody」がドゥンバキの最高峰だと思っているんですよ。初めて見た時は本当にものすごい衝撃で。この衣装で、こんな面白い動きで踊っていいの? って。でも、ちゃんとステージの上では成り立っているんですよね。純粋にかっこいいものとして。

ーー20年、3年目の葛藤をドゥンバキを使わずに乗り越えた人たちはいますか?

DJ機器 年数としてはデビューからもう少したっていますが、SEVENTEENの「HOME;RUN」は素晴らしかったですね。青年期から大人になるという成長の仕方がうまくいった好例なのではないでしょうか。

<span data-mce-type="bookmark" style="display: inline-block; width: 0px; overflow: hidden; line-height: 0;" class="mce_SELRES_start"></span>

ラブ子 素晴らしいエンターテインメントでしたね。1曲見ただけでお金を払いたいくらいで。18〜19年くらいがひたすらずっと悩んで葛藤しているイメージで、ステージもシリアスなパフォーマンスが多かったのですが、20年は急に一周回って「俺たちはSEVENTEENだぜ〜!」というのをかっこいい楽曲でやってくれましたね。

ーー『Road to Kingdom』や、これから始まる『Kingdom』に出演するグループで、今後伸びそうな存在はいますか?

e_e_li_c_a どのグループにも売れてほしい気持ちはありますが、これから『Kingdom』に出演する予定のStray Kidsですかね。個人的にデビューからずっと追っていて、正直言うと『Road to Kingdom』にあまり良い印象がないので、出演してほしくない気持ちも大きいのですが、韓国内での人気や知名度があまりないので、これが何かのきっかけになれば良いなと思っています。ATEEZもデビュー前から追っていて、Stray Kidsと同じように海外人気はすごくあるのですが、国内での知名度はStray Kidsと同程度だと思うので、良いきっかけになることを願っています。

ラブ子 そう考えるとやっぱりJYPはすごいですよね。Stray Kidsが今年、謎のアングラテクノとか彼らが元々持っていた音楽的なエッセンスを全部掘り返して、楽曲にフィードバックしてカムバックしたのは本当に偉い。「神메뉴(神Menu)」のような、キャッチーで面白くてかっこいい楽曲とパフォーマンスは、絶対Stray Kidsしかできないじゃないですか。今年のアワードはSEVENTEENかStray Kidsですね。

DJ機器 あのノリをもう少し軽い感じにして明るく楽しくやっているのがSEVENTEENですよね。こういうパフォーマンスができるのは、今のところSEVENTEENかStray Kidsぐらいしか思い浮かばないです。

ラブ子 ラップに関しても、本来メインラッパーではないヒョンジン君を見ていても、鍛えられた子じゃないとあの説得力って出ないと思うんですよ。本当にStray Kidsらしい楽曲。

e_e_li_c_a 熱心に追っていない人から見てもそういうふうに見えるのであれば、Cooking Video(「神Menu」リリース前のティーザー動画)やBack Door Opening Video(Back Door リリース前のティーザー動画)の方向性に振り切った甲斐があったんじゃないかと思います。

ーー安泰したグループでいうと、BTSがあげられると思いますが。

e_e_li_c_a BTSはもう日本の音楽番組などでの扱いは「K-Popアイドル」というよりアメリカのポップスターみたいな「外タレ」枠のようになってる気がします。何しても全肯定される状態ですよね。今までの積み重ねがあったからですが、何をしても売れる。韓国語曲の「Life goes on」をこのタイミングでリリースしたのも戦略の一部かもしれないですが、ビルボード1位にもなりましたしね。

ラブ子 20年は番組数もステージ数も少なく、働き方としてはいったん落ち着きましたよね。兵役前とは思えない焦らなさ。もはや無我の境地ですよ。アメリカ進出した時にファンを辞めちゃった人もいっぱいいるけど、新規の人たちと、以前からちゃんと見守っている人たちが、温かく育ててくれている成功事例なのではないでしょうか。なんだかんだ「Dynamite」と「Life goes on」って覚えやすい、良質なポップスですよね。そういう楽曲でカムバしたのはすごいですね。

DJ機器 あれが出せて、ちゃんと売れるのは現状ではBTSしかいないですからね。そういえば1カ月ぐらい長期休養がありましたよね。

ラブ子 ありましたね。ご褒美みたいな休暇が。BTSはもうガッツかなくていいですし、テレビ番組も全部出演しなくていい。労働環境でいうと、そういう良い面を見せてくれた。ここまで売れれば国も動いて兵役も延長になるという(笑)。

ーー21年に注目したい傾向やグループはありますか?

DJ機器 SMからデビューしたばかりのaespa(エスパ)ですかね。アバター設定等も作り手側からすると、色々なことを体現できて楽しいだろうなと思うんですよ。

ラブ子 これだけバズると、多分21年は前面に打ち出してきますよね。

e_e_li_c_a 最初からあんまりK-POP的じゃないですよね。「このグループのファンです!」っていう層を私はあまり見つけられないんですが、大衆的にはそれなりの認知度も得ていて、音楽番組で1位候補になったりして。イ・スマン(SMエンターテインメント創始者)が昔目指していた「セレブ」という存在に、ハマってきているのではないでしょうか。それこそBTSのような。

ラブ子 裾野が広い感じがします。ガールズグループって、デビューに際して特定の層を狙って、そこでまずバズってから広げていく印象なので、最初から風呂敷が大きい感じはありますね。本人たちもつかみどころないですしね。

DJ機器 あくが強いんだか弱いんだかわからないですよね。fromis_9(プロミスナイン)とかが、ゆるい感じでワイワイやっているのはニコニコしながら眺められるんですが、なんだかそれとは違う感じですよね(笑)。

ラブ子 そうなんですよ。TikTokの本当にゆるいこと……(笑)。SMからめちゃくちゃ気張ってデビューした子たちが、こんなゆるいTikTokをやるんだと思って衝撃でした。別にナチュラルな雰囲気を押し出しているわけでもないし、ビジュアルも強いのに、本人たちの雰囲気や言動はあまり気張っていない。新世代ですかね? すごくいい流れだと思います。

DJ機器 音楽ジャンル的にもいろいろできるグループな気はするんですよね。レトロ方面をやっている先輩方がたくさんいると思うので、それこそHyperpopみたいな、Charli XCXや100 gecsみたいな音が割れまくっている楽曲でカムバックしてほしいですね。

ラブ子 エレクトロな方面に向かっても絶対に面白いですよね。NCTの妹分みたいな匂わせもしていますから、楽曲的には攻めてほしい感じはありますよね。コンセプトもちゃんと消化できそうです。

ーー男性グループはどうでしょうか?

ラブ子 『Road to Kingdom』に出演したグループが、20年は迷走して終わっちゃったイメージが強いですよね。ドゥンバキでカムバしたグループも、タイトル以外の清涼曲で活動したり、真逆のコンセプトでカムバックしたり、結局のところ、どっちの路線を打ち出すのか見えてこないですが、Stray Kidsが日本も本国も含めて、21年はもうちょっと爆発するかな? というのは感じますね。

e_e_li_c_a たしかにStray Kidsが頭一つ出ているように感じますが、『Kingdom』でドゥンバキに飲まれて終わるか、Stray Kidsっぽいことをしっかりやって「やっぱスキズだね」という方向に評価されるかという心配はあります。

ラブ子 『Road to Kingdom』は、かっこいいドス黒いラップをすると、褒めてもらえるんですよね。Stray Kidsはラップもうまいから、ギャングスタ路線にいこうと思えばいくらでもいけちゃうんですよね。アイドルを忘れて(笑)。なので、せっかくJYPに入ったんだから、ちゃんとJYPのマインドを良い方向に使ってほしいところです。私は、やっぱりYGのTREASUREに期待します。デビュー3曲目にして超かっこいい、20年にはなかったヒップホップ曲の「음 (MMM)」を出してくれたので。全員の個性がちゃんと出せる楽曲を着実にやり始めています。

DJ機器 YGのいいところが出ている気がしますね。

ラブ子 そうですね。優等生でした。来年もこの調子で頑張ってください!

 20年リリースの楽曲から、3名が「聞いてほしかった」楽曲をそれぞれ選出。K-Popアイドル曲と、そうでない曲をそれぞれ1曲セレクトしてもらった。

ラブ子セレクト!

WOODZ『BUMP BUMP』

 紆余曲折を得て再びソロとして再始動したWOODZことスンヨンくんの2作目。前作とはガラッと印象が変わって、MVもステージもとびきりキュートな作品に仕上がっていますが、聞けば聞くほどWOODZらしい野心と葛藤が伝わる骨太な1曲になっております。前作でも見せていたROCKとHIPHOPを融合したMIXTURE的なサウンドを基盤としながら、PUNKやBRIT POPなどUK ROCKのエッセンスがさらに色濃く反映されていて、彼が「アイドル」として目指している音楽性の幅広さに感心すると同時に、K-POPというジャンルにおける土壌のふくよかさと多様な可能性にあらためて感動しました。この曲が収録されているアルバムも、音楽的なチャレンジを感じる一方でデモ音源のような素朴な風合いもあり、ミックステープ感のあるザラッとした手触りがとてもファニーで人間味あふれる1枚となっていて、大変オススメです。機会があれば歌詞を読み解きながら楽しんでみてください。

■NOA『TAXI fear. tofubeats』

 K-POP……ではないんですが、元YG練習生のNOAくんとtofubeatsがタッグを組んで挑んだデジタル世代のネオソウル。2人ともガッツリ歌っているのに3分以内にカチッと終わるコンパクトな構成に時代を感じて、聞いた瞬間仰け反りました。情景と孤独を鮮やかに切り取る手腕と軽妙洒脱な雰囲気はまるで短歌のように軽やかでミニマルなリズム感があり、流れるような聞き心地と余韻のキレが最高に素晴らしいです。K-POPとJ-POPのハイブリッド的サウンドと言われると確かにその雰囲気もあるんですが、最低限の和音と情緒が香る転調の配置には和製R&BやTECHNOにも繋がってゆく「ルーツ」の確かな煌めきを感じられたりもして、自分にとってはこれが「J-POP」なのかなあと思ったりもします。MVもめちゃくちゃ素敵ですね。

DJ DJ機器がセレクト!

■Dreamcatcher 『Scream』

 どうしてもK-POP好きからはイロモノとして見えてしまうDreamcatcherですが、この「Scream」はフェスティバルロック+メタル要素という今までのようなアプローチに対して、もう少しEDMのようなクラブ要素の割合を増やした楽曲でとてもよかったです。楽曲ジャンル的には違いますが、迫力としては女性版ドゥンバキのようなものだと思って聞くといいのではないかと思います。この楽曲が収録されたファーストアルバム『Dystopia : The Tree of Language』は、世界観の作り込みと楽曲のバランスがものすごく良かったです。「Jazz Bar」や「Red Sun」、「Black Or White」などの収録曲も必聴です。

■GXXD (Girlnexxtdoor)  『춤사위 (Feat. MOON, Blase)』

 Sik-KやRAVI、HAONなどにトラックを提供してきたGXXDのEPに、急にBasslineジャンルの曲が収録されていて驚きました。韓国のトラックメイカーは本当に器用ですね……。GXXDとMOONは何回もコラボしていますが、MOONに関しては20年にはZion.TやSEHUN & CHANYEOL、Vince、Coogieなど、かなりいろいろなアーティストとコラボしており注目度がさらに上がったように感じます。Blaseの歌詞に Dave - Funky Friday (ft. Fredo) がサンプリングされているところもいいですね。

e_e_li_c_aがセレクト!

■P1Harmony(피원하모니) - Nemonade(네모네이드) 

 FNC Entertainment所属、6人組グループのP1Harmony(ピーワンハーモニー)のデビューEP収録曲です。20年10月28日にデビューし、Sirenというタイトル曲で活動したあと、後続曲として「Nemonade」で活動しました。韓国、カナダ、日本国籍のメンバーがいる多国籍グループで、平均年齢はなんと満年齢で17.3歳です。15歳のメンバーが2人いることを知った時は本当に驚きました。年齢を加味しなくてもデビュー直後のグループとは思えないほど、ボーカル・ラップ・ダンスのスキルが高く、特に最年少ジョンソプ(動画内の赤髪のメンバー)のラップは本当にすごいです。個人的にタイトル曲があまりピンと来なかったためリアルタイムでは活動を追っていなかったのですが、早いうちに彼らに気付けて良かったです。今後の活動に今一番期待しているグループです。

■Silica Gel (실리카겔) 『Kyo181』

 シリカゲルは15年にデビューした4人組のバンドで、デビュー時に韓国大衆音楽賞「今年の新人賞」を始めとする新人賞3冠を受賞しました。2017年12月のアルバムリリース、その後の東京公演をあとにメンバーの兵役のため活動休止期間に入り、2年半がたってのシングルがこの「kyo181」です。本人たちも「空白期間の間に新しい方向を眺めるようになり、そのような意味でkyo181はシリカゲルの新しいデビュー曲とすることができる」と語っており、確かに今までの楽曲に比べてエレクトロニクス色の強い楽曲になっています。4分20秒の間、全てのフレーズの頭に「kyoヤ」という単語がついた状態で曲が展開され、その繰り返しとメロディラインがとても耳に残りやすく、何度も聞いた楽曲です。

※e_e_li_c_aとDJ DJ機器が出演するK-Popイベント『NEXT BOWL 2021presented by TodakTodak』が東京・豊洲PITにて開催決定!
【配信日時】 2021年1月10日(日)17:00〜21:00 ※追いかけ再生やアーカイブ配信はありません
【出演】 tofubeats, e_e_li_c_a, DJ DJ 機器, hoverboard, 310
【配信チャンネル】 PIA LIVE STREAM
【チケット料金】
・視聴券:¥2,000(税込)

購入はこちら

<解説:e_e_li_c_a・ DJ機器>

 もともとラブ子さんが示した「ドゥーンバキバキ」は、曲中のダンスブレイクのDubstepにおけるワブルベースやTrapのような部分を指しており、例えば、この動画の3:59〜が該当します。

■2018 MAMA in KOREA Stray Kids/THE BOYZ

 その後、実際に「ドゥンバキ」と呼ばれた楽曲や「ドゥンバキ」のイメージに近い楽曲について音楽的側面から少し説明をしたいと思います。今回は海外のEDMなどフェスシーンに詳しいライターの高岡謙太郎さん(@takaoka)にもご協力いただきました。

 まずは、対談中にも名前が出たグループもありますが、20年にリリースされた「ドゥンバキ」楽曲例です。

■VERIVERY - G.B.T.B

■GHOST9 - Think of Dawn

■D-CRUNCH _ Across The Universe(비상(飛上))

 音楽的な下地としては12年、Hudson MohawkeとLuniceのユニット「TNGHT」がリリースした、Trapを取り入れたこの曲がダンスミュージックシーンとしてもインパクトが大きく、その後のポップミュージックのトレンドに影響を与えたといわれています。

 それまではTrapはアメリカのHiphopの中の1ジャンルという認識でしたが、この曲によってダンスミュージック(EDM)にもTrapが取り入れられ始めます。太いホーンのダークな印象やドラムの打ち方に何となくドゥンバキっぽさを感じられるでしょうか。

■TNGHT - Higher Ground

 楽曲の参照元としてはYellow Clawというオランダ人2人のデュオがやっていたEDM Trapとポップスの融合が起点ではないかという予想です。DJ SnakeやDiplo、Chainsmokersなどが2012年頃から同時多発的にそのような楽曲をリリースしています。

 あわせて、この曲を参照してそうだなと思われるK-POP楽曲を下に記載します。

■Yellow Claw - Shotgun ft. Rochelle (2013)

몬스타엑스 (MONSTAX) - 히어로 (HERO) (2015)

■DJ Snake, Lil Jon - Turn Down for What (2013)

BTS(방탄소년단) - FIRE (불타오르네) (2016)

■The Chainsmokers - Don't Let Me Down ft. Daya (2016)

2PM - Promise (I'll be) (2016)

■Yellow Claw - Good Day ft. DJ Snake & Elliphant (2017)

JBJ - Say My Name (2017)

 K-POP側の流れとしては、16年頃にBass MusicとTrapジャンルを混ぜたような楽曲(BTSの「Fire」やEXOの「Monster」など)が上記の楽曲などを参照しリリースされたのが始まりのように思います。

 また、EDMとトラップの折衷を目指しているという点では、Steve Aokiの楽曲も近いのではないでしょうか。彼自身、BTSやMONSTA XなどのK-POPアーティストとのコラボをしています。この曲の0:50〜に注意して聞くとわかりやすいと思います。

■Steve Aoki - Kolony Anthem feat. ILoveMakonnen & Bok Nero (2017)

 2016年の同時期にリリースされたNU'ESTの「Overcome」やBTSの「Save Me」などにみられる「Future Bass」と先程のBass Music+Trapが融合して、現在のいわゆる「ドゥンバキ」を表すような楽曲に進化して行ったのではないかと思いましたが、高岡さんからはどんどんとエモーショナルな方向に進んでいったTrapやEDMがそのままK-POPに参照されているのではないかという話もありました。

 ちなみにK-POPを追っていると、Future Bassというジャンルはダンスミュージックのメインストリームと感じるかもしれませんが、EDMシーンではどちらかというとクラブなどに行かない人でもSoundcloud上にアップして楽しむものだったり、少しアングラなイメージがあるものです。

【TrapやEDMがエモーショナルな方向に進んだ楽曲例】

■ODESZA - Loyal (2018)

 ODESZA(オデッザ)のSpotifyやYoutubeでの楽曲総再生数は億を優に超えており、グラミー賞にもノミネートされています。ちなみに18年のCoachellaのライブは圧巻で、これをライブで目の当たりにしたら正直テンションが上がって飛び跳ねてしまう自信があります。

■Illenium - Afterlife (feat. ECHOS) (2016)

 上ネタに気が取られると、ドゥンバキ? となりますが、ドラムやベースなどのリズムセクションに注意して聞くとわかりやすいと思います。

 Dubstepはベース部分の音色がジャンルを規定しているため、あまりほかに使い回しがきかず、Trapはビート部分がジャンルを規定しているため使いやすくポップスに転用しやすいことから、上記のTrapが進化した形のような楽曲がたくさん生まれ、さらにそこからK-POPに落とし込みやすかったのではないでしょうか。

 また上記の楽曲は、Youtubeでの再生数が1千万回以上だったり、グラミー賞など音楽賞を取っている楽曲なので探し出しやすく、事務所やA&Rが参照元として挙げ、作曲を依頼しているのではないかという予想が立てられます。

 対談の中にも出てきましたが、「様になるドゥンバキ」と「そうでないドゥンバキ」があり、説得力を持たせる要素があるかどうかという点が出ましたが、それ以外にも前編のJO1のところで書いたような、表面をなぞっている楽曲(参照元が今まで挙げたEDM本場の楽曲なのか、それを参照したK-POP楽曲を参照しているのか)かどうかというのもあるでしょう。「2020年のドゥンバキはドゥンバキしか感じない」という感想が対談の中で出ましたが、これは既存のK-POP楽曲を参照してできたK-POP楽曲が多い印象にもつながるかと思います。

 本編の後編に『Kingdom』に出演するStray Kidsの話が出てきましたが、彼らはメンバーたちが組んだユニット「3Racha」を中心に自分たちで楽曲を作成しており、歌詞にもイギリスのラッパーでトラックメイカーである「Skepta」の名前が出てきます。

■3RACHA - P.A.C.E. (2017)

 この曲は、聞けば明らかにこれを参照元としていることがわかると思います。

■Skepta ft. JME - That's Not Me (2014)

 この曲に関しては、明確にどの曲というのはないですが、ラップも含めてStray Kidsの楽曲を聞いたことがある方には「Stray Kidsっぽい」というのが分かってもらえるのではないでしょうか。

■NEFFEX - Fight Back

 自分たちで楽曲制作をしてパフォーマンスする人たちは「表面をなぞる」の部分が自分たちでコントロールできるところに強みがあるため、この部分をどう『Kingdom』にうまく生かせるかが、今後にもつながってくると思います。

 これは『Road to Kingdom』のせいもあるかもしれないですが、その曲を通して何かを伝えたり自分たちの立ち位置を上げるというよりも、パフォーマンスをかっこよくこなしてファンに頑張っているところを見せたい、ー勝負感が内向きに感じるという話も対談の中で出ました。

 また、ドゥンバキ楽曲でパフォーマンスをすると実際はラップやボーカル、ダンスだったり何かしらのスキルが少し足りない状態でもパッと見は本格感が出せることから、経験が浅くスキルがまだ少し足りていない新人グループが手を出しやすいのではないかという予想も出ました。

 なぜこのような楽曲がリリースされるかについては、K-POPにありがちなビジュアルや世界観(ダークでシリアス、若者の葛藤、若干の暴力性など)を体現しやすいのではないか、BPMや曲の構造などが本格派に見えるダンスパフォーマンスと相性がいいのではないか、などが考えられ、ドゥンバキと呼ばれるような楽曲がK-POP的な要素との相性が良く、「パフォーマンス楽曲」として便利なのではないかということが考えられます。

 今は「ドゥンバキ」=「ダサい」というイメージがついてしまっている方が多いかもしれないですが、一概にダメなものではなく、パフォーマンスを裏付ける経験やスキルを兼ね揃えているグループがやればかっこいいものになるということも認識してもらえたら、今回の企画をやった甲斐があります。

 

    ニュース設定