「おれ自殺します」と通報を阻止! アダルトグッズ大量万引きの高1男子、バッグに隠された“もう一つの疑惑”

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2021年01月09日 19:02  サイゾーウーマン

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サイゾーウーマン

 こんにちは、保安員の澄江です。

 新年を迎え、初詣などに出向いて気持ちを切り替えたいところですが、新型コロナウイルスの猛威は変わらず、今年のお正月休みは、どこにも出かけませんでした。毎年欠かさずにいた亡夫の墓参りも、年末に出た感染者数増加の報道により、泣く泣く一旦保留に。申し訳ない気持ちで仏前に花を供え、自室でひとり好みのものだけを揃えたおせち料理をつまみながら、友人や同僚たちと「あけおめLINE」をかわしていると、突然に訃報が舞い込んできました。昨年末に、仲の良い同級生の一人が、急逝されたというのです。状況を尋ねると、お酒を飲んだ後に、持病の痛み止めを服用して就寝。朝起きてこないので、中学生になるお孫さんが部屋まで行って声をかけたところ、すでに冷たくなられていたそうです。葬儀の予定を確認すれば、コロナ禍の影響から家族葬で執り行われるといい、お別れを告げることすら叶いそうにありません。賑やかなことが好きだった仕切り役の彼女が、仲間たちに見送られることなく旅立ってしまう現実に、やり場のない怒りと言い知れぬ寂しさを痛感した次第です。今回は、それとは違う種類の寂しさを抱えた万引き犯を捕捉した時のことについて、お話したいと思います。

 当日の現場は、北関東の某県に位置するドラッグストアS。医薬品や化粧品のほか、酒やお菓子、日用雑貨、生鮮食品など、幅広い商品を取り扱ういまどきのドラッグストアです。通勤距離の問題などから、本来であればお受けしない地域の現場ではありますが、ここのところアジア系外国人による大量万引き被害が相次いでいるそうで、営業担当者に頼みこまれる形で駆り出されました。自宅から電車を乗り継ぎ、2時間近くかけて現場に到着。挨拶のため、店内の奥にある事務所に入ると、どことなく女優の天海祐希さんに似ている眼光鋭い女性店長に出迎えられます。顔を合わせた瞬間、明らかに落胆した表情となった店長は、まるで値踏みするかのような視線を私の全身にぶつけて、嫌味たらしい口調で言いました。

「あなた、一人ですか?」
「はい、なにか間違いでもございましたでしょうか?」
「あのね、ウチの店が困っているのは、外国人の集団万引きなんですよ。あなた一人で、大丈夫なの?」

 外国人の犯罪者集団を相手に、私一人で大丈夫かと聞かれれば、全然大丈夫ではありません。そのことを正直に伝えて、万一の際にはサポートいただけるようお願いすると、「その時は警察を呼ぶから」と冷たく返されました。どうやら、屈強な男性保安員の出勤を期待されていたらしく、私のことが気に入らないようです。

「面倒だけは起こさないでくださいね」

 不機嫌な顔をあからさまにして、 捨て台詞を吐くように言い放った店長は、 イラついた様子を隠すことなく売場に戻っていきました。自分に落ち度がない分、強烈に悔しくなって、沸々と闘志が湧き上がります。自然に滲み出た涙を拭い、いけ好かない店長の鼻を明かしてやりたい一心で現場に入った私は、人影まばらな店内で息を潜めて警戒にあたりました。

 店長からの見えない圧力が気になって、お昼休憩すらいただかないまま警戒を続けていると、午後4時を過ぎたところで、ようやくに強めの不審者が現れます。どことなく霜降り明星のせいやさんに似ている学校帰りと思しきブレザー姿の男子高校生が、おれに近寄るなといった雰囲気をまといながら入店してきたのです。右肩には、ナイロン製の大きなスポーツバッグが提げられており、そのチャックは半分ほど開いた状態にあることも確認できました。万引き犯が見せる典型的なサインを前に、実行に至ることを確信しつつ、その動向を注視します。

 すると、衛生用品売場の前に足を止めたせいやくんは、その場にバッグを下ろして股の間に挟む形でしゃがみこむと、卵パックの形状をした商品を棚から手に取り、そのままバッグの中に隠してしまいました。その後も周囲を窺いながら、なにかシャンプーのようなものを数点と、パッケージに「0.01」と書かれた男性用避妊具を数箱続けてバッグに隠すと、チャックを閉めて肩にかけ、足早に売場を立ち去っていきます。時間でいえば、2分弱といったところでしょうか。手際の良い犯行に驚愕しつつも、気付かれぬように後を追い、何度も振り返りながら店の外に出たせいやくんに声をかけました。

「こんにちは、お店の者です」
「はい? なんですか?」
「なんですかって、なんで声かけられたか、わかるでしょう?」
「あ、いや、……はい、ごめんなさい」

 ずっと惚けていたい様子でしたが、逃走を図ることなく事務所への動向に応じてくれたせいやくんに、盗んだ理由を聞いてみます。

「どうして盗っちゃったの?」
「ちょっと恐かったし、恥ずかしかったから……」
「え? どういうこと?」
「…………」

 なぜか黙り込んでしまったので、無理に尋ねることなく、事務所まで連れて行きます。事務所に到着して、盗んだ商品を応接テーブルに出してもらうと、計8点の商品が出てきました。どれも見たことのない商品ばかりで値段はわかりませんが、200円ほどしか持っていないというので、商品の買い取りはできそうにありません。身分を確認させてもらえば、近くにある県立高校の1年生で、ここから電車で30分くらいかかるところに家族と暮らしていると話しています。両親とも働きに出ており、帰宅されるのは夜遅くだそうで、商品代金の支払いや身柄の引き受けに時間がかかることに違いありません。今日も残業かと意気消沈しながら、必要事項の聴取を終えてまもなく、額に青筋を立てた店長が鬼の形相で事務所に入ってきました。

「え? こんなにたくさん盗ったの?」
「はい。所持金も少なくて、買い取れそうにないんですけど、どうされますか?」

 テーブルに並べられた商品群を見て、汚物を見るかの如く顔をしかめた店長が、せいやくんに言いました。

「こんなにたくさん、全部自分で使うつもりだったの?」
「いや、友達にもあげたかったから」

 店長によれば、せいやくんが盗んだモノの一部はアダルトグッズで、販売時に年齢確認が必要となる商品ということでした。恐くて恥ずかしいと話していたのは、このことを言っていたのでしょう。色や形によって中身が違うらしく、さまざまなタイプの商品を万遍なく盗んでいるところをみれば、友達にあげるという弁解も疑わしく思えてきます。

「キミさ、高校1年生なんだよね? こんなことするより、もっとほかにやらなきゃいけないこと、たくさんあるでしょう? 学校にバレたら、将来までダメになっちゃうかもよ」
「ごめんなさい! もう絶対にしないので、誰にも言わないでください! こんなこと知られたら、おれ自殺します!」

 事の重大さを理解したのか、椅子に座ったまま両腿に拳を立てて胸を張るようにしたせいやくんが、かなり激しく泣き始めました。まだあどけなさの残る泣き顔の前に居並ぶファッショナブルなアダルトグッズが、段々と忌々しいモノに見えてくるのが不思議です。

「すごい泣いてるし、自殺されても面倒だから、もう帰していいわよ」

 基本的には、警察に通報して引き渡さなければならない状況ですが、店長さんの意向であれば仕方ありません。全ての被害品を回収した上で、最後にもう一度、念のために所持品を確認させてもらうと、バッグに入っていた学生かばんの中から数枚のアダルトDVDが出てきました。パッケージを見ればレンタル品のようで、18歳未満の子が借りられる作品ではありません。思春期の真っ只中にいる男の子の生態を目の当たりにして、微笑ましいどころか吐き気のする思いがした私は、せいやくんと同じ空間にいることさえ苦痛に思えてきました。

「これは普通にレンタルしてきたやつです。本当です! 信じてください!」
(この子、このまま帰して、本当に大丈夫かしら?)

 結局、面倒を嫌がる店長の一存で解放されたせいやくんは、帰宅を許された途端に泣き止むと、小走りで逃げるように立ち去っていきました。

(孫は可愛いって、みんな言うけど、意外と大変そうね)

 若い頃、子宝に恵まれずに夫と一緒に悩んだ時期があったことを思い出した私は、孤独な人生も悪くないものなのだと、自分に言い聞かせながら家路を辿った次第です。
(文=澄江、監修=伊東ゆう)

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