春風亭一之輔、コロナ禍で正月興行のトリ務める心境と落語界の“様変わり”を明かす

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2021年01月11日 19:30  週刊女性PRIME

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週刊女性PRIME

春風亭一之輔  (c)キッチンミノル

 エンタメ業界をも容赦なく襲う緊急事態宣言。平時はのんびりした面々が集まる落語界も、安全地帯でぼんやりしてはいられない。

「(仕事キャンセルの連絡が)もう3、4件きましたね。地方の落語会から連絡が届いて、先々の予定が中止になっています。これからまだきそうですけどね、昨年のコロナ禍では125件のキャンセルがありましたから」

「どんと来い」の心持ちでそう明かすのは、落語家の春風亭一之輔(42)だ。

ぬか床作りやオンライン配信にも挑戦

 本業以外にも、ニッポン放送のレギュラー番組でしゃべり、『日経新聞』『産経新聞』『週刊朝日』で連載原稿を書き、ワイドショーではコメンテーターとして、やんわりと世相を刺したりする。

 緊急事態宣言が出された直後の1月11日から20日まで、東京・上野鈴本演芸場の昼席でトリ(=最後の演者)を務めている。

「なかなか今、“寄席に来てください”と言いにくいところはありますが、いつもどおりにしゃべります」

 と言葉ににじませるのは、日ごろから見せる脱力感だ。

 都内には上野鈴本演芸場をはじめ、浅草演芸ホール、池袋演芸場、新宿末広亭(五十音順)という4軒の定席(いつも開いている寄席)がある。

 正月興行(元日〜10日までが初席。11〜20日までが二之席)に顔付け(=ブッキング)されるのは、三遊亭小遊三(73)や、春風亭小朝(65)、春風亭昇太(61)、柳亭市馬(59)といった”落語界の顔”ばかり。若手のひとりとして一之輔が顔付けされていることは、寄席演芸界の次世代を担う逸材として期待されていることを意味する。

 2度目の緊急事態宣言となる今回、寄席は日ごろから行っている入場制限、検温・消毒などの対策に加え、しまい(終演)の時間を20時に繰り上げることで対応するが、昨年は木戸(出入り口)が閉まるという事態に見舞われた。

 原稿執筆やラジオ出演などの仕事はそのまま続いた一之輔だが、在宅時間は増えた。

「ステイホームのときは、散歩をしたり、カミさんと担当わけしてメシを作ったりしました。(料理は)普段やらないんですけど、クックパッド(料理サイト)を見ながらやりました。あと、ぬか床も作りましたね」

 そのさなかのこと。一之輔は、10日連続の「オンライン落語配信」に挑み、話題を集めた。頼りになったのは、2019年7月から所属しており、タレントの中川翔子や“お笑い第七世代”のトリオ『四千頭身』らを抱える芸能プロダクション・ワタナベエンターテインメントの下支えだ。

「撮影や編集のプロ、デジタル班の人がそろっているんです。技術的なことは任せないと、(落語家では)できないですよ」と、裏方のありがたさを称(たた)える。

 10日間連続で20時過ぎに実施した生配信には連日1万人を超えるアクセスがあり、手ごたえを得た。

「“臨場感があって楽しかった”という声は、お客さんからも届きました。オンラインで初めて聞いて、そこから落語会に来てくれたお客さんもいらして、すそ野が広がったというメリットはありましたね」

失われた落語界の“三密”

 YouTube『春風亭一之輔チャンネル』の登録者数はまもなく6万人に達するが、「それ(=配信)だけで生きていくのは無理ですね」と、あらためて生のよさを訴える。

「寄席に出ないと身体がなまる。なるべく寄席に主軸を置いている」

 そう語る一之輔は、落語のまくら(導入部)でよく「寄席がホームグラウンド」としゃべる。よって、出られる限り寄席に出演し、加えて落語会や独演会にも出演する。全国津々浦々から出演依頼は引く手あまたで、

「事務所の人には、テレビとかの仕事を入れにくい、と言われますよ」

 と笑うが、寄席を基軸にした暮らしを変えるそぶりは微塵(みじん)もない。その寄席も、様変わりした。

「楽屋の様子も変わりました。出番が終わったらなるべく早く帰らなきゃならないし、湯呑みに入って出てくるお茶も、紙コップになりました。慣れちゃいましたけど、なんか寂しい、味けないですね。打ち上げも一切しない。(芸人は)みんなまじめですよ」

 密が伝統をつないできた落語の世界で、大事な“三密”が失われた。楽屋で出演者がパァパァと与太話を飛ばし合う芸人同士の密、客入りが減ったために薄くなった客席との密、そして、師弟の密。

「元日には例年、師匠(=春風亭一朝)の家に集まって祝うんですが、今年はよそう、ということになりました。ほかの一門も僕が聞いた限り、どこも集まらなかった。忘年会も一切ありませんでした」

 と、お互いに(新型コロナウイルスを)うつさない、という意識を共有している。

 一之輔にも、二つ目のきいち(※きは喜の旧字で七を3つ)を筆頭に、与いち(よいち)、いっ休(いっきゅう)、貫いち(かんいち)という4人の弟子がいる。コロナ禍になる前は、週に1度は全員が集まり、一之輔宅でお茶会を開いていたが、それもできない。

「(前座の)弟子は週1で来ていたんですが、今はうちに上がって長居することはなくなりましたね。玄関先で(用事を)すませる感じです」

 と慎重を期し、自身についても気を引き締める。

「できることは手洗いとうがい。どうしても人と会わないといけない仕事もあるので、うつりたくないですけど、“いつか自分も(新型コロナに)かかるかもしれない”という感じはありますけどね」

 これまで3度のPCR検査を受け、結果はすべて「陰性」。だからといって気を抜くことはなく、日々寄席へ、落語会へ。

「(お客さんは)前を向いてマスクをして聞く。心配な面はあるでしょうけど、50%の入場制限を設けていますし、食事もできないし、マスクをはずしている人には(鈴本演芸場が)結構うるさく注意していますから」

 寄席の安全対策を信頼し、今日も一之輔は高座を務める。

(取材・文/演芸評論家・渡邉寧久)  

【PROFILE】
春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ) ◎1978年1月生まれ。千葉市野田市出身。'01年5月、春風亭一朝に入門。'12年3月、異例の早さで真打ちに昇進した。NHK新人演芸大賞落語部門大賞、文化庁芸術祭大衆芸能部門新人賞、浅草芸能大賞新人賞など受賞歴も多数。週刊誌の連載に加え、ニッポン放送『春風亭一之輔 あなたとハッピー』などメディア出演も多い。1月20日には著書『まくらが来りて笛を吹く』(朝日新聞出版)を発売。歌舞伎俳優との配信トークライブ『春風亭一之輔のカブメン。』も今月、スタートする。初回ゲストは松本幸四郎。

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