【トヨタGR010インプレ】燃料カットのストレスから解放され「F1やGTみたいな運転」に。一番の違和感は重さ

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2021年01月17日 17:41  AUTOSPORT web

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2021年のWEC/ル・マン24時間にトヨタが投入する新型ル・マン・ハイパーカー『GR010ハイブリッド』
1月15日にトヨタGAZOO RacingがWEC世界耐久選手権向けに発表した新型ル・マン・ハイパーカー『GR010ハイブリッド』。チームは正式発表以前の2020年内に、2回のテストを行なっている。

 今回はマシンをドライブする選手たちに、GR010ハイブリッドのドライビングインプレッションをオンラインで取材した。先代のTS050ハイブリッドと比べて、何が、どのように変わったのだろうか?

 まず、明確にしておかなければならないのは、このル・マン・ハイパーカーが『GRスーパースポーツ(仮称)』として開発されている市販車をベースにしたレーシングバージョンではない、ということだ。TS050の遺伝子を色濃く受け継いだピュアレーシングカーであり、純粋なプロトタイプマシンである。

 故に、その外観についても随所にTS050との共通点が見られる。ただし、ボディサイズは全長が250mm、全幅と全高が100mm増えるなど、ひとまわり大きくなった。

 1月の発表直前にスペインのアラゴンで行なわれる予定だったテストが中止になり、まだ一度もドライブしていないという小林可夢偉は「パッと見、でかいっすね。横も縦も長くなっている感じ。ただでさえ狭いル・マンのガレージの中がさらに狭くなるなと思いました」と第一印象を述べた。

 では、コクピットに座った印象はどうだろうか? やはり、雪で初テストの機会を逸した中嶋一貴はいう。

「着座位置とかの関係なのか、ボディワークの形状なのか、いままでより少し低い位置に座っている感じはします。あと、コクピット内のスペースは全体的に少し余裕がある感じがしますね。ただし、TS050と比べて大きくは変わらないです」

 可夢偉によれば、レギュレーションによってヘッドレストのサイド部が高い位置にあるのが少し不自然に感じること、またサイドミラーが埋め込み式でなくなり、以前のようにステムのあるキノコ状のものに変わったこと以外は、TS050とあまり変わらないという。

■「すごく遅くなってはいない」がウエットではトリッキー
 残念ながら、日本人ふたりはまだGR010をテストすることができていないが、すでにステアリングを握っているセバスチャン・ブエミは非常にポジティブな印象を受けたようだ。

「クルマの第一印象はとても良かった。確かに、パワーもダウンフォースもTS050と比べて落ちてはいるけれど、パフォーマンスは想像以上だったし、すごく遅くなったという感じはしない」

「何よりも、もう燃料をセーブする必要がなく、ストレートエンドまでフラットアウトでいくことができ、ブレーキをギリギリまで我慢できるのは嬉しい。ピュアレーシングの時代に戻った感じがするよ」

 今年も一貴、ブエミと共に8号車をドライブする、ブレンドン・ハートレーもブエミと同意見だ。

「確かに重量は感じるけれど、挙動はレイジーじゃないし、ステアリングはとてもダイレクトなフィーリングがある」

 新旧マシンのパワーを比較すると、TS050がエンジン出力500PS(367kW)+前後輪モーター(MGU)出力500PS(367kW)の合計1000PSだったのに対し、GR010はエンジン出力680PS(500kW)+前輪モーター(MGU)出力272PS(200kW)の計952PSと、パワートレーンのトータル出力は低下している(ただし、LMHでは4輪の合計出力は最大500kW=680PSに制限される)。

 レギュレーションによりリヤのMGUがなくなり、フロントMGUのみになって失われたパワーを、V6直噴ツインターボ・エンジンの排気量アップ(2.4L→3.5L)等で補った形だ。また、重量は1040kgと、2019/20年仕様のTS050より100kg以上重くなった。また、ブエミもコメントするように、1周あたりの燃料使用量制限はなくなっている。

「確かにパワーは下がった。トータルパワーはバイコレスやグリッケンハウスと同じくらいになるだろうから、今まで以上に厳しい戦いになるのは間違いない」と、ブエミ。

 一方、ハートレーは「1000馬力のロケットのような加速はなくなったが、パワーカーブはより普通になったし、(燃料を気にすることなく)ストレートエンドまでアクセルを踏んでいられるのはいい気分だ」と、ポジティブだ。

 ただし、MGUのデプロイに関して規定が設けられ、スリックタイヤでは120km/h以上、ウエットタイヤでは140km/h以上にならないとMGUによるハイブリッドパワーが供給されなくなった。低中速コーナーの立上がりでは、フロントが駆動されず、リヤドライブとなるのだ。

「ポルティマオのテストではウエットで走る機会もあったが、やはり少しトリッキーに感じた」とハートレー。

「リヤにもMGUがあった方がトラクションコントロールの自由度がより高いし、バランスなどブレーキのセッティングもいろいろなことができた。以前ほどのアドバンテージはないと思うし、セッティングを最適化する方法が変わったのは事実だ。それでも、エンジニアはいい仕事をしたと思うよ」

■パワーダウンでもタイヤには厳しい方向に
 一貴も「リヤにモーターがないことでドライビングが大きく変わることはないと思います」と、それほど気にしていないようだ。

「ドライバーとしては、GTやフォーミュラみたいに普通にストレートエンドでブレーキをしてという作業になるので、そんなに大きな問題はないかなと。唯一あるとすれば、リヤのモーターがなくなり(油圧)ブレーキだけ(の減速)になるので、その辺の温度管理とかはこれからいろいろ勉強していかなきゃいけないかなと思います」

「おそらくですけど、重くなっているのが一番違和感があるんじゃないかという気がします。レーシングカーでウエイトって一番でかいじゃないですか。どちらかといったらこれまではフォーミュラ寄りのスポーツカー(プロトタイプ)だったのが、GT寄りのスポーツカーになったイメージかな」と可夢偉は言う。

 重量増は、ハンドリングだけでなく、もちろんブレーキングにも大きな影響を与える。

「新しいクルマは重くてダウンフォースも少ないから、LMP2よりもブレーキングを遅らせられるとは思えない。そのリスクをどう管理するかという点では、まだ学ぶべきことが多い。ただし(リフト&コーストなどで)燃料をセーブする必要がなく、最高速からブレーキングできるのはいいし、F1に近いドライビングスタイルになるだろう」とハートレー。

 マイク・コンウェイは「フィーリングに関しては以前と非常に似ているし、ペダルフィールもあまり変わらない。確かにクルマは重くなりはしたが、それでもフューエルカットが入らず、自分が望む場所でブレーキングできるのはいいし、挙動を予想しやすい。よりトラディショナルな運転をできるようになった」と、みな概ね好意的だ。

 ただし、重量増によってタイヤにかかる負担は以前よりも大きくなる。

 ブエミは「まだ最終的なタイヤのスペックは決まっていないが、重くなっているのは事実なので、間違いなくタイヤには厳しいだろう。耐久性とパフォーマンスのいい妥協ポイントを見つけなければならない。また(中低速)コーナーの立上がりでは4WDにならないから、その点でもタイヤをケアする必要がある」と、タイヤマネージメントが以前よりも難しくなるだろうと予想する。

■「ブーストなくてもトラフィック処理は簡単」になる理由
 では、パワーが減り重くなったことは、トラフィックマネージメントにどう影響するのだろうか?

 TS050では、溜め込んだハイブリッドブーストをコーナーの立上がりで一気に開放し、易々とバックマーカーを抜かすことができた。しかし、重量が増しMGUが一基となったこと、そして120km/h以下では前輪のハイブリッドブーストがかからなくなることで、オーバーテイクは以前よりも難しくなるのではないだろうか?

「逆ですね、逆。燃料が使えるので」と可夢偉。

「前は(アクセルを)踏みたいところで踏めないから、わざわざ無駄に燃料を使わないようにしたりして、確実に抜けるところで抜いていた。でも、今のルールだとアクセルをパーシャルにしようが、パカパカやろうが燃料的には問題ないから、逆に簡単だと思います。(相手と)同じ速度だったほうが合わせやすいじゃないですか」

 これについては一貴も「単純に、GTみたいになるのかなと。考えることが減るし、シンプルになると思います」と可夢偉の意見に同意する。

 もう一点、ハイパーカー規定となり、大きく変わることがある。それはエアロパッケージだ。

 昨年までは、ル・マン用のローダウンフォース仕様と、主にそれ以外のサーキットを想定したハイダウンフォース仕様の2タイプを使い分けることができた。しかし、新規定では1タイプに制限されることになった。

「GR010は、これまでのローダウンフォースに近いパッケージだ。つまり、他のサーキットよりもル・マンにあったエアロだといえる」とブエミ。

 ヘッドライト周りは以前のハイダウンフォース仕様に近い造形にも見えるが、プライオリティはル・マンにあるようだ。

「サーキットとの相性という意味では、ル・マンが一番良いのではないかと思います。あと、昨年(新型コロナの影響で)開催できなかった富士も期待していますし、楽しみです」と、一貴は結んだ。

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