プジョーの新型「208」で電気自動車を選ぶ理由

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2021年01月19日 07:41  マイナビニュース

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画像提供:マイナビニュース
輸入車で最も安い電気自動車(EV)――。そんな触れ込みのプジョー「e-208」だが、実際のところ、クルマとしての出来栄えはどうなのか。ガソリンエンジン搭載モデル「208」もある中で、あえてe-208を選ぶ理由はあるのか。じっくりと試乗して考えてみた。

フランスのプジョー「208」は、同国のルノー「ルーテシア」や日本車のトヨタ自動車「ヤリス」、ホンダ「フィット」などの競合車種だ。この208に電気自動車(EV)バージョンの「e-208」が加わった。ヤリスやフィットにはハイブリッド車(HV)があるものの、EVはない。

208は2019年にモデルチェンジして2代目となった。まず欧州で販売が始まり、日本では2020年に発売となっている。ガソリンエンジン車と同時にEVも導入となった。プジョーではSUVの「2008」にもEVを追加しているが、モーターの駆動系やリチウムイオンバッテリーなど、EVの核となる技術はe-208と共通だ。

まず、e-208の概略を紹介しよう。

エンジン車と同じく前輪を駆動(FWD)するモーターは、最高出力100kW、最大トルク260Nmの性能を発揮する。この数値は、ガソリンエンジンよりも優れている。一方で、リチウムイオンバッテリーを搭載しているため、車両重量はガソリン車に比べ330キロ重くなる。リチウムイオンバッテリーの容量は50kWhで、フル充電だと403キロを走行可能(JC08モードの一充電走行距離)だ。

今回は上級車種の「GT Line」に試乗した。タイヤサイズは標準車のアリュールより扁平な205/45R17だ。

新型208の外観は先代に比べ全体的に上質さが高まり、見るからにおしゃれで、競合他社と比べても格が1つ上の印象をもたらしている。車体寸法は全長が4mちょっと、全幅が1.7mを超えるので3ナンバー車とはなるものの、そのたたずまいは手ごろでありながら、大衆車の安っぽさを感じさせない魅力にあふれている。対面しただけで惚れ込んだ。それが、e-208の実車を初めて見たときの感想だ。

キーをもって乗り込み、イグニッションのボタンスイッチを押すと起動する。当然ながらエンジンがアイドリングすることはないので、メーター内の「READY」の表示で走れる状態であることを確認する。

シフトレバーはエンジン車と共通で、レバー脇のボタンを押しながら前後に移動させることで後退と前進を選択する。手前に引くと「D」レンジに入るが、再び同じ操作を行うと「B」レンジに入る。Bレンジでは、アクセルペダルを戻したときの「回生」をより強めにすることができる。回生とは、エンジンブレーキのような減速状態だ。シフトレバーを手前に引けばいつでもDレンジに戻せる。

シフトレバーの手前にあるスイッチでドライブモードを「エコ」「ノーマル」「スポーツ」の3つから選択できる。エコにすれば電力消費を抑えられるし、スポーツにすればより加速の鋭い運転感覚を得られる。イグニッションを入れた最初はノーマルモードになっている。

e-208で走り出すと、アクセルペダルの操作で的確に加減速を調節できることに気が付いた。これなら、市街地の路地を歩行者や自転車に気を遣いながら運転するときも、速度調整がしやすい。Bレンジで運転していれば、ハッとするような万一の状況に遭遇した時でも、アクセルペダルを戻せば回生がすぐに作動して減速が始まる。なので、見通しの悪い路地などを運転する際にはBレンジがおすすめだ。

幹線道路へ出て交通の流れに乗ったので、エコモードを試してみた。一般的にエコモードは、燃費(EVの場合は電力消費を知る意味で電費)をよくしたいばかりに、アクセル操作に対し加速が鈍る傾向がある。だが、e-208は交差点での発進などでも出遅れることなく、何の違和感もない。日産自動車のハイブリッド車である「e-POWER」なども同様だが、モーター駆動で走るクルマはエンジン車に比べて出足がよいという特性を持つので、エコモードでも走りが鈍くなるのを実感しにくい。

したがって、このあとも試乗のほとんどをエコモードで走った。エコモードにしておけば一充電での走行距離も伸びるので、長距離を移動する際の安心感も高まる。Bレンジであれば減速時の回生をより効果的に使えるので、一充電走行距離が伸びる傾向となる。ここが、EVの面白さだ。例えばカード決済でポイントを溜めているような気分で、減速でいかに回生を上手に使い、減速エネルギーを電力としてバッテリーに回収するかという点に、新たな運転の喜びを発見することになる。試乗の際も、走り出した時には308キロとメーターに表示されていた航続可能距離が、都市高速道路に乗るまでの幹線道路では一時的に、311キロまで増えていた。

高速道路に入ると交通の流れが安定し、アクセルを戻す機会が減るので、回生の機会も少なくなる。したがって、電力消費は進んでいく。それでも、前のクルマとの車間距離を維持するために速度を調節する機会はあるので、回生を意識した運転をすると、電力の減り方を抑えられる。その点では、高速道路を巡行する際にはACC(全車速追従機能付きクルーズコントロール)を利用するといい。運転が楽になるだけでなく、コンピューターが電力消費も上手に抑えながら走ってくれるだろう。

EVなので、車内の静粛性に優れていることはいうまでもない。同乗者との会話が普通にできるだけでなく、エンジン車のような振動がないことが身体への負担を減らしてくれるので、遠出がさらに楽しくなる。

試乗したGT Lineは標準車に比べ扁平なタイヤを装着していたが、しなやかなサスペンションづくりに定評のあるプジョーだけに、路面変化に対する衝撃もよく抑えられ、快適に乗っていられた。

後席は、やや座席が小さいような印象を受けたが、正しい姿勢で座れるし、つま先は前の座席の下に差し入れることができるので、コンパクトカーとして居住性に不足はなかった。

居住性については、EVならではのよさも感じた。EVでは床下にバッテリーを積むのが一般的だが、e-208はエンジン車と同じ車体を使っているため、バッテリーは床一面に敷き詰めるのではなく、前後の座席下へ収めるようにしている。このため、後席の床がバッテリーによってかさ上げされているような感じになるので、後席の着座姿勢が膝を抱えるような格好になるという、EVにありがちなデメリットを回避できている。50kWhものバッテリーを搭載しながら、後席の着座姿勢を崩さずに作りあげていることには感心した。

市街地と高速道路、そして郊外の道を約150キロ走行して戻ると、メーター内の一充電走行距離は残り約150キロを示していた。空調を利用し続け、また写真撮影をする際にはイグニッションを起動したまま数十分停車したが、それでも実際の走行距離と、コンピューターが割り出した走行可能距離の合算が、試乗開始時の数値とほぼ一致している。すなわちe-208は、メーター表示を信頼して充電時期を考えればいいEVであることも確認できた。

対面したときに感じたe-208への高い好感度は、試乗を終えたいまも変わらない。その魅力は、買いたいと思わせるほど強いものだった。

ガソリンエンジン車の208が239.9万円から、EVのe-208は389.9万円からという価格設定なので、両者には150万円の価格差がある。試乗したGT Line同士だとガソリンが293万円、EVが423万円からなので、その差は130万円だ。

100万円以上の開きは大きいし、ガソリン代と電気代の差額や整備費用の差を考えても、利用していくうちに埋まる価格差ではないと思う。それでも、小さな上級車種としてのe-208が持つ価値は、ユーザーに大きな満足を与えてくれるだろう。クルマの大小ではなく、本質的なよさで商品を選ぶ目で見れば、e-208は大いなる魅力を備えたEVだと感じられるはずだ。

御堀直嗣 みほりなおつぐ 1955年東京都出身。玉川大学工学部機械工学科を卒業後、「FL500」「FJ1600」などのレース参戦を経て、モータージャーナリストに。自動車の技術面から社会との関わりまで、幅広く執筆している。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。電気自動車の普及を考える市民団体「日本EVクラブ」副代表を務める。著書に「スバル デザイン」「マツダスカイアクティブエンジンの開発」など。 この著者の記事一覧はこちら(御堀直嗣)
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