慰安婦問題、日本政府の「お詫びと反省の気持ち」はどこか軽い 金学順さんの告発から30年

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2021年01月19日 16:00  AERA dot.

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写真ソウルの少女像(c)朝日新聞社
ソウルの少女像(c)朝日新聞社
 作家・北原みのりさんの連載「おんなの話はありがたい」。今回は、慰安婦問題について。問題が解決されない理由について、北原さんはフェミニズムの視点で分析し、社会に提言する。

【画像】当時の朝日新聞。1993年8月4日の「河野談話」を伝える紙面

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 今年は韓国人の金学順(キム・ハクスン)さんが「慰安婦」であることを名乗り出てから30年という節目の年になる。

 金学順さんが名乗り出たとき、私は大学生だった。「慰安婦」のことは、石坂啓さんのマンガなどで“表現物”として知ってはいたが、当時の感覚としては、まさか当事者が顔と名前を出し、日本政府を訴えるとは全く想像もできないことだった。

 金学順さんは1991年8月14日に韓国国内で名乗り出た。今に連なる#MeTooの原点の日として、この日を国連記念日にする動きがあるが、実はこのとき、日本の主要メディアは金学順さんのことをほぼ報じていない。金学順さんの名が一瞬にして日本社会に広まったのは、その年の12月、植民地時代の被害を訴える元軍人やその遺族らとともに日本政府を訴えたときだ。

 当時のメディアは、元「慰安婦」が名乗り出た、という一色に染まったものだった。連日、金学順さんが涙ながらに過去を語る姿が報道され、メディアは金学順さんの人生を追った。それまで “戦地のロマン”として、またはどこか正面から語ってはいけない“恥”のように語られてきた歴史が、「あれは性暴力だった」と訴える被害者が現れたことに、日本社会は激しく動揺したのだ。
  
 当時の日本は世界で一番お金持ちの国だった。軍事政権から解放されて間もない韓国の生活水準は貧しく見えた。畑の真ん中の物置小屋に暮らしているような被害女性たちの姿が報道されると、「まずは生活費を援助したい」というような空気も生まれた。政府と民間が協力した「償い金」が国民の寄付で集められたが、日本政府からの賠償金ではないお金を受けとらない当事者は多数いた。彼女たちは生活費ではなく、謝罪を求めていたからだ。

 そう、金学順さんをはじめ、日本政府を訴えた女性たちが求めてきたことは90年代から一貫して、日本政府による真摯な謝罪、その一点だった。これまで裁かれることのなかった戦時や紛争時における女性への性暴力。長い間、罪ともされなかった罪への謝罪を求めたのだ。謝罪とは、最近よくある「誤解をあたえてすみません、ぺこり」というような軽いものではなく、事実を認め、責任の所在を明らかにし、被害者救済に全力を尽くすことだ。

 日本政府はこれまで「慰安婦」にさせられた女性たちに対し、「お詫びと反省の気持ち」を繰り返し表明してきた。「お詫びと反省の気持ち」とは、定型文のように小泉首相も、安倍首相も使ってきた言葉だ。これをもって「日本は何度も謝っている、いつまで謝ればいいのだ」と言う人もいるのだが、「お気持ち」は形(賠償)にしなければ、真の謝罪にはならない。だいたい謝罪とは、受けとる側が納得しなければ意味がない。そもそも、犯した残虐性に比して、「お詫びと反省の気持ち」の字面はどこか軽すぎる感が否めない。なにより歴史教科書から「慰安婦」の文言が消え、「慰安婦」は嘘つきなどという言説が根深くあり続ける日本社会で、いくら「お気持ち」を政府が表明しても、行動として全く見えない時点で謝罪が嘘っぽく見えてしまうのも、被害者からすれば当然の心理だろう。

 1月8日、韓国人元慰安婦女性たちによる訴えを受け、韓国の裁判所が日本政府へ賠償を命じる判決を出した。これを受け、韓国への感情的な批判が強まっている。「常識的に考えておかしい」と韓国法曹界の常識を問う発言をする人は政治家、言論人問わず少なくなく、「これ以上、日韓関係を悪化させて何が面白い」と韓国に怒りを向ける新聞コラムがあったり、「日韓関係が史上最悪」と煽ったりするようなメディアは後を絶たない。

 日本は関係改善に努力しているのに、韓国が一方的に悪化させてくる……という被害者意識を剥き出しにした論調が、これまでになく強まってしまっているようだ。なぜ韓国の裁判所は主権免除が適用されないと判断したのかなど、事実をもとに国際的な潮流を丁寧に読み解いていく必要があるはずだが(国家のどのような残虐行為にも主権免除が絶対だったのは19世紀までのこと。法的地位が脆弱な被害者であり救済手段が他にない場合には主権免除の例外が適用されることはこれまでもあった)、韓国はおかしいと驚いてみせ、日韓関係を悪化させる気かと脅すメディアの論調こそが、日韓関係を心理的に悪化させてしまうのではないかと強く懸念する。

 学生時代、金学順さんの訴えに衝撃を受けたとき、被害者が現れた以上、解決は目の前でしょ!と私は楽観していた。日本軍の関与を示す証拠が見つかり、何より世界中からあげられた#MeTooの声を無視することはできないと単純に信じたのだ。ところが気がつけば、被害者が全員亡くなっても、もしかしたら私の人生が終わっても、「慰安婦」問題が解決することはないのではないか……という不安が現実味を帯びてきている今日このごろだ。K−POPをいくら楽しんでも、「愛の不時着」がどんなに盛り上がっても、「慰安婦」問題は解決できない。いったいなぜ? 

 終わったはずの「慰安婦」問題を蒸し変えしてくる迷惑な韓国……という論調が隠蔽するのは、実は日本社会の劣化なのかもしれない。金学順さんの告発から30年。韓国社会も当初、「売春婦が声をあげるなんて韓国の恥だ」という声が大半だった。そこから30年間かけて、民主主義社会を成熟させ、性暴力被害者の声を聴く社会に成長していった。主に朴正熙政権時代、アメリカ軍に対して韓国が国策として行った「米軍慰安婦」に対して、韓国政府は謝罪と賠償を行っている。ベトナム戦争時の韓国軍性暴力問題にも、社会が果敢に取り組んでいる。日本に対してだけではなく、性暴力問題については韓国社会、韓国政府に対しても変革を求めてきたのだ。

「慰安婦」問題は、日韓関係問題ではない。そのように規定して考えはじめることが、私たちには今、必要なのかもしれない。「慰安婦」問題とは日本社会の性暴力問題に対する姿勢、女性の人権への姿勢、そして歴史に対する姿勢の問題なのだ、と。そもそも「慰安婦」にさせられたのは韓国人だけではない。「お詫びと反省」を日本政府に積極的に求められなかった国にも、必死に声をあげ続けた被害者がいた。「慰安婦」にさせられた日本人女性にも、声をあげた人がいた。

「慰安婦」問題をめぐる様々なこと、「日韓関係」として切り捨ててきた「慰安婦」問題の多くを、金学順さんの声から30年の節目の2021年こそ考えたいと思う。韓国社会への怒りや被害者感情をこれ以上膨らませるのではなく、私たちの社会の成熟のために。性暴力問題に真摯に取り組める社会であるために。

■北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。作家、女性のためのセックスグッズショップ「ラブピースクラブ」代表

このニュースに関するつぶやき

  • 朝日系は自分達が創作した従軍慰安婦の責任を取れ!�ܥ����äȤ����� [承諾書、戸籍謄本を準備させて人さらいですか?] https://ttensan.exblog.jp/28447349/
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  • 終わったはずの「慰安婦」問題を蒸し変えしてくる迷惑な韓国⇒よくわかってんじゃんw そこを直視しなさいw
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