石川佳純が全日本優勝で証明したこと。20年間培ってきた対応力で進化

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2021年01月20日 10:02  webスポルティーバ

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 女王に返り咲いた瞬間、その目からは涙が溢れ出た。

 1月17日に行なわれた卓球女子の全日本選手権決勝で、東京五輪代表の石川佳純が同代表の伊藤美誠を4−3のフルゲームの末に破り、5年ぶり5度目の女子シングルス優勝を果たした。




 最後に日本一になった2015年以降は、伊藤や平野美宇、早田ひなといった2000年生まれの"黄金世代"が頂点に君臨してきた。その中で石川は、今年2月で28歳と、卓球選手としてベテランの域に達しつつあるが、若い力、年齢の壁をも跳ね返してみせた。

 第1ゲームが終了した時点では、石川が勝利を掴むのは厳しいと思った人も多かったかもしれない。それほど序盤から、伊藤の速い打点、ピッチから放たれるスマッシュやミートに対応できずにいたからだ。

 伊藤とは日本代表として共に過ごす時間が長い分、プレースタイルや戦術もよく知る間柄。加えて準決勝では、伊藤もラケットの裏面に付けている「表ソフトラバー(回転よりスピードを重視したラバー)」を使用する木原美悠と試合をしている。そのため同ラバー独特の、ナックル気味の球質に慣れた状態で決勝に臨んでいたはずだった。

 しかし、捉えることができない。それほど伊藤は、ラバーやラケットの使い方、相手を混乱させる戦術が多いということ。石川自身も「1ゲーム目は(伊藤の)スピードにまったくついていけなかった」と試合後に振り返っている。

 先にゲームを奪われた石川だが、切り替えの早さを見せる。台から少し距離を取り、中陣でのプレーを選択したのだ。伊藤が得意とする表ソフトでの強打は、回転がかかったドライブに比べて初速は速いものの、すぐに失速してしまう特徴がある。そのため少し後ろに下がることで、伊藤のバックの強打を、威力が落ちた状態で対応することが可能になる。卓球歴20年の豊富な経験、引き出しを持つ石川だからこその戦術だ。

 さらに、「技術を磨き直した」という"バックハンドでループドライブ(通常のドライブ以上にゆっくり、山なりで、強く回転をかける技術)"で緩急をつけて相手を翻弄。伊藤はそのボールに対応できず、オーバーミスをして思わず苦笑いを浮かべる場面も。そのまま自分のペースに持ち込んだ石川が11−7でゲームを奪取し、ゲームカウント1−1のタイとした。

 第3ゲームも相手の逆をつくプレーや、徹底したバックサイドへのロングサーブなど戦術を変える石川。しかし伊藤が徐々に対応し、逆にコースを散らして揺さぶりをかけ、一気に逆転。ゲームカウント2−1と勝ち越した。

 続く第4ゲーム、石川は中陣から前陣でのプレーに変更し、攻めに出て序盤はリードするが、前での打ち合いは伊藤の"主戦場"。一撃必殺のカウンター"みまパンチ"や、無回転のナックルとドライブを織り交ぜた速いピッチでの攻めに追い詰められ、逆転を許す。そのまま7−11でゲームを奪われて優勝に王手をかけられた。

 もう後がない。2ゲーム連続で逆転され、精神的なダメージも大きかったはずだが、石川は「苦しい試合になることは最初からわかっていた。序盤でリードしてもゲームを取れないパターンが続いていたけど、『諦めずに、もっと思い切ってやりなよ』と自分に言い聞かせた」という。

 その開き直りもあってか、第5ゲームで石川は伊藤の強打をことごとく返し、ループドライブの攻めもより効果的になっていく。一進一退の攻防が続いて10−10のデュースにまでもつれながら、最後はサービスエースで奪取。勢いのままに第6ゲームを11−5と大差で制して望みをつないだ。一方の伊藤は、得意のミート打ちや、通常のチキータとは反対の側面を捉えて返す"逆チキータ"もオーバーミスするシーンが目立つようになるなど、攻撃のリズムが崩れていた。

 そして迎えたファイナルゲーム。一度は9−5と石川が大きくリードするが、すさまじいラリーを制するなど、伊藤が驚異の粘りで4連続ポイントを奪って同点になった。

 この場面について、石川は「『あー、1点取れない......』って緊張してしまって(笑)。優勝から遠のいていたし、9−9になった時は心臓が飛び出そうになった」と笑みを浮かべながら回想する。それでも「『大丈夫、まだまだここから』と切り替えました。お互い緊張しているし、『"心"の勝負だ』と勇気を出した」と覚悟を決めた。

 その言葉どおり、伊藤のバックスマッシュに対して、フォアで相手の逆をつくストレートに打ち返し、ノータッチで決め切った。この場面での思い切ったコースどりと、力強いスピードドライブで攻める判断。驚異の"心"の強さだ。

 最後は、伊藤のバックサイドに渾身のスマッシュを叩き込んだ。両手を高々と上げて喜びを噛みしめると、その瞬間、一気に涙が溢れた。

 この涙には、さまざまな想いが込められている。

 冒頭でも触れたように、近年では若手の台頭が著しく、伊藤や平野のようなスピード、早田のようなパワーを持ち味とする選手が増加。比較的にオーソドックスな攻撃スタイルの石川に対しては"限界説"も囁かれ、石川本人も、「もう無理なんじゃないかって思ったこともあるし、(限界と)言われることもいっぱいあって......。自分のプレースタイルや年齢をマイナスに考え落ち込むこともあった」と告白した。

 そんな石川に勇気を与えたのは、コーチや練習パートナー、そして家族からの言葉だった。

「みんなが『全然やれるよ。もっと自分の可能性を信じて』と言ってくれて、『あぁ、そうだよなぁ。自分で自分を信じないとダメだよな』と。最近は楽しく練習もできているし、『やりたいようにやればいい』と思うようになりました」

 時代の流れによる競技の変化への対応、年齢による身体能力の衰え。どんなアスリートも必ず直面することだが、だからといって「ベテラン=限界」ではない。今大会で石川は、それを自身のプレーによって証明してみせた。東京五輪の実施はいまだ不透明だが、この結果と自信を、新たな心の支えとして歩み続ける。

「(全日本女王として)恥ずかしくないように、五輪まで自分のできることを準備して、本番で最高のプレーができるよう、さらに頑張っていきます」

 相手の状況に応じた駆け引きやゲーム運び、最後まで諦めない粘り強さ、逆境を乗り越える強い"心"。これらの武器があれば、ベテランの石川はまだまだ進化する。

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