「村八分のままがいい」ネットも通じない宿で考えた本当の地方移住 「土地の人間になろうとしても無理」

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2021年01月21日 07:00  ウィズニュース

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写真「苫屋」の玄関。重みのある引き戸をあけると、囲炉裏の煙が香る=2020年11月、岩手県野田村(朝日新聞)
「苫屋」の玄関。重みのある引き戸をあけると、囲炉裏の煙が香る=2020年11月、岩手県野田村(朝日新聞)

ネットも電話も使わず、手紙でしか予約できない岩手の宿「苫屋(とまや)」。現代では珍しいスタイルの宿と、オンラインでつないで、地方への移住や「便利」について考えました。「不便を解消してくれる便利はありがたいけど、便利をもっともっとと言うのはどうかな」。新型コロナウイルスで価値観が見直される今、オンラインでつないだ「苫屋」の囲炉裏を囲みながら、本当に大事なことについて語り合いました。

【画像】手紙でしか予約できない宿、中を写真で紹介 人が自然と集まる囲炉裏 ほぼ自給自足の生活

「地方」の自活力
イベント「手紙で予約する宿・苫屋から考える本当のノーマル」は12月17日の夜に開かれました。「苫屋」の坂本充さんと久美子さんの夫妻を中心に、地方への移住や持続性のある生き方に詳しい「ソトコトオンライン」編集長の北野博俊さんに解説してもらいながら、オンラインで参加者とつなぎました。司会は朝日新聞盛岡総局で「#ゆるり脱デジ旅」を担当する御船紗子記者が務めました。(苫屋の現地と、東京の北野さん、盛岡の御船記者と3カ所で中継を結びました)

〈電話やインターネットといった、今や日本中のどこにでも当たり前にあるものを、あえてなくしている環境から、苫屋は不便なのかという点について考えていきます〉

御船紗子記者(以下、御船記者):野田村やその近くに取材に行く機会が多いんですが、一息ついて、少し何か食べたいなと、Googleマップで「コンビニ」と検索しても、最寄りのコンビニが15キロから20キロ先なんです。私自身も、関西の地方都市の出身なので、徒歩圏内にないというのは、慣れているんですが、20キロにちょっと面食らってしまいまして。

ソトコトオンライン編集長の北野博俊さん(以下、北野さん):中山間地域に行けばコンビニがないというのは当たり前かなと思います。ただ、ないと困るかと言われると、案外そうでもないんじゃないかなと思っています。

御船記者:野田村だと、コンビニが遠いかと思うんですが、ご不便感じますか。

坂本充さん(以下、充さん):コンビニで買い物をすること自体がほとんどないね。
坂本久美子さん(以下、久美子さん):ごめんね。店があるのは知っているけれども、寄らないし。
充さん:どこか出かけている時にカフェを買うくらいかな。笑

御船記者:普段だとお買い物って、どういうところでされるんでしょうか。

久美子さん:野田の街に行ったり、(隣の)久慈(市)に行ったりするけれども。だって紗子ちゃん(=御船記者)、うち冷蔵庫あるから、コンビニいらないよ。

御船記者:私の家も冷蔵庫あるんですけど、コンビニ行きます。笑

久美子さん:畑があるから、何も問題ないの。欲しいものは畑に行けば手に入っちゃう。

御船記者:ですよね。畑で60種類ぐらい育てていらっしゃるということでしたもんね。

〈ここで、苫屋の日常について、さらに質問が〉

視聴者:普段、どのような食生活を送っていますか。家畜を飼っていますか。

充さん:鶏をずっと飼っていたんですけれど…。キャンピングカー暮らしの時から犬が2匹いたんですけど、犬がいなくなってしまってから、野生動物があまりにも来るんで、7年前くらいからやめました。ヤギも一回飼いました。猟師さんから、鹿肉や熊肉をもらうこともあります。ヤマドリ、キジ、カモ。あとは、三陸沿岸ですから、魚は本当に(捕れる)。今日も終わってから食べる魚(=ドンコ)を焼いてますけれど、これ(4匹)にあと五つ袋に入って、150円ですからね。豊かです、ここは。

御船記者:(魚を焼いている)囲炉裏、すごく魅力的に見えます。あえて囲炉裏でその部屋を賄っておられるというのは、暖かいから大丈夫ということなのでしょうか。

充さん:これは、囲炉裏が建物の中心にあるからですよね。ここから囲炉裏を抜いたのでは、肝心なものがなくなる気がするけどね。

御船記者:囲炉裏があるから、宿泊客もその部屋に集まってくるんですよね。

充さん:そうですね、そう思います。
久美子さん:ここで囲炉裏を囲むと、初めての人もお友達っぽくなるじゃない。心のガードをほぐしてくれる。気がついたら家族のようになっちゃうみたいな。

北野さん:最近ですと、人が生き生きと過ごせるシェアハウスって、実は真ん中にキッチンがあるシェアハウスだったりするんです。それは何かというと、やはりそこに人が集まれる。昔であれば囲炉裏ですし、今であればリビングの中心にあるテーブルなどですが、そういったものは昔も今も重要かなと思います。

意外な物が苫屋の必需品
御船記者:今度は逆に、とは言え、これはないと生活がしんどいというものを伺います。

久美子さん:冷蔵庫。
充さん:冷蔵庫を卒業できたら、電気もやめてもいいけどね。
久美子さん:冷蔵庫がないと夏を越せない。東北は冬もだけど。
充さん:冬の対応は、埋めるとか、できないことはないですけどね。夏はやっぱり難しい。

〈冬の冷蔵庫は物を冷やすためでなく、凍らせないために使うそうです。苫屋の冷蔵庫にはビールだけが入っていました〉

御船記者:冷蔵庫が必需品というのは意外でした。

北野さん:コンビニとかが周りになかったら、しっかり考えるようになると思います。あとどれぐらい残っているんだろうとか、何を買えばいいんだろう、と。そうすると、ついで買いがなくなるというか、寄り道がなくなるというか。

視聴者:情報に振り回されている自分は1日がものすごく早いです。お二人にとって時間への感覚というのはどうなんでしょうか。

充さん:多分時間の感覚は全員平等なはずですよ。僕らも別に情報集めていなくても、やりたいことはなんぼでもありますから。やっているうちにすぐ1日経ちますね。

〈イベントの前に、視聴者の方々にアンケートへ協力いただきました。その中で出た質問をもとに、最後のテーマが進んでいきます〉

御船記者:生まれ育った土地から別のところに移住するにあたって、お金や土地の習慣、地元の人がどのくらい歓迎してくれるのか、知りたいというアンケートがありました。移住したお二人にとって、何か大変だったこと、逆に大丈夫だったことはありますか。

充さん:キャンピングカーで暮らしていた2人やから、ある意味、宇宙人的に見られて、割と放ってくれていた。遠巻きに見てくれる感じで付き合ってもらっていたから、不自由もそんなに感じなかったと思う。地方に移住したいと思う若い人たちが、その土地の人間になろうと思っても無理やから、そこはあまり頑張りすぎない方がほうが良いんじゃないかな。
久美子さん:「村八分」って言うじゃないですか。それ大好きで。なじめるはずがないから。このままで良い。野田村の村長が、私たちのことを「変わってる」って褒めてくれるんやけど。そういう人たちにしたら、不思議な人たちだと思う。でも、それでいいと思っている。

北野さん:例えば、東京から移住という場合、その土地はもう東京じゃないっていうのは一つ大前提としてあった上で、なじめるわけがないというふうにしたほうが良いのかなとは思います。さっきの便利の話じゃないですけれど、コンビニがない生活において、「コンビニないじゃないか」と言ったって、それはもう仕方がないわけで。その土地でどうやったらそこにおけるルールや環境を楽しめるのか、ということが1番大事なのかなと思いました。

御船記者:ありがとうございます。確かにそういう、楽しむというマインドを持った上での、最終的にはなじめない部分も多少あるのだろうという形の方が良いのかもしれないですね。お二人も野田村での暮らしは楽しんでらっしゃるのかなと思います。

久美子さん:楽しいですよ。不思議な感じが楽しいの。

〈ここで話は一度それて、イベントの見学に訪れていた地域おこし協力隊の山口光司さん(以下、山口さん)がヤマブドウの畑をやっており、その収穫などで、充さんと久美子さんが手伝った話となりました〉

久美子さん:山口くんのおかげで、ヤマブドウ畑も見に行けたし、野田の良いところをもう一回見せてもらえた。地元の人だったら、そこにひっついて行ったりしないのを、よそから来ると全てが28年たっても新鮮だから。中ぶらりんの半住民みたいな暮らしが私的には楽しいのかな。土地の人になり切ろうと思わなかったし、今もあんまり思っていない。

〈山口さんも岩手でなく、栃木の出身です。11〜12月にかけて収穫したものを、ヤマブドウジュースにして製品化していました〉

毎年違う、違いを味わう
御船記者:その土地に住んでいても、まだ知らないことがたくさんあるというのは、別の地方へ移住する一つの大きな魅力なのかもしれないですね。

山口さん:都会では何でもお金があれば買えるんですけど、こちらに来てからは貨幣の価値では換算できない物を(いただいた)。例えば、農作業手伝いをしたら野菜をいただいた。何か手伝ったら別の物で返してもらうという経験ができるのは違うところだと思います。

御船記者:畑仕事を手伝って野菜を分けてもらうのは、都市部では体験できないような温かさだと思いますが、そういうのも地方移住の魅力だったりするんでしょうか。

北野さん:そうかもしれないです。都市部で体験できないことを、地域内で体験できて、そこで新しい価値観に触れて、こっちの方が楽しそうだな、みたいな。ここ近年の、ローカルとか地域というところがかっこいいとなってきているがゆえの新しい動きかなと思います。

〈続いて、充さんと久美子さんが普段何をしているのかという質問から話は派生して、地方での感染者の話に対する久美子さんの持論に移ります〉

久美子さん:人はもしかして、心にもマスクをしていたかもしれないね。見えないから不安になって、病気にかかってしまった人を責めちゃって。お気の毒じゃない。誰もがかかることだし。都会だと、(感染した人が)分からないうちに終わっちゃうけれども、地方では「あのあたり」と察知してしまう。地方だから、1番最初に悪いところが見えちゃったけれども、次に、やっぱり仲良くしようよっていう優しさも、地方なりに出していってくれた気がする。

〈ここから、全く別の質問です〉

視聴者:お二人は海外を旅されて、日本の中でも旅されて、今定着されたということに関して、気持ちの変化はありますか。

充さん:繰り返し出会うと受けるものが変わってきますよね。特に僕なんか農業主体だから、28年やって、大体の作物が1年1作なんですよ。だからまだ28回しか経験していないんですよね。でも毎年違いますから。その違いを味わう、みたいな見方というのは人と人とのつながりでもそうでしょうけど。旅先で1回2回会うのと、何日かにいっぺん二十何年間会ってる人との関係も違うでしょうからね。どっちにしても面白い部分はありますけどね。

非効率を意識して暮らす
御船記者:充さんと久美子さんにとって今の暮らし、非効率だと思いますか。

充さん:もちろん非効率を意識して暮らしています。だけど十分不便じゃないくらい、何でもありますね。今の段階で言えば。
久美子さん:なかったらそれで快適じゃないかなと思うよ。余計なものがないと、これ(=目の前に物があるかのようなそぶり)はすごく大事にするし。

御船記者:苫屋みたいなライフスタイルというのは、今後増えるのでしょうか。

北野さん:増えると思います。例えばこうやってzoomで話をしています。便利になった、効率的になったと言われるんですけど、よく考えてみると、zoom一つとってみたって、今まで1日3回しか打ち合わせできなかったものが、移動がなくなったから、1日6回できるようになった。6回打ち合わせができる、これは便利だという見方と、6回打ち合わせをして、めちゃくちゃ疲れたという見方と、たぶん分かれるんですよね。今まで1日3回で済んでいたわけじゃないですか。6回になって、たしかに効率的にできるようになった、だけど、それってそもそも必要あったんでしたっけ、というものも増えていると思います。

予約の話になると、手紙が便利というのはまさにそういう話になると思います。それが1番快適だから、と。これからたぶん、人って、物があふれすぎた経験があるので、一番居心地が良い、やりやすいところにどんどん進んでいくと思うんですよね。

〈イベントの最後に、登壇された方々から感想をいただきました〉

北野さん:普段、自分がどれだけ便利すぎる環境にいるかというのを、改めて、じゃあ「良い状態」というのは何だろうと考えるきっかけになりました。今度は泊まりにいかせていただければと思います。

充さん:珍しい体験をさせてもらって。こんなところで宿をやっているおかげだと思う。出会いが素晴らしいなと思いますね。それと、「便利」でいうと、不便を解消してくれる便利はありがたいけど、便利を「もっともっと」と言うのはどうかなあというのはよく話します。
久美子さん:私も何が起こるんだろうとすごくドキドキしていた。今日はやっぱり楽しかった。人生初の体験ありがとうございました。

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