「確かな方から下記の情報が…」緊急事態宣言“デマ”、猛拡散の理由 善意の注意喚起が断定に化けるまで

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2021年01月21日 07:00  ウィズニュース

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写真緊急記者会見で「感染爆発 重大局面」と示す東京都の小池百合子知事=2020年3月25日午後8時17分、東京都庁、恵原弘太郎撮影
緊急記者会見で「感染爆発 重大局面」と示す東京都の小池百合子知事=2020年3月25日午後8時17分、東京都庁、恵原弘太郎撮影

新型コロナウイルスについて、ネットにはさまざまな情報が氾濫(=インフォデミック)しています。専門家の間でも意見が分かれることもある中、連日メディアやSNSで目に飛び込んでくる情報について、「何を信じていいのかわからない」と悩む人も多いのではないでしょうか。

このインフォデミックに対抗するためには、「情報に踊らされることを防ぐ」ための知識が必要です。今回は2020年の一度目の緊急事態宣言で“デマ”と断じられた「4月1日緊急事態宣言」を例に、不確かな情報が流布するメカニズムと、それを拡散させる人間の心理ついて説明します。(withnews編集部・朽木誠一郎)

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「4月1日緊急事態宣言」という“デマ”
「日本政府が4月1日に緊急事態宣言を出し、2日にロックダウン(外出禁止)を行う(A)」「日本で緊急事態宣言が発令されたら3週間ロックダウン(外出禁止)(B)」これらは2020年4月の一度目の緊急事態宣言の際、実際に流れた情報です。後に安倍総理大臣(当時)は“デマ”という言葉を使って否定しました。

このような情報により、国民の生活にも影響がありました。同年6月に行われた総務省の『新型コロナウイルス感染症に関する情報流通調査』※によれば、(A)を正しい情報だと思い、信じた人の割合は14.8%、(B)については15.5%。「わからなかった」とした人は共に40%以上いました。また、真偽不明の情報に基づいて、トイレットペーパー・ティッシュペーパー・食料品等の買いだめ(余分に購入)をした人の割合は15.0%でした。

※日本全国の普段インターネットのサービスを週1日以上利用している(学業や仕事で利用している場合を除く)15歳 - 69歳の男女2000人を対象にウェブアンケートを実施。期間は2020年5月13・14日。

しかし、実際に7都府県に緊急事態宣言が発出されたのは4月7日、全国に対象を拡大したのは16日でした。菅官房長官(当時)は同年3月30日の記者会見で「そうした事実はない。明確に否定しておく」、安倍総理大臣(当時)は同日の自民党役員会で「明後日、緊急事態宣言をして戒厳令まで出すといったデマが流れているようだが、そんなことは全くない。デマやフェイクニュースに気をつけなければならない」とそれぞれ否定。本来、デマとは「政治的な目的で、意図的に流す扇動的かつ誤った情報」のことですから、特定の情報について時の総理大臣がこう断じるのは極めて異例の対応です。

では、どうしてこのような事態が発生したのでしょうか。経緯を振り返ると、新型コロナウイルス感染拡大の環境下で「情報に踊らされ」やすい人間の弱点、それを拡散させる人間の心理などが浮き彫りになってきます。

政府はギリギリまで否定していたが…
ここで“デマ”の内容を詳しく見てみましょう。「4月1日に緊急事態宣言」という情報は、主にLINEなどのメッセンジャーツールやそれを転載する形でTwitterなどのSNSで飛び交いました。AIを活用した災害情報サービスを提供するSpecteeによれば、以下のような“デマ”が流布していたことがわかっています。

・「ロックダウンは、今日発表で、開始が4月1日から3週間。議員秘書から連絡きてます。私の友人の信頼できる外食上場企業の社長からです。」

・「先程、確かな方から下記の情報が入りました。民放各社にも連絡が入ったようで、今晩 or 明日の晩に安倍総理の緊急会見があり、4/1からロックダウンという発表があるとのことです。期間は二週間 - 三週間で長引く可能性があるのでは…という見立てのようです。」

・「100%の確証はないですが…昨日深夜、民放数社のプロデューサーから●●さん(著名人の名前)に連絡があったようで、今朝方、ご本人から連絡があった内容なので、緊急会見の開催はかなり高い確率で行われると思います。準備を進めたいと思います…。」

「議員秘書」「上場企業の社長」「民放各社」「(著名人の名前)」……このように、不確かな情報を信じさせるような、もっともらしい言葉が並んでいることがわかります。また、緊急事態宣言が出されるとされた日付にはいくつかのバリエーションがあり、2日、3日のパターンもありました。

このような情報は、後述する3月25日の小池百合子都知事による緊急会見の前後から出回り始め、「いわゆる第一波」として新型コロナウイルスの感染が拡大していくにつれ勢いを増していきました。26日、首都圏一円の移動自粛の要請が行われ、30日、検査で陽性が判明していたタレントの志村けんさんの死去が報道されるなど、不安が強まる中のことでした。

一方で、緊急事態宣言の発出について、政府は慎重な姿勢を崩しておらず、菅官房長官(当時)は30日、引き続き「現状ではまだ緊急事態宣言が必要な状態ではないと考えている」と述べていました。同時に、朝日新聞が取材した官邸関係者からは「東京で3桁の感染者が続けば出すだろう」という声も出ていました。

東京の感染者が初めて100人を超えたのは4月4日のこと。連日100人を超えたことへの危機感から5日には緊急事態宣言の容認論が政府内で広まり、官邸関係者は取材に「宣言の時期は近い」とコメント。この動きは7日の発出へと加速していくのでした。

このようにタイムラインを振り返ると、政府は4月7日ギリギリまで緊急事態宣言を出すかどうか調整していたことがあらためてわかります。では、“デマ”はなぜ、どのように発生したのでしょうか。特に日付や「緊急会見」などはやけに具体的ですが、どうしてこのような情報になったのでしょうか。

善意の注意喚起が推定、そして断定へ
ここで、当時の状況を整理してみます。3月25日夜、小池都知事は緊急記者会見で「感染爆発 重大局面」と印字されたボードを掲げ、「何もしないでこのままの推移が続けば、ロックダウンを招く」と語気を強めました。23日の緊急記者会見で「都市の封鎖、いわゆる『ロックダウン』など強力な措置を取らざるを得ない状況が出てくる」として「ロックダウン」という言葉を使った2日後のこと。東京都民に対して、夜間や週末の「不要不急」の外出自粛などを要請したのはこのときでした。

同時に危機感を募らせていたのが日本医師会です。横倉義武会長(当時)は3月30日、緊急記者会見を開催し「今後、いつ緊急事態宣言が発令されてもおかしくない状況の中、国民のみなさまには、感染拡大防止のために気を引き締めてより一層の対策をお願いしたい」と述べました。さらに4月1日には「『緊急事態宣言』の発令に先立って医療現場から『医療危機的状況宣言』を行う」としました。

災害などにおける流言(根拠のないウワサ)の先行研究(「北海道胆振東部地震」と流言の拡散 - 『放送研究と調査』)では、SNS上の流言は「○○に備えた方がいいかも」のように注意を呼びかけるものが、次第に「○○が起きるらしい」のように推定へと変わり、さらに「△△(時間)から□□(場所)で○○が起きる」のように情報が勝手に追加されて断定へと変わることが指摘されています。

「4月1日緊急事態宣言」も、東京都や日本医師会についての報道を背景に、「緊急事態宣言に備えた方がいいかも」という注意の呼びかけが、「緊急事態宣言が出されるらしい」「4月1日に緊急事態宣言が出される」に変わったものと考えられます。

そして、このような流言の拡散をさせる人間の心理について、前述したSpectee代表の村上建治郎さんは、withnewsの取材に「不安感」「優越感」「正義感」の3つの要因があると説明します。

まず、不安感については、情報を拡散することで不安を共有したい、もしくは誰かと共有して安心したいという心理。そして優越感については、注目されたいという心理。最後に正義感については、「この情報はみんなに教えてあげた方がいい」という善意の心理です。実際に流布された情報には、「そうは(4月1日緊急事態宣言には)ならないかもしれないが、用心しておくに越したことはない」と付け加えられているものもありました。

心理学者のG.W.オルポートさんとL.ポストマンさんが提唱する「流言の公式」では、R=I×Aとして、「流言が拡散する量(R:Rumor)は、それに関係する各個人にとっての問題の重要性(I: Importance)と、その論点に関する証拠のあいまいさ(A: Ambiguity)の積に比例する」としました。

緊急事態宣言の情報では、国民全員の生活が制限されるためにIが極めて高く、またさまざまな立場の人の思惑が複雑に絡み合って情報が発信されるがゆえにAも極めて高く、結果としてRが膨大になって猛拡散されたと分析できます。

“デマ”のディテール「参照元」は?
ここでもう一点、気になるのが、「4月○日」といった日付や「緊急会見」など、“デマ”のディテールです。当時の報道や発信された情報を調査していくと、流言が拡散される過程で追加された情報には、メディア関係者の誤情報を参照したものがありそうだということがわかりました。

「3月28日の安倍総理の記者会見で東京のロックダウンが打ち出される模様」「3月30日に緊急事態宣言が出されるという情報が届いた」「緊急事態宣言が4月3日に行われるという見方がある」……3月下旬、複数のメディア関係者が実際に媒体や個人SNS、ブログなどで発信した情報の一部です。これらは結果的に「誤情報」となりました。

これらの情報は、前述した“デマ”とも似ています。異なる点を挙げるとすれば、発信者が名前や立場を明らかにした上で発信されたこと、そして発信者がメディア関係者である以上、匿名の情報よりも信用性が高く見えてしまったことです。ただし、これらの発信を丁寧に読むと、情報源を明かさない伝聞であったり、仮定の話であったりしており、数ある可能性の一つという書き方にもなっています。

事態が深刻化していない状況であれば、それらの留保が機能していたかもしれませんが、R=I×Aの公式により、「流言が拡散する量」が最大化しやすい状況だったことで、情報に触れた人々が自分たちの受け入れやすい物語に飛びついた格好になりました。

メディアも含め、著名人の発信であっても、事態が進展する途中経過が伝えられることは少なくありません。中には、意図的に様々な情報を流し、世論の反応を見て最終的な判断の材料にする「観測気球」として使われる場合もあります。

そして注目するべきは、前述したメディア関係者の誤情報と、冒頭で紹介した“デマ”のよく似た点です。日付や「緊急会見」などのディテールは、このような誤情報の流通と相互に関連しながら付け加わっていったものだと思われます。

不確かな情報を自分に留めておく勇気を
時に善意で発生することもある、根拠のない情報。忘れてはならないのは、このような情報を流布させることは、自分にとって不利益になる可能性があるということです。

信用が損なわれるのはもちろんですが、「風説の流布」や犯罪にあたるような情報発信もあります。また、不利益を被った企業などがあれば、損害賠償を請求されるおそれもあります。SNSではリツイートのような、他の人の発信をシェアする行為が名誉毀損として認められた判例もあり、情報発信は決して気軽な行為ではありません。新型コロナウイルスの感染拡大のような命にかかわる情報であればなおのことです。

警視庁サイバー犯罪対策課対策係は「疑わしい情報を判断するヒント」として以下の5つを挙げ、このような場合には特に注意し、情報源を確認してから伝えることを求めています。

・強調表現、不安をあおる表現や急がせる表現が多い

・生命や金銭に関わる内容

・情報源が記載されていない

・伝聞形式で書かれている

・拡散を勧めている

基本的に、自分でその情報が真実かどうかを確認できないのであれば、発信しないでください。「真実かどうかはわからないけれど」という枕詞でシェアされる情報もありますが、それがさらなる拡散につながり、新しい流言を生んでしまう場合もあるのは、今回説明した通りです。

流言が拡散する3つの心理は「不安感」「優越感」「正義感」でした。これらは裏返せば、人間は不確かな情報を得たとき、それをさまざまな感情により他の人に回さずにはいられなくなる、ということを意味しています。しかし、不確かな情報を不確かなまま拡散することはデメリットの非常に大きな行為。「誰かに伝えたい」という衝動に駆られたときこそ、その情報を自分に留めておく勇気を持つことが、インフォデミックに対抗する一つの手段になるはずです。

このニュースに関するつぶやき

  • 善意でも悪意でも,デマの結果は同じ。ファクトチェックする習慣と,出所不明なネット情報や友人の言い分を,すぐに信じ込まない習慣を。
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  • テレビのワイドショーとかが、デマの王だよね( `ー´)ノあかぴ、毎日とかも、全く信用でけまへん。
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