温厚で最強だった大杉勝男。八重樫幸雄は路上での緊迫の場面に「ヤバい」

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2021年01月21日 11:21  webスポルティーバ

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「オープン球話」連載第49回

【試合後いつも、自宅まで送ってくれた】

――さて、今回も元ヤクルトのチームメイトである大杉勝男さんについて伺います。お互いに横浜に住んでいたということで、まだ免許を持っていなかった八重樫さんを試合後には自宅まで送ってくれたということでしたね。

八重樫 大杉さんの自宅の手前に僕の家があったので、僕を降ろしてからご自宅に帰っていました。それ以外に、大杉さんの家に招かれて奥さんの手料理をごちそうになったりもしましたね。当時、大杉さんのお母さんもいらっしゃったんですよ。車椅子に乗っていらっしゃったんですけど、僕と、のちに打撃投手になる小林国男さんと2人で車椅子を押したりしました。




――試合後、いつも自宅まで送り届けてもらうというのは、いくらご近所で免許を持っていなかったとはいえ、大先輩にそこまでしてもらうのは気まずくなかったんですか?

八重樫 もちろん、こちらも「いやいや結構です」って遠慮するんだけど、「近いんだからいいよ、乗ってけよ」と言ってくれるんですよ。僕は試合後、試合の反省をしたり、マッサージを受けたりしてクラブハウスを出るのが遅くなるんです。だから「どうぞ、先に帰っていてください」って言っても、「いいよ、待ってるよ」って、いつも待っていてくれたんだよね。

――メチャクチャいい人ですね、大杉さん!

八重樫 なおさら、「申し訳ないな」って思ったよ。でも、大杉さんもクラブハウスを出るのは遅いほうでしたけどね。試合に集中しているから、少しの間、頭を真っ白にする時間が必要だったんじゃないのかな? 気持ちをリセットしてからクラブハウスを出る、という感じだったと思いますよ。その証拠に、帰りの運転は信じられないぐらい安全運転なんです。むしろ、イライラするぐらい超ゆっくりなんです。法定速度80キロの高速道路を、50キロぐらいで進むこともあったからね(笑)。たぶん、試合後すぐにハンドルを握ったら、ああいう運転はできなかったんじゃないのかな。

――車の中ではどういう話をするんですか?

八重樫 やっぱり、その日の試合のことが多かったですよ。大杉さんは自分が打ったときはいろいろと話しかけてくれるんですけど、打てなかったときは無口でしたね。あとは、普段タバコは吸わないんだけど、香りのいい葉巻を黙って吸っていました。「あれ、大杉さんはタバコ吸うんですか?」と聞いたら、「うん、匂いが好きなんだ」と。ただ吹かすだけだったね。

【見知らぬ人に、ホームラン賞を気前よくプレゼント】

――以前、乱暴な運転をするドライバーに対して大杉さんがキレたというお話を、ちらっと伺ったと思います。あらためて話していただけますか?

八重樫 大杉さんがホームラン3本打って、大活躍した日の夜でした。大杉さんもいい気分で青山通りを横浜方面に走っていたら、環七と交差する四つ角で、右折車線にいた車が急に左に入ってきたんです。そのとき、大杉さんがカーッとなって。それで、その車を追いかけて停めさせたんですよ。

――温厚だったという大杉さんにしては珍しい行動ですね。

八重樫 珍しいですね。僕も初めて見ましたから。それで、大杉さんも車を停めて降りたから、「ヤバいな」と思ったので僕も慌てて降りたんです。

――車を停めさせられた上に、後ろの車から大杉さん、八重樫さんという大男2人が出てきたら、完全に相手はビビりますね(笑)。

八重樫 大杉さんが窓をトントンと叩いても、相手は頑なに窓を開けようとしない。でも、運がよかったことに、ちょうど車を停めた場所に交番があったんです。僕らのやり取りを見ていたお巡りさんが交番から出てきて「どうしたんですか?」と聞いてきたので、事情を説明したら、お巡りさんも「窓を開けろ」と。それでようやくドアが開いた。その運転手はブルブル震えていましたよ(笑)。

――その人にとっても、交番の前だったのはラッキーでしたね。目の前にお巡りさんがいれば安心ですから。

八重樫 暗かったから、その運転手もまさかプロ野球選手の大杉さんだとは思っていなかっだろうね(笑)。お巡りさんが、「この人にちゃんと謝りなさい」と促したら、きちんと謝った。それで大杉さんも一瞬で優しくなって、「ああいう運転はするなよ」と言って、自分の車のトランクを開けたんです。

――何のために?

八重樫 ちょうど、この日は3本ホームランを打っていて、「ホームラン賞」として野球盤をもらっていたんです。それを運転手に渡して、「子どもいるんだろ? コレ、お土産に持っていきなよ」とプレゼントしたんだよ。警察官は大杉さんに気づいていたけど、その彼は気づいていなかったんじゃないかな。

――昔、神宮球場では選手がホームランを打つと、「ホームラン賞として、エポック社の野球盤が贈られます」と場内アナウンスが流れていましたけど、本当にその場でもらえるんですね!

八重樫 そうそう。賞品の野球盤と化粧品はストックしてあったみたいで、ホームランを打ってクラブハウスに戻ると、自分のロッカーのところに置いてあるんです。大杉さんは年末のゴルフコンペの賞品として野球盤を持って帰るところだったんだけど、思わぬところで役に立ったね(笑)。その後、第三京浜に乗ってからは安全運転でしたよ。

【有事の際には真っ先に味方を守る人】

――その後、大杉さんが怒っているところを見たことはありますか?

八重樫 全然、記憶にないんです。グラウンド上では、何度か怒っている姿を見ましたけどね。怒るとしたら、ビーンボールを投げられたときとか、味方が死球を当てられたときかな? あの張本(勲)さんが「大杉は強い」と言っていたのも知っていたし、乱闘になったときに張本さんを守るため、真っ先に乱闘の中心に駆けつけたのも大杉さんだって聞いたことがあるよ。

――「気は優しくて力持ち」というのか、普段は穏やかなのに、味方の有事の際には真っ先に駆けつけるなんてカッコいいですね。

八重樫 東映時代も張本さんを守るために、自ら輪の中に入って、何人ともやりあったらしいよ。あの頃、白仁天さんがケンカが強くて有名だったけど、「本当に怒ったときには大杉さんが一番怖い」という話もあったね(笑)。

――元西鉄のカール・ボレスをワンパンチでノックアウトしたという伝説もありますよね。しかも、審判が「パンチが速すぎて見えなかったから」という理由で退場処分にならなかったという。格闘家のような伝説が!

八重樫 そうそう、一発でKOしたっていう話だよね(笑)。でも、僕自身は一度も大杉さんのことを「怖い」と思ったことがないし、グラウンド外で怒っているところを見たこともなかった。遠征先の宿舎でも何度も一緒になったけど、一度も怒ったことがなかったよ。

――大杉さんの思い出話はまだまだ尽きないですね。ぜひ、次回もお願いします。個人的には「ミスタースワローズ」としてチームの中心だった若松勉さんと、年齢もキャリアも上だった移籍組の大杉さんとの関係について、すごく知りたいです。

八重樫 あの2人の関係はとても良好でしたよ。それも、大杉さんの気遣いがあったからじゃないのかな? その辺りはまた次回、お話ししましょうか。

(第50回につづく)

このニュースに関するつぶやき

  • 元阪急監督の上田さんが「(日本シリーズの)ホームランはウチのビデオで見返すとファールなんだよ」と語ったら、大杉さんが「いや、ウチのビデオは性能がいいもので」と返して、お互いが笑っている。この対談が好きだ。
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  • 「最後にわがまま気ままなお願いですが、あと1本と迫っておりました両リーグ200号本塁打、この1本をファンの皆様の夢の中で打たして頂きますれば、これにすぐる喜びはございません」大杉さんの引退コメント、泣く。
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