電話もネットもない宿猊塋忰瓩任垢 現代社会に染まった記者の考え ずっと続けられないけれど、魅力的

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2021年01月22日 07:00  ウィズニュース

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写真「苫屋」の囲炉裏=岩手県野田村
「苫屋」の囲炉裏=岩手県野田村

電話もネットもない宿――。手紙でしか予約ができないことで知られる岩手県野田村の「苫屋(とまや)」に私が2泊3日で滞在し、その暮らしを体験したのは2020年の初冬のことでした。その後、出会いが縁となり、苫屋と盛岡と東京の3カ所をオンラインでつないだイベントを開いたのが12月の中旬。好奇心から始まった一連の企画でしたが、取材やイベントを通じて、地方と都市部の暮らしの違いや、コロナ禍のいま変わりつつある生活の「ニューノーマル」が見えてきました。(朝日新聞盛岡総局・御船紗子)

【画像】手紙でしか予約できない宿、中を写真で紹介 人が自然と集まる囲炉裏 ほぼ自給自足の生活

ネットのない宿と140字
企画の発端は「#ゆるり脱デジ旅」というSNS上の企画。全国に発信できる岩手の魅力を考える中で、坂本充さん(61)と久美子さん(62)の夫妻がオーナーをする苫屋に泊まり込み、生活を体験することを思いつきました。せっかくなので、記事には書ききれなくても共有したいと思う取材中の出来事はツイッターでリアルタイムで発信。タイムラインを見ている人にも臨場感を味わってえるよう工夫しました。投稿は「#ゆるり脱デジ旅」のハッシュタグからたどれるようにし、モーメントでもまとめました。

私が苫屋の存在を知ったのは、今から2年ほど前。村役場のホームページで紹介されているのを見たのがきっかけで、それからずっと、「かやぶき屋根の宿」「予約は手紙で」「囲炉裏がある」などの要素に心ひかれていました。

ダメもとで取材依頼の手紙を出すと、数日後にOKの返事が。手紙からは、燻製のような煙の香りがほのかにしました。

泊まり込む少し前から、朝日新聞盛岡総局と記者個人のツイッターで発信を始めました。

盛岡から約130キロある道中など、記事を書くときには盛り込めないような小さい発見もつぶやいていきました。「道中の紅葉がきれい」「宿泊客の子どもとすごろくで遊んでいる」「囲炉裏でコーヒー豆を煎っています」などなど。

記事で発信するなら、精査して削ってしまうような苫屋の良さを、140字で手軽に発信することができました。写真や動画が全ての投稿につけられるので、見る人にも分かりやすかったのではないかと思います。

取材後は、苫屋での私の体験や坂本さん夫妻の暮らし方などを紹介する記事を出しました。地方の可能性をもっと伝えたいと、オンラインイベントも坂本さん夫妻にお願いしました。

オンラインイベントをやりたいと坂本さん夫妻に伝えたのは、2泊3日の滞在の最後の夜。囲炉裏の火にあたりながら、長い間いろいろな話をしていました。私の突拍子のない提案も、久美子さんは「おもしろそうじゃない」と受け入れてくれ、「普段のままでええんやったら」と出演を快諾してくれた充さんの言葉もありがたかったです。

記事を読んでくれた方がイベントを予約してくれ、すぐに満席になりました。

12月、苫屋の坂本さんご夫妻を中心に、SDGsなどに詳しい「ソトコトオンライン」編集長の北野博俊さんに解説してもらいながらイベントを開催しました。進行役として私も参加しました。ネットのない宿からの不思議なオンラインイベント。話した内容は多岐にわたりますが、特に印象に残ったことを振り返ります。

「本当に行きたい人じゃないと書かない」
苫屋の魅力について語るには、手紙でしか予約できないという点は外せません。

これについては、北野さんの「デジタルになるほど色々なお客さんが来る。手紙に限定した時点で、本当に行きたい人じゃないと書かない」という言葉が本質を表しているように思います。

苫屋は築160年以上の古民家です。客間にこそ石油ストーブがありますが、宿泊客が多くの時間を過ごす囲炉裏の間は、まきの火くらいしか暖をとる方法がありません。宿の周辺には観光スポットと呼べる場所はほぼなく、最寄りのコンビニまでは約8キロ。実際、充さんも「不便であることは意識している」と話しています。

手紙で希望者を絞れる分、苫屋の環境を楽しみたいという思いの強い層がピンポイントで宿泊に訪れます。これにより、泊まる側は事前に気持ちの準備ができ、泊める側も同じ世界観を共有できる客を迎えられるという双方への利点が生まれるのではないでしょうか。

もうひとつ外せないのが、囲炉裏の存在です。

暖かいのはもちろんですが、記者は滞在中、よく火箸で灰をつついて遊んでいました。炎にもつい目を奪われます。

久美子さんは「ここで囲炉裏を囲むと、初めての人もお友達っぽくなる。心のガードをほぐしてくれる。気がついたら家族のようになっちゃう」。

たしかに、記者も囲炉裏のおかげで、他の宿泊客とすぐ打ち解けられた気がします。人と人とを、ほどよくつないでくれる囲炉裏の重要性を改めて感じました。

ちょうどいい暮らし
私自身、現代の便利な社会になじんでしまったタイプで、暇さえあればスマートフォンを触ってしまいます。休日は動画の配信サービスを使い、買い物はバーコード決済で。さらには、エナジードリンクや化学調味料たっぷりの食事も大好きです。

そんな暮らしを送ってきたので、私の場合、苫屋の暮らしを「ずっと」は続けられないと思います。

しかし、そのように感じるということは、坂本さん夫妻も理解しているそうです。取材の際、充さんは「僕らはいわゆるサブカル的な暮らしをしている自覚がある。これが普通になればいいとは思ってないよ」と話していました。

コロナ禍で生活が一変してしまった今、今後の私たちの暮らしについて、北野さんは「人って物があふれすぎた経験があるので、(これからは)一番居心地が良い、やりやすいところにどんどん進んでいくと思う」と話しています。

自分にとって心地の良い暮らしを、いま一度考えてみたいです。

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