6年間の引きこもりは「最高だった」 元“世界一即戦力な男”の作家・菊池良さんに聞く普通な生き方、ヘンな生き方

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2021年01月22日 18:03  ねとらぼ

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写真2013年に話題になった逆就活サイト「世界一即戦力な男・菊池良から新卒採用担当のキミへ」
2013年に話題になった逆就活サイト「世界一即戦力な男・菊池良から新卒採用担当のキミへ」

 自分と他人が違うのは当たり前のこと。しかしその一方で、世の中には「普通」と言われる人と「ヘン」と言われる人がいます。これはどういうことなのでしょうか? “普通の人”のほうが多いらしいので、本記事では“ヘンな人”に取材。「その人なりの『普通/ヘン』の考え方を伺い、“自分が思うヘンな人”を紹介してもらう→“その次のヘンな人”にまた取材する」という数珠つなぎのインタビュー企画です。



【画像】会社員をへて作家活動している現在の菊池良さん



 第1回となる今回は「さすがにこの方の経歴が普通と言われることはそうそうないだろう」という編集部の独断から、6年間の引きこもり経験を持つ作家・菊池良さんにお話を伺いました。2013年に話題を集めた「世界一即戦力な男」の印象が残っている人も多いかも。



●菊池良(Twitter:@kossetsu)



調理科の高校を退学し、6年引きこもったすえに大学入学。卒業時には「世界一即戦力な男」と題し、人事側からのコンタクトを求めるWebサイトで、ネット上の話題を集めた。その後、就職・転職を経験するも、作家活動に専念するために退職。主な著作は『世界一即戦力な男』『もしも文豪たちがカップ焼きそばの作り方を書いたら』(神田桂一さんとの共著)、『芥川賞全部読む』。



●現在の活動に生きている引きこもり経験



―― まずは経歴のお話から。引きこもり時代のことを伺ってもいいですか?



 2003年、高校を1年のときに中退したら出掛ける用事がなくなったので、それから6年間は引きこもり。ずっとネットしてました。「18歳までに大検(※)を取得して、大学に入れば帳尻が合うだろう」と。



 今考えると僕の人生は全部それですね。「後でこれをやれば、帳尻が合うから今は大丈夫」みたいな。



※大検:大学入学資格検定。高校に行かずに大学入学を目指す人などが受験した。現在は「高等学校卒業程度認定試験」(高認)に改められている



※ちなみに、大学に進学したのは22歳のとき



―― 当時はどういうネットコンテンツを見ていましたか?



 このころにちょうどYouTubeができたんですよね。当時のYouTubeは“無法地帯”で、マニアックなコンテンツがたくさんアップロードされていました。それを見るのにとても忙しかったですね。多忙な毎日でした。



 それから、ブログもすごく読んでいて、僕が一番ハマったのは「マニアックなニュースを拾ってきては、それに一言書く」みたいなことを毎日していた「赤兜」さん。今で言うところのネットミームを紹介してくれる側面もあって、僕の現在の活動の下地になっていると思います。



―― 引きこもり時代の経験が今の活動に役立っているんですか?



 そうですね。



 水野敬也さんの「ウケる日記」も読んでましたし、水野さんと古屋雄作さんのネットラジオを聞いたり、そこで出てきたワードは検索して調べたり。そういったインプットが、今すごく役立っている感覚があります。



※水野敬也さんは『ウケる技術』(共著)、『夢をかなえるゾウ』などの著者。古屋雄作さんは『温厚な上司の怒らせ方』『うんこ漢字ドリル』などを手掛けている。両氏とも幅広く活動しており一言では説明できないため、詳細はそれぞれのWebサイトなどご確認ください



●普通ってなんだと思います?



―― エッセイ『世界一即戦力の男』には、引きこもりだった菊池さんが、その水野さんから直接「大学に行って、まずは『普通』になるんだ。『特別』になるのはそのあとだ」と言われたというエピソードが。この言葉通りになりましたか?



 あ〜……普通になろうとしたんですが、なれなかったなぁと思っています。



―― 普通というのもいろいろあると思うんですが、“菊池さんがなりたかった普通”とはどんなものでしょう?



 高校を出て、現役で大学に入って、新卒で就職して。会社員でスーツにネクタイして、退社後は立ち飲み屋で一杯やって、家に帰ると奥さんがいて……。仕事はなんだろう。少なくともITじゃなくて、何か実体のあるモノを扱う仕事ですね。



 あとは「自分の仕事と自分の意思を完全に切り離した状態が作れる」とか、かなりドラマの影響を受けていますけど「上司に歯向かう」とか。大学卒業後、LIG、ヤフーで会社員として働いていましたが、もっと会社員っぽいことがしたかったですね。派閥争いとか……。



―― なんだか「普通とは何か」「会社員っぽさとは何か」が難しくなってきましたね……。会社員をしている方と会ったとき、こういうところが自分とは違うなと感じる点はありますか?



 他業種の人と会うと、同年代でも「大人だな〜!」と思います。まず顔が大人。あれは何なんでしょう、シュッとしてますよね。



―― 近い業種の会社員の方はどうでしょうか。フリーで作家活動をしていると、仕事で関わるのは編集者?



 編集さんはむしろ自分に近い人種ですね。こう言ったら語弊がありますけど、着古したパーカーが似合うと言いますか。糸がほつれてても気にしないような、そんな方が多い印象です。



 ただ、企画の作り方などで「編集さんも会社員だなあ」と感じることはありますね。



―― どういった点で?



 企画の組み立て方が違いますね。上司に伝わるかどうかが発想のスタートに組み込まれているんです。フリー同士だと「こういうの面白いよね」「面白い! やろう!」みたいな感じなので。「分からないところが面白いね」と盛り上がったり。



―― 数年前は菊池さん自身も会社員だったわけですが、そのころはご自身でも会社員っぽい考え方をしてましたか?



 ちょっと違ったと思います。それはLIGという会社が変わったところだったので。



 LIG(最初に就職したIT企業)では、PR記事の制作で社長と一緒にハワイに行ったことがあるんですけど、あれは「入ってくるお金を全額使えばハワイに行けるから行った」という。



―― 普通に考えたら絶対NGの企画ですよね。社長も同行してますけど。



 でも、そういう企画にOKが出るような環境だったので、フリーランス的な空気で働いていたと思います。



 その後、「もっとカッチリした会社に行こう」と思ってヤフーに転職したんですが、いざ入ってみたらこちらはこちらで意外と自由でした。「抱いていた会社像と違うなあ」というのはありました。



―― 自分が考える“普通の会社員のような働き方をする普通の会社”って意外とないものなんですかねえ。



●「正統派」を目指さない理由



―― 菊池さんはヤフー退職後、フリーの執筆活動に専念。作品は『もし文豪たちがカップ焼きそばの作り方を書いたら』が文体模写、『芥川賞ぜんぶ読む』がレビュー、『文豪探偵』『ニャタレー夫人の恋人』は物語文とバラバラですが……。



 あ、確かに。



―― 自分で気付いてなかったんですか?



 今気付きました。確かにどれも違いますね。ただ、「企画性」や「パッケージング」の部分では共通したものがあると思います。



 引きこもりミュージシャン・ノリアキさんの存在が大きいと思います。ノリアキさんはいきなり古屋監督のプロデュースでミュージシャンになってアルバムを出した方で、僕はそういうのが面白いと思っているんですよね。



 僕は基礎を学んだ身ではないので、正統派なことをやっても基礎をやってきた人には勝てないと思っています。



 そういう考えもあって、自分のオリジナルの部分でやっていこうと考えています。



―― そういえば、名刺の肩書は「ライター」になっていましたが、本を出していても「作家」ではないんですか?



 そういう感覚はないですね。自分が本を出しているとか連載を持っているとか、そんな人生になるとは全く予想してなくて、今でも不思議な感覚です。



 でも、肩書問題はあるんですよ。「ライターです」と名乗っても、どんな仕事をしているのか説明していくと「ライターではないですよね?」と言われてしまうし。では作家かというと、ミステリーや純文学を書いているわけでもない。もっと企画性の強いものを書いています。



―― 作家の正確な定義は分かりませんが、確かに「『もし文豪たちがカップ焼きそばの作り方を書いたら』の著者です」と言っても“作家っぽさ”は弱いかもしれませんね。



 最近は、自分の仕事を説明するときは「フリーランス」と書いています。すごくふわっとしてますけど、フリーで文章を作ってるだけなので。



●「何百万部も売れてドラマ化、アニメ化、映画化したら、また引きこもってもいいかな」



―― 普段、周囲から聞かれがちなことはありますか?



 聞かれがちなこと……。「どうやって食ってるんですか?」と聞かれますね。



―― どストレート。



 で、「まあ何とか食えてます」みたいな。



―― おお、そうなんですね。



 うん……そう……。いや、こうして生活はできているので、何とかなっていると言えばなっているし、なっていないと言えばなっていないんですが。



 ざっくりした僕の計算なんですが、本って、100万部売れると著者に1億円くらい入るんですよ。つまり、本を出す仕事をしているなら、10年に1回ミリオンセラーを出せば全ての帳尻が合うんです。



―― 「合わなかったらどうしよう」という不安はないですか?



 ないですね。できなくても大丈夫だろうと思ってます。そうなったらそれはそれで、別のことをやります。人生1回きりなんだから何が起きてもいいでしょ、と。



 もしも人生が何回もあるなら、「AとBを両方やった結果、Aの方が絶対にいい」と思うかもしれませんけど、人生が1回しかないんだったら、そういう比較はできないわけじゃないですか。



 だったら、自分の人生で何が起きてもいいんじゃないか、と思っています。



―― 1つの人生の中で「過去のこれは嫌だった。未来でもう一回起きたら嫌だなあ」というのもない?



 ないですね。いや、あるか? ……うーん、あんまり考えたことがないですね。



――「何が起きてもいい」という考え方になったのはいつからでしょうか?



 引きこもりを経験してからですかね。めちゃめちゃ楽しかったんですよ。あれは最高でした。



 自分の書いた本が何百万部も売れてドラマ化、アニメ化、映画化したら、また引きこもってもいいかなと思ってます。



―― 引きこもるには、成功が必要なんですか?



 例えば、もしも今の僕がジョージ・ルーカスと対談になったら「僕みたいなものがすみません」と、すごく下から行くことになると思います。そうではなくて「やあ、最近どう?」と言えるようになりたい、というか。



 本当に対等になることは不可能だとしても、卑屈にならずに関係性を持てるようになりたい、という気持ちがあります。



 今の自分の状態だと「まだ水野さんには会えないな」と思っているんですよね。



―― 自分の人生に影響した人と胸を張って会えるようになりたい、というか。



 昔の話になるんですが、引きこもり時代に初めて水野さんとお会いしたとき「お前は危険そうだ。俺は会わない」みたいに言われたことがあって。



―― 危険……というのは?



 自分に何か危害を加えるんじゃないかとか、そういうことですよね。



―― ……その後、「まず大学に行って普通になるんだ」と助言されていることを考えると、よっぽど“普通ではない”というか、尋常ならざる者と思われてたんですかね。



 でも、これから活動していくなかで、自分の書いた本が国民的にヒットすれば言えるわけです。「あ、水野さんも最新作100万部いったんですか、映画化ですか」みたいに。



―― 「僕もですよ」と。



 それが自分の原動力かもしれません。



●おわりに:菊池さんから見た“ヘンな人”



―― 本日はありがとうございました。最後に、菊池さんが思う“ヘンな人”を紹介してもらってもいいですか?



 うーん、誰だろう。わりと商業的にまとまってる人もいますが……。



―― 仕事柄、「ヘンであることがむしろ普通」的なところもあるでしょうから難しいかもしれませんが……。



 あ、おぱんぽんさんはどうでしょう。「白米しか食べずに生活する」とか「日本縦断マラソン」とか、おかしなことやっていますよ。最近だと「プロテイン1カ月生活」。



―― 大丈夫なんですか、プロテインだけの食生活って。



 ガチで体に悪いと思いますけど……。会社員だから、たぶん普通に働きながらこういうことをやってるんですよね。大丈夫なのかな。



 あと、現在は“芸術家が作った公園のアスレチックみたいな家”に住んでいます。平たんな床がほとんどなくて、丸かったり、坂になっていたり、アリジゴクみたいになっていたり。ジャングルジムみたいな感じです。



 キッチンだけが平たんで、そこに寝袋を敷いて寝ているとか。



―― 一般的な家の概念から遠過ぎて、まったくイメージが湧きませんが……。



 とにかくまあ、そういうヘンな家があって、そこにおじさん3人で住んでいる方です。



 まあ、一番ヘンなのは「こんなにヘンなことをしているのに、あんまり知られていない」ということですね。


このニュースに関するつぶやき

  • 多数だから「普通」、少数だから「ヘン」。そこに気づくと境界がなくなる。
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  • 「大学に行って、まずは『普通』になるんだ。『特別』になるのはそのあとだ」これ、私も歳の離れた弟に言いました。普通をゲット出来るのはコースを外れ切る前だけ。
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